第五章『地球外生命体談義』
第40話 地球外生命体を調べよう。
40.
時刻にして、もうそろそろ午後十一時。
未成年が徘徊していれば補導される時間である。
このカラオケボックスの従業員は注意をしてこない。だから、どうしてもそういう連中の溜まり場になっていく。
八名の中のひとり。
『マザーグース』には事実上の『トップ』は存在しない。
この三名のリーダーに上下関係はない。
ということになっているが、実態は違う。
牛谷グレイは去年の卒業生から立場を引き継いだばかりである。鎮岩こと子のように去年からリーダーをしていた者とは違う。
樫山加治姫も、今年になって引き継ぐ形でリーダーになったが、あの性格的に上下を気にする人物ではない。
リーダー歴が一年多い鎮岩こと子や、よくわからない樫山加治姫を相手にしたとき、どうしても立場としては下になってしまうのが牛谷グレイである。
「こんな遅い時間にみんなご苦労だ」
少し大きめの部屋、それぞれが席について目の前にはドリンクバーで入れてきたドリングが並んでいる。
仕切るように話し始めたのは、眼鏡をかけていて、髪にヘアピンをしている少女。
鎮岩こと子だった。
「これは、何なの?」
カラオケボックスの一室。八名の中のひとりが、不機嫌そうに言った。『グループ』の特徴は、同じ価値観の人間を偏らせて形成しているためか、比較的険悪な間柄にはなりづらい。
ただ、その例外は『グループ』と『グループ』である。
お勉強が得意でお利口さんで偏らせている『鎮岩グループ』と、体育会系で部活でも先輩風を吹かせている連中で偏らせている『牛谷グループ』は仲がよくない。そのどちらにも属さない『どうでもいい』という人間で偏らせている『樫山グループ』――このとき、明らかに不機嫌そうな態度で話し始めたのは、『牛谷グループ』の人間だった。
二年生の吹奏楽部である。
「私は別に、あんたに
随分と交戦的な口ぶりである。上司的なポジションである牛谷グレイだが、彼女のことを直接は知らない。
どうしてここまで同じ『マザーグース』内部であるにも関わらず『グループ』間で対立をしているのか、疑問が尽きない。
元水泳部のエースであって、体育会系のリーダーを務める牛谷だが、その辺りに関しては物腰が穏やかである。『グループ』間でのわだかまりに頭を抱えていた前任者が『牛谷のような人なら』と牛谷を推薦した。
「明日は朝練があるから、さっさと帰ってお風呂に入って眠ってしまいたいのだけど……早いところ話を進めてくれないかな。私は別に遊びで吹奏楽をやっているわけじゃないから」
「なにそれ。じゃあ、私らは遊びで勉強をしているって言いたいわけ?」
噛みついてきたのは、『鎮岩グループ』に
「別にそんなこと言ってないでしょ。それに私は別に勉強のことを
「それはそっちでしょ。みんな黙ってるならしゃしゃり出てきてごちゃごちゃ、わざとらしい言い方をして。嫌味っぽい。そんなのが部活の仲間にいるなんて吹奏楽部はさぞかし気の毒ね」
「ふたりとも、いい加減にするんだ」
鎮岩こと子が言う。
「こんな時間にみんなを呼んだのは私だ。そのことで不用意な争いをしないでほしい。布施屋さんも香芝さんも。おふたりを呼んだのはおふたりでなければならないからだ。まずは私の話を聞いてほしい」
危うくほかの集まった人間も巻き込んで口喧嘩になりそうだったところを、ぎりぎりのところで収めた。
(私は、こんなふうに強気に出られないなあ)
と、内心思う牛谷グレイ。
「……それで、鎮岩先輩。これは何なんですか?」
ばつが悪そうに布施屋さぐるは言う。
机の中央に置かれている『試験管』について、問いかける。
「正直なところ、私自身もよくわかっていないが、恐らくこれはカビだ」
「か、カビ?」
室内にいる何人かが嫌悪感を示す。
「リーダー、どうしてカビなんかを?」
香芝円香が鎮岩に訊ねる。
「正直に話そう。私も正直よくわかっていない。連絡があったんだ」
「連絡? 誰からですか?」
「『マザーグース』と名乗る人物からだ。この中には、私と同じように連絡を受けた者もいるだろう」
何人かが頷いていたので、連絡があったのだろう。
牛谷の元にもあった。
事実上の『トップ』である鎮岩こと子、牛谷グレイ、樫山加治姫にもわからないことがある。その前任者でさえも、この『マザーグース』という名前がどこから出てきたのか把握していない。
まだ、『上』にいる。
いや、奥に『何か』が潜んでいる。
今までずっと潜んでいたのに、どうしてまたいきなり湧いてきたのか。
そんな疑問もあるが、そんな疑問を提示できる空気ではない。
「茄子原綾と漆川羊歯子、そして
「解明するも何も……ただのカビでしょう?」
香芝円香が言う。
「解明も何もあったものではないのでは……?」
「これはただのカビじゃない――地球外生命体だ」
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