激闘の七日目-5
家に帰りついたが鷹木の姿はなかった。一体鷹木は何処へ行ってしまっんだろう。それでも待っていればそのうち帰ってくるだろうと思って、こたつでアルテアと待っているとスマホが震えた。
鷹木からの連絡で、どうやら用事が出来てしまったので僕の家には泊まれなくなったという連絡だった。鷹木にもいろいろ事情があるので、それは問題ないのだが、問題はその次だ。何と荷物を家に送って欲しいとの事で住所が記載されていたのだ。
何が問題かと言うと、鷹木の部屋には買い物で買ってきた下着とかも残されており、それを僕が荷造りしなければいけないと言う事だ。
僕の家に寄って荷物整理をする時間ぐらいあるだろうと思いつつも、鷹木が使っていた部屋に入る。きれいに整理された部屋は僕の部屋とは雲泥の差がある。
まずは片付けやすい物を先に片付けて行く。小物だったり、ぬいぐるみの類のものを段ボールに入れて行き、残るは衣類だけとなった。
箪笥に入っているのでそのまま運んでもらえないかと思うが、引っ越し業者に確認したら中に入っている物は出して梱包してくださいとのことだったので仕方なく箪笥の中身を片付け始める。
一番上の段には服が入っていた。これは問題ない。丁寧に畳んで段ボールに詰める。次の段にはタオル類が入っており、これもさほど問題ない。そして一番下の段だ。引き出しを開けるとびっしりとだが綺麗に畳まれた下着が入っていた。
綺麗に畳んであるので意外にいやらしい感じがしない。あんまり触っても申し訳ないので端っこの方を摘まんで引っ張り上げると引っかかっていたのかパンツが連なって出て来てしまった。
最初に摘まんだパンツは一緒に買いに行った時の物なので見た事があったが、一緒に出て来た赤いTバックは見た事がなかった。マジですか。鷹木ってこんなパンツ履く事もあるんだ。
あぁ、何か見てはいけないものを見た気分だ。今度鷹木に会った時に絶対に赤いTバックが頭の中に浮かんでしまう。
「それにしても愛花音は急にどうしたんでしょうかね?」
僕に変わって重たい物を下に運んでくれているアルテアが荷物を取りに来た時にそう呟いた。
用事としか書いてなかったので、何かあったんだろうぐらいにしか思っていなかったのだが、確かに急と言えば急すぎる気がする。
僕はスマホを取り出して鷹木にメッセージを入れておく。明日、引っ越し業者が来て荷物を運んでくれることと、明日以降の行動をどうするかと言う事だ。
鷹木の荷物を整理していて思ったのだが、針生の荷物はこのままにしておいて良いのだろうか。すぐにでも取りに来る物かと思っていたが、一向に取りに来る様子はない。
「綾那にも連絡してみたらどうですか? 同盟は解消されてしまいましたが連絡を取ったらいけないと言う訳ではないのですよね?」
そうれもそうだな。別に急いで片付けなければならないと言う訳ではないけど、どれぐらいで取りに来る予定なのかだけでも教えて欲しいので針生にもメッセージを入れておく。
さてと、アルテアも疲れただろうからこの辺りで一度、休憩にする事にしよう。僕は一階に行くとそのまま台所に行き、紅茶を淹れる。そう言えばこの紅茶も針生が持ってきた物だったな。勝手に使って良かったのだろうか。
最悪、新しいのを買って返す事を考えながらこたつにいるアルテアの所に紅茶を運ぶ。外はまだ雪が降っており、止む気配はない。このまま積もってしまうのではないかと心配になる。
「ツムグは結局、『ギフト』と言うのを貰っていたのですか?」
紅茶に口を付け、一息ついたアルテアが思い出したように聞いてきた。家に帰ってくる途中で蛯谷との戦いで起こっていた事を少し名はしたので気になっていたのだろう。
僕は『ギフト』を貰っていた。自分でも気付かなかったんだけど、蛯谷と戦っている時に気付いた。どうやら僕の『ギフト』少し先の未来が見えるようだ。
「そんな凄い能力だったんですか。そんな能力ならツムグが
うーん。どうだろう。針生が『ギフト』を使っていた時のように簡単に出せるものではなさそうなんだよな。物凄く集中してやっと使えるって言った感じだ。
それに少し先の動きが分かったとして攻撃を躱す事はできるが、僕では
「そう言えば魔術は使えるようになったんですね。すぐにできたと言う事は才能があるのではないですか?」
他の人がどれぐらいの早さで魔術が使えるようになっているのか分からないので、何とも言えないが、とても才能があるとは思えない。
多分、本当に才能がある人と言うのはもっと成功率が高くて威力も高いんだろう。
「そうですか? 魔法もそうですけど、できる人は最初にパッとできてしまいます。その後、威力や精度を高めるのは体で覚えて行くしかないです」
そんなようなこと白雪さんも言っていたな。何度も使って体で覚えて行かなければいけないって。となると実際に戦いで使えるようになるのはまだ先だ。僕がちゃんと使えるようになったら戦いは終わってるかもしれないけど。
「紡ちゃん、何か荷物が下に置いてあるんだけどあれは何?」
母さんが起きてきた。時計を見るともう出社する時間になっている。鷹木が用事で家に帰ってしまった事を伝えると、母さんは凄く落ち込んでしまった。
「えぇー。愛花音ちゃんも? 綾那ちゃんも戻ってこないし、ツムグちゃん何か変な事したんじゃないの?」
大丈夫。母さんの思っている変な事は決してしていない。そもそも年頃の女性が一緒の家に住んでいる事の方がおかしいのだ。
「それを言ったらアルテアちゃんがまだ残っているじゃない。良いわ。母さんアルテアちゃんに期待しているから」
両肩に手を置かれたアルテアは両手で拳を握って母さんの期待に答えているようにしているが、意味が分かっているのだろうか。
母さんが起きてきたので朝食と、僕たちの夕食を作りに台所に行く。確かに変な状況だったよな。針生が家にいて、次に鷹木が家にいたって状況は。
二人共学校では人気の高い女性で僕なんかが話すだけでもおこがましいのに一緒に住んでいたなんて有り得ないよな。僕は料理を作り終えると居間に戻っていく。
「そうだ、紡ちゃん。お母さん今日の仕事終わりに社員旅行でそのまま旅行に行くから家の事よろしくね」
ん? 旅行? だからキャリーバッグなんて持ってきたのか。まあ、母さんが居ない所で取り立てて困るような事はないから良いんだけど。
「酷い! お母さんなんてお金さえ持ってくれば居ても居なくても良いって事ね。亭主元気で留守がいいみたいに思っていたのね。ちゃんと紡ちゃんのためを思って孫の名前とか考えていたのに」
孫の名前は僕と言うか僕たちに付けさせてくれよ。と言うか孫なんてまだ先だぞ。結婚は言わずもがな誰とも付き合ってさえいないんだから。
「ツムグ、かなちゃんをいじめては駄目です。母親なんだから大切にしないと」
母さんがアルテアの胸に顔を埋めて嘘泣きを始めたので、アルテアは本当に母さんが泣いてしまったと思ったのだろう。アルテアに見えないようにこちらを向いて舌を出す母さんがムカつく。
嘘泣きをする母さんを放っておいて僕はさっさと食事を済ませる。僕が相手にしなかった事で母さんも大人しく食事をし、キャリーバッグを持って仕事に出かけて行った。
僕は自分の部屋に戻ると魔術の練習を始める。今回の戦いで使えるようになるかは微妙だけどやらないよりはやっておいた方が良いだろう。
悪戦苦闘しながら練習していると隣の部屋からノックをする音が聞こえてきた。今、この家には僕とアルテアしか居ないのでノックをしているのはアルテアだろう。
「失礼します。魔術の練習ですか? 精が出ますね」
何だろう? 魔術の練習に興味があったのだろうか? 見てても面白いものだとは思わないのだけど。
「いえ、そう言う訳ではありません。ですが、少しお話しておきたい事がありまして」
アルテアからの話か。もしかして父さんが約束した事だろうか? あれは父さんが勝手に約束をした事だからアルテアは気にしなくて良いと思う。
「そのことでもありません。実は……」
アルテアが俯いて言いにくそうにしている。そんなに話しにくい事があるのだろうか。
父さんとの約束以外だと久しぶりに二人っきりで寝る事になると言う事だが、僕は前も手は出していないのでそこは安心してほしい。
「実は……。そ、そうだ。ツムグは
何だ? 急に。覚えていると言えば覚えている。一回目がアルテアのパンツを見た時で、二回目が今日のアンとの戦いの時だ。だからあと一回は使えると言う事になる。
あくまでも一回目はパンツを見てしまったのであって不可抗力だったのを強調しておく。
「そうですか。やっぱりそう言う認識ですよね。正直に言います! ツムグは
えっ!? マジ? アンとの戦いの時、強くなったような感じはしたんだけど、何か特別な事をせずにアンを倒してしまったからもしかしてと思っていたんだけど、あの時、
「いいえ、アンとの戦いの時はちゃんと
なぬ? 一回目だと? 一回目と言う事はパンツを見た時か。それではアルテアさんは自分で袴の紐を解いたのは
アルテアにそんな趣味があるなんて思ってもみなかった。人は見かけによらないものだ。
「違います。いえ、違わないのですが、趣味で見せた訳ではありません。実はあそこで使ったと思わせておけば、もし、ツムグと上手く行かなかった時でも最後の一回を残して私は一人で戦えるかな……と。それで黙っていたのです。すみませんでした」
全然分からなかった。初めて会った男性にいきなりパンツを見せるなんてできると思ってなかったからてっきり
それじゃあ、僕はアルテアに対して後、二回
「そうなります。いつか言おうとしていたのですが、どうしてもタイミングが掴めず、今日になってしまいました。申し訳ありません」
いや、謝るのは僕の方だ。自分の意思でパンツを見せるなんて相当恥ずかしかっただろうに。それを命令した僕が言う事ではないが。
でもこれで戦術の幅が広がった。後一回と後二回では雲泥の差がある。何人
「良かった。嘘をついていた事でどれだけ怒られるのか心配していました。もしかして家を出て行けと言われるのではないかと不安だったのです」
ホッとするアルテアは肩の力が抜け、柔らかい笑みを浮かべている。僕は一体どれぐらい怖い存在だと思われていたのだろう。
「いえいえ、ツムグは本当に優しくていい人です。ですが、やっぱり嘘をつかれると言うのは良い気がしないかと思いまして……」
良い気がしないのはそうだが、それよりも僕が馬鹿な事をやって使ってしまったと思った
アルテアは心にあった棘が取れた事でスッキリしたのか、軽い足取りで自分の部屋に戻って行った。相当、気にしていたのがその行動で良く分かる。
アルテアが
最後には別れがくるのは分かっているのだが、そのタイミングはなるべく遅い方が僕としても嬉しい。でも、アルテアが正直に話してくれた事でどこか少し嬉しい気分になり、予定以上の魔術の練習をしてしまい、魔力切れにになっていつの間にか寝てしまった。
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