第十五話 何が狙いだ
「それは災難でしたね」
「驚いたよ。思ってたよりも深刻だね」
ララが腕組みをして言い、僕はそこに感想を重ねる。
魔籠技研の海都支部。僕ら宿泊している部屋に戻ってきていた。
先に戻っていたルルとララに襲撃について手早く説明を終えると、安全地帯に戻った実感があふれ出すと同時に、重たい疲れが全身を満たした。やはり対人戦闘というのは心に悪い。
「でも、みんなケガがなくてよかったです」
柔らかなベッドに腰を沈める僕に、ルルが微笑みかけてくれた。癒される。
「ルルの方はどうだった?」
「とってもいい学院でしたよ。魔籠の専攻もちゃんとありましたし、実習もちょっと覗いてきましたけど楽しそうでした。そういえば、マリンさんが戦ってるところも見たんですよ!」
「へえ。あれ? マリンさん戦えるんだ」
先の襲撃では真っ先に鐘鳴君の後ろに隠れてたから意外だ。いや、前に出て戦えなんて思わないけど。そうなったら何のために守ってるんだか分からないし。
「はい。でも実戦は怖いそうです」
「そっか。そりゃそうだよね」
それが普通だ。僕だって怖いわけだし。っていうか、普通の学生は命懸けの戦いなんてしない。身近に平然と強敵を屠るプロフェッショナルがいると感覚が麻痺しがちで困る。
「それから、マリンさんの研究室も見せてもらいました。あそこはすごかったです。道具も材料も山盛りで、いっぱい魔籠を作れそうでした! お師匠さまの家にもあったらいいのになあ」
「うちじゃ、そんな贅沢はさせてくれなさそうだな。やっぱり大きな学院は使えるお金も設備もすごいのか、それともマリンさんの先生がすごい人なのかな?」
「あ、マリンさんの先生は……」
そう言ってルルは言葉を詰まらせた。先ほどまでの楽しげな表情はどこへやら、困った顔でララへと目配せした。
「そちらは難ありですね」
淡々と言葉を引き継いだララの弁である。難ありとはどういうことか。
「どういうわけかカネナリさんを強烈に敵視していました。それはもう、睨み殺せそうなくらいの気迫でしたよ」
「ええ? どういうこと?」
「知りません。でも、第一印象は最悪でしたね。かなりの実力者であることは間違いないですけど、それだけに厄介ですよね」
「ララにそこまで言わせるなら本当に実力あるんだろうけど、確かにマリンさんがちょっと心配になるな」
「ハンターアデプトだって言ってましたよ」
ルルの補足に、僕も驚きを重ねる。
「そりゃすごい。ララと同じか」
「あんなのと一緒にしないでほしいですね」
傍から見るとララも少々性格に難ありな気がしないでもない。アデプトたるもの、少しくらい浮世離れしていないければならないのかもしれない。もしくは、浮世離れしてる凄腕のことをアデプトと呼ぶのかも。
「今はそれよりも、そちらの襲撃の話を詳しく教えてもらえますか?」
「いいけど、大体さっき言った通りだよ」
敵の襲撃から対処までの出来事について、大方の説明は先ほど済ませてある。僕自身も分からないことだらけの襲撃事件だ。ほとんど言うことも無かったが。
「確認ですけど、襲われたのはマリンさんと合流した直後だったんですよね」
「そうだよ」
ララは顎に指を添えて、何かを思い出しているかのような間をとった。
「おかしくないですか? マリンさんの魔籠が狙いなら、合流する前に襲えばいいじゃないですか。そうすれば楽々奪えたでしょう」
「敵も僕らの合流と同じタイミングでマリンさんを発見したとか?」
「そんな甘いマークの仕方があるでしょうか。マリンさんがシーガルの学生であることを知らないはずはないでしょうし、最低でも六人が襲撃に参加していたのに、学院に一人も張っていないわけがないと思うんですが」
「それは……そうかも」
仮にマリンさん一人のところをあの人数で連携して取り囲めたとしたらどうだろうか。まず間違いなく襲撃は成功していただろう。フェアトラの遺産だという魔籠は一瞬にして奪取され、もしかしたらマリンさんの命も無かったかもしれない。
「それに、前に会った時に言っていました。これまでにも三回襲われているけれど、運よく近くにいたカネナリさんが駆けつけてくれて難を逃れたのだとか。そんなに都合のいいことがありますか? 今回のことも含めて、運が良いだけで説明できる気がしないんですよね」
増員してきた割には肝心なところで詰めの甘い襲撃計画。言われてみれば確かに変だ。本当に敵の間が抜けているのでなければその理由は――
「マリンさんの魔籠が目当てではないとか?」
「あり得ますね」
マリンさん一人のところを狙っていないということは、狙いはマリンさんですらないかもしれない。
「いずれにしても、もう少し調べたいですね」
「そのことだけど、剛堂さんが明日はフェアトラ復権会の集会所を見に行こうって言ってたよ。今日手に入った手がかりで復権会がますます怪しくなったってことで」
「そうですか。じゃあ私も行きます」
「あ、わたしもいきます!」
これまでずっと黙って話を聞いていたルルが名乗りを上げる。
「そうだね。お姉ちゃんも行こう。魔籠のことで手がかりが必要になるかもしれないし」
「やった! わたしも役に立ちますからね」
「遊びに行くんじゃないんだぞ」
「わかってます。ふふっ」
次の目的地が決まった。剛堂さんによれば、ここ海都にもフェアトラ復権会の集会所はあるとのことだ。何にしても、まずは現地を見てからだ。
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