ルルの魔籠収益化大作戦!(一)
「わたし思うんです。このままじゃいけないって」
ある日の夕食後、ルルが言った。
突然の意思表明に皆の注目が集まる。
「おじさまとララは魔物退治でお金を稼いでいます。お師匠さまも魔法の研究でお金を稼いでいます。でも――」
ルルはテーブルに手をついて立ち上がる。
「わたしだけが一切お金を稼いでいません」
僕とララ、そして師匠が顔を見合わせる。
いきなり何を言い出したかと思えば、ルルはそんな妙なことを気にしていたのか。僕はルルの方へと向き直って言う。
「ルル、よく考えてみて。それは普通だ」
「そうだよ、お姉ちゃん。私たちは子供なの」
「でもララはちゃんと稼いでます」
「そりゃララがおかしい――いや、ララがすごいだけだ」
ララからの強い視線を感じて言い直した。
十歳の子供が生活の基盤を支えられるほどのお金を稼いでいるのがおかしいだけだ。ララの収益はその天才的な実力の上に成り立っているものであって、同い年の多くの子供たちがそうでないことくらいは僕でもわかる。
ちなみに魔物退治の収益も大したものではない。
僕とララと師匠、この三人は拠点にしているこの町の専属魔物ハンターということになっているが、町の周辺に出る魔物は程度が知れており、ほとんど稼げない。実際、僕がこの世界に来るまでは師匠とルルの二人暮らしを支えるのが精一杯だったらしい。
今は僕とララが師匠の仕事を代替することで、師匠が研究成果の売り込みにかける時間が増し、四人の食い扶持を確保できている。あとは、ララが遠くで強い魔物を狩ったときの臨時収入がたまにあるが、これは安定しないからあまり当てにはできない。
マスターアデプトと謳われる師匠の実力ならば高収入も望めそうなものだが、いかんせん、師匠は必要以上に大金を稼ぐことを良く思っていない節があった。
「ルルは気にすることないよ。僕なんてあっちの世界じゃ学校中退してからフリーターになるまでは、何年も一銭も稼がずに家でごろごろしてたんだから」
言い終わると同時、師匠の目から鋭い光を感じる。殺気に近い。
「ま、まあ、とにかく。現状、ルルが心配しなきゃいけないほどお金に困ってるわけじゃないから……」
「でも……」
ルルは納得していないようだ。
現状がどうとか、困っていないとか、そういう問題ではないのだろう。みんなが家を支えている中で、自分だけがその助けになっていないという事実が問題ということだ。ルルはこだわり始めたらなかなか折れないからな。困った。
「お姉ちゃんが稼ごうと思ったら、やっぱり魔籠かな」
ララがぽつりと呟く。
確かにルルの特技と言えば魔籠だろう。分野は違えど、天才的という点についてはララと比べても遜色ない。しかし、ひとつ問題がある。
「でもルルの魔籠は、使う人を選ぶからな」
「そうですね」
ルルの魔籠は特別製だ。常識外れのアイデアから生まれたルルの魔籠は強力だが、その内容を深く理解できる人間だけが使える。一部例外として、莫大な魔力を流して強引に起動する方法があるが、これはさらに稀少なケースだ。普通の人はそんな魔力を持っていない。
「ならんぞ。使えるかどうかを問わず、ルルの魔籠を売るなど許さん」
師匠の言葉だ。
「ルルの魔籠は強いが、それだけに扱いは慎重にせねばならん。大っぴらに売り出して、たまたま使うことができる悪人に渡ってしまっては、取り返しがつかんぞ」
そもそも師匠はそれを危惧していたから、ルルの独り立ちに反対していたんだったな。僕はこの世界に来たばかりの頃のことを思い出した。
「では売る相手を選びましょう。確かノブヒロさんは、魔籠技研の所長と知り合いなんでしたよね?」
「ああ、
「天下の魔籠技研ともなれば、お姉ちゃんの魔籠を使える人も少しくらいいるかもしれません。それに、ノブヒロさんの知り合いなら、悪いようにもされないでしょう。お師匠様の危惧しているようなことにはならないのではないかと」
「なるほど……」
少なくとも剛堂さんは使えるだろう。それに、研究対象として興味を持ってもらえるかもしれない。剛堂さんも、初対面の時からルルのことをべた褒めしていたし。
「いいアイデアです!」
ルルが身を乗り出し、師匠の方へと顔を向ける。懇願するような目。期待に満ちた目。僕とララも加勢して師匠へと目を向ける。
師匠はほんの僅かにたじろいだ様子を見せた後、溜息をついて言った。
「……仕方ない。相談だけしてみろ」
ごり押しの勝利だ。
師匠も少し丸くなっただろうか。
「やったあ! ありがとうございます!」
まだ決まったわけでもないのに、ルルが跳びはねて喜ぶ。ララも師匠も、その様子を見て微笑んでいた。この様子を見ていると、ついつい甘やかしたくなるよな。
「よし、じゃあ剛堂さんに手紙を書いてみるか」
ほんと、剛堂さんと知り合いでよかった。
コネって大事。
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