第27話
波打ち際の傍を歩く。
俺から三、四歩後ろで制服姿の獅々田さんが付いてきていた。
彩音以外の女子と歩く事なんて久しぶり過ぎて、俺は緊張していた。
……って、女装している時にはよく獅々田さんとジョニトリーから帰ったりしてたか。でもあれはノーカン。今の俺は男なのだから。
海パン一丁でね。女子高生を引き連れて夜更けに砂浜歩いてね。うん、とっても変態みたいじゃないか勘弁してくれ。
何にせよ俺はどう会話を始めるべきかと苦悶していた。とりあえずいくつかのプランを脳内で試そう。
プランA。
「フラれたんですって? いやぁ、そんな男忘れちゃいましょうよ。ほら、上を仰いでみて下さいよ? 空に瞬く無数の星々。言うでしょう、男は星の数程いるって。だから、獅々田さんも次の星を探せば良いだけなんです。ちなみに、獅々田さんが次の星を探したくなったら、俺……立候補して良いっすか? 俺なら、なれると思うんです。獅々田さんのためだけに輝く、一等星に(微笑みながら鼻の頭人差し指でナデナデ)」
(微笑みながら鼻の頭人差し指でナデナデ)じゃねえええよおおおお!!!
馬鹿か、馬鹿なのか、馬鹿すぎるのか俺は。輝くのは鼻の油吸った指先だけだろ。
ともかく次! プランB!
プランB。
「フラれたんですって? いやぁ、そんな男忘れちゃいましょうよ。ほら、上を仰いでみて下さいよ? 空に瞬く無数の星々。言うでしょう、男は星の数程いるって。……でも、星には手は届かない。だから俺の方から――獅々田さんを離さない(ぎゅっ)。貴方だけが手の届く一等星はここだよ(ぎゅぎゅっ)」
変態だあああああああああああ! 間違いなく通報されて逮捕だああああああああああ!
つか(ぎゅっ)じゃねえし! それに飽き足らず(ぎゅぎゅっ)じゃねえし! おにぎり感覚かよ!
俺は獅々田さんに元気になってもらいたいだけで、篭絡しようとは微塵も思っちゃいない! そんな反省を踏まえて次!
プランC。
「フラれたんですって? いやぁ、そんな男忘れちゃいましょうよ。ほら、上を仰いでみて下さいよ? 空に瞬く無数の星々。綺麗ですよねぇ(ごそごそ)。あ、そろそろ目線下ろして貰っていいですか? はぁい(ぼろん)。えへへ、ちょっと恥ずかしいですけど、人間誰しもち●ちん見れば元気になりますよね、えへへ」
……ダメだ。致命的に終わってる。俺はもう逮捕された方が世界のためになるのかもしれない。
と、無意識の内に我が身に課せられた罪の重さに打ちひしがれていたら、後ろから聞こえていた足音が止まった。そして。
「……もしかして、私がどうして落ち込んでるか知ってるの?」
「え。あー」
俺も立ち止まった。
さて……ど、どうしよう! どどどどどうしよう!?
俺の脳内プランは全てゴミ糞だったので参考にすらならなかったし、だからと言って咄嗟にコミュ力ばつぐんな返事なんて思いつくわけも無いし。
一先ず、何はともあれ振り返ろう。相手の表情を見ないと。会話の基本です。
そうして俺は振り返り、そして息を呑んだ。
獅々田さんは――泣いていた。綺麗な顔のまま、ポロポロと涙を零していた。目じりから涙が伝った頬が、月明かりに照らされて煌いていた。
まさか、フラれた事を陰で話されてしまった事に泣いているのだろうか。
そう思って謝罪の言葉を口にしようとしたが、先に獅々田さんが口を開いた。
「やっぱり、そっか……そうなの。フラれちゃったの」
言って彼女は「えへへ」と人懐っこく笑いながら大粒の煌く涙を零した。
彼女の「えへへ」と俺の「えへへ」で、どうしてこうも差があるのだろう。彼女の
場合はただひたすらに可憐さに溢れ、対して俺の場合はただひたすらに汚濁に塗れ。
あー、そりゃそっか。そもそもの出来が違うもんな。元の造りが違うんだ。彼女がお月様なら、俺はネズミだ。空高くで暮らす彼女と穴倉で暮らす俺。住む世界が違うのだ。
そう考えたら、緊張がほぐれた。お月様相手にネズミがどう会話しようかなんて悩む必要は無い。
「無理しなくて良いですよ。泣きたい時はいっぱい泣きましょう」
自然と俺は口にしていた。
すると獅々田さんは一瞬呆気に取られた顔を見せた。しかし直ぐに唇が歪み、肩も震え出し、終いには顔をくしゃくしゃにして。
「うん、うん……っ」
その場で屈んで、さめざめと泣き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます