嗜好品
「そういえばさ、前に倫くんは肉が好きだって言ってたけど、やっぱり倫くんと倫宮司の姿では食べ物の好みも変わるの?」
「あー、いや、どっちの時でも好みは同じ、というか特に好き嫌いはないよ。
半分狐だから、どっちかって言えば魚よりは肉の方が好きだけど」
「あ、そうだったんだ。
宮司が油揚げが好きだから、肉よりは魚みたいな淡白な食べ物の方がいいかと思ってたけど、そういうわけじゃないんだね」
「ああ、うん。
油揚げはそのものが好きっていうよりは、お供えされたもののお下がりだから好きなんだよね。
信仰の力っていうか、お供えしてくれた人の気持ちがこもっているから、神使の俺としては美味しいと感じるんだ」
「あー、なるほど。
じゃあ、日本酒が好きなのもお供えだから?」
「うん、半分はそうかな。
まあ、酒は神使になる前から好きだったから、お下がりがなくても買って飲むけどね。
実際のところ、神使は食べなくても生きては行けるから、酒も食事も嗜好品みたいなものなんだ」
「へー、そうなんだ。
あ、もしかして、僕がここに来るまで晩ご飯が油揚げと日本酒だけだったのって、そのせいなの?」
「そうだな」
「じゃあ、もしかして僕が晩ご飯作ってるのって、余計なお世話だったかな。
やめるか、量を減らそうか?」
「いや、そのままでいいよ。
嗜好品だって言っただろ?」
「んん?」
「確かに俺は飯を食わなくても生きていけるけど、でも神使にとっては、気持ちのこもった食べ物が美味しいと感じるって言っただろう?
俺のことを誰よりも一番大切に思ってくれている拓也が作ってくれるご飯は、俺にとってはどんなものよりも一番美味しい嗜好品なんだよ。
だから、今まで通り拓也の作った飯を食わせて欲しいな。
これからもずっと、毎日」
「あ……うん、わかった」
改めてのプロポーズみたいな倫くんの言葉に、僕が少し照れながらうなずくと、倫くんはそっと僕を抱き寄せた。
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