第四話 ゴーレム

 駅舎は街の壁に近い位置にあった。

 僕らは列車を降り、リンデン氏の先導で駅舎を出た。


「アカデミーは街の中心部にあります。近くに車をとめてありますので、まずはそこまで参りましょう」


 建物の多さが示すように人々も多く、道は数多くの人でごった返していた。人に対して数は少ないものの、自動車も走っている。自動車なんて王都では全く見なかった。

 どの自動車も動力は魔籠のようで、エンジン音や排気ガスなどは感じない。


「なんか、一気に未来に飛んだみたいだな」


 都市によって技術の格差が大きすぎる。いや、学都が特に進みすぎているのか? 

 壁の中にこれほど詰め込まれても、未だ街は発展の最中にある。道中ではところどころで工事中の建物を見かけた。唯一開かれた空へと成長を続ける建物たち。

 多くの作業者が従事する工事現場の中、見慣れぬものを発見した。


「あれ、なんですか?」


 僕が問うて指さす。

 工事現場で働く人々に混ざって、武骨なロボットのようなものが動いている。直方体を組み合わせたような四肢、そして周囲の人間より頭二つ抜ける巨体。見かけのイメージだが、全身石のような硬い素材でできているようだ。

 石のロボットは建築資材をせっせと運んでいた。人間では到底持ち上げられなさそうな物資も軽々と持ち上げている。


「ああ、あれはゴーレムですよ。魔籠を使った労働力ですな。主に重労働や、単調な繰り返し作業に従事させることが多いですよ」


 あれも魔籠で動いているわけか。

 僕がゴーレムを眺めていると、ルルが隣で興奮気味に声を上げた。


「ゴーレム! わたし初めて見ました!」

「他の都市ではほとんど運用されていませんからね」


 魔籠の達人でも初めて見るのか。やはり学都の技術はこの国で最先端なのだろう。


「あのゴーレムたちはどうやって動いているんですか?」

「術者からの労働に従えという意識と魔力供給で動いています。複数の魔籠を組み合わせることで、自分で簡単な状況判断ができるように作られているので、細かい動作について逐一命令する必要はありません。従事させる労働ごとに魔法を組み替えることはありますけどね」

「やっぱり術者は要るんですね」


 ルルは納得したようだ。

 僕は少し意外に思う。魔力も自分で持っているのだと思っていた。それこそ、ロボットが電池を搭載しているような感じで。


「ええ。ゴーレムも魔籠である以上、この条件からは逃れられません。魔力は術者である人間が絶えず供給する必要がありますし、魔籠を起動するための意識も必要です。この点を改善する方法は多くの人々が研究しております」


 工事現場をよくみれば、自身は作業に当たらずにゴーレムたちに目を光らせている人物が何人かいた。おそらく彼らがゴーレムを操作する術者なのであろう。


「いい機会なので私自身について少し補足をしておきます。私、専門はゴーレムなのです。魔籠ゴーレムの研究。それが私の今の生業」

「おおー」


 ルルが感心している。


「わたし、ゴーレムのことはほとんど知らないんです。勉強しようにも全然資料が手に入らなくて」

「そうでしょうな。未だ、ほとんどの情報を学都から出していませんから。売り出している完成品も少数ですからね」


 独占状態か。大々的に売り出せばきっと大儲けだろうな。きっとこの街はゴーレムに限らず様々な技術を広めずに抱え込んだいるのだろう。他の街との技術格差もそれによるものか。


「もしかして、見せてもらえるものもゴーレムだったりしますか?」

「ええ。ゴーレムの一種です。まあ、楽しみにしていてください」


 ゴーレムか。しかし、僕にそれを見せたい理由がよくわからない。ゴーレムと僕の関係性……一体何だろう。


 再び駐車場へ向けて歩き出した僕らの耳に、警報のような音が聞こえてきた。

 高い笛のような音。同時に、音が聞こえてきた方角にある壁の頂点で大型の赤色灯が点灯した。一体何事だ。


「これは、魔物が出現したようですね」

「大変じゃないですか!」


 一大事だ。しかし、街を行く通行人たちは一瞬足を止めただけで、避難しようという気配がない。リンデン氏にも焦った様子は見られない。ララを見ると、少しだけ不機嫌そうな顔をしていたが、同じく慌てる様子はなかった。警報にまともに反応しているのは僕とルルだけのようだ。


「よくあることです。先ほどもお話ししましたが、学都の周りには強い魔物が多く出没していますので、こういったことは珍しくありません」

「それ大丈夫なんですか? 避難とか」

「問題ありませんよ。そうですね……まだ時間もあることですし、実際に見てみましょうか」

「何をですか?」

「ゴーレムが街を防衛するところです」

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