第四話 お誕生日会
「じゃあ、開けますね……」
一通目よりも張り詰めた空気の中、ルルが二通目の封を切った。
こちらも王宮からだという手紙、封筒から出てきた便せんを開いたルルの顔から一瞬にして緊張が抜けたのが分かった。
「あっ、これフロドさんからです! ほらっ」
ルルが机の上に手紙を置く。僕らが揃って覗き込むと、確かにフロド王子の名が記されていた。勉強不足な僕では内容の子細まですぐには読み取れないが、ルルの様子からしても悪い知らせでは無さそうで一安心だ。
「誕生パーティー?」
内容に目を通したララが言う。
「うん。招待状だね」
なんだ、誕生パーティーの招待状か。正体が分かると一気に肩の力が抜ける。師匠も小さくため息をついていた。厳しいが、僕やララと同じでルルのことを一番に気にかけている一人だ。言わずとも心配していたのだろう。
「王宮で誕生パーティーをやるから来ませんかって。皆さんもご一緒にどうぞって書いてありますよ。どうしますか?」
封筒からは手紙と一緒に列車の切符も出てきた。ルルとララと僕、それに師匠の分も考えられているようで、四枚だ。
「ルルは行きたいの?」
「わたしは行きたいなあ」
ルルの言葉に僕も頷いた。
「だよね。僕も行った方がいいと思う。あの王子とは仲良くしといた方がいいよ」
これは何も王族とのコネ作りとか、そういう現金なことを言っているわけではない。
フロド王子は本当に良い人だったからだ。彼と会ったのは北星祭という短い時間だけだったが、それでも人柄の良さは伝わってきた。なんといっても、命がけでルルを守ろうとした気概だ。あれは忘れられない。彼と仲良くなっておくことは、ルルにとって必ず人生の一助となるはずだ。
すると、隣のララがため息をついて言う。
「ノブヒロさん、違いますよ。お姉ちゃんはフロド王子に会いたいワケじゃ無くて、王都に行くついでに実家の様子を見たいだけなんです」
「えっ、ち、ちがうもん! フロドさんにも久しぶりに会いたいなあって――」
ララの指摘を受け、ルルが慌てたように答えた。
なるほど、そういうことか。僕はそこまで穿って考えもしなかったが、やはり姉妹のこと。ララの方がよく分かっているようだ。
「いいよ、取り繕わなくたって。止めないから」
「そ、そう? よかったあ」
「ほらね」
「ううっ……。でも、また前みたいにララに止められるかと思ったから」
「この前ので止めても無駄だって分かったからね。行くなら付いてくよ」
そう言って、ララは僕の方へ視線を向けてきた。ルルも僕の顔を伺うようにしている。
「もちろん僕も行くよ」
「やったあ!」
ルルが手紙を持ったまま歓声を上げる。万歳して喜びを表現するルルを見ながら、僕はララに尋ねる。
「こんなにあっさり認めるなんて意外だよ」
「さっき言ったとおり、止めても無駄でしょうからね。前みたいに一人で危ない目に遭われるよりは一緒の方がいいです。それに、あの王子のことですから、お姉ちゃんを喜ばせるために両親も招待しているでしょう。さすがに王子の目の前で狼藉を働くことは無いはずです」
「なるほどね」
北星祭の時もそうだったな。自分がいる限りルルに酷い真似はさせないとか言ってたっけ。やっぱり王子は頼りになる。
「お師匠さまも一緒に行きましょう」
「ワシは行かん。もう隠居させろ」
師匠は基本的にほとんど出かけないから、なんとなく答えは分かっていた。マスターアデプトともなると、いろいろと人間関係が面倒になるのだろうか。見た目もちょっと仙人みたいだし。
ルルも承知していたのだろう、それ以上しつこく誘うことはなかった。
「久しぶりの王都だな」
とにかく、こうして久しぶりの遠出が決定した。
ルルは両親と会う方をメインに考えているのかもしれないが、僕としてはこれを機に王子とルルがもっと親密になることを願っている。少しでも印象が良くなるように、僕も心して望まなければ。
とりあえず、もうちょっといい服を買わなければいけないだろうな。
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