しあわせのひに、せんたいもの!

 謝り、頭を下げていた俺と、困惑のマフィンにアビーが一言。

 はっと気付いたように。

 それは、双方に当然の認識を思い起こさせて。

 マフィンには、そもそも俺がここに来て日がそんなに経っていないこと。

 俺には、まだまだ無知であることを。 

 それぞれ、はっとなった。

 「そうだわ!!だって大和って、何て言えばいいか、この世界に来て、数か月しか経っていないもの!……忘れてたわ。」

 「……うん。」

 アビーに合わせるように、マフィンもはっとして言い。

 俺は、静かに頷く。

 不勉強なのはあるが。

 そうでなくとも、知らないことはある。

 「はぁぁ。そうよね。私もうっかりしてた。あんな活躍するものだから、前から住んでいる人間だと勘違いしてたわ。」

 「!……あ、うん。」

 そもそも論。

 マフィンはうっかりしていて。

 俺がつい数か月前から現れていたのを忘れていたようで。

 かつ、あまりにも濃厚な活躍に、日数を忘れるほど。

 マフィンは、自分に呆れて、溜息を漏らしてしまった。

 俺は俺で、そうだと頷く。

 「そうね。説明してあげる。」

 「!う、うん。ありがとう。」 

 そんな俺の様子見て、なら、マフィンは丁寧に教えると。

 「じゃあ、この日について、ね。」

 「うん。」

 「この日、〝幸せの日〟は、子どもたちはプレゼントを貰う日。それで、大人たちは、スフィアを貰ったりする日なの。」

 「うん。……う~ん。」

 説明をしてくれるが。

 まずは、概要らしく。

 プレゼントを貰ったりする日だと。

 聞いてはいても、しかししっくりこない。

 まあ、貰うと幸せになりそうな気はするが。

 ただ、それだけでは〝幸せの日〟などという大それた名称にはならないと感じて。

 感心の後、しっくりこないと首を傾げてしまう。 

 「その様子だと、疑問があるわね。」 

 「そりゃあ、ねぇ。だって、何かそれだけだとねぇ。」

 「続きはあるわ。」

 俺の様子、察されては。 

 もちろんだと、言うなら、マフィンは続きがあるとして。

 「何でこの日なのか、由来よね。そうね……。何かいい例えが……。」

 「……?」

 続きを紡ごうとするが。

 その前にとマフィンは、何か例がないかと急に周辺を見渡しだして。

 何でだろうと、俺は首を傾げる。

 俺も、合わせて、周りを見渡していたなら。

 「あ、あの人を見て。」

 「……?」

 そうして、冬の装いをしている人波の中から、マフィンが示すのは。

 その視線を追い、見ると。

 その人は、赤く淵に雪のようなふわふわの白い毛があしらわれたローブを羽織り。

 赤い、クリスマス?らしい三角帽子を被って。

 服も、厚手の赤い装い。

 また、その手には、水晶玉の付いた杖を持つ。独特な雰囲気の人だ。

 服装だけ見るなら、サンタクロースっぽいが。

 他の要素が付くと、何か別の存在になってしまう。

 何でだろうと、首を傾げてしまい。 

 「あの人が……何?ぽい服装だけど、どうもぱっと分からない。」

 「あの人の服装はね、あるウィザードの服装よ。」

 「!……あるウィザード?」

 「そう。」 

 「……ウィザード……。かぁ。」 

 聞くとマフィンは、あるウィザードの服装だと言い。

 反芻して、軽く関心を示す。

 独特な服装は、だからで。

 当然、知るとなら、そのウィザードとはと聞きたくなる。

 「……で、そのウィザードって、どんな人?誰?」

 聞くと。

 「そうね。そのウィザードは、聖人みたいな人よ。」

 「!」

 話してくれると。

 「あんな、赤い服装をして、人を幸せにしたウィザード。名前は、〝ニコ〟と呼ばれていたらしいわ。」

 「……〝ニコ〟……。何だか、笑みが浮かびそうな名前だね。」

 その最初には、名前を。

 何だか、笑みが浮かびそうになる名前だが。

 「そうね。笑みが浮かびそう。現に、人の笑顔が好きな人だったらしいわ。でまあ、前々から、この日にはプレゼントを配ったり、パーティしたりという風習があったんだけど、その人が、スフィアをあげたり、また、その力を使って、人を幸せにしたということから、この日が〝幸せの日〟になったの。こんな所かしらね。」

 「……へぇ。」

 説明口調でだが、伝えて。

 どうも、そう呼ばれる前から、風習として何かあったが。

 その、ニコというウィザードが、スフィアの力を使って。

 幸せにしたから、そう呼ばれるようになったと。

 感心に、俺は頷いた。

 「あ、まだ続きがあった。」

 「!」

 が、言い忘れがあったようで。

 「その、ウィザードの伝説だけど、続きにはね、人々を幸せにした後、ニコはどこかへ帰ってしまった、って話ね。」

 「!……へぇ。」

 まだある続きには、幸せにしたなら、どこかへ帰って行ったと。

 感心しては、脳裏には、この時期らしい人の姿を思い浮かべて。

 サンタクロースっぽいね、と。

 プレゼントを配り終えたら、自分の国へと帰って行くとか、確かに重なる。

 「これは余談だけどね。」

 「!……うん。」

 なお、余談があるようで。

 頷いて聞き入ると。

 「帰った場所は、人によって説があって。」

 「うんうん。」

 「どこか、空飛ぶソリに乗って、別の星に帰って行ったとか、あるいは、別の世界に返ったとか。色々な意見があるの。ああ、もう伝承レベルだから、実態は分からないのよね。そういういわれってね。」

 「……なるほど。」

 「……ふぅ。」

 余談に、相槌を打ちつつ、聞き入り。

 やがて、言い終えてマフィンは一息つく。

 「……。」 

 一人思考するなら。

 その不思議なウィザードは、人を幸せにして。

 また、サンタクロースみたいにソリに乗って、この〝幸せの日〟が終わったなら。

 どこかへ帰って行ったと。

 なるほど、分かった。

 まあ、そもここは俺が知ったる世界ではないのだから。

 似た風習はあっても、差異はあるということで、納得する。

 「マフィン、ありがとう。」

 俺は、そっと笑みを浮かべて、マフィンにお礼を言った。

 「!」

 マフィンは、説明し終えてだが。

 顔を上げては、お礼を言われたと軽く赤くしてしまう。

 「……別にいいわよ。あなたの教育のようなものだから。」

 それぐらいはいいと、言っては締める。

 「……。」

 俺は、頷いて応じた。

 「……って、それよりも、話が長くなったわ。早く買い物して帰らないといけないわね。」

 「!」

 幸せの日の話はこれまでとして。

 マフィンは買い物を済ませようと手を叩いて場を変える。

 「もうすぐ、年が変わるのだから、準備のお品、忘れないこと!まあ、プレゼントもだけど。」 

 再度、目的を確認するために、言ってきては。 

 そうだと思い出すなら。

 この寒さ深まる時期、何でも年が変わるのだそうで。

 その祝いもあって、品を揃えようということらしい。

 「……。」

 まあ、前世でもあったことだから、この場合今更驚くこともない。

 クリスマス、その一週間後は、新年だ。

 それで、村といい、その準備とかに追われ。

 俺たちは、こうして、買い出しに来ていたのだ。

 「さあ、雑貨屋に行きましょう。」

 マフィンは言って、先頭に立ち進む。

 追従するのだが……。

 「あ!マフィンちゃん、大和ちゃん見て見て!!あそこ!」

 アビーが遮るように、どこかを指さしていた。

 「!」

 「……はぁぁ。町に来たら、全くもう。こうして、興味津々にウロウロしたくなるのかしらね……。」

 俺は指さす方に注目。

 マフィンは、予定があるというのに。

 アビーが次々とウロウロするものだからと呆れ果てては、見る。

 そこにあるのは。

 ある種のステージである。 

 そう、戦隊ものとかやりそうな。

 現に今、何か演目をやっていて。

 それは子どもたちに人気のようで、幼い年頃の子どもたちで溢れている。

 何か、応援もしていて。

 《さあ!悪の皇帝がきたー!》

 紹介もあり、そして、応じるように、何だかおぞましい姿の人間が現れて。

 それも、荒々しい鎧のような姿であり。だが、顔は仮面で覆われて見えず。

 見ている子どもたちは、その姿に恐れそうであり。

 《フハハハハハ!!我は皇帝!!この世界の覇権を握る、帝国の主だ!》

 「……。」 

 また、自ら話すことは。

 何だか、ボイスチェンジャーで変えた、変な声で。

 言っては、ポーズを取り、いかにもな悪役ぶりを見せていた。

 ショーの演目にありそうな、いかにもなもので、俺は何だか苦笑してしまう。 

 あんまり、俺たちみたいな年の人が、見るものでもないなと。

 が、アビーは別。

 まるで、ここにいる子どもたちのように、興味津々で。

 憧れの眼差しを向けて見ている。

 内心、呆れてしまった。

 《さあ!我に挑む者はいるか!!さもないと、全てを破壊して見せよう!》

 「……。」 

 「「わぁぁ!!大変だぁ!!」」

 展開もいかにもな物であり、その、皇帝とされる悪役は、煽るように言い。

 見ていた子どもたちは、それぞれ大変そうに叫んでいる。

 さも、現実にヒーローが登場しそうな展開に。

 《大変!!誰か止めないと、皇帝に支配されちゃう!!》

 アナウンスも、そう、大変さを煽るように。

 ただ、この後は、ヒーローを呼ぶような展開を予想するが。

 「……?」

 だが、そうではない様子。

 《貴様か?!》

 悪役は、近くにいた子どもの内、一人を指さすが。

 なお、指された方は、俺のような姿をしていた。

 多分、コスプレのつもりなのかもしれない。

 その子どもは、首を横に振り、否定。

 やはり、怖いか。ちらりと見えた顔は、その色に染まっている。

 現実ではないのだが。

  その年齢では、認識は難しかろう。

 そうして、矢面に立たされると、攻撃されてしまうだろうと予想できて。

 現実じゃないが、子どもにとっては、やられてしまうと恐怖する。

 《なら、貴様か?!》

 ならばと、悪役は、また別の子どもを指さすが、当然、子どもは否定する。

 そう、この場には、挑戦する者はいない。

 「ねねね!大和ちゃん!子どもたちを助けてあげてよ!」

 「?!え?!」

 見ていたら。

 傍のアビーは、言ってくる。

 背中押すような感じであり、言われて俺は、ぎょっとする。

 いきなりなため、当然心の準備はできていないし。

 第一、子どもたちのいる場所から大分遠い。

 「……いや、ちょっとねぇ。」

 人前にいきなり出ろと言われるようなことでは、流石にと俺は躊躇う。

 頭を掻き、正直困ったとも示して。

 「そっかぁ。」

 アビーは残念そうに耳を垂らす。

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