驚きの三日目-6


 僕は針生が急に怒り出した理由が分からなかった。何か気に障る事でも言ったのだろうか。


「ツムグ、綾那を追わなくても良いのですか?」


 荷物も持たずに出て行ったので針生も落ち着いたら戻ってくるだろうと思い、僕は針生を追う事をしなかった。

 アルテアに僕が何かおかしなことを言ったのか確認してみるが、アルテアもそこまで変な事を僕が言ったとは思っていないようだった。


「ただ、綾那の怒り方からしてあの釼と言う憑代ハウンターの事はもう一度ちゃんと見る必要があるかもしれないですね」


 うーん。確かに上からの物言いのような感じはしたけど、それほど悪い人のようには思えなかったんだけどな。

 ふと時計を見るとそろそろ母さんが起きてくる時間なので僕は母さんの朝食を作るために台所に行く。

 起きてきた母さんは針生や父さんが居なくなったことに少し寂しげな表情を浮かべていたが、すぐに戻ってくるよと言うといつも通り、元気に出勤していった。現金な母さんだ。


 すぐにでも戻ってくると思った針生は何時まで経っても戻って来なかった。居間で待っている間、アルテアと雑談をしていたのだが、会話をする内容もなくなってしまうぐらいに。


「綾那は帰ってきませんね。やはりあの時追っておけば良かったのではないでしょうか?」


 久しぶりにアルテアが口を開いたのは時計の針がてっぺんを廻ってからだった。少しウトウトしかけていたのだが、首を振って眠気を吹き飛ばす。

 確かにアルテアの言う通りなのかもしれない。あの時、針生を追っておけば良かったのかもしれない。でも、僕は針生を追わない事を選択してしまったのだ。

 それに、今から追った所で針生がどこにいるのかも分からない。もしかして針生の家に帰っているのかもしれないけど、そもそも僕は針生の家がどこにあるのか知らないのだ。


「それならスマホとか言う物で連絡を取ってみてはどうですか?」


 うーん。確かにスマホって言うかメッセージアプリは便利なんだけど、文字だけだから違った感じで受け取られかねないんだよな。

 針生に連絡を取るか悩んでいると、釼さんから連絡が入った。メッセージを見ると、どうやら明日、本町にあるビルに来て欲しいと言う事だった。

 そのビルは本町の外れの方にある正直治安と言うか雰囲気があまり良くない場所だった。針生が言ったようにもしかしたら僕は組む相手を間違えたのか? とも思ったが、たまたまそう言う場所にあるビルなだけと言う可能性もある。

 針生に連絡するのは明日、釼さんに会って話を聞いてからで良いだろう。これ以上針生を待った所で戻ってこないだろうし、僕はこたつから立ち上がり、自分の部屋に戻る事にする。


「ツムグ、本当に連絡とらなくても良いのですか?」


 アルテアが心配そうに声を掛けてくるが、僕はその言葉に反応する事はなかった。今から連絡した所で針生はもう寝て居るかもしれないし。明日、釼さんに会うんだ。

 僕は戸締りの確認をし、居間の電気を消してアルテアと一緒に二階に上がっていく。暗くなった冷たい部屋でベッドに入るがなかなか寝付く事ができなかった。無理をして目を瞑って眠りについたのは夜も空け始めた頃だった。


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