第20話 結婚式 1
倫之くんの神職体験は終わったということにして、また元のように僕と倫宮司、プラス時々太郎くんの3人で神社に出るようになった。
両思いになった翌日に倫くんと一緒に社務所に並んで座った時は、仕事中なのにドキドキしてしまって困ったが、倫宮司だと中身は同じでもそういうふうに変にドキドキすることはないので助かっている。
夕方5時が過ぎて自宅の方に戻った後の彼は、倫くんの姿だったり倫宮司の姿だったり、狐の耳と尻尾も出したり出さなかったりと自由な姿で過ごしている。
けれども夜寝る前になると、なぜか必ず倫くんの姿(耳と尻尾はあったりなかったりするが)になる。
「なんで寝る時は倫くんなの?」
「だって、セックスの時に宮司の姿になったら、拓也、仕事の時に意識しちゃって困るんじゃないの?
それにするんだったらやっぱり若くて背が高くてかっこいい方がいいかなあって」
「いやいや! それ、おかしいよね?
なんで毎晩すること前提なの⁈」
「いや、普通するだろ?」
「しないよ!」
「とか言って、拓也も嫌じゃないくせに」
「っ……!」
それを言われると、僕は黙るしかない。
倫くんとするようになって以来、僕はこれまで自分が性欲が薄いと思っていたのが嘘のようにその行為に溺れているからだ。
僕が黙ってしまったこともあって、倫くんは同意を得たとばかりに本当に毎晩するようになってしまった。
もし翌日の仕事に差し支えるようなことになったら僕もやめさせていたと思うが、倫くんはその辺の加減もうまいらしく、翌日にまで疲れを引きずるようなこともないので文句も言えずに、なんとなくそういうことになってしまった。
今では僕の部屋で使うために新しくダブルサイズの布団を買ってしまったほどである(もちろん買ったのは倫くんだ)。
────────────────
「拓也にお願いがあるのですが」
晩ご飯を食べ終える頃、今日は宮司の姿のままだった倫宮司がそう切り出した。
「はい、なんでしょうか」
ちなみに僕は、2人きりの時でもまだ倫宮司に対して敬語がやめられないでいる。
けど向こうも僕の呼び方が変わるだけで、神社にいる時と同じ丁寧な言葉遣いを崩さないのでお互い様だ。
「実は、母が私と拓也は結婚式をしないのかとうるさくてですね。
それで、もし拓也さえよければ、私と結婚式を挙げてもらえないかと思いまして」
倫宮司の言葉に、僕は飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
「けっ、結婚式ですか……⁈
っていうかそれより、宮司のお母様ということは、もしかしてここの御祭神なんじゃ……」
「ええ、そういうことになりますね。
向こうは神様ですが、私も神使という立場なので、まあ普通に話くらいはできますよ」
「そ、そうなんですか……。
というか、お母様の方から結婚式とかいう話が出るということは、もう僕たち2人の関係もご存知だという……」
「ええまあ神様ですから、何でもお見通しです」
「ああー、そうですよね……。
神社の中のことですしね……」
考えてみれば、それは当然のことだ。
こうして神使の倫宮司が実在しているのだから当然神様も実在していて、そして自宅スペースとはいえ神社の敷地内でこういう関係になっていたら神様が知らないはずがない。
「まあ父も母も、いつも真面目に神社にご奉仕してくれている拓也のような人が私と一緒になってくれて良かったと喜んでいるくらいですから大丈夫ですよ。
我々のような存在にとっては性別よりも人柄の方が重要ですから」
「それならいいんですけど……」
「それよりも、結婚式の方はどうですか?
母はいい年をして少女のように夢見がちなところがあって、結婚式とかロマンチックなことが大好きなんですよね。
ですからまあ、2人だけの簡単なものでもいいから式を挙げて母を喜ばせてあげたいんですよ。
私とてしても、出来れば拓也とのことはきちんとしておきたいですし」
倫宮司にそう言われ、僕は素直に嬉しいと思った。
まだ付き合い始めて間もないし、男同士ということで、結婚だなんて思いつきもしなかったが、正直この先彼以外の人と付き合うことなんて考えられないし、結婚式を挙げてもいいかなという気になってきた。
「わかりました。
僕としても嬉しいことですし、宮司のご両親にもきちんと奉告して安心していただいた方がいいでしょうから、結婚式をやりましょう」
「ありがとうございます。
それでは詳しいことを決めましょうか」
そうして2人で話し合った結果、式は2日後の大安の日の夜、神社の拝殿で行うことになった。
この神社は立地上、夜も少しはお参りの人があるので、不審に思われないように結界を張って拝殿の中の様子はわからないようにしてやるそうだ。
式を挙げる倫宮司本人が祭主をやることもあって、通常の神前式よりも簡略化したものだが、それでも三々九度くらいはやりたいということで、2人だけで式を挙げるというのはやめて、太郎くんに巫女の代わりをやってもらい、太郎くんのパートナーの松下さんにも参列をお願いすることにした。
「せっかくですから、祝詞は1人1本ずつ読みましょうか。
両親も私の祝詞だけでなく拓也自身の言葉で書いた祝詞もあった方が喜ぶでしょうから」
「う、わかりました。がんばります」
「ははは、そんなに気負わなくてもいいですよ」
そう言われても僕からしたら、ご両親に対して大切な息子さんと結婚させていただきますというご挨拶でもあるのだ。
心を込めた祝詞を考えなければと思う。
「装束や道具は私が用意しますから」
「はい、お願いします」
「さて、決めることはこれくらいですかね」
「それじゃあ、僕はちょっと部屋で祝詞を考えてきます」
祝詞を書くには文例集の本やパソコンを使いたいし、何より倫宮司の前で自分たちの結婚式の祝詞を書くのも恥ずかしいものがあるので、僕は自分の部屋に引っ込むことにする。
「わかりました、それではまたお風呂の後でうかがいます」
「あ……はい」
結婚式の直前でもやっぱり来るんだと思いつつ、僕は少し顔を赤くしながら居間を出た。
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そして結婚式当日の夜になった。
いつもより軽めの夕食を済ませた後、倫宮司と僕はまた白衣に着替えて社務所に戻った。
「わあ、新品の正服じゃないですか」
いつも狩衣に着替える時に使っている衣装部屋に用意されていたのは、大きな神社の神職が大祭などの特別な祭りの時だけ着る装束だった。
僕も前の神社では年に2回着る機会があったが、その時に着ていたのは神社の備品で他の職員が何年も着古したものだった。
正服は安くても一揃え数十万もするそうで、そうそう買い替えられるものではないからだ。
「神職の結婚式は普通は
それとも拓也は白無垢や十二単の方がよかったですか?」
ちょっと倫くんみたいな感じの、僕をからかう口調で倫宮司にそう言われ、僕はぶんぶんと首を振る。
いくら僕の夜の立ち位置が女性役だとはいえ、結婚式までそうしたいわけではない。
「そういうことじゃなくて、よく2日で新品が用意できたなと思って。
普通店に注文しても何日も待つと聞きましたが」
「ああ、それは買ったのではなく、神通力で用意したんです。
残念ですが私の神通力だと一晩しかもたないので、明日の朝には消えてなくなってしまいますよ」
「あ、そうなんですか。
でも新品を着ることができて嬉しいです。
用意していただいてありがとうございます」
「どういたしまして。
ところで拓也はこれを1人で付けられますか?」
「あ、すいません、無理です。
手伝ってもらってもいいですか?」
「ええ、もちろんですよ」
正服は1人で着るのが難しく、よっぽど器用で慣れている人以外は、着る人が装束の形を整えて持って立ち、別の人に紐を結んでもらうのが普通なのだ。
当然僕も1人では無理なので、倫宮司にお願いすることにする。
装束を固定する位置を宮司に直してもらったりもしながら正服を着終えて鏡を見てみると、前の神社で着た時よりもピシッと決まっているようだ。
装束が新品ということもあるが、倫宮司の着付けもうまかったからだろう。
僕も宮司の着付けを手伝わないとと思って振り返ると、宮司はすでに着替え終えて
たぶんいつも自宅でやっているように神通力で一瞬で着替えたのだろう。
ちなみに正服の上着の
僕も冠をかぶり、
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