げきのおわり、さいわいのざっかや!

 劇だ。

 単なる、ショーである。

 実際は叫んで、なんてことはないけれども。

 けれど、子どもたちには十分であり。

 「「わー!!!ウィザードが勝ったぁー!!」」

 勝利したと確信して、歓声を上げた。

 《なんと!皆さんの声援で、ウィザードが来てくれましたぁ!!応援、本当にありがとー!!!!》

 「「わぁーーー!!!」」

 アナウンスも、さも助けが来てくれたと言わんばかりに。

 子どもたちは、一斉に喜びの声を上げて。

 「「ウィザード!!ありがとー!!」」

 エールをヒーローに送る。

 「……。」

 それが、終わりだと、感じたのはワンテンポ遅れて。

 呆然と構えたままだったが、終わったと知るなら。

 そっと構えを解き、群衆に向き直る。

 《それでは!来てくれたウィザードにありがとー!!》

 「「ありがとー!!!」」

 《そして、頑張ってくれた男の子に、ありがとー!!》

 「「ありがとー!!!」」

 丁度そのタイミングで。

 アナウンスが成されて。

 頑張ってくれた、俺とヒーローに、声援が送られて。

 ヒーローは振り向き、手を振って応じて。

 俺も、少し呆然としながらだが、手を振って応じる。

 《ありがとー!!!ウィザード!!ありがとー!!》

 「「ありがとー!!!」」

 アナウンスはより、促進して。

 合わせて観衆も大きく声を上げて、声援を送って。

 そうして、ショーは終わる。

 終わるその間際、俺とヒーローは握手して、その様子を観衆に見せて。

 もちろん、双方笑みを浮かべて、まるで称え合うかのように。

 その後は、ヒーローショーらしく、ヒーローは握手会に興じていく。

 俺は、その時ようやく解放され、アビーとマフィンの元に戻った。

 「……た、ただいま……。」

 まずは、第一声でそれを。

 「お帰りなさい。」

 「おかえりー!」

 二人は、見守っていて、誇らしくもあって、お帰りと言ってきた。

 「大和ちゃん!すっごーい!!今日は輝いていたよ!」

 「……う、うん。ありがとう。」

 アビーはすぐに、笑顔を浮かべては、称えてきた。

 なお俺は、いきなりばっかりで、まだまだ困惑があり。

 素直に喜びを表せないでいるが、お礼を言った。

 「私の方は、皮肉にも笑ってしまったわ。良かったけどね。」

 「!」 

 マフィンの方も笑みだが、そこには同時に、皮肉を感じてもいてか。

 「……皮肉……か。」

 「そう。」

 マフィンの言う皮肉に、ピンとくることがあって、反芻してしまう。

 「それは……。」 

 俺は言おうとすると。

 「あそこに、あのステージに本物がいるなんて、思わなかったでしょうね。」

 「!……うん。」

 ステージに本物がいたとは、誰も思わなかったと続きをマフィンに言われる。

 俺は、素直に頷く。

 「……?」

 不思議に思うのは、なぜ皆気付かなかったのやら。

 首を傾げていると。

 「あら?もしかして、本物だと言われて、騒がれた方が良かったの?」

 「!」

 マフィンには、見透かされて言われる。

 「……う~ん、どうだろう。」

 言われて俺は、ますます首を傾げてしまう。

 複雑にも思えて。

 騒がれて、称えられるのがいいか、否か。

 「それ以前に、あなたが本物だと気付かなかったことよね。」

 「……まあ、そうだね。」

 騒がれてどうこうの前に、不思議と気付かれなかったことが気になる。

 そうだろうねとマフィンは切り返すなら。

 頷く。

 「さっき見たでしょ?あなたみたいな服装の子どもたち。」

 「!あ、そうだね。」

 「……コスプレしている人だと思われたんじゃないかしら?」

 「……だね。」

 なら、原因は何だとして、それは、コスプレだと。

 現に、先ほどそんな姿の子どもたちを見たし。

 なら、あのステージの人も、そうだと思っていたのだろう。

 流石に、本物だとは思っていまいて。

 マフィンの説得力ある言葉に、頷くが。

 「……?」

 ……いまいて?

 ただ、少しだけ引っ掛かることがあって、最後まで納得を通せないでいる。

 ステージに上った際。

 誰かが気付いていたような、いないような?

 けれどもステージを降りた今、確認する手段はなく、疑問のままで終わる。

 「あら?何か引っ掛かる?」

 マフィンは不思議そうに聞いてきたが、俺は、首を横に振り。

 考えないことにした。

 「ねねね!それよりも、ショー何だかよかったね!まるで、大和ちゃんの物語みたい!」

 「……。」

 さっきまでの引っ掛かりなんて、どこかへ消えてしまう。

 横からアビーが言うものだから。

 アビーは素直に、感想を言っているようで。

 はしゃぎ様は、観客にいる幼い年頃の子どものようであり。 

 らしくもあると、つい安心もする。

 「ん~……。」

 ただ、どこかで聞いたような物語と言われて。

 本人である俺は何とも言えない気持ちになっていた。

 「そうね。確かに。どこかで聞いたことがあるような物語だったわ。」

 「だよね!だよね!」

 「?えぇ~……。」

 なお、マフィンは否定することなく、肯定して。

 複雑が、拡大する。 

 「……。」

 「!!」

 その上で、何だか物言いたげにマフィンは見てきて。

 視線にびくりと、体を跳ねさせた。

 「……ん~。似ているけど、少し違うかも。」

 「うぇ~?そう?」

 「!」

 どうやら、フォローのようだ。

 この、ショーの演目である、ウィザード物語ではあるが、少し異なると。 

 アビーはそうだっけととぼけていて。

 「確かに、聞いたことある物語よ、それも、側にいて、複雑そうな顔をして、悩んでいそうな誰かさんのね。」

 「!……ぬぅ。」

 マフィンは続けて。

 なお、俺を意地悪そうに見ては。

 もちろん、その誰かさんが、誰であるかはすぐに検討がつく。俺だ。

 気付いた上で、その意地悪そうな感じに、何でまたと不満な溜息をついた。

 「……。」 

 言われた本人である俺もまた、思い返していて。

 確かに、俺のような物語だと言わざるを得ない。

 何せ、あのウィザード役の人の姿は、俺の姿と重なり。

 なお、俺よりも雄々しい様子は、いかにも勇者らしいが。

 しかし、差異はある。

 それは、事実が異なるということで。

 俺は、その、帝国の主である皇帝とやらと、対峙していない。

 俺が対峙したのは、謎の研究者と。

 ……そして、サイボーグ化された元の自分自身。

 打ち勝った後は、装置を暴走させて、エネルギーラインを逆流。

 内側から帝国のシステムを全て破壊、そこで俺の仕事は終わりだった。

 後は、帝国領内に突撃した兵隊さんたちが、終わらせたんだ。

 それが、真相。

 だから、実際皇帝をどうにこうにはしていないんだ。

 「……。」

 色々と思い出し、複雑に顔は歪んでしまう。 

 「だって、大和は皇帝とは戦ってないわ。」

 「え?!そうだったけ?!」 

 「……アビー、あなた近くにいたんでしょ?何で覚えていないのよ……。」

 マフィンもまた、そもそも論を言い。

 なお、アビーはとぼけていて。

 そのとぼけ振りに、とうとうマフィンは頭を抱えてしまった。

 「てへっ!忘れてた!ごめんね!」

 「……。」

 「……。」

 アビーはどうにか場を取り持とうとして、おどけた様子を見せるが。

 マフィンは頭痛を酷くさせてしまい、俺は、俺でまた複雑に思う。

 「……あれ?」

 アビーはどうも、場が複雑になるものだから、どうしようかと困惑。

 「はぁぁ……。」

 「!」

 諦めにマフィンが溜息つくなら、アビーは反応があったと喜びを露に。

 「……行きましょう。」

 マフィンは静かに言って、この場を去ろうとした。

 それは、もうアビーなのだからという諦めであり。

 「?あれあれ?何か違うような……。」

 「アビー。それよりも遅くなると心配掛けるから、早く用事を済ますわよ。」

 「!!うん!分かったー!」

 アビーは、その反応に違和感を覚えたものの。

 マフィンは一蹴するように続けると。

 先の違和感はどこへやら、すぐに切り替えてマフィンに追従した。

 「……切り替え早っ!!」

 その早さに、俺は俺で目を丸くしていて。

 「……まあ、アビーらしくはあるか。」

 そうは言っても、やはりアビーらしいやで片付けてしまう。

 俺はそうして、マフィンの後に続いた。

 

 町のちょっとした開けた場所にあったステージを後にして、進むなら。

 目的の、雑貨屋に辿り着く。

 「……。」

 見上げて見て思うことは。

 村にある雑貨屋よりも大きく。

 また、ショーウィンドウから見え隠れする物品の品揃えも。

 豊富であることは伺えた。

 ヒイラギの葉っぱや、金色の刺繍で彩った。

 いかにもなクリスマス風の飾りもあり、この日を祝ってもいるよう。

 賑わっていそうだが、偶然か、人は少ないでいる。

 「あら!幸いね。」

 「!」

 その様子にマフィンは、嬉しそうに言う。

 「……?」

 何でだろう、俺は首を傾げた。

 「!……ああ、ここのことね。」

 「うん。」

 マフィンは俺の様子を見て、気付いては早速と思い、言いだす。

 このお店のこと。

 「町でも人気のお店なの。この時期だと、結構混んでいることが多いの。でも今日は少なくて良かったわ!」

 「!そうなんだ。」

 マフィンが言うことは、幸いだとして。

 人気店だから、普段は混んでいるということで。つまり、今日は幸いと。

 「ふぅ……。」

 「?」

 言った後、軽く溜息つくなら、マフィンはアビーを見て。

 「もしかしたら、アビーのおかげかもね。それで、空いている時間帯に付くことができたのかも。」

 「!……ああ。」

 と、呟いた。

 何事と思ったが。

 あのヒーローショーに立ち寄ったことが幸いしたと。

 それで、混んでいる時間を避けれたのは、幸いだったようで。

 その溜息は、感心のそれである。

 「……?なぁに?」

 マフィンに見られたアビーは、首を傾げてきた。

 何事と言わんばかりだが。どうも何を言われたのか気付かないでいる。  

 「……何でもないわ。気にしないで。」 

 「……?」

 マフィンは、気にしないでと言う。

 そう言われと、何だか不思議が心残りと、アビーは首を傾げるだけで。

 「それよりも、買い物済ませましょう。いいタイミングだし。」

 「!!うん!!」

 そのアビーの様子は置いておいて。

 早く自分の目的を済まそうと促しては、店に入っていく。

 アビーは、気にしたことはどこへやら、すぐに切り替えて、追従する。

 「!……あ、待って。」

 遅れて俺も従って入った。

 中も広くあり。

 デパートとは違うが、色々と揃っている様子。

 特に雑貨だが、玩具など子どもが喜びそうな物が多数。

 時期が時期だけに、店員おススメ商品として、陳列されている。

 他は、この時期限定、サンタさんセットみたいなものとか。

 「?!……えぇ……。」

 ……加えて、ウィザードセットなる物もあるが。

 梱包された袋に描かれた絵柄が、どう見ても俺でありと、複雑になる。

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