「Midnight」

夜…

誰もいない通り

暗い通りを街灯だけが照らす

その光に揺れる木々の陰を私はただ見つめている

車の通る音も人の歩く音さえなく

時折、吹いてくる風が髪をかきあげ、音を奏でる

そこはもう静寂の世界

白と黒の織りなす世界

闇が支配する世界を知らなかった私にとって

それは神秘の時間

光が支配する世界しか知らなかった私にとって

それは守られている時間

すべてが眠っているのではなく

すべてが止まっているのではなく

冷たいけれど温かく

厳しいけれどやさしい翼を広げている


私は 夜を

直接触ってみることはできない

ただこうして ここから眺めるだけ

私は 夜

ここから飛び出すことはできない

ただ感覚を 心を 研ぎ澄ませるだけ

感傷的かもしれないけど

空の澄みきった夜には 月の輝きを

身の凍るような夜には 星の煌めきを

感じていたい

見つめていたい


もし ひとつ 

私のわがままを聞いてくれる神様がいるのなら

その神様に言ってしまうだろう

あなたを…って

夜 逢うことができない 

あなたに逢わせてください…って

そしたら こんなひとりで寂しがって夜になぐさめられることもない

そしたら こんな暗く悲しい気持ちで闇にまぎれて泣くこともない

あなたに抱きしめられた腕の中で 

あなたが存在いることを信じたい

あなたの鼓動が聞こえる腕の中で

あなたのぬくもりを確かめたい

息もできなくなるほど

何もわからなくなるほど

眠りすら忘れてしまうほど

抱きしめて…

そのまま時間が止まるように

このままずっと一緒にいられるように

この時間ときが永遠であるように


もし ひとつ

私の願いを聞いてくれる神様がいるのなら

その神様に言ってしまうだろう

あなたを…って

時間が私からあなたを奪い去らないように

時間がふたりを引き離さないように

そして

いつか時間の壁がなくなるように

いつまでも一緒に

どこまででも一緒に

あなたといられるように…


銀の指輪

右手の薬指にあるの

いま それが唯一

あなたとつながってる気がする

あなたに手を取られている気がする

あなたがそばにいてくれる気がする

そう思いたい

目を覚ませば 朝

あなたの寝息が聞こえるほど近くに

そう思いたい

そう思いたい

目を覚ませば 朝

あなたの肩にもたれて眠っている私を


長い長い夜が過ぎていく

ひとりきりの夜が過ぎていく

夢の中で出逢えても

涙が頬を濡らしても

気がつけば

目覚めれば

私は いつも ひとりきり

ベッドの中に ひとりきり

あなたは いない…

だから

今日 私を見たら

ふざけていてもいい 抱きしめて

額にでもいい キスして

そして

冗談でもいい 「愛してる」って言って

私がこわれてしまわないように…











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