5 冒険者ギルド

教えられたとおりに少し歩くと、すぐに冒険者ギルドの建物が見えてきた。

目抜き通りの角に立っている石づくりの建物で、並んでいる建物の中でもかなり大きい方で門構えというか入り口も立派だ。


儲かっとるのう。

三人で中に入ると、入り口から結構奥にある受付の場所までにたくさんの人がいた。


ざっと見で五十人ぐらいはいる。

机や椅子も結構並んでるから、待ち合わせや相談なんかもここで出来そうだな。


私達が入った途端に、ほとんどの人の視線が私達に集まし、威嚇するような視線、値踏みをするような視線、興味のみの視線と、いろいろ混ざった感じの視線だ。

私も逆に、そこにいる全員のマナをざっと見る。


極悪人ってほどの悪人はいないみたいで、大多数は普通の人だな。

そこまで善人でもなし、悪人でもなし。


人といったけど、人間以外の種族も結構いるわ。

いろいろな獣人にエルフにドワーフと多種多様だ。


さっきの門番は人間至上主義みたいだったけど、これをみるとそうでもないのかも。

嫌な奴はあの貴族だけならいいんだけどな。


比率としては男がやっぱり多いけど、女性の冒険者も結構いるわ。

おおー、それらしい雰囲気があるじゃないか。


装備も人それぞれで戦士系は剣、斧、弓や槌、魔術師系は杖や錫杖、魔力のこもった小剣などを装備している人がやっぱり多い。

防具も人によってまちまちで、皮鎧の軽装の人もいれば全身金属鎧に体を覆うような盾を持ってる人もいた。


魔術師はやっぱり魔力の集中のために軽装の人が多いけど、魔法戦士っぽい強そうな人は双剣に金属製の胴丸だ。

魔力繊維とかミスリル製なら重装備でも可能なんだけど、その辺はその人の懐具合とそれぞれが受ける依頼、討伐対象や本人の嗜好によってそのへんは決まるんだろうな。


何人かは魔力付与された武器や防具を持ってるし。

予想以上にピンからキリまで、いろいろな人、いろいろな職業のごった煮みたいで面白いな。


受付まで行く間の壁一面には依頼を書いた紙が貼ってあって、それを持って受付で依頼を受けるみたいだな。

よしよし、ここまでは予習通り。


しかし、まだこっちを見ている人が結構いるけど、やっぱり私達三人の見た目は目立つのかな?

お兄ちゃんはこの中に自然に溶け込めそうだけど、私は全身赤ずくめの髪も真っ赤だし、マックスも魔族で燕尾服だからな。


「どうした、兄ちゃん、遠足のお守りか?」

近くにいた中年の男がお兄ちゃんに声をかけてきた。


確かに私は見た目通りの年齢、お兄ちゃんもマックスもママの加護を受けて外見は二十歳ぐらいのままだし、私も含めて背伸びしたい年頃の集団に見えなくもない。

装備もイロモノと思われてるのかもな。


声をかけてきたのは四十歳ぐらいの、頭は磨き上げたような禿頭の戦斧をもった戦士だ。 

皮鎧を金属であちこち補強したものを着込んでいる。


そのお仲間は長剣の若い剣士とエルフの女性の魔術師で、同じ場所に座っている。

このおっちゃんが頭かな。


「まあそんなところですよ。 田舎から出てきたばっかりなんですが、登録は奥の受付でできますか?」

余計な揉め事は嫌なので、お兄ちゃんが適当に笑顔で対応。


「おう、奥でできるぜ。 無理して死なないようにな。 分からないことがあったら何でも聞きな。」

おや、このおじさん、人を見る目はないけど結構親切じゃん。


マナも見てみたら結構白いし、いかつい見た目とは違ってかなり善人じゃん。

もしかしたらこの冒険ギルドでも結構な顔なのかも。


確かに使っている戦斧も魔力付与されてるし、仲間の武器もそれなり以上の物を使ってるな。

魔力付与の装備は結構高いらしいから、結構強くて派手に稼いでいるのかも。


鎧には焼けたあとや斬られたあとや補修のあともあったし、そう見れば歴戦の戦士っぽくはあるな。

でも私達に比べたら今日初めて実戦を経験する新人、いや大人と赤ん坊以上の差がある。


これは純然たる事実だ。

竜の血脈を受けた私もそうだけど、お兄ちゃんとマックスはママの加護を受けていて、身体能力、魔力、闘気とか全部が普通の人間とは比べものにならないぐらいに強化されている。


そこにカクノシンおじさんやバルメロイさんに、十年以上みっちりこってりとしごかれた濃密な修行漬けの毎日を過ごしたもんだから、外の世界においては常識はずれな強さがあると思う。

お兄ちゃんとマックスは、カクノシンおじさんやバルメロイさんみたいなママの眷属よりは強化の度合が落ちるけどその代わりに制約も少ない。


だから私と一緒に付いてくる事ができたんだけど、それでもその辺の勇者や英雄、魔王程度なら一蹴できると思う。

そういやこのあたりに勇者とかいたっけ?


お兄ちゃんは放出系の魔力がなかったけど、雲幻流の皆伝をカクノシンおじさんから許されている。

マックスはバルメロイさんから各属性魔法を神級まで鍛えられて、魔族固有の魔法も使えるし世間では失伝した魔法に加えて空間魔法や禁呪まで何でもござれなのだ。


私もこの十年は頑張って修行したから、カクノシンおじさんから雲幻流の皆伝をもらった。 

竜の魔力のおかげで相性の悪い属性はないし、魔法も六系統全部を神級までは使えるように頑張ったわ。


なんつってもママを含む六柱のお姉さん全員から、それぞれの属性を直々に手ほどきされたんだからな。

いやホントに、我ながらこの十年はよく頑張ったよ。


でも一度も辛いとか嫌だとかは思ったことはなかったな。

ママや他の六柱のお姉さんらもカクノシンおじさんもバルメロイさんも、厳しくはあってもこちらがついていけるようにちゃんと理屈を説明しながら、というかマナを通して教えてくれたし、お兄ちゃんとマックスと一緒だったから競いあって助け合って一緒にやってきたのも大きかった。


ハゲのおじさんの仲間のエルフの女性の魔術師が、私らから視線を外さない。

エルフは見かけ通りの年でもないし、魔力も高いから何かに気づいたのかも。


こっちは全員が魔力や闘気を出していない、というか抑えてるし私とお兄ちゃんの装備も普段は魔力なしと検知されるはずだ。

見る人が見ればすごい精巧な作りで、さらには普通はありえないママの魔石を原料に鍛えて作られているからとんでもない価値があるとは分かるだろうけど。


でもエルフのお姉さんの視線は私の胸元の宝石と、腰の剣を行ったり来たりしている。

両方ともお父さんとお母さんの形見だ。


あー、確かにそっちも両方ともが世界でも珍しいぐらいの価値のある武器と魔術の触媒らしいけど、私にとってはそれ以上の価値がある二人の形見だ。

私を想う二人のマナが宿っているので身に着けていたい。


両方とも魔術師が見ればすぐにわかるほどに結構な魔力を出してるから、注目されているのかな。

剣の方は戦技に魔力属性を追加してくれるので物理以外の耐性のある敵に対しても効果絶大になるし、見てくれたアルベルトさん曰く素材からして地上にはない星界の希少金属を鍛えて作られたものだそうだ。


首飾りの方も魔術の触媒としても最高だ。

なんたってもともとはママの魔石だから、同じ魔法でも比べものにならない威力が出ると思う。


奥の受付に歩いていくと、エルフの魔術師はようやく視線を外した。

私の持ち物について話が広がるのは、あんまり嬉しくないなあ。


歩いていく途中でも十人ぐらいが私らに向けて、ある人は控えめに、ある人は遠慮なく視線を剣と宝石に注いでくる。

やっぱり形見の剣と首飾りもかなり貴重なんだな。


ママが私にあつらえてくれたカタナの「業火」と服の「赤竜」に比べると性能的にはかなり落ちるし、私にとっては二人の形見以上の意味はないんだけどな。

収納袋に入れとくもの違うような気がするしなあ。


「いらっしゃいませ、冒険者ギルドにようこそ。初めての方ですか?」

順番がきたので空いた窓口に行くと小柄な獣人のお姉さんが愛想よく出迎えてくれる。


髪の毛というか体毛は茶色だ。

しっぽがパタパタと左右に振られてて、なんだか癒されるなあ。


頭にぴょこんと乗ってる感じの小さ目のケモノ耳もいい感じで、お城にいたメイドの一人、アビーを思い出すわ。

よく遊んでもらって、いろいろやらかしまくって迷惑もかけたけど、優しくしてくれたなあ。


「この三人で冒険者登録をお願いいたします。 初めてになりますので注意事項等もご説明をお願いいたします。」

「はい、新規登録ですね。 それではこちらの注意書きをご覧ください。 共通語で大丈夫ですか?」


マックスの申し込みに、お姉さんは耳をピクピクさせて元気よく丁寧に答えてくれる。

へえ、お姉さんの対応も手慣れた感じだし共通語以外にもちゃんと対応してるなんて、やっぱりかなり大きいギルドの支部らしいな。


大丈夫ですと答えて、渡された紙の注意事項を見る。

魔法で強化されているらしく、使い回し状態にしては汚れたりしてないけどかなり分厚い。


こまごまと書いてあったけど要するに、

「何があっても自己責任」

「悪い事したら登録抹消」


「依頼を達成できなかった場合は罰金と事情聴取」

「受けられる依頼は級によって制限あり」


「等級は、初級、下級、中級、上級、最上級」

「依頼達成数と内容によって昇級する」


「中級になればイタペセリアの市民権が与えられる」

「討伐した素材はギルドが査定して買い取り」


「制限外の討伐もできるけど、その場合は素材買い取りのみで依頼書の報酬は無し」

「くどいようだが自己責任、何があっても自己責任」

と書いてあった。


とにかく自己責任ってのがやたらと強調してあった。

自分の命を元に一攫千金を狙う職業だから、街でまっとうな職業についている人は確かにやらないかもだな。


「ご質問は何かございますか?」

マックスをチラッと見たけど大丈夫そうだ。

私はママと同じくこういう細かいのは苦手だし、マックスが大丈夫って言うなら大丈夫だろ。


「ありません。ありがとう。」

「では、こちらに皆さんの登録の職業と、署名をお願いいたします。」


お姉さんは尻尾をまたパタパタと振る。

お兄ちゃんは戦士で、マックスは魔術師で、そして私は魔法戦士で登録しておいた。


「あら、二人も魔術師がいるんですね。 それならイタペセリアの市民権もすぐですよ。 頑張ってくださいね!」

お姉さんが大きな声で嬉しそうに励ましてくれて、心持ちか尻尾の振りも速くなった。


やっぱり普通の人は市民権と安定した稼ぎが目的なんだろうか。

それと、魔術師というか魔法を使えるのはかなり大きな利点らしい。


攻撃に回復に補助と全部は出来ないにしても、仲間に魔術師とか神官がいるといないでは大違いかも。

そもそも放出系の魔力を使える人自体が少ないのもあるしな。


「あと、徒党を組まれているので徒党名を登録しておくと、新しい人の募集や連絡に便利ですよ。」

お姉さんの声で、近くにいた人や徒党から結構注目を引いたようだけど、お姉さんの説明は続く。


ほう、徒党名か。

何にも考えてなかったや。


「私が決めていいのかな?」

「もちろんです。お嬢様の徒党ですので。」

「お嬢の好きにしろよ。」


私が決めていいみたいだけど、お兄ちゃんに私を「お嬢」と呼ぶのを止めさせるのは既に諦めたわ。

しかし、うーん、徒党名ねえ。


すぐには考えつかないんだけど、受付の後ろにも人が並んでるしなあ。

五秒ほど悩んだけど、ありのままでいいか。

隠し事なしってのが私の持ち味だからな!


「じゃあ、徒党名は「竜の娘」でお願いします。」

「はい、「竜の娘」ですね。 登録可能ですので登録しますね。」

お姉さんは目の前の魔力のある透明な板を、慣れた手つきで素早く操作した。


「お待たせしましたー。 登録完了です。 あちらの窓口ではギルドを通した賃貸住宅や各種公共施設の利用案内もしておりますよ。 市民権申請もあちらになります。 あと、依頼は反対側に並べて貼ってありますので、受ける依頼がお決まりでしたらこちらにお持ちくださいね。」

しょっちゅう新人の対応をしてるのか、これまた慣れた様子で滑らかに説明してくれた。


「あと、討伐するだけならこちらに来ていただけましたら、討伐確認用の魔石をお渡しします。 でもついでに依頼を達成できることも多いですので依頼を確認することをお勧めします。」

なるほど、討伐だけならすぐに行けるのか。


「他に何かご質問とかはございますか?」

「いえ、大丈夫です。 ありがとう。」


まだ尻尾がパタパタしているお姉さんに深々と頭をさげてお礼を言った。

世間知らずの田舎者に親切にありがとうございました。


よしっ、早速依頼を見に行こう。

なんてったって人生初仕事、初稼ぎだからな!

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