ひーろーけんざん!

 「まあ、それに。のんびりしていると、すぐ日が暮れちゃうわよ。早く帰らないと心配されちゃうわ。」 

 「!」

 そんな俺に助け舟。マフィンが言い、アビーを宥めるように。

 「……うぅ~。残念……。」

 アビーは言われて、残念を重ねる。

 「行きましょう。」

 心残りかもしれないが、やむを得ないとマフィンは催促して。

 また、歩き出そうとする。

 《貴様か!いや、貴様だな!!》

 「?!」

 ……だが、呼び止める者がいる。

 そう、例の悪役である。

 歩き出した矢先のことで。

 何事とつい見れば、俺に指さす悪役と、視線を向ける子どもたち。

 「……。」

 沈黙してしまう。 

 どうしよう。

 困ったようになるが。

 「!大和ちゃんが指された!ねねね!チャンスだよ!!」

 「!!」

 傍ら、アビーは残念そうな顔から一変、期待に胸膨らませるような感じに。 

 かつ、促してくる。

 「えぇ~……。」

 困ったような顔をして、頭を掻いてしまうが。

 「……。」

 ちらりと観客の姿を見たら、出られずにはいられなくなる。

 「……マフィン、ごめんよ。」

 「……そうね。仕方ないわ。あの人たちも、商売があるのなら、ね。」

 致し方なく、俺はマフィンに向いては、一言告げる。

 マフィンは、不可抗力だとして、諦め気味になり。

 傍ら感じる、いわゆる演者の人たちのことも気遣うなら、と背中を押す。

 「……分かった。」

 俺は、マフィンに頷きを返すなら。

 そのステージを向き、見据える。

 やや、真剣な面持ちで、進むなら。

 「!ウィザード風のお兄ちゃん?!が、頑張って!」

 「頑張って!」

 「!」

 次々と声援が送られた。

 どう言えばいいか分からないが、俺は応援されて、頷いてはまた、見据える。

 そうして、ステージまで上がるなら。

 《フハハハハハ!!よく逃げずに来た!!》

 「……ええと、え~……。」

 早速悪役が嬉しそうに言う。

 さもライバルに心躍らせるようであり。

 それには、やや困惑してしまう。

 どうしようと思うが、やることは、戦う演技か。

 ……自信ないや。

 《ウィザード!!貴様の活躍もここまでだ!ここで貴様を倒して、世界の覇権を握るのは、この我意外にはいない!!!》

 「……。」

 演技であるが、……何だか縁起でもないような。

 なぜなら、ウィザードって、どう考えても俺のことだよね?

 それを倒すと言われては、複雑な気持ちになる。

 《いかがなさいますか?攻撃を仕掛けると予想されますが。攻撃された場合、反撃いたしますか?》

 「……。」

 傍ら、ぽつりとバックパック内の盾が言ってくる。

 このまま、攻撃されでもしたら、盾は何かと反撃しそうである。

 その反撃は、多分容赦ない。

 そも、これらは演技である以上、ケガ人は出したくないし。

 「……却下。これは劇だから。大人しく、ね?」

 《了解しました。モニターします。》

 却下する。

 あんまり、フォローにもならないし。

 なお、言われた盾は、大人しく承諾した。

 《さあ、ここまでだ!!言い残すことはあるかぁ?!》

 「!」

 一方、悪役の人は続けていて。

 いよいよだとして、攻撃のために背中に手をやるなら。

 棒状の物を取り出した。

 柄の部分は、ハンディタイプのスリムな懐中電灯状の物で。

 その光が出る部分から、カラフルな棒が出ている物。

 「……。」

 見覚えのある形状に、形容できる物は一つ。レーセ。

 なお、悪役が構えるなら。そのカラフルな棒が点灯する。音も伴い。

 さも、レーセのように。

 「……?」

 だが、俺にはない。

 いや、正確にはあるが。本物がね。

 「……これを!」

 「!」

 と、ステージの横から、誰かが声を掛けるなら。

 ひょいっと棒状の何かが投げ込まれてきた。

 俺はその方向を向き、癖で手をかざすなら。

 投げ込まれた棒状の物は、軌道を変えて、こちらに飛んできた。

 「!」

 手にした物は、悪役が持つレーセの玩具と同じ物で。 

 ……どうやら、スフィアが内蔵されているらしい。

 感覚からして、小さいけれども。

 「?!ほ、本物……?!」

 「え?!うそっ……!」

 「……?」

 なお、その光景は見られていて。

 ステージ裏の、多分小道具係の人たちは、一様に驚いていた。

 俺は、何事かは知らないやと、首を傾げて。

 すぐに、相手の悪役に向き直ると、すぐさまレーセもどきの電源を入れる。

 振動と共に、刀身に光が宿る。

 《フハハハハ!そうでなくてはな!行くぞっ!!》

 「……。」

 相手は、喜び、構えてはレーセを振り回す。

 独特な動きであり、……あんまり見たことない。

 というか、自分自身、したことがない。

 というのも、レーセは基本、斬り合うのを想定していない。 

 禁止事項だとかで、そのような使い方はされないでいる。

 よって俺は、……実はこの剣術を知らないでいる。

 その独特な動きは、剣術かもしれない、そう俺は予想した。

 《フゥア!!》

 「!」

 振り下ろされたなら、咄嗟に俺は受ける。

 バチバチと、サウンドが響き。臨場感を出している。

 とうとう、攻撃が始まったようだ。

 思考のそれも隅にやり、俺は手にした玩具を両手に持つなら。 

 相手を押すようにして。

 弾く。

 反動に、こちらも素早く下がることになるが。

 「「おぉー!!」」 

 観客席からどよめきが起こる。

 どうやら、魅せる動きだったようで。

 《ハァァ!!》

 悪役はすかさず、ジャンプするなら、思いっきり斬りかかった。

 「!」

 俺は、転がるように動き、着地地点から退いた。

 相手の攻撃は空振りし、そのままステージ床に降りる。 

 「!」

 と、思うなら、隙だと。

 さっと、玩具を振るうが。

 相手は素早く身を翻して、受け止めた。

 「……。」

 思うに、この人剣術上手いんじゃ……?

 そうは言っても、悠長に構えているわけにもいかず、また、斬り合って。

 ついには、鍔迫り合いに。

 焼けそうな音を玩具は立てていた。

 「わぁ!」

 「負けちゃう!!」

 「負けないでー!!」

 「「ウィザード!!!」」

 その様子に、観客は、声を出し、また応援をして。

 最後は、誉れ高き名前を呼ぶ。

 《ああ!大変!皇帝に立ち向かった勇者がピンチだ!このままでは負けてしまうかもしれない!》

 「「わぁぁ!!」」

 《こういう時は、皆で叫ぼう!!》

 アナウンスは、大変さを演出して。

 見ている子どもたちは、ハラハラして、心配そうに声を上げる。

 その様子見て、アナウンスの人は、何か続けそうな感じで言ってきて。

 《ウィザードを呼ぼう!皆一緒に!》

 「「ウィザードぉぉぉぉぉお!!!」」 

 「?!」

 その続きが紡がれるや、つまりは誉れ高き者の名前で。

 なぜか自分が呼ばれたと、目を丸くしてしまう。

 だが、どうやら、向けられたのは俺ではない。

 派手な花火の音が響きたるなら。

 スモークがステージ端より焚かれ。

 《そこまでだっ!!》

 ちらりと見れば、声を伴い、誰かが出現した。

 スモークでよく見えないでいたが。

 男性のようだと思われる。 

 やがて、スモークを吹き飛ばす風が凪ぐなら、姿がよく分かり。

 「!!」

 その男性は、虎猫のビスト。

 ただ、髪は長くあり。

 また、着ている服も、どこか俺と似た風合い。

 何よりも、左腕には、俺の持つ盾と形の似た物を付けていて。

 ただ、描かれているデザインは異なるが。

 まるでそう、俺そのもの。その姿、俺を真似ているようで。

 違いは髪の長さと、顔立ちの良さ。

 俺とは似つかわしくなく、整っている。まさに、俳優だ。

 ついでに、勇敢さを感じる、雄々しき感じときたら、まさに勇者でもある。

 勇者たるは自分であると、言わずとも伝わるほど。

 堂々としていた。

 「……えぇ~……。」

 自分がモデルかもしれないと、感じて、ギャップについ困惑した。

 《何?!ウィザードか!!》

 《そうだ!!私こそ、世界を救う者!!》

 悪役はそう名前を言うなら。

 そうだと、その人は答える。

 ああ、ヒーローというか。

 ヒーローは高らかに言うなら。

 まず、腕にある盾を見せ。

 《大切な人を絶対に守る盾を持ち!》

 言って、次は、レーセの玩具を取り出しては。

 《脅かす悪を破断する、光の剣を持つ者!!》

 続けては、高らかに玩具を振り上げる。

 《私は――。》

 その次は、名乗る時。 

 であるが、貯めるように区切るなら。 

 「「ウィザード!!!!」」

 「?!」

 名乗る名前は、観客から出る。 

 〟ウィザード〝だと。

 その瞬間に、観客の子どもたちは目を輝かせて。そうとも、。

 ヒーロー見参の、瞬間だ。

 《来たか!!我を脅かす者!!ここで成敗してくれるわ!!》

 悪役は言って、視線をヒーローに向ける。 

 「!」 

 その時、鍔迫り合いに弾きが加わり。

 俺は、一瞬バランスを崩しそうになるが。

 くるりと転がって、素早くヒーローの後ろに下がる形を取ってしまう。

 ……こんなのは初めてだが、日頃動いていることが功を奏して。

 咄嗟の動きに対応できる、この時に自分の体がよく動くことに驚いた。

 なお、転がったにもかかわらず、素早く起きるなら、また身構えて。

 悪役を見据える。

 相手から視線を外さないのは、今までの経験でか。

 なお、悪役はヒーローを見ていて。

 また、玩具を構えるなら、空気を唸らせながら構えてくる。

 合わせて、ヒーローも。

 優雅に玩具を動かし、同じように空気を唸らせたなら、構えた。

 「……。」

 緊張からか、二人の間に奇妙な空気が漂うと。 

 《きえぇええええええええい!!!》

 悪役は声を張り上げて。

 《はぁぁぁ!!!》

 ヒーローもまた、合わせるようにしては、玩具を振る。

 玩具のレーセ同士が、斬り合い。

 ぶつかり合って、独特な音を立てて。

 鍔迫り合いになったら、またしても独特な音を立て。

 ヒーローが押されそうになると、なんと、ヒーローは地面を蹴って跳躍して。

 空中でくるりと体を器用に回転させる。

 体操選手のような、動きをして。

 相手の後ろに回り込むが、相手は反応して、受ける。

 ヒーローもそうだが、相手もなかなかであり。一切の隙がない。

 と、ヒーローは何を思ったか、片手を玩具から外すと。

 裏拳のような動きを見せるなら、どうやら、盾を使うらしく。

 その持っている盾が、きらりと光ったなら。

 《シールドバッシュ!!》

 言って、ヒーローは腕を動かす。

 そのコマンドといい、脳裏に浮かぶのは。

 俺の盾が形成した光の盾を、衝撃を伴って弾き出す戦法。

 《ぐああ?!》

 なお、本物なら派手に弾き飛ばされるが。

 劇の上では、ただ腕を弾き、相手を怯ませるだけのようであった。

 悪役は、叫び、つい体を仰け反らせる。

 《そこだっ!》

 その瞬間目掛けて、ヒーローは突きを繰り出す。

 その玩具の切っ先は、悪役の心臓を捉えたようで。胸元にこつんと当たる。

 それだけなのに。

 《ぐああ!!やーらーれーたー!!!》

 悪役は盛大に叫んで、派手に倒れる。

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