第11話 スズメバチに要注意 その②


     11.


卯月うづきくんは、私のことを信用してくれたってわけじゃなさそうね)

 廊下を歩きながら、響木ひびき寧々ねねは頭の中を整理する。

 体育館まで続く吹きさらしの廊下に出て、様子を伺う。

(こっちのほうにスズメバチはきていない)

(ってことは、やっぱり狙いは卯月くんにあるみたいね)

 体育館裏にあるというスズメバチの巣。

 これがいったいどこから仕入れた情報なのか気になるところである。明らかに何かを隠しているようだったし……。

(まあ、それは別にね)

 響木にとって、それは些細な問題でしかない。

 この出来事は何かの取っ掛かりになるかもしれない。

(女子を中心に広がっているコミュニティ――『マザーグース』)

を)

 体育館の傍らにあるごみ捨てのダストボックスを通り過ぎて、その奥に進んで行く。

 雑草は生い茂っていて、随分と放置されているようだ。桜の木も植えられているが、もうほとんど散っている。

「…………」

 響木の片手にはペットボトルが握られている。

 肩から提げていた鞄は家庭科室に置いてきて、ペットボトルの水も十分に補充してきた。

 草木の陰に身を隠しながら、ゆっくりと進んで行く。

「…………?」

 何か、話し声のようなものが聞こえてきた。

 何を言っているのかまでは聞き取れないが……なんとなく人がいるのは確認できた。

 そんなに離れていない位置だ。

 姿はちゃんと見えないけど、複数人いるという感じでもない。

 ならば、電話だろうか。

 ほんの数メートル先の草むらにいる。屈んでいて、何か話している。

「…………」

 少し距離を縮める。

 こちらに気づく様子もない。

 なので、近場にあった枝を掴んで、少し揺らした。

「!」

 屈み込んでいた人物が、立ち上がった。

「誰?」

 警戒しているというより、怯えているような声色で、周囲に叫ぶ。

「誰か、いるの?」

 それは女子だ。

 肩の辺りで揃えたふわりとした髪と、土で汚れた両手。セーラー服を着用していて、スカーフの色は黄色である。二年生だろう。

 その女子に手には、一匹の大きなスズメバチが握られている。

 そのスズメバチは、どういうわけか動く様子もなく、凍りついたように大人しいものだ。

(あの人……)

(ええっと、確か)

 知っている。

『マザーグース』のことを調べているときに、『マザーグース』に属している生徒の名前を何人か聞いてある。

 そのうちのひとり、入江いりえひじりだ。





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