冬風行進曲

ななくさつゆり

【冬風】のプロローグ

 厳冬期だ。時期的には、二月の下旬から三月にさしかかる頃だったかと思う。


 さて、われらが北高の一角——俺が所属する一年五組の教室の窓から見下ろす先には、木々が寂しく連なる並木道……つまりそれって学校の正門から伸びたあの坂道なんだが。やせ細った木に纏わりついていた枯れ葉に至っては、冷え切った風に嫌気がさして有給休暇でも取ったのかね。すっかり姿をみせなくなっていた。マフラーに顎をしずめて襟を寄せたくなるような強い北風が、この辺り一帯で吹き荒んでいる。


 ひとことでいえば「寒い」という現状もあって、俺はしばらくしたら到来するであろう暖かい季節を心待ちにしているワケだが——だがしかし、それだけを期待して安穏と過ごしていられるほど、現実はそう甘くなかったのだ。

 この頃の俺はただ徒然と周りの景色を眺めていただけで、この寒さももうちょっとだけは続くんだろうなぁと思いながら、非常に深いため息を漏らしていた。

 危機感とは、喉元を過ぎ去ればいとも簡単に掻き消えてしまうものらしい。

 やれやれ。まったく懲りない俺である。

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