第2話

◇◇◇◇◇


4月。桜が綺麗に咲き誇る道を私は真新しい制服に身を包み希望と不安を胸に高校の校門を潜った。


この学校を訪れるのは今日で三度目。入試試験の時と合格発表の日と今日の入学式の日。


幼稚園から小学校、中学校と私はエスカレーター式の女子校に通っていた。

その学校は高校と短大もあるから希望すれば外部受験をする必要はなかった。

それなのに私がわざわざ外部受験をしたのにはちゃんと理由がある。


その理由は新しい自分を見つけたかったから。


恵まれた家庭の子が多く在籍するお嬢様が通うミッション系のスクールとして世間では有名だが、実際のところはその噂が嘘だと言っても決して過言ではない。


物心ついた頃からほぼずっと変わることのないクラスメイトと同級生の顔ぶれ。

校内で見る顔は毎年代わり映えしない。


女子ばかりの園はグループ自体が完全にできあがっていて、その派閥争いはえげつない。

本人の人柄や成績は全く考慮されないカーストが存在していることも外部にはあまり知られていなかったりする。


そのカーストの基盤となるのは両親の職業や家柄。

幼かった私はその世界が全てだと信じて疑いもしなかった。

だけど年齢を重ねるごとに疑問を抱くようになった。


……本当に私が知っているこの世界だけが全てなの?


その疑問を解消するために私は内部進学ではなく外部受験を決めた。

生まれて初めてのその一大決心に両親は大反対した。

いつもなら両親に反対されればすんなり諦める私だけど、今回ばかりは違った。


……このまま親の言うとおりにしていたら絶対に後悔するような気がする。


確証はなにもないけどそう思った私は頑なに外部受験したいと両親に訴え続けた。


許しを得るまでは本当に大変だった。

父には怒鳴られるし

母には泣かれるし

今でもできれば思い出したくないくらいだ。


でも今、私がこの学校の校門にいるのは、最終的に私の意志を認めてもらうことができたから。


この学校で私は色々なことを経験したい。


桜の花びらが舞い散る校門に立っている私は希望に満ち溢れている。


そうは言っても、私が胸に抱えているのは希望だけじゃない。

周りに知っている人は誰もいない。

それもそのはず、私は今まで閉ざされている小さな世界で生きてきた。

その世界を自分の意志で飛び出したばかりの私は、孤独じゃないはずがなかった。

不安はある。


ぶっちゃければ、期待や希望よりも不安の方が遙かに大きい。


だけど多分それは今だけ。

3日後

1週間後

1ヶ月後

3ヶ月後

半年後

時間が立てばきっとこの不安もどんどん薄くなってい行くはず。

そしてきっとそのうちなくなるはず。

私はそう信じることで自分を奮い立たせていた。

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