第9話 変換

 俺は急いでチビリカの元へ向かった。

 逃走経路も確保し、アイラには俺の担いで来たヒーロー達の手当てをして貰っている。


 早く向かわなくてはどの様な敵が現れているか分からない。

 すると、


「遅かったわね」

「ち、チビリカ。すげえな……」


 どうやら一人で二人の幹部を倒していたようだ。

 一人は少年のような見た目で、もう一人は非常にガタイの良い筋骨隆々な男だ。


「もうっ、レディー一人相手に男二人だなんて失礼しちゃうわ!」

「た、たしかに凄いが、それよもだ。このチャンスを逃さずに逃げるぞ、逃走ルートは確保した!」

「分かったわ。行きましょう」


 俺はそう言って出口へと向かう。

 そこで待っていたのは、


「よくぞ私の可愛い部下をここまで無力化したね」


 黒い猫のような仮面をつけた少女が、射心とボーイッシュな少女に挟まれて立っていた。

 こいつはブラックローズのリーダーだ。


「くそ、やたらと先回りが上手いな……」

「本当に。私達が連係を取れば倒せるかしら……」

「いや、無理だろうな。真ん中のやつは別格だ、能力も唯一分からない」

「絶望的ね……」

「けど、何とかしてみるさ」

「ちょっと、もう! また一人で!」


 俺は先手必勝と言わんばかりに、猫の面の少女に向けて斬りかかる。

 しかし、ボーイッシュな少女がまたも、指一本で俺の攻撃を受け切った。


「っ、どうなってんだ!」


 俺は尚も力を込めるが、少女の指先はピクリとも動かず、変わりに熱気が放出されている。


「確かお前の能力は攻撃を反射する絶対防御の壁だったな?」

「おお! 良く知ってるねー、けどそれはあくまで公表されてる情報。私の能力の本質を見極められるかな?」


 少女がニヤニヤと笑っていると、後ろからチビリカが走ってきた。


「シルバー、多分その人の能力はエネルギー変換よ」

「っ?!」


 チビリカが言うと、明らかに動揺した様子を見せた。


「チビリカもナイスアシストだ! なるほどな、俺の運動エネルギーを熱エネルギーに変換してたって訳か」

「……はぁー、まさかこんなに早く見破られるとはね。君たち一体何者なのかな……?」


 世の中の力は様々なエネルギーを持っている。

 俺の剣は振り下ろす事で運動エネルギーを持ち、遠心力も相まって切っ先は相当な力を持っている。

 そのエネルギーを、この少女は別のエネルギーに変えたのだ。

 今回は熱エネルギーに変換したのだろう。

 もしかしたら光や音といったエネルギーにも変換できるかもしれないため、注意が必要だ。


「私にかかればどんな力だって別の力に出来ちゃうよー? 変換効率だって思いのままさ!」

「ほう。だが、お前は決して自ら攻撃が出来るわけじゃないんだな」

「そうだけど、でも君の攻撃だって僕には意味をなさないよ?」

「それはどうかな?」

「なに?」


 俺は高速移動し、相手の視界を翻弄する。


「うひゃーっ、すごい速さだね! 君ほんとに人間?!」


 余裕なそぶりを見せているが、こいつはあらかじめどのような攻撃が体のどこに当たるかを予想しなければエネルギー変換で防ぐことはできないと見た。

 普通の攻撃じゃあまず効かないが、ならば、隙をついた一撃だったらどうだろう。


 答えは、


「あははっ! 甘いね!!」


 またも指先一本で塞がれていた。


「何度もフェイントをかけてたみたいだけど、私も並一通りの動体視力してないからねー。あと、さっきから指で塞いでるのはあくまで服を切られるのがヤなだけだから。隙をついても僕には君の刃は通らない!」

「刃はな? けど、この趣向を凝らした一撃さえもブラフだ」

「えっ?」


 俺は少女の指先に止まっていた金属を変形し、薄いが硬い膜で少女の全身を覆った。


「うっ、うひゃん!」


 少女は変な声を上げて、変な姿勢のままぶっ倒れた。


「こ、こんなの反則だよ!」


 首から下を全て金属膜で覆ったため、一切の身動きが取れず、顔だけ悔しそうに歪めて少女は喚いた。


「凄いわねシルバー……直接攻撃じゃなくて相手の身動きを無力化なんて……」

「今だから言えるが、俺はこいつらの能力を聞いた時、自分の能力でどうすれば勝てるかを必死に模索した時期があった。まあ、情報はどれも当てにならなかったが、用意した作戦のほとんどはダメでも、こうして一つくらい刺さることはあるだろ。けどまあ、今の拘束用で俺が使える金属は殆ど使っちまった。もう剣は作れない」

「君は本当に……どれだけの執念を持っているの?」

「無事に帰れたら教えてやる」

「その約束、絶対よ?」

「ああ、分かってる」


 俺たちは再び、残りの二人の方へ体を向けた。

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