第1話 冬、待ち合わせの約束 9
病院からは許可をもらっていたので、朱音さんを連れて、近くの神社へ初詣に行くことにした。朱音さんは歩けないし、歩道も雪や氷でひどいので車で移動する。凪は僕らについてくることになった。そしてみんなで彼女の受験の合格祈願をしようってことにした。
「ところでどうして凪とカツオが一緒にいるの?」
駐車場までの移動中に朱音さんがそう尋ねた。
「なんでだろうね、なんか偶然会ってさ。シンパシー的何か、がこう、ふっと、ね」
などと適当にカツオは返事をした。
「そうだ、タケは凪ちゃんのこと知ってるんでしょ」
「おまえ、知っててわざと言ってるんだよね」
「ほほう、やっぱり知り合いだったか」
「あのな、前に話したことあったはずだよな」
「そうだ、そんなこともあったねえ」
「さっきからセリフが棒読みだぞお前」
ははは、とカツオは笑った。みんなはどうして知り合いなの、って顔をするもんだから、凪が自分で話す。
「えっと、家庭教師してもらってるんです」
「えええ、そうだったんだ」
「いいや、お前は知ってただろ」
思わずカツオにツッコんでしまった。
「あああ、そういえば、知ってたなあ」
無視することにした。
7人で車は車いすもあるからということで、カツオの車と斉藤さんの車の二つに分けて移動する。僕は朱音さんと凪とでカツオの車に乗り込んだ。
目的地に着く。車から降りて、賽銭箱の前へ向かう。
「ねえ、どこの大学目指してるのかな、あ、言いたくなかったら言わなくてもいいけどさ」
坂本さんが凪に尋ねた。凪は僕もカツオも通っている大学を言う。
「へえ、そうなんだ」
少し嬉しそうに斉藤さんが言った。斉藤さんも同じだったな、そういえば。あんまりキャンパス内であったことないからな。また坂本さんが尋ねる。
「文系か理系かどっちなの」
「理系です」
「わお、めずらしい、って私たちみんな理系なわけだけどもね」
「ああ、だからタケが教えてるのか」と春人が言った。
そろそろ、賽銭箱の前だ。
「そういえばさ、朱音は受験とかどうするの」と坂本さんが聞いていたのが聞こえてきた。
「どうしようか、まだ決めてないんだよね。今年はもう無理だけどさ。でも行ってみたいかな、大学」
「そうだよね」
そう言って坂本さんが暗い顔をしていた。そしてもとに表情を戻して、というよりも少しにやけて何か朱音さんに言っていた。ちらっと僕の方を向くと、
「なに、こっち向いてんのかな、気になるの」
と言ってきた。相変わらずなヤツだ。
そして着いた。みんなで着いた。一人足りないやつからはみんな宛に一斉送信メールで、
『俺も参拝したぞ、明治神宮!』
と写真付きで送られてきていた。
みんなで待ち合わせて神社にお願い事をしに来れた。嬉しい。
受験もないし、朱音さんも元気になった。
さて、何を祈ろうか。
賽銭を投げて、僕は……願う。
第1話、終わり。
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