第一章『卯月希太郎の日常』
第1話 卯月希太郎の日常 その①
1.
自宅から自転車で通える距離である。
なんだったら、中学校の頃に電車で通っていた塾のほうが遠いくらいである。
(――学校というものは、
卯月希太郎は、学校が好きではない。
楽しいことだってあるだろうけど、好きなわけではない。
人間は、たとえどれほど居心地が悪くても、生活が可能な環境であれば適応してみせるという。
こういうのを
進化に関する言葉だったはずだ。
授業で習ったのを憶えている。
(なんというか、がっかりだ)
入学してすぐに、そんなことを思った。
別に何かを望んでいたわけではない。
奇抜な自己紹介をする同級生なんているわけがないし、圧倒的な権力を持った生徒会や、規則に厳格な風紀委員なんてありえないし、学校の校庭に伝説の木があるわけがない。
と、わかっていた。
そういうのはフィクションだけだと重々承知していた。
小学校や中学校と変わらない、普通の学校なのだと、わかっていた。
別に夢に見ていたわけでも、そんな夢から醒めたわけでもない。
なんとなく、わかっていた。
まあ、そういうものなのだろうな、と。
(ああ、そういうものなのか)
と。
実感したときは随分と、がっかりした。
だからといって、何かトラブルを望んでいたわけではない。
居心地の悪さにも慣れ始めて、もう一週間。
四月十五日、水曜日のことだった。
授業が終わり、掃除当番を終えて帰宅しようと廊下を歩いていたときのことだった。
卯月は、何気なく、空き教室のほうを見た。
そのとき、偶然にも気づいてしまった。
教室の中に、倒れている女子生徒がいることに。
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