『渇望⑧』

『渇望⑧』




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 変わった世界。

 青年で『意を汲んでもらった立場として責任の一端はある』と自認し、自責の念から改め手伝いを願い出れば、その"無力でも健気に切願"は痛ましさすら覗く振る舞いへと王たちの割り当ててくれた役目で駆ける。




(……""が、"起きている"?)




 これより時刻の少し前には『美食の都市で彼女の衝動が集めてしまった命たち』も既に巨大な『かよばこ』とは箱型をした"輸送容器"に内包され、移動の完了。

 その手始めには安全な行き場に迷う諸氏を『開かれた大神領域』たるテノチアトランへと収容された様子を見届け、早駆けの一度を終えた今に空中で眺める先には『他の各種でも其々に適した環境へと送られる光景』が宙に浮く液晶表示モニターとして目の前にある。




("あの一瞬"で、何が……どう——)




 なれど、晴れやかな漆黒の夜空を頭上にしても『王の輝き放った急変』の全貌を知り得なければ小川おがわで混乱も立ち消えず。

 現在進行的には『大神より意識に送られる情報データ』で各位の移住が滞りなく進行の様を抜け目なくも認識し、その『実際に救済が行われている』と知って確かに胸奥が『安堵』を得ても弱った心に『不安』だって絶えない。




(——いや、頭では理解しているつもり。アデスさんとイディアさんで再三に概要を教えてくれて、でも、其れは……なのか……?)




 闇夜の海を行く遠景には空も海も黒い巨影がひしめく最中に機体トリケラの背で自問。

 素朴な働きとして『そんなに美味しい話があるものか』と人心で半信半疑なら、『幸せ?すぎても残りはくだざか』、『あと落差らくさが怖くなる』と悲観に染まるのが青年で——けれどの今は『任せてもらえた役目をやり遂げねば』、『其れこそは正しく他者のために』とも心のすきまより湧出ゆうしゅつの使命感。




『——間もなく、我々で指定の座標に到着します』

『……了解です』




 "苦しい思いは、後に"。

 落ち着かぬ気を『耳に心地よく馴染んだ友の呼び声』と併せ、『自身に働きかける暗示』で宥めつつの整流せいりゅう

 その青年では『人目も少なくていいだろう』とは恩師の計らいから主に『極地きょくちでの観察』を担う次第であって、それも老練の指摘通りに『先までいた場所から惑星の裏側も気になって急ぎ早に駆け付けようとする若者』に於いて『人目には認識し難い希少種の調査』も担当を任じられた現状。

 つまりの一先ずには『確と安全に事が運んでいるかどうか』を確認しつつ『当該生物の群れの誘導』などを『体験授業』のようにも温情から割り当てられ、その『極から移り住むテノチアトラン』で『新天地に羽を伸ばすまでを見守る』ことになっていた。




(そうだ。今の自分には、まだ……"やるべきことがある")




 だからには『まだ腐ってもいられぬ身』で顔を上げ、高く持ち直した碧眼の視界。

 より多くが映る視野は、アデスが自動で飛ばしてくれた乗機『トリケランダーX』の背から。




("まだ己を動かす理由が残っている"なら……"集中"して)




 その恐竜を模した自機の上、更に質量で上回る物体。

 過ぎては押しのけられた大気の揺れる感覚が同時に夜を深めて暗くは月光の反射を覆い隠すように海を行く黒鉄くろがねの、それも大挙して進む無数。




(——"行こう")




 その大層な用意も先に大神ガイリオスが三叉さんさ調律師ちょうりつしの如くとして鳴らせば、各地での一斉起動も『合図』とばかりに『輸送機』や『輸送船』が惑星全土を行き交う今に。

 ここまでの海を掛ける移動時でも水平線を超えて空まで埋め尽くすかの勢いは否が応でも目に付く『重機の進軍』めいて。




("こぼしの一つもないように"——注意を)




 目的地の近く、氷の海岸を埋めるタンカーの如き並びは実態として『鉄の壁』を避けるためでも竜の形で自動操縦は高く。

 次には高度を下げて低くも、道すがら丁度に離陸して空を行く『羽なしの輸送機』とも擦れ違い、トリケラでは着陸して間を置かず女神の飛び降りた足で氷結の地形に立った柱が間近で『異様』を再認識とする。




(そうして、誰にも傷付くようなことがなければ……————)




 地には氷、天には鉄の泳ぐ星空。

 その挟まれて冷ややかな極地に馴染んだ色の白や灰で『くま』や『海豹あざらし』に『飛ぶ鳥』、『飛べない鳥』——その他にも各種の皆が等しく同じ方向の、箱船はこぶねの乗り付ける岸や浜へと歩き、泳ぎ、飛んでも向かう様。




「————」




 群れや家族ごとに特殊な音波で呼び掛けられ、自ずから機体に乗り込んで行く動物たちの足音は多重に。

 だのに誰もが衝突なく。

 命じられた順路には秩然ちつぜんと、『野生たちが列なして歩みを進める一面の静寂』が異様。




(……これ、は……?)




 しかして物々しく青年の目に映る其れは『しずかな戦争せんそう』のようだとも思われた。

 例え銃弾や砲弾や怒号に悲鳴が飛び交うことはなくも、空では巨影が行き、海でも砲台なき艦船の如きが往復。

 それも極地の此処だけではない。

 全国的に天気は黒鉄の輸送機模様ゆそうきもようと相成って、されどの恒星だって幾らでも用意に能う神々では『昼に在る場所では日照権にも配慮は欠かさず』の機体そのものが下部より皆を平時の如く照らして明るく遠景モニターの幾つかに。

 しては各地に人の都市だって『浮遊する神鉄の塊』を見ても慣れたもの。

 既に凡そ三ヶ月に渡ってディオス跳梁跋扈ちょうりょうばっこする暴れっぷり、『人の溜まりに溜まった未解決事件を秒で明らかにする明白の恩恵』などを見せられた暁には今更と抜かれるやわ度肝どぎももなく?

 場合に『見せて貰えず』のそうでなくとも入念には各地に『相談員カウンセラーのディオス』も『暇な神』で控えているのだろうから——『もし空の陽光が巨影に遮られる"日食"を見て不吉に思っても、王は民の不安に寄り添います』、『降り掛かる難事なんじすべてを吹き飛ばしてみせる。皆のために』と懸念もなく。




(……これは)




 そうして陸地も海底も問わず輸送機へ動物たちが進む雑踏はやはり『見慣れぬ異質』で、なれども恐怖の波も皆無なら、事実として『戦争』という惨事に向かっている訳でもなければ火急にさえない不思議な心持ち。

 その微妙な物思いとは、『人智を遥かに超えて理想的な保護の出来る神』に"おそうやまう"『畏敬いけい』というものなのだろうか?




『——我が友? 目標は此方です』

『……は、はい。今、詳細な位置の特定を——"!"』




 そしては、平和的に作られて世を呑み込む大いなる流れに翻弄されるようでも。

 止まっていた足取りの再開は『迷うなら今はやれることを』の一心には他者につからないよう隙間を縫って列を渡らんとする女神で——歩みの遅い『ブリザードゾウガメ』の前を横切った道中に『危難』を予測して過敏の心が怯えて飛び出す。





(——っっ"!!)





 其の目に映ったのが『氷の崖上で石作りの巣から一羽のカモメ科のひなが落とされる様子』——事の因果としては『元いた雛』が『托卵たくらんで生まれた体格の一回り大きい一羽』のに押し出され、"巣から落下して死ぬように"。

 その『悪意なく己の血統こそを繋がんとする繁栄に向けた合理の行動』は、時に"ある種のライオンの群れプライドで頂点に立つおすが入れ替わった場合"に起こる『異なる雄の血を排除せん』としてかは『子殺こごろし』のような現象としてあり。





(——…………"?")





 今のカモメにも『親の異なる子から子へ』の間接的に行われる『自然な迫害』の様。

 なれど、その『残酷な摂理』を学び知って己の胸の引き裂かれるような思いにも目の当たりの状況に飛び出さざるを得なかった青年で——もう今では『偉大な神の管轄下にある命』へと水の滑走がのだ。





「——あ…………」





 手を広げ、受け入れ態勢で身を差し出した先。

 なれどの頭上には『青年の権能行使より速く既に柔らかい受け皿』が展開。

 そのまま遠隔に事の次第を把握する大神作成の自動救援システムは『血の繋がらぬ兄弟に捨てられた孤独』を拾っても、間を置かず流れの運ぶ先に件の輸送機が一つ——『責任を持って新しき住まいに連れて行くから大きく心配されるな』と裏側に立つ大神から言外の意を送られたようなもの。




「——我が友……!」

「あ——いえ……急に飛び出して、すみません」

「大事ありませんか?」

「は、はい。確かに『大神の方々かたがたちからで誰にも怪我はなかった』ようですので……良かったです」




 斯くして『手を出すまでもなくの無事』と確かめられても。

 再び心で泣き出しかけた青年は己の任された場所の一部でも始終の観察を担って『一定の納得』を手に入れに向かう。




「そうしても……お待たせしました。本来の目的のほうへと向かいましょう」




 小早こばやきびすを返し、引き続き己を見守ってくれる美の女神を伴っても担当区域への足取り。




「任された鳥類ちょうるいの一種は近く、貴方で『捜索』は可能ですか?」

「はい。それぐらいならまだ、何とか——"あのあたり"にいるようですので、軽く水で周囲を包んで可視化します」

「……そしてはどうやら、"あの者たちでも自主的な乗り込みは完了するかという所"へ我々も予定通りに乗り込みましょう」

「はい……!」




 そのまま透き通る世界に特殊な羽毛を発達させて光の入射角調整で『背景への同化・変色能力』を持つ『バニシング・ペンギン』の群れを生物本体や周囲の水の揺れる気配に探し、整列して進む愛らしい透明色への後追いに臨時担当官の彼女ら自身も乗り込めば、箱の倉口ハッチの閉じた後にも『離陸』や『飛行』で驚くほどに揺れもない静粛のフライト。





『……速いです』

『はい。ですのに振動という振動もなければ、恐るべき大神の御業』





 けたたましくの排熱や排気の音も皆無なら、無害な周波で鎮静作用の背景音のみ聞こえていた合計の飛行時間は実に『凡そ数分』といったところで波長が変わる。




『間もなくひらきますので、一応は自分から先に』

『お願いします』




 到着に際しても接岸のような衝撃はなく、ただ『外へ』と指示の波を背に。

 "動物の意識に外出を働きかける控えめな機会音"のようなものが鳴って、『次に倉口の開放』を察すれば『露払つゆはらい』としても真っ先に進み出て外気に触れてみる川水。





『大気組成も、その温度や湿度も……足場もしっかりして特に、問題は……』





 青き眼の機内より退出した後の眼前に広がるのは、『水と氷で透き通るようにも空で行き交う船のいなければ単に【夜の極地】』だ。

 それも『乗り込む前』と『降りた後』で

 なれど、神の感覚は伝える。

 比較して『"先までよりも大気や大海で騒めきが皆無の安穏とした場"であれば——間違いなく此処が目的の"新大陸"』と。




『問題なんて……何も』

『そのようで……ペンギンたちも勢いよく、"慣れ親しんだ新居"へと駆けてゆきます』




 それも出発前にあった動物たちにとって長く親しんだ環境を参考として、でも今にも崩れそうな断崖絶壁の地形などは『なだらか』に微調整アレンジなどもして。

 また周囲に姿を隠せるペンギンたちの『透過能力を使わねばならぬ天敵』とは獰猛な他者の気配も一切になく、その事実について未だ唖然あぜんと受け止め方の分からぬ少女の横を元気よくは二足に『ペタペタ』と。

 駆け出してゆく彼ら彼女らの先には『魚影ぎょえいのようなものが浮かぶ溜池ためいけ』のような形もあって——でも其処にもやはり生命反応の波のなければ単に『疑似餌ぎじえ』として作られたアイテム。

 より正確には成分も質量も参考となった事物の真に迫る精巧の、『既に空腹という概念が実質的に廃止とされた世界』では『半ば形骸化もした口腔こうこうや食道部分への健康配慮』が神の作としてもあり、噛み砕いては『食べずにいても機能を有するあご』へ気に掛けの。

 謂わば『なまる』のも気にして、体調を整えつつ染み出す味も美味なら"精神の安寧"にさえ寄与するだろう代物が『有り難い道具』として物を言わずに浮かぶのみ。




「……そうして各所に皆の溌剌はつらつとしていても」

「……」

「"この世界は貴方にとって微笑ましいもの"に変われたのですか?」

「……それは」




 そうも配慮も行き届いた平穏なら態々と口にすべき異論の言葉も、胸の内で己のものと知る筈の感情も形容すべき最適が分からずに今日で何十度目かの放心が数十秒。

 視界に収めたままの光景では『模造の魚肉』がそのまま魚の形で自律的に泳いで、それを親ペンギンが『捕まえた』と思うままに子へ運んで口移しをしてやっても『ありふれた普通の食事風景』には、例え今日に『食の必要性』が薄まっても『求める者には機会の与えられる』との"証明"の意味すら載っている。





「それ、は…………」

「……」





 そうして夢見心地に口の回らぬ青年は『池の奥底に新たな魚影が土塊つちくれの如きから形を成す』のを見ても此処に——眼前の"夢でない現実"に一つの思い描いた『理想郷の顕現』を目の当たりにしていたのかもしれない。





「…………」

「…………」





 未だ半信半疑の立ち起こった事実にも——『舟に運ばれて来た同地に敵もなければ、求める物も求めた分に与えられ、後は己の慣れ親しんだ環境で親しき者たちと自由に余生を過ごすのだ』と。

 加えては『仮に相手を怪我させる喧嘩のようなをしたとして天に高く、地に深くは、異界からも見守ってくれているのだろう大いなる存在で仲裁や隔離や、望めば自分だけの土地も得られるのだろう』とは。

 今にも意識へ流れ込んでくる詳細が『後に見直せる報告書』としても神の記述してくれる形で理解し、即ちは『青年より十全に皆を統治してくれるのが大神なら、其れは紛うことなき【王の器】でもあるからして案ずるな』と恩師暗黒だって星の裏側から弱り果てた心を気に掛けてくれるようにも。





「……っ"」

「……」





 だが、多くの配慮や温情に包まれても青年。

 "一つの望んでいた筈の世界の実現"を前にしても揺蕩たゆたう水の化身で『言葉よりも先に零出こぼれいず』はやはりが下咽したむせ涙川なみだがわ





「……"、……っ"……」

「……」





 悲嘆への救いが思ってもいない所から、だがして『巫山戯ふざけ政争せいそう』のような遣り取りから現れたものを喜べばいいのか。

 若しくは『此れから政略の反動はあるのでないか』と警戒?

 それとも本当に『神にとってはどうでも良くの些事』として『自身もあきれればいいのか』で感情の置き所も見つからず。

 今に『最高の意思決定』と見せられた『大神の政治』とは『世界の潮流で置いてきぼりにされた』ような感慨のままが『果たして事態の好転を喜んでいいのか』、『これは本当に末永くの好転と言えるのか』?

 前向きには『己の望むようになった』と解釈・歓喜して、『いや本当に好転したと言えるのか詳しく事後調査もしないと』、『また殆ど己は蚊帳の外で、その無力であった事実を悲しめばいいのか』、『嘆けばよいのか』、『自嘲気味に強がって笑えばいいのか』——とんと己が身に一切の情緒も分からず。





「っ、何がいいのか分からないけど……でも、っきっと」

「……はい」

「『皆が安全な環境を得られて良かった』……、ひと、まずは……それで」

「……」

「そう、です——自分は……"こういったものが欲しかったのかもしれない"」

「……」

「平和で、穏やかで……『自分が納得するか』なんて二の次でも——、っ、それで」





 崩れ行く姿には無力感。

 自分自身に対する理解も遠ければ、剰え当然に意義を見出せる筈もなく虚脱の中に自然と折れる水の膝。

 未だ近くには『仲睦まじく安穏と交流できる親子の様』を目に出来ても"感極かんきわまっての涙"すら『行き場の不明な流れ』に混ざる。





「それも一羽のれなく、"安全な場所に送り届けられる"なんて……っ」

「……」

「ぅ、っ"ぅ! もしかしたら自分は、『こういうことがしたかった(?)』のかもしれない」

「……」

「『何をすべきか』分からなくても、でも、きっと、"皆が健やかでいられるために"、その僅かな一助や切っ掛けとなれたなら、自分は……やっぱり、それで……"本望ほんもう"?」

「……」





 すると、その身を支えられながら己へ現実の幸いを刻み付けるように反芻する者の近くで、"無言のイディア"は彼女も彼女で『初に立ち会う稀な変革の機会に"友へと掛ける言葉"を持ち合わせぬ』と帰結したのだろうか。

 それも例えの今ここで『如何様な美辞麗句』を持ち出しても『それらは青年自身でも己を分からず、今に救いのような何かを求める者』に『未だ探求の途上にある女神で【美】という"定かでない形"を与えても仕方はないから』——だがして、偽りなく『美しき友情を体現せん』とする姿勢は場に適した美しい対応を模索中にも過去に知った『良き友の形』として難局にも見捨てぬ。

 果たして『励ますべきか』、『叱咤も交えるべきか』と多識の彼女にさえ分からぬこと多く。

 なれどの過去には『前例のある自傷行為』など自暴自棄が壊滅的に起こらぬようと側にいて、後に青年自身から女神たちへ『一人の静かな部屋にいさせて欲しい』と願われるまで行動で示す支援の意。





「けれど、"大神や世界でこうも強大な力"、"個人の意志なんて大いなる流れに呑むような力がある"なら……"自分が存在する"、"何かをしようとする意味"なんてものも……」

「……」

「それならもう、"いらない"? 『己が悩む必要』は、『何者かと悩むこと』も……『誰かである必要もない』?」





 しかして、人は容易に救えない。

 どころかそれ以前に『青年ですら分からぬ彼にして彼女の在りたい理想』など誰にも救うこと困難であり——『結局の所で己は"不要なお節介"にして、"我儘で生きていたに過ぎぬ"』と非情な現実の自覚から血色のあれば青褪あおざめるといった少女の震え。

 "他者を救いたくても救い切れぬ者"は『誰かが助けられた喜び』の中にもあって『自己には揺れる存在意義』にも"今は嘆くばかりしか出来ない"のが『祝福に満ちる』と期待された祭宴で旅の終わる一場面。





「"自分の暫定的にやろう"としていたことを、"自分よりも完璧に近くやれてしまう"……"やってくれる者たちがいるのですから"」

「…………」





 愈々以ては足が止まる。

 宛ら『切に願い求めて遂には掴み掛ける手応えのあった夢』を、其の触れる直前で『それは決して自身が掴まないといけないものでもないのだ』と、『総合的に理性的な判断もすれば力の相応しい担い手がのだ』と強く知覚した日が今日なら——只々と傷心で訳もわからず。






「……だったら、自分は……これ以上、望むことなんて」

「……我が友」

「自分が望む、必要は——"何も"……っ"!」

「…………」






 途中に何が起こったか『改訂の式』も途方もなく理解を超えた力に分からずして、『そもそもの己は何者か』と引き続きに『自己の疎外そがい』で悶える心持ちは。








「っ……ぅ、ぅ"……っ、ぁぁ"……っ——」

「…………」








 暫し泣き疲れるまでの只管は止め処ない涙を流して友の腕に抱かれながら。

 空には二頭にとうはがねに身を包んだ蛇龍じゃりゅうの親子が新天地に風を掴む翼で向かう下にも——『祝祭の信仰集積期間しんこうしゅうせききかんの終わり』を星の全体に響いた王の告知アナウンスで聞く。




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