第8話 初心者ダンジョン

 当夜達は朝食を済ませ、前日に宿にお願いしていた人数分の昼食をお金を払い受け取り、初心者ダンジョンに向かったのだ。


 街を出て10分位歩いた所に洞窟の様な入口が見えて、入口にギルドの職員が控えていた。

 入口でキューブを見せ、ダンジョンに入る時に職員が持ってきた魔道具にキューブをセットし入場登録を行う。一度登録されたキューブの場合魔道具が光ると説明された。

 5人共このダンジョンには入った事が無い為無事に許可された。

 普段は入口には鍵を掛けられているが、初心者講習の翌日のみ入る事を許され、ギルド職員が開けに来る。

 初心者講習の翌日のみ鍵を開ける為、当夜達の今日の選択肢は必然的に初心者ダンジョン一択しか無かったのだ。


 地下型で5階層からなる小さいダンジョンで、5階層はボス部屋のみとなり、一度に6人しか入れない。初心者講習会でパーティーの推奨人数を言っているのは、一つにダンジョンのこういう決まりからだった。


 予め聞いているのは単独での挑戦禁止と、ダンジョンに入るべきでないと判断される者は、初心者講習会の模擬戦で判断され合格を貰えない。ある程度の技能を身に着ける為にギルドでの訓練後に再講習となる。

 そのお陰で、過去10年初心者ダンジョンでは死亡者ゼロである。


 ダンジョンの入口には看板があり、地図が描かれていてルナが暗記していった。

 当夜は4人にダンジョンに入る事の最終確認をし、皆が頷いたのでダンジョンへ入って行き冒険者としてのその一歩を踏み出していったのであった。


 ダンジョンは外から見た様子を裏切る事もなく、洞窟型のザッツ!ダンジョンだ。1階層は一本道であり、ゴブリンが散発的に現れるので、5人は順番に剣で倒していく。既にゴブリンは全員が倒した事があり、躊躇が無かったが、当夜はふと死について自分が希薄な感情しか抱いていないと気がついた。病院の実習や親が経営する病院での死体の解剖等に潜り込んでいたりしていたので、死体には慣れていた。しかし、自らがニ足歩行の生き物を殺した事は日本で生きていた当夜には当然無く、本来ある筈の殺す事への忌避感がまるで無かったのだ。ルナが盗賊を殺していてもなんとも思わなかったが、この方がこの世界で生きる為には幸せで有ろうと感じていたのであった。


 ゴブリンを倒すと体が煙のように霧散し消えて、魔石を残して行くだけだった。死ぬ前に武器を落とすと直ぐに拾えば消えないが、数分放置すると消えていくのだった。武器を握った状態で死ぬと武器も霧散していった。

 一説によるとダンジョンでは魔力により魔物が作られ、死ぬと魔力に戻り次の魔物を作る材料へリサイクルされていると言う話が有力と講習で話していた。


 魔石を集め、とりあえずは当夜が背負っている背嚢に入れている為拾うのは当夜以外になる。一番体が大きく、男なので当然の様にそうなっていった。当夜は女性に荷物持ちをさせるつもりはない。最初ルナが背嚢を背負うと言い出したので当夜が、


当夜「物理攻撃での最大戦力を弱体化させるだけだし、俺の場合剣より魔法の方が強いから俺が背負うのが一番なんだ。それに女性に荷物持ちをさせるのは、俺が怪我をしていないうちは俺の中の良心が許さないんだ」


と諭し、当夜が背負っている。その様なやり取りで女性に優しい対応をしているので、アモネス達の当夜に対する評価が急上昇していた。


 1階を半ばまで来たので次は魔法で相手をする事として、皆が魔法を実戦でどれ位使えるか確認する事にした。

 トップバッターは当夜となり、ゴブリンが三体向かっていたが手をゴブリンの方に伸ばすと心の中で『ファイヤーボール』と思うと手の前にテニスボール位の火球が3玉出て、標的に飛ぶように念じると飛んで行き、3体各々の頭に当たり、頭が吹き飛んだのだが、ルナ以外が驚いていた。

 当夜的には大して魔力を込めていないつもりだが、大きさこそ思い描いたサイズだが、威力が桁外れで、1発だけでもアモネスの全魔力を注ぎ込んでも足らない量の魔力を使ったらしく、アモネス達3人は口をポカーンと開けていたのだ。

 そして一番規格外なのは無詠唱で、それも魔法名すら唱えないで無言で魔法を放った完全無詠唱と複数のファイヤーボールを同時に発動した事だった。

 等屋は3人にジト目をされたが心当たりがなく、


当夜「あ、あの、俺なんかまずい事やった?ちゃんと魔法で倒したよ?」


 当夜が狼狽えながら聞くとアモネスが呆れ顔で


アモネス「あのですね、先程の魔法は詠唱が無かったですよね?」


当夜「詠唱って何?」


シャクラ「はあああああ!?詠唱って何って!この人何を言ってるの?普通、魔法使うのには詠唱がいるでしょ!はぁ!ってこの人規格外だわ!」


 当夜はオロオロしながらも何故か文句を言って来るシャクラって、ツンデレで可愛いなあと彼だけはのほほんとしていたのだが、当夜に対するシャクラとアモネスの心変わりに気がつかなかったのだ。


アモネス「あ、あのでひゅね、普通は魔法を使う時は、魔力を解放するのに解放する魔力に応じて呪文を唱えて、使う魔法に魔力を通すのに、魔法の名前を詠唱しないと魔法が放てないのでひゅよ。でも、当夜様はどちらもしてませんよね?」


 『あっ舌噛んだな!アモネスって美人さんだけど、→やっぱり可愛い妹的なキャラだよなー』等と彼女らの動揺とは裏腹に余裕からか、又は空気が読めないのか、場違いな事しか思えないお気楽な当夜だが


当夜「唱えるも何も頭にどういう魔力と大きさにしようかなとイメージして、いけーと思うと、ぴゅーと出たんだけど。ほいよっと」


 と言いつつ大きめのファイヤーボールを現れたゴブリンに放つと、全身を飲み込み魔石を残してどこかに飛んでいった。


 やはり3人が呆れているのだが、レグナスがさくっと解決した


レグナス「当夜様は流石に異世界人ですね!凄いの一言です。完全無詠唱って宮廷魔導師にも居ないのでギフトなんでしょうね!」


シャクラ「そ、それよ!あんたの規格外なのは絶対そうよ。そうなんだから」


 シャクラもアモネスも頷いていたので先へ進む事にした。


 次にルナにも一匹だけ初級魔法で倒して貰い、どんな反応になるのか敢えて検証する事にした。魔力がゼロになっても動けないだけで、直ぐであれば補充すれば問題が無いからだ。魔力切れで3日間放置すれば食事もできず餓死するから死亡に至るが、今は当夜がいるからなんとでもなるのだ。

 初級のウインドウカッターで戦闘をする事とし


ルナ「精霊と人との混じり人たるルナが力を求む。風よ敵を切り裂け!ウインドウカッター」


 と唱えると風の刃が出たようであっさり倒したが、夜に魔力を補充すれば問題は無いが、初級でも体内にある魔力の10%近くを使ってしまい、緊急時以外はとてもではないが使うのが無理と結論を出したのだが、ふとウインドウカッターの使い方が頭に浮かんで来たのだ。次がシャクラで


シャクラ「か弱き乙女が敵を打ち砕く力を求める。アイスアロー」


 と氷のつぶてと言うか、氷柱みたいな物が飛んで行き、さくっと頭に刺さり倒した。

 次がレグナスの番だが


レグナス「うら若き乙女が命ずる。敵を討つ力を我に与え給え!スピード」


 自らに魔法を使い、圧倒的なスピードで瞬く間にゴブリンに迫り、剣の一閃で鮮やかに首を刎ねた。


 そんなレグナスを見て当夜は凄いな!とは思わず『うわ!乙女って言ったよな!やばい男の娘だ。尻の穴を気をつけなきゃ』と残念な考えしか浮かばず、最後のアモネスが


アモネス「汚れなき清らかな処女たるアモネスの名により我れの求めに応じ力を示せ。ダークネス」


 ゴブリンの頭の周りに黒い靄が掛り、視界を奪われ固まったゴブリンの胸に短剣を突き刺し倒した。

 当夜は中々様になっているなと、アモネスに見惚れていたのだが


『うわー、この子自分で処女って言ったな。処女じゃなくなったら呪文はどうするのかな?』

 等と当夜が今はどうでも良い事を考えながら歩いているたが、 2階層に下りる階段が見えてきたので先に進む事にしたのだが、やはりアイスアロー、スピード、ダークネスの魔法の使い方が解出来たのだったが、何の疑問も感じない当夜であった。そして階段を降りていくのであった。

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