【ねこみみゆうしゃ大和ちゃん】外伝：しあわせのひに

はっぴーほりでー！！！

　《……ええと。え～……。》

　司会の人は、我を忘れて言葉を失うが。

　《え～！では、ラッキーな人は、そこのニコのウィザードの人！！》

　「「おめでとう！！！」」

　《おめでとうございます！！》

　「！！は、え、あ、はい……。あ、ありがとう……ございます。」

　司会者が続けるなら、静寂を切り裂く歓声が上がり。

　祝福されてしまった。

　観客全員が、手を叩いて称えてくる。

　「おめでとう！大和ちゃん！！！」

　アビーがまた、祝福して。

　「……うぅ。仕方ないわね。おめでとう。」

　マフィンは、時間がもったいないとしながらも。

　だが、諦めて。

　同じ村の住人である俺を、複雑な顔ながら、手を叩いて祝福してくれる。

　《では、今年一番のラッキーボーイ！こちらにどうぞ！》

　「！」

　表彰のようなことをするのか、司会者は言って、手招いてくる。

　また、群衆は、俺のために広がり、道を作ってくれる。

　「……。」

　ステージといい、その皆といい交互に見て。

　ごくりと、つい緊張して、唾を飲み込んでしまう。

　だが、呼ばれているならとして、俺は一歩を踏み出すなら。

　巨大なスフィアは、まるで犬のようについて来て。

　導かれるまま、進み、ステージに上がって。

　《ホーホッホッホ！！おめでとう！》

　「！！」

　司会者以外に、なんと例の。

　そうソリ風の乗り物に乗って、パレードの中央にいた。

　ニコのウィザード風の老人もまた、現れて。

　しかも、何だかこの季節らしい笑い声を上げて、笑顔で祝福をしてきた。

　《いやぁ～！おめでとう！》

　「！」

　また、司会者もまた、同じように祝福の言葉を繰り返して。

　《では、今年のラッキーボーイ、どうぞニコのウィザードの側に。》

　「！は、はい。」　

　なお、俺は緊張で固まってしまったが、司会者が促してくれる。

　ニコのウィザードの側にと。

　俺は、頷いて応じて。

　と、巨大なスフィアも一緒についてきて。

　俺がその人の側に来たなら、二人の間に収まるように浮遊して。

　留まった。

　《おめでとう！》

　「！は、はい！」

　ニコのウィザード風の老人の側に来たなら、また言われて。

　俺は、緊張しながらも、頷きで応じる。　

　《！……おいでなさい。小さきウィザード！》

　「！」

　その老人は、俺がそんな緊張した面持ちだから。

　ほぐすために、もっと近くにと手招いてきた。

　頷いて、近寄るなら、肩を抱かれて。

　「！」

　《ホーホッホッホ！リラックスして、笑いなさい。スフィアは私たちを、君を祝福しているのだよ！》

　「！は、はい。」

　そうしては、言ってきて、笑顔を向けてきた。

　俺も、言われて。合わせるように笑顔になった。

　《ではでは！笑顔になったところで！》

　「！」

　俺がそうなったならと、司会者は進めて。

　《この巨大なスフィアを、天に供えていただきましょう！！》

　「？！えっ？！」

　それは、その巨大なスフィアを再び頂上にまで戻すということで。

　なお、こんなの扱ったことのないと内心思い、戸惑ってしまった。

　《大丈夫じゃ！ワシと一緒にやればのう！》

　「！」

　ニコのウィザードは、戸惑いを拭うように俺に伝えてくる。　

　「……。」

　まだ戸惑い残る表情ながらも、その人が言うならと俺は、頷いて。

　《では……。》

　そうしてニコのウィザードは、そっとその巨大なスフィアに手を当てるなら。

　「！」　

　また、気付いた俺も合わせて手をやる。　

　二人の間にあった、巨大なスフィアは、応じるように明滅して。

　見ていたニコのウィザードは、すっと当てた手を放し、天に伸ばす。

　同じように俺も、放して天に手を伸ばした。

　呼応するようにスフィアは、天に向かって浮遊する。

　やがては、元あったツリーの頂点に達するなら。

　「！！」

　一際強い輝きを放ち、下にいる人たちを照らす。

　「「おぉおおおおおお！！」」

　「！」

　歓声がまた、響き。　

　それこそ、クライマックスのような頂点のようで。

　《……すぅぅ……。》

　「！」

　また、司会者が息を吸うような動作を耳にしては。

　感じるのは、いよいよだということで。

　パターン的には、あれだ。

　この幸せな瞬間に、この日に相応しい言葉を述べるのだ。

　それこそ、この町中に響き渡るように。

　俺も、そっと胸に手をやっては、息を吸い、気持ちを落ち着かせて。

　「メリー……。」

　《ハッピーホリデー！！》

　《ハッピーホリデー！！》

　「？！」

　「「ハッピーホリデー！！！！！」」

　言葉を吐き出そうとした。

　そう、相応しい言葉。

　〝メリークリスマス！〟と。

　……だが、司会者とウィザードは違う。

　……さらに、観客も違う。

　全く違う言葉に、またまた目を丸くして戸惑うが。

　その戸惑いも、観客の歓声に掻き消されて。

　「！！」

　それに、待っていましたとばかりに、盛大に花火が打ち上がり。

　その花火がよく見えるようにか、合わせてか。

　スフィアの輝きが弾け、輝きを落として。

　花火の散る光と相まって、光の粒を舞い落す。

　花火に合わせて、巨大なスフィアだけなく。

　町中の小さなスフィアたちも光を弾け、光の粒を散らせる。　

　「……！」

　それは、冬空により幻想的な光を与えた。

　温もりさえ感じる、光の輝き。

　人の笑顔もまた、朗らかであった。

　「？！」

　また、不思議なことは起こるものだ。

　弾けたように舞う光の粒が、そっと、寄り添うように色んな人に集まって。　

　町中の人々の持つであろう、スフィアたちに光を与えていく。　

　例外なく、俺のにも。

　まして俺には、ニコのウィザードのようなローブがあり。

　その留め具にも光の粒は集まり。　

　雪のように解けるように、スフィアに溶けていく。

　ふと、誰かが始めたか、この時期らしい歌を。

　歌の輪は広まり、町中を一つにしていった。

　そうして、この日を祝う、その瞬間は幕を下ろす。

　点灯式が終わったならと、あの喧騒が幻であったかのように人は散り散りに。

　だが、幻でない証明はあって。

　その朗らかな笑顔こそが、まさしく。　

　子どもたちも、大人たちも、皆。

　ああそうかと感じることがある。

　今日は、帝国が崩壊して、平和になって、初めての幸せの日。

　なおのこと、笑顔もよいのだろう。

　そうした中俺は、司会者の人や、ニコのウィザード役の人と握手を交わして。

　ようやく二人の元に戻る。

　「……ええと、た、ただいま……。」　

　まずは、一言そう挨拶をする。　

　「ええっ。お帰り。」

　マフィンは、諦めたような笑顔で、同じく挨拶を返して。

　「おかえり！大和ちゃん！すごかったよ！！」

　「！」

　アビーはまた、何気なくいつもの笑顔で言って。

　なお、その瞳は、潤んでもいた。

　「……えへへっ！何だか、感動しちゃった！」

　俺が不思議に思っていたのは見抜かれていて。

　なぜなのかも、自分から言ってくることには、感動したと。

　「何だかね、あの時みたい……。」

　「？あの時……？」

　どうやら、ただ感動しただけではないようだ。

　他にも、何か思い出すことがあって。

　俺は、何だろうと首を傾げて。

　「ほらほら！あの時、鉱山の時……！」

　「鉱山……。んん？！……まさか。」　

　アビーは続けては、根拠を。

　なお、たどたどしくもあって、十分では普通ないが。

　だが、それだけでもピンとくることはある。

　それは、鉱山の一件で。

　その時俺とアビーは、いわゆる〝モンスター〟と対峙した。

　ドラゴン系。まあ、ＲＰＧ的にはそう形容するしかないが。

　そのような化け物相手に、対峙した際。

　出口を壊され、絶体絶命の瞬間であったが、俺と盾が協力して。　

　また、他にもスフィアの原石たちとも協力して、倒した。

　その際、この情景と同じように、光の粒が待っていたっけか。

　それだ。

　「そうそう。えへへ……っ！」

　「！」

　アビーは、必要以上に続けない。

　俺が思い出したと分かるなら、それだけでいい。

　そうしてアビーは思い出してくれたと喜んで、にっこりと笑む。　

　笑んだなら、目の端からきらりと涙の滴が、輝いて。

　光の粒と一緒に弾けた。

　「……。」

　さて、慰めにどうしよう。

　悲しんでいるわけではなく。

　複雑な感じだが、俺は、そっとアビーを抱き締めた。

　「？！」

　アビーは、一瞬、戸惑いはしたが。

　「えへへっ！優しい。……はっぴーほりでー……。」

　「！」

　すぐに、にっこりと微笑んだか、嬉しそうにしては、また、その言葉を紡ぐ。

　この日の、多分挨拶代わりなのだろうが。

　「……ねぇ。」

　「？どうしたの？」

　「……ハッピーホリデーって、何の挨拶？」

　「……えっ……。」

　悲しいかな俺は、先ほどもそうであり、その挨拶が気になってしまう。

　ここは、そのような状況じゃないというのに。

　もっとこう、ムードのある言葉を言えばよかったのに。

　興味が勝ってしまい、つい聞いてしまう。

　アビーは、また表情を変えて、思考停止したような感じになる。

　「え、え～と……。何だっけ？」

　「……ごめんよ、ほんとはもっといいことがいいのに。」　

　　戸惑っていても、ちゃんと答えてくれようとして。

　どうやら、ムード台無しとか、そんなのは思っていないようで。

　そうであっても俺は、変なことを聞いて。

　台無しにしてごめんねと付け加えもした。

　なお、ちゃんと答えようとしてはくれても、よく言葉を思い付けないでいる。

　「はぁぁ。ムード台無し……。ま、大和らしいけど。」

　「！」

　呆れ果てて、マフィンが横から言いだそうと。

　まあ、言われて当然のこと。折角のこの状況に、水を差すと。

　呆れながらも、マフィンが説明してくれるようで。

　歩み寄っては。

　「幸せの日を、祝うための言葉よ。そういう掛け声。」

　「！……そっか。」

　「！あ、そうだった！えへへっ！忘れてた！」

　「……この子は……もぅ……。」

　言ってくれて。

　幸せの日に、祝うための掛け声だと。

　なるほどと俺は思って。

　つまりは、〝メリークリスマス〟という掛け声と同じと。

　また、この素晴らしき日に祝福があることを望む、祝詞。

　アビーは、しかし、忘れていたと笑い、舌をぺろりと出して笑う。

　それは、マフィンを余計に呆れさせた。

　「……。」

　ムード台無しだけれども、まあ、らしくはあって。

　こうでないとも、思ってしまう。

　「！」

　……つい、和んでしまったが。

　時報の鐘が、残念ながら壊してしまう。

　冬空に、既に夜の煌めきの中鳴り響く鐘は、寂しくあれど、美しくもあって。

　しかしそれは、別の何かを思い起こさせもするようで。

　「あ、しまったぁ！！」

　「！」

　マフィンの、別の何か。つい、マフィンは叫んでしまい、空を仰いで。

　何事と、俺は目を丸くして。

　「……帰り、遅くなったわ……。」

　「！！」

　続くマフィンの言葉に、理解を示すなら。

　その言葉から、ようやく理解する。　

　遅くなった。

　連想されることは、既に帰る便はなくなっていると。

　「！！」

　アビーも気付いて、顔を上げると、ピンと耳を立てて。

　「……どーしよー……。」

　困ったような顔をしてしまう。