第5話 最終試験
色んなヤバいやつに囲まれた試験二日目を乗り越え、俺はいよいよ最終試験にたどり着いた。
正直確実に合格を狙いに来たので、ここまで来ることは想定の内である。
この最終試験に残ったのはたった八十人。
そして最終試験である面接試験を突破した数十名が映えある新人ヒーローとして、産声を上げる事となる。
「神皇黒鉄、入れ」
「はい」
俺は若干の緊張を抱きつつ、面接室に入る。
「――っ!」
ガツン!!
「おー、やるね君!」
「うん、たしかにすごいな……」
「やりおるのぉ」
扉を開いた瞬間、上からハンマーのような巨大な金属の塊が降ってきた。
俺は能力でその鉄塊を粉々に吹き飛ばす。
かなりの威力で金属の屑が飛び散った筈だが……面接官、もといプロのヒーロー達は傷どころか服に塵ひとつ乗ってない。
面接は俺一人に対して、五人のプロヒーローで行われるらしい。
両側の二人のうち一人は細身の男性で先ほどから一声も発する事なく目を瞑っている。
もう一人は昨日見た回復系の能力者で、今日もやはり黒い白衣を纏っていた。
彼らの隣には白髪の老人とヒーロー達を取り仕切るリーダーと名高い赤髪の青年が座っていた。
しかし妙だ。
最後の一人、つまり真ん中の人物は見た事がない。
黒いストレートヘアを腰の辺りまで伸ばした無垢な少女。
特殊体質なのか頭からは黒猫の耳のような物が生えて、これまた真っ黒な尻尾が自分の意志を持つかのように、先程からゆらゆらと揺れている。
他の四人はメディアには素顔を隠している者も居るが国民のほぼ全員が知っているようなヒーローであるのに、なぜ中央に年端もいかないネコミミ少女が座っているのか……。
「まずは許せ、これはほんの挨拶だ」
件のネコミミ少女が話し出す。
「毎年趣向を凝らしてトラップを作るのだよ。まあ、面接第一次試験突破とでも言っておこうか」
やけにツンケンしているが、声が高音の猫なで声なせいでいまいち締まらない。
「さて、挨拶も済んだところで座ってくれたまえ」
「は、はい」
俺は促されるままに、五人の前に置かれたパイプ椅子に腰かけた。
「それじゃ、いくつか質問していくから答えてくれ」
「分かりました」
出鼻を挫かれた俺だったが、その後は滞りなく面接を済ませていった。
想定していた質問に、用意していた答えを返すだけの作業。
表情を作り、声色を整え、身振りを添えつつ答えてゆく。
「――ふむ、ありがとう。質問は異常だ。では次に君の能力を見せてくれ」
これも想定通り。
ヒーローはどれだけ活躍できるか、というポテンシャルも重要だが、それと同じくらいにルックスも必要とされている。
早い話、男のヒーローならカッコよく、女のヒーローなら可愛くあれという事だ。
俺は能力を発動させる。
虹彩が深い赤色に発光し、全身に纏ったシルバーアクセサリーがドロドロと動き出す。
そして、仮面と剣が仕上がった。
デザインはカッコよく、それでいてシンプルな一品となっており国民から慕われるようなヒーロー像を作ることができたと自負している。
「なるほどな、金属を操るか……」
「君の戦闘能力と体力は申し分ない! 能力の見た目も派手でいいな!」
「ふむ、良いじゃないかのぉ?」
「私は良いわよ」
「……」
様々な言葉が数秒交わされ、数分の審議が始まった。
それが終わるとネコミミ少女が手に取っていた書類をトントンと整え、こちらをじっと見た。
「よし、神皇黒鉄……合格だ!」
「っ! ありがとうございます!」
周りのヒーローたちがまばらに拍手してくれた。
というかその場で結果が伝えられるんだな。
いや、そんなことはどおだって良い。
やっとだ。
やっと奴らを殺し回れる……!
俺は勤めて明るく試験会場を去ろうとした。
しかし――。
「ちょっと待て」
猫耳少女に呼びかけられる。
「何ですか?」
「あー、なんだ……これで君の合格は決定したわけだが……私は本当のキミとお話がしたい」
「……?!」
何だと……読まれているのか? いや、だとしたらどこまで。
「作られた笑顔、セリフ、動き。どれをとってもヒーローに求められているそれだ。けど、本当の君じゃないね?」
「なんのことだか、僕にはさっぱり……」
「復讐心……か?」
「っ!!」
「おぉ、怖い。すまないね、覗き見したようで。私の特殊体質なんだ、許せ」
「(全て……見透かされている?)」
ネコミミ少女以外のヒーロー達は誰一人として表情を変えず、じっとこの話題の成り行きを伺っているようだ。
「君はすでに合格し、その審議が変わることはない。どうだい? どんな君でもいいからこれから共に働く仲間として少しでも情報を知っておきたいんだ。話してくれないか? もちろん口調も好きにしてもらって良い」
「……おい、ネコミミロリ、どうやって俺を見抜いた?」
周りの空気が一瞬にしてピリつくのを感じる。
下手をしたら殺される、そんな予感さえ本能が感じ取っていた。
しかし、出てしまったものはしょうがない。
もう後には引けないのだ。
「私の目は人の本性を見る目、私の耳は人の最も強い感情をとらえる耳。私のしっぽは可愛いしっぽ。つまり、そういう事だ」
「はぁ……訳が分からんな」
「まあ、私は君が本性を出してくれて心底安心して居る。得体の知れない何か、どこまでも深い深淵を抱えた新人など、いつ爆破するか分からない時限爆弾みたいなもんじゃないか」
少女は屈託のない笑みを見せるが、年相応とは言い辛い不思議な感じである。
「ときにニューヒーロー、君の心の九分九厘を占めるそのドス黒い感情。差し支えなければ何があったか教えてくれないか? もしかしたら、力になれるかも知れないぞ」
「……そこまでお見通しなら、隠す必要はもうねぇか……いいぜ、教えてやるよ」
俺は二度と思い出したくない。
しかし決して忘れてはいけない思い出を掘り返すことにした。
「俺の両親は、キングオブヒーローと呼ばれてた。神皇千手、神皇由美。この名に覚えはないか?」
「「!?」」
ヒーローたちの間に、明らかな動揺が走る。
「そして、七年前とある事件に巻き込まれて死んだ。いや、違うな。とても強い能力を持っていた両親でさえヤツらには手も足も出せずに殺されたんだ。俺はその時大怪我を負って気を失っていたらしい。ヤツらには俺が死んだように見えていたんだろうな、俺だけ何とか命拾いしたよ。けど、両親は殺され、慕っていた姉さんも連れ去られた」
「痛ましい事件だったと記憶しているよ。……その、復讐か。けどヒーローになる以外にも方法はあっただろう。どうしてヒーローになろうとしたんだ。あ、さっきの気持ち悪いくらいのお手本回答は要らないよ?」
「っ……理由は2つある。一つ目は両親を殺し、姉さんを連れ去ったヤツらは『ブラックローズ』のエンブレムが付いたローブを着ていた」
「ほう。たしかに、ヒーローになればその目の敵である闇の集団『ブラックローズ』をなんの背徳感もなく追っていくことが出来る。復讐には持ってこいと言うわけか。して、二つめは?」
「二つ目はヤツらを誘き出す為に、俺はヒーローになって目立ちたい。俺の作る仮面は両親がヒーロー活動をする時に使っていた物のレプリカだ。絶対に食いついてくる」
「なぜ言い切れる?」
「おそらく7年前、ヤツらの目的は姉さんを連れ去る事だった。けど、ヤツらが求める姉さんの力は手に入らない。そして、俺はその秘密を持っている。どうだ、死んでいた筈の俺を狙うには十分すぎる理由だろう?」
ヒーロー達はただ俯いて、何かを考えるような、それでいて心底つまらなそうに俺の話を聞いていた。
「秘密……か、気になるな!」
「黙れ、秘密は一人でも話した瞬間秘密では無くなる。それとも、そんなに命を狙われたいのか、ネコミミロリ」
「さっきから心外だなぁ、私はこれでも君の倍は生きてるよ」
「ああ、そうか。すまないなネコミミロリババア」
「はあ……その変な性癖を盛り込んだみたいな名前もよしてくれ」
そう言いながら、ネコミミロリババアは立ち上がりこちらに向かって歩いてくる。
椅子に座っていた為、いまいち体の大きさが分からなかったが実際立ってみると俺の鳩尾ほどの身長しかない。
百三十センチ弱といった所か。
「私はヒーローじゃないが、このヒーロー組織の事実上頂点に立っている者だ。名前はシャル・ウルビダ。よろしくな、黒鉄」
「ああ、これから自由にやらせてもらう。所で何でヒーローでもないシャルが組織の頂点に居るんだよ?」
「ふふーん。後々解るとは思うけどねぇ……秘密!」
「っおい、シャルてめえ」
「さあ、君の面接は終わりだ。じゃあな、黒鉄!」
そう言うと、シャルの虹彩が金色に輝いた。
「くっ!」
隙を突かれたと思った。
とっさに能力を出そうとしたが、その前に視界が暗転し、空中に放り出されたような体感が体を包む。
そのまま、上か下どちらに進んでいるかも分からない暗闇の中を進むと、いきなり一点の光が現れ、次第に大きくなった光の先に俺は放り出され、尻餅を着いた。
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