第26話 子供の情景(トロイメライ) その①
26.
「私が病院に行くわ」
五條市民病院三階にて騒ぎが起き始めた頃のことだった。
病院の駐輪場にいる
「学校では私のミスで取り逃がしちゃったようなものだし、先に私が行く」
『わかった。私ももうすぐそっちに到着する』
日根尚美は言う。
『でも、くれぐれも間違えないでね。
「了解」
そのためには、まずは病院内に潜り込まないといけない。日根班は、入江以外に『能力』を持つ人物はいない。だから入江の『能力』による攻撃の成功率を上げなければならない。
二度に続く失敗に、愛想を尽かした『マザーグース』は、日根班を統括する
樫山グループ、
(それに……)
(さっきのは私が油断していたから失敗したみたいなものだ)
沼野は入り口から病院内に這入った。
面会終了時間を目前にした平日だ。随分と病院内は人が少ない。……が。その割には何やら騒がしい。
病院のエントランスでは、看護師や事務員が何やら話をして、慌てている。
「……もしもし、日根先輩」
スマートフォンを取り出して電話をする。
『マナーを守ってご利用ください』と書かれている貼り紙を、まるで気にした様子もなく電話をする沼野。
「病院内で、騒ぎが起きています」
『考えられるとすれば、やはり漆川羊歯子の「能力」ね』
「ですよね」
エレベータホールに着いたが、エレベータを使って移動するのは危険だろう。扉が開いた先に『ゾンビ』化した人間がいたら襲いかかられてしまう。
ならば、階段を使うべきだろう。
そのとき、『チーン』という音と同時にエレベータが開いた。
エレベータの中にいた『ゾンビ』が、飛びかかってきた。
「う――うわああああっ!」
看護師の『ゾンビ』だ。
押し倒されて、床に横転する。
「ああ……っ、ああああ!」
鼻血が垂れている。
突き飛ばして、立ち上がろうとする。足を掴まれて、床に横転する。
(おかしい! 動きがおかしい!)
(これじゃ、まるで私を狙っているような動きじゃないか!)
以前に学校内で起きた騒ぎでは、『ゾンビ』はゾンビらしく徘徊するだけだった。ふらふらと。なのに、まるで意志を持った操り人形のように、正確に狙ってきている。
(そうか!)
(そういうことか!)
横転してもなお、死守するように握っていたスマートフォンに向かって言う。
このまま、漆川羊歯子の『能力』で――『血に触れて感染する前』に、電話の向こうに言う。
「わかった! 漆川羊歯子の居場所は――!」
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