学都に遊びに来ませんか?(二)
「午後の講義は?」
「今日はもう無いよ」
食後、学食を出た二人は中央棟を降りてアカデミーの出口へ歩いていた。
元気そうに見える桃花だが、異世界の医術でもこちらの治癒魔法でも根治できなかったという病を抱えている。スターゲイザーで病の進行や症状をなんとか抑えることで行動が可能なのだ。そのため、以前はスターゲイザーの稼働範囲であるアカデミー内でしか行動できなかった桃花だが、儀式魔法を使ったことによって稼働範囲は大きく広がっている。
「どこへ向かっているんですか?」
「講義は無いけど、ちょっとした仕事があってさ。私の近況も分かると思うし、見せようと思って」
桃花はギュルレト魔法アカデミーの学生であると同時に、学都周辺のインフラを中央制御するスターゲイザーの術者でもある。仕事と聞いて思い浮かぶのは、やはりそれ絡みだ。
「学都周辺を順番にまわって魔物退治してるんだよ。ララちゃんがまた出張ってこなくても大丈夫なようにしてるからね」
「ああ、そういう……」
「約束だからね」
前回の戦いで桃花がララを叩きのめした理由がそれだ。無理をして毎度ボロボロになっているララの代役を務められると証明するために、桃花は手加減した上でララを滅多打ちにした。
学都は都市部以外の安全管理を放棄している。学都発展に伴って周辺地域の魔物被害は深刻化の一途を辿っており、ララはそれをたった一人で食い止めていたのだ。しかし、それも限界がきていた。桃花はそれを見かねて実力で成り代わったのだった。
「学業と平行するのは大変ではないですか?」
「別に、余裕だよ。講義を受けながらでもスターゲイザーでこっちの魔物を遠隔操作して戦えるし、っていうか寝てても起きててもほとんど自動でなんとかしてくれるからね。たまにはこうやって自分で様子を見に行くことにしてるけど」
「本当に常軌を逸してますね。人間業じゃないというか……」
「そりゃスターゲイザーは人間じゃないし。むしろ、こんなことを生身でやってたララちゃんのほうが常軌を逸してると思ったね」
二人がアカデミーの正門へ辿り着くと、道路の端に一台の車が停まっていた。桃花が近づくと勝手にドアが開いて乗車を促してくる。誰か運転手を呼んだのかとララは思ったが、すぐにそうではないと気づく。恐らくスターゲイザーを使っているのだろう。
「これモモカさんが呼んだんですか?」
「そうだよ。自動運転なんだ」
道路を行き交う車を見ていると、運転手のほとんどが何の操作もしていないことに今更ながら気づいた。どうやら思った以上にスターゲイザーによる中央制御の推進は成功しているらしい。
「目的地だけ言えばそこまで勝手に運転してくれるよ」
車に乗った桃花はそう言った後、学都近郊にある村の一つを告げた。車は何の操作もなく勝手に走り出し、滑らかな運転で道路に合流していった。
「基本的に魔物退治も半自動って感じだけど、たまには顔出すべきかなーって。ララちゃんがやってた時も、助けてくれる人の顔が見えるから安心できた面ってあると思うんだよね。ああ、いつもの人が来てくれた。この人が守ってくれてるんだって信頼みたいなさ。学都を信じて貰うのも、まずはそこからだよね」
説明は軽いノリでも、内容はしっかり考えているようだった。スターゲイザーが勝手にやってくれるからいいでしょという仕事ではなく、信頼の面でサポートしていくことまで考えていたことに、ララは少し驚いた。
「なんか意外です。結構まじめなんですね」
「きっとララちゃんとは比べられるからね。強い弱いじゃなくてさ。前の人は顔出してくれたのに……って絶対思われるよ。まあ、わたしが出かけたいだけってのもあるけどね」
そう言って桃花は笑った。
「出張でやってたララちゃんよりも顔出せる頻度多いから、わたしのほうが評価上がっちゃうかもよ?」
冗談めかして言う桃花だったが、ララとしては何の問題も無い。同時に心の深い部分で、本当に交代が出来たのだと、ようやく納得できたのだった。
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