第41話 地球外生命体談義 その①
41.
『
五條市民病院の最寄り駅付近にあるファミリーレストランに三人は、いた。
本来ならば、
よって、この三人である。
「結局のところ、この騒ぎは何だったんですか?」
席に着いてから、最初に口を開いたのは卯月だった。
素朴な疑問である。
「学校でのことがあって、美章園さんと話をして、そこを攻撃されて」
学校で受けた被害から『マザーグース』を知ろうとして、美章園とどりを訪ねてやってきたところからだ。美章園との会話の最中に
「響木さんが警備員室に行って、それから何があったんですか?」
結局のところ、そこで響木寧々と別れている。
卯月も小春も、そこからは別行動だ。
病院を出てすぐの駐車場に、ほかの人たちと同じように避難した。『ゾンビ』化した患者やら看護師やらが出てきたが、そうかからないうちに『ゾンビ』化は解けた。
これを見て、卯月は響木の行動が上手く行ったのだと思っていた。
すると、地響きのような物音と共に病院にある庭のほうで、膨れ上がるように木々が暴れ始めたのを目撃した。続けて木々が伐採されるような音が続いたかと思えば、その庭のほうから響木がやってきた。
合流しているうちに消防と救急が、警察がやってきた。
ようやくこうして、詳しく話を聞ける状況になったというわけである。
「私もよくわかっていない部分が多いんだけど、順番に話していくわね」
と響木は話し始めた。
「まず、あらかじめに言っておくと、漆川羊歯子の『能力』に関して、私は何もしていないわ。私が警備員室に行ったら、大量の虫と死体がふたつあった」
病院内から死体が発見されたのは、既に周知の事実である。
調査を行った消防だったか救急だったか警察だったかが発見した。発見された死体はよっつだった。
「ひとつは
相打ちになったという感じだろうか。
いや、あり得ない。
と、自問自答を脳内で行う卯月。
まず、入江聖の『首が折れ曲がっていた』というのは間違いなく致命傷で、それは人を操ることができる『能力』――漆川羊歯子の『トロイメライ』によって引き起こされたものだと推察することができる。
一方で、全身が血まみれになっていた漆川羊歯子だが、これは入江聖の『能力』によって虫に群がられた結果だろう。ならば。
彫刻刀はどうやって?
「そこで私は監視カメラの映像を確認したんだけど、気になるものがふたつ映っていた。ひとつはセーラー服で小柄で髪の短い女子、スカーフの色が青色だったことから、恐らく
そして、病院内で発見された死体のうちのひとつが、恐らく日根尚美である。
四体あったうちの三体までは身元がすぐに判明したが、最後のひとつだけ、原形の残らない惨状だったという。
「もうひとつ、というか、もうひとりは、私が知っている人だった。私が小六のときに出会った人物で、未だと二十代半ばくらいの年齢だと思うんだけど、そいつが――
「それってどんな人なんですか?」
「犯罪者よ」
即答だった。
「私が小六のときに行った修学旅行で出会ったから、大体四年ほど前かな。そのときに起きた京都毒ガス事件なんだけど、知ってる?」
「そりゃあ知ってますよ」
なんたって事件は事件でも、テロだったのだから。
多くの人が知っているはずだ。卯月らの学校の修学旅行先が京都府から奈良県に変更されたきっかけでもある。
「修学旅行のときにはぐれちゃって道に迷っていたのよ、そのとき助けてくれた人が宇井添石。そいつは、その京都毒ガス事件を起こしたテロ組織の実働部隊の人間だったらしくて……その後、捕まったことは知ってたんだけど、そいつがいたのよ」
言葉の端々からその『宇井添石』という人物に対して敵意があるのが伝わる。
「日根尚美と宇井添石。そのふたりが
「その『宇井添石』って人物の『能力』と、植物のあの成長は無関係ってことですか?」
「無関係ね。あいつの『能力』はもっとシンプルなもの。漆川羊歯子に彫刻刀をぶっ刺して殺したのはあいつでしょうね。植物は、『別の誰か』による仕業よ」
「それじゃあ、日根さんの『能力』が植物を操るような『能力』だったんですか?」
「確証はないけど、たぶん違うわね。もし、あんなふうに植物を操れる『能力』だったのなら、卯月くんを襲撃するときに、あんなスズメバチの警報フェロモンを利用した回りくどいやり方はしていないと思うのよ。日根尚美は恐らく『能力』を持っていない」
確かにそうだ、と内心納得する卯月。
「同時に言えるのは、沼野成都を殺したのはこの『植物を操る誰か』でしょうね。杭と言っても木の枝みたいなものだったし」
美章園が被害に遭ったときも思ったが、『マザーグース』の連中は『殺す』ということを簡単にやってみせる。
何かしらの葛藤があるのかもしれないが、殺したいほど憎くても殺せないのが人というものだ。どんな葛藤があったとしても『殺す』という手段を取った以上は、それは『簡単に』と捉えられても仕方がない。
「ちょっと憶測の域を出ないけど――私が思うに日根尚美は『合流』しようとしていて、宇井添石はその『ふたり』を追いかけていたんじゃないかな。その人物こそが、あの植物を操った『能力』の持ち主だと、私はそう考えているのよ――ねえ、小春」
「ん、なに?」
黙って聞いていた小春が反応する。
「こんなふうに髪を括ってる奴、二年生にいない?」
左右の耳の後ろのほうに手を持っていく響木。
二つ結びのおさげのことだろうか。
「その特徴だけだとわからないけど、そうね――茄子原先輩、
「そういう髪型で、二年生の人を知らないかって、宇井添石が聞いてきたのよ」
漆川羊歯子を殺したのが、その宇井添石という人物だったとして、もし、響木の言うように茄子原綾と日根尚美を追いかけていたとする。もしも、そこで追いついて会っていれば、最終的に出会った響木寧々を含めて、五條高校の女子制服のスカーフを全色見たことになる。
宇井添石が響木のことを憶えていたとすれば、高校一年生であると看破することだって難しくないはずだ。あとは、出会ったそれぞれの人間の特徴を捉えていけば、一年生が赤色、二年生が黄色、三年生が青色と並んでいることだって推察できるだろう。
「気になるのが……どうして、そんな人が、あの場所にいたのかってことですよ」
「私もそれは気になってた」
「うーん」
卯月の疑問に対して、響木は腕を組んだ。
考え込んだ末に、響木はふたりにこう言った。
「ふたりは、宇宙人って信じる?」
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