『渇望⑦』

『渇望⑦』




『また斯くしても【青年がより良く生きるための手掛かり】は——【何時なんとき何処いずこでも誰もが美味びみなる空揚からあげにける】として、それでいて同時に【一羽たりとて犠牲を出さぬよう】と』

『っ——は、はい……』

『やはり【犠牲ありきの必要性】からくじく、【そうせざるを得ない理由を奪ってやる】ことだ』

『うば、う……?』

『合法の極めて穏便おんびんにも、"奪う"——どれ。今宵こよい、"その一例"を示してやれるように【根回し】を試みる』




 泣いて憂いを口にした青年へと再三に説く波音こえ

 その語られて『戻すこともできるなら』での謂わば『試し感覚』に『"世界変革への希望"に縋るしかないのだろう』と未知への予測し難い恐ろしさ半分に頷いてみれば、対するアデスでも交わす頷きが了承し、言い残して肩にやる手から『温もり』と『激励』も置いた暗黒の重鎮が眩き宿敵へと見返って宣言する。





「——我らの間で話しは済んだ」

「……聞きましょう」

「『後から不都合が生じれば交渉の如何な成果もないもの』として——」

「……」

「『我らの意にそぐうもの』と——。"明察めいさつおう"」

「……いいだろう」





 イディアに支えられて何とか立ち上がった青年を背にアデスが話を再開し、対する挑発の色も投げられた光の王では『好敵手が己に対して戦いを挑むような気が未だ健在』と知って双眸そうぼうの細まる笑みを隠さず。





「しからば即ち普段は世界の動かし方などで解釈の違いある我らが大神で……"見解の一致する時"は来た」





 神聖の集う場で一旦に『纏めの言葉』。





暗黒側アデスサイドの纏めた意見も踏まえ、三者当面の取り敢えずとしては『交渉の場に向かうこと』を先ずは共通の見解とし——」





「……」

「……」





「——実際に誠意を先払う『変革へんかく』の場面シーンへ」





 秒で送った銀炎の眼光に"異論"も突き返されていなければ、『議決』で事態が将来まえに進むのみ。




「よっても此れよりは状況の進行に合わせて『何を成すか』の軽く説明」




「「……」」




「また『事前の気遣い』として『涙する川水もの』へは『その気になればまた直ぐに戻せるようなもの』だし、『そう深刻に捉える必要もない』と"慰めの許可も申請"して……あ、"そうまで吾が子について考えてくれる"のは、やはり嬉しくもあるのです」

「……」

「だから変革実施のされた後にも『"元畜生もとちくしょう"となる者たち』や『新たな楽園に向かう移動』を若い女神らの実感に何か『証明の形として示した方が良い』と述べて——『畜産で生計を立てていた者たちへの支援さえ神王ディオスのインフレーションパワーで為済しすませておく』と、お伝え可能であれば」

「……」




 それ即ち『暗黒の見えぬ顔色』を窺って、たとえの部分的にも"世界献上せかいけんじょう"の時が間近に迫る。





「そうそれも『星一つの内部なんて何処どこだろうと一瞬に触れられる範囲』に、アレもコレも出来るにだろう——"スーパーインフレーションなんだから"」





 なれど、そうを自信満々に言っては『己の発言』に波打つ光波からだかたまる王。





「……『"決まっている"』? 『"自由の化身に決められていること"』が……? そのよう"不自然"を思うと急に『出来ない気』もしてきた——『出来る』と決めたのちに『出来ない』のほうなのでは?」





 くすぶ炎髪えんはつ明滅めいめつ眼光がんこう

 打って変わって何方も『融解ゆうかい』の中途を思わせる閃光が銀でなれば。

 それこそは過去にも度々で確認された『おう発狂はっきょう』という"宇宙の吹き飛びかねない状況予測イベントフラグ"を前に、調整を担う神々で『高度に政治的な手腕』が問われる。




「むっ。これは——"自己矛盾じこむじゅん"」

「"自己矛盾じこむじゅん"ですね」




「え、あの『自分が大好きな面』と『大嫌いな面』をはじめとして、『己の内で激しくいがう不安定な状態をどうすれば良いか』——」

「(——い、イディアさん?)」

「"散逸する意識"の統一が難しく、『再び安定した統合を果たすにはどうすれば』と高度に自覚から俯瞰ふかんしても対処に"ほとほと困っている"——『世界の化身で複雑怪奇な大神なら当然にある』との、"の"……!?」




「はい。そうして『自己矛盾の隠し切れぬ程のすき』を突いても、"我らにとって都合の良い思想しそうり込む"のだ」




 そうして『世界の調和を保たねば』と、同じく複雑な内面を抱えるゆえに難局を知る大神ら。

 自己矛盾とは『論理ロジックエラー』の発作ほっさ的に王が気力をなくしかける其処を、『ガイリオスやアデスの政治的な意図を含む提案で【世界改善に向けた気】へと——『"王の実権行使きまぐれ"を持ち上げ直さねば』と邪悪の少女から"軌道修正の筋道"は示された。




「"なににもしばられぬ自由じゆう"? "如何様いかようにも相成あいなれる自在じざい"? ——"いな"! 吾をたたえる"そんなもの"は欺瞞ぎまんでしかない!」


「『自由の神』で何が『無限の容貌ようぼう』だ! "結局はわれも過去にあった誰かの姿を模倣もほうしている"——『既存きそんの概念を拝借せねば物の形容など出来るはずがなし』と! あなや『自由の形式にとらわれているだけ』なのだと……畜生ちくしょうッ!」




 よりても『世界の頂点に位置する王の癇癪かんしゃく』とは、それだけで極大ごくだいの脅威。

 実績として過去に『幾度もの大絶滅だいぜつめつ』を引き起こしてきた危難の局面へ、同様の心情を知る者たちは如何にして対処のみょうを見せてくれるのか。




「あぁ! どうすればいいのだ! 教えてくれ、悩める友よ——あわれな同輩どうはいたちよ!」

大事だいじない。『出来る』とも」




 傍目には『軽々しい気付きつけ』にしか思えぬのが今まで慎重にあった大神ガイリオスの言で切り込む。




「よくも言う! 吾は大神。例え『駄々っ子』に身を任せて在るとしても『聡明な姿勢さえ容易く捨てること叶わん』のだぞ……!」

「存じているとも」

「"説き伏せるような口振り"も分かっているぞ! 貴様たちが吾を『都合のいい願望器がんぼうき』として『アンナコトやソンナコトまでさせよう、言い聞かせよう』というきたない腹積りが——っ! "自由われを何だと思っている"……ッ!」

いま途上とじょうかみ。因りて『明確めいかくかいなど示せず』しては、"自身にとって都合のいように甘言かんげんささやくことしか出来ない"」

「……そうして正直者しょうじきものも嫌いではない。"明白明瞭めいはくめいりょうは事の次第が理解にやすくて助かる"のだから」

「うむ。いい調子だ」

「ええ、その調子。そのよう"明らかな言葉"をくださる? 今のボクたち我々は言い示したように『共感』をこそ求めているのであって、『どうにもならぬ』を『仕様もない』と突き付ける"下手な正論"などぴらの——」

「そう。『ざつめられて何時いつだって嬉しいのも大神』なれば、つまり、この調査で神王ディオスをおだて——"元気付げんきづけて願望器としての力を利用はっきさせよう"」

「さりとて隠す気もないな」




 "暗黒勢力にも何かと恩を売りたいガイリオス"で主導する。

 時に『最速を有する神』とは『誰より速く・より多くの推論を導き出せる者』として、『放っておいても物の数秒に真実への肉薄に至る王』の御前ごぜんでは『"敢えてに隠し立てをしない"ことも誠意を示す王道の策』が物言いを操る神の話術でたてまつる。




一瞬いっしゅん光陰こういんかろんずべからず。煩くがなればがなり立てるほど、光闇われらの対決の時も遅まきとなるぞ』

「くっ! 其れ確かに……っ!」

いう退けたのも誰であったか? てんに晴れ晴れと若年じゃくねん憂色ゆうしょくを晴らし、その輝ける身に思いでも"え切らぬ虚飾きょしょくを抱えるばかり"なのか?』

「そうまさしく、『吾の待ち切れぬ光景』が、"この先に"……『双方で正々堂々の全力勝負が見たい』と言った、『そのためにも少女の憂いを取っ払ってやらんとするのが好々爺こうこうやで気ままの王』とも言い退けられた筈なのに……っ"っ"」




 魔眼で睨むアデスでは『つるの一声』のように控えめは効果的にも——『我々で勝手にやっても光の神の速度で横槍を入れられると面倒なので、その神自らでに事を済ますよう誘導するのです』。

 暗に堂々たる背姿が学びの後輩に曰くでも——『【世界の起源に起こる大神とは純粋な力の始源】でもあって、ならば邪悪な方へと流れる前に我らで皆に恩恵のあるよう向かわせるのが古来より続く【自然しぜんへの祈祷きとう】』、『即ち導く此れもれっきとした【政治せいじ】であり、神をまつまつってこそも【まつりごと】よ』とは。




「凡ゆる技に通じる大神二者たいしんにしゃは『まじない』を使う——余の我ら『頑張れ』、『出来る』と言い放って、が『声援せいえん』の"呪術じゅじゅつ"」




 状況の流れに置いていかれる青年で事の詳細は領域の入り混じる場に聞こえずとも。

 断片的に伝わる波の規模が強大に速く、異様な空気に呑まれるようでは恐ろしく。

 少し離れた目と鼻の先で『大神の肩を揺らし、また笑う様』は以前に対処した『火山の噴火を遥かに凌ぐ熱量』なら『山々やまやまに地盤が自ずから踊って騒ぐ』ようにも知って、それら『着火寸前の火薬庫』じみた気配を前にも『口を挟もう』などという気は『矮小に揺れる河川』の自覚で微塵も湧き立つことはなかった。




『事の成り行きは青年でも【今はあらしめぐみを齎す側面】と思えばよく、私という悪魔でも好きなようにやってしまいます』

『……?』

『勘違いをしないでください。私はただ青年を含む多くの憂いや苦痛を軽減するために現行の秩序を破壊しようとしているだけのあって、つまり責を問われるべきは青年でなく大概は私の——いいえ。"思い付きで行動するアレら大神たちの責任"ですからね』

『……へ、"変に配慮を隠される"よりかは気が楽(?)……かもですけど』




「どうだ? 『未知への期待』にあおられては疑念ぎねんに埋まらず疑問ぎもんを見据えた力も湧いてきただろう」

「……そうだ。かつて志した己を思い、自由に立脚しろ、ボクが身」

「然りは心の如く。"誰にも解の見当たらなくても足掻いてみせるは大神"」

「っ! 言って、くれる……!」

「例え自縄自縛で苦しむ中にも光明を見出さんとする姿は凛々しくあるのが事実だ——燦然さんぜんと至上に輝く生き様。"永遠の今日までを続けられた者はいない"、"其方より先を行く者はいない"!」




 すると、自由気ままが目指す先。

 泣き膨れていた水が、いつしか彼女でも『己を遥かに超える勝手な振る舞い』を目の当たりにして『自身も斯く我儘なのか』と他者の身の振り方に省みる己で涙を流すのも多少は忘れられ始めた頃合い。





「だが、して、"こんなに仕様もない政治"が……『おだててはやす願望器の使い方』が、あるか……!」

「知らぬ」

「『あって、良いもの』か——」

「だからこそ『先駆者パイオニアの光』で見せてくれ」

「う、う"——うぉぉぉぉ"ぉ"!! そうだ、然り! "例えどんなにくだらなく馬鹿があってもいい"のだ!」

「然り! 然り!」

「"全ての許容"も自由! 最年長が児戯じぎに本気! 大神が宛ら小学生しょうがくせいでもしないように赤子の如くと喚き散らせば——うぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"! "衝動的それもきっと多分おそらく自由かも"だ……!」





 散々に騒いでいたディオスで自論に行き着くは円転滑脱えんてんかつだつ

 "正に未熟な学生でも恥を感じて大人しくなる眼前"には『食文化の存続の瀬戸際』と考えれば割と事も重大として変わらぬのだが——もう深く構わずの何処か軽薄にも軽妙にも次第に神で躊躇とまどいの色は薄れ、喪失されていた光の明度も取り戻される自信との比例に強まってゆく。




「その自由なにか再三再兆さいさんさいちょうに悩み、『取り敢えずやってみて違うのもいいか』で今回も愈々いよいよ挑戦トライへ向かおう……あぁ。『老いても挑戦』が凄い偉くないか?」

「何たることだ……難しいことに自ら進んで、挑戦を……?」

「うぉぉぉ! 良く言われていれば何だか吾にも力が湧いてきた! 在るような気がする! 勇気づけられて何処からともなく無限のパワーが……!」「永久機関えいきゅうきかんであるからな。"不滅のたましい"とはめられぬ限り、放っておいてもそうなる」

「だがして、『物は使いよう』とは正に。永久無限に最強嵐さいきょうあらしの如き力とは担い手の意によって『まが』にも『どく』にも『くすり』にも、『願いを叶える夢のようなマシーン』にも相成れる筈なのだ」




 縦線の歪むは熱を閉じ込める厚手の服に大きく大きな胸を張って、顎を引いても位置を高く直された『ティアラの髪留め』に眩く力強い反射は威光の再来する姿。




「反省からは『世界を変えられる気』もしてきましたわ。弱気に言ってばかりでも『大神が可能性にとぼしい』、【閉塞にまみれた限界集落げんかいしゅうらくの集合でもある』と露見してしまいますから……以後は愛しき臣民しんみんを不安にさせぬためでも常に輝く王は、強気に」




 しかして、"王の制御困難な一面"。

 場をガイリオスに任せて其の厄介な様子の観察に黙っていた最中にも『例え一つでも気心の掛け違えば皆が光の熱線に呑まれていた』と知るアデスで『やはり計算の不可能性を生かしてはおけない』と何度目かの確信で無言を湛える。





「己を忘れかけたボクは、吾は……"皆の希望"。『世界の王』なのだから……けれどまったく、愛娘まなむすめ補正ほせいなくして情緒も不安定に過ぎますね」

「……」





 暗中に『今回は偶然と我らにとって都合よく運んだだけで、やはり自由を尊重するにしても限度があって然るべき』とも、『斯様な暴君に執政を任せておけば皆の心身は滅茶苦茶となるばかりだから、殺さねば』とも?





「……」

「……"?"」





 かつて衝突の際に交わした遣り取りは——『【畜生として使い潰す】ことも、また其処よりの【解放】も自由。無限に在る選択肢とは自由の一部であるから』『"苦痛"さえも許すのか』『おうとも。全てに意味も価値もないと皆で苦しくて堪らないから……吾で先行して【痛む意義】を与える』とを思い出してか、どうか。

 "輝きの王"と"暗き王"で、其々は『無限の幸福』と『完全の幸福』で最終的な思想の違いも意味深な間の交差で現状に再確認とし、そしても今は『"共催の祭り"に表立った敵意は隠されるべきもの』と神妙。





「そうして『しみったれハート』も此処までに——オーケー! やろう、"やっちまおう"ですわ!」





 なれど即座に背丈の高い美女の方からは声と全身よりの気炎を吐き、膝を叩いて揺らした太きももの上にも神の玉体が『光の柱』として再起する。





「常に波あるマインドセットも完了。禁忌に重大を軽々しく超えても縛られぬ様で始めましょう」





「「……」」





「思い立ったが晴れの日に。秒の間に飛ばす『失職しっしょく辻褄合つじつまあわせ』や『生活必要最低資源せいかつひつようさいていしげんの支給』も……『"それでも働きたい"ならの使命斡旋しめいあっせん』も瞬きの間に為済ますこと、無限の神で能わん」





『……何か本格的に始まるようです』

『……イディアさん?』

『念のためでは我々も離れずにいましょう』





「"自由解放"とは、そも前提から変えて此のように。親や祖父母から家業として受け継いで、それでも『命を搾取さくしゅするやり方』に疑問を抱いていた者たちへ——正に鬱屈うっくつくも一つない好天こうてんよ!」





『どうやら【自由に悩む者】はそれ故に色々を挑戦してみるからして、けれど【自己の自由な意思決定を最優先とする】からには省みられない周囲で【凄まじい被害】や、また【信じられない程の恩恵にあずかれる機会もある】ようなのですが……どうにも今回は嵐の如きで【後者が起きる】ということ』

『それは……アデスさんが調整してくれても穏便な?』

『幸いにも、はい。彼女が誓いを述べたならば我々にとっても悪しき結果とはならぬ筈です』

『……はい』





「そうした吾が子なら、喜べ! 今日きょうにお前たちの夢は確かに一つが叶うだろう!」





 そうして場の要約を噛み砕いて青年を落ち着けるイディアと、また若い二者の前では『私の後ろで側に寄りなさい』と闇の色を深くするアデスで青年の周囲に守りも厚く。





「殺しもしない、怪我もない。ただ今これより『課せられた宿命しゅくめい』に『無職となる者たち』すら一様に吹き飛んで、目覚めた先が余生よせいにも似た一つのひまな感慨を得る」





 寡黙には『既に己が効果対象から外れている』ことを式の内容として知らされているガイリオスの手前で溢れ出す光。





「その中で思い感じたことを信仰にしたためよ。お前たちは此処に『新たな自分』と出会えるのだ」


「『現世界げんせかいオーダーの破壊はかい』は、『新世界しんせかいオーダーの創造そうぞう』——タダめしだ、きっぱらにくれてやる!」


「膨らませるは究極のフリーランチ! しかして今より世界——『食文化しょくぶんか野原のはら』にしてやろう……!」





 自ら熱の指で縦に切開する下腹より白く光を引き出して、そのかなめに描かれた銀河の紋様が回っても全身の筋繊維に漲っていた奔流は次の瞬間には惑星を駆け巡る——"いのち拡充かくじゅう"を終えている。





 ————————————————








「——"!" ——『リ・コンストラクト・インフレーション』——"!!"」








 光の最中に変じた世界へ遅れて独唱の声は轟き、瞬間に開腹を溶接で閉じた王の体より粒子の残り香が弾けて見えたなら『ゆかを一新する』ようにも星を巡った放射の線。

 その皆の気付けぬ瞬きの間で何事もなかったかのように新たな世界は芽吹いたのであって——俗には『無料アップデートの実施』で不便との声が多かった『腹減り機能』はなくなりました。

 それに伴い、『外部からの栄養摂取』も多くが必要なくなりました。

 つまりも、この機には食う必要のなくなった皆で同時に『大きな』がどうのと『便べん』の概念も消失し、それ即ち全て体液循環の範囲で事足りて『時折のしょう』を指すものと相成れば——"理想に肉迫する一歩"が踏まれた。

 起こったことを再度に説明しても『然しての犠牲なく皆の腹が満たされるもの』とは正しく夢のような、それでも『少女の願望を実現した力』は『大いなる機関での絶え間ない生産にできること』——そう、『空腹』という時として『最高の調味料』も実質的に失われれば、皆で『とうに満ち足りた腹』に口から喉を通して物を押し込む気すら殆ど起きず。

 そうであるからしても今後の世間に広まる動向を予測するに今までの人々で言うところの『"人肉食じんにくしょく"的な【禁忌きんき】の位置付け』に『殺して食う』という概念そのものが置かれるのかもしれない。





『……え——"終わり"? 何か本当に変わったのですか……?』

『皆に与えられた力で身に空腹らしい空腹もなくなって、次には互いが痛ましく干渉し得ないように【移設作業】の本格化だ』

『……"?"』

『それ、情報の波に呑まれてほうけている暇もありませんよ。【青年でも結果の一端を実感したいだろう】とは見越して、【大神に示す感謝と協調の形】を【見学と分析報告の任】といった約束にも既に私から一部を取り付けてある』

『……』

『然らば女神イディアと共には軽く星の裏側まで走ってなさいな。今にも発着する多くの輸送機ゆそうきが彼の領域に集う光景も道中に見られるでしょう』

『……は、はい』





「その点につきましては大いなるでも神に御配慮を頂き、浅学に大神の技を学ぶ機会を得られたこと大変に喜ばしく……未だ波に呑まれる彼女に代わって暗黒わたしからの礼を」

「余としても偉大なる王者に『苦しゅうない』と言う機会をたまわっては……己の領域で惑星規模の量産も既に済ませてあり、種族や各血族ごとに場所を割り振って根刮ねこそぎとする去勢きょせいでなくも『生殖の概念を書き換える立地』としておく」





 それも生物の基礎構造を瞬時に書き換えたディオスだけでなく、一時的には同盟を組むガイリオスにさえ『システムによる救済』のようなものは実験を重ねて準備が出来ていた。

 彼の物質界の王でも用意を実働に移す動作では、"ガラスの二層構造"で出来た謂わば『プレパラートの眼鏡』に挟む物を切り替え——観察で見遣る世界を変える。





「それは、また……『かたじけなさ』とは今のような心持ちを言うのでしょう」

「神々の王に配慮しては『割合と自由を出来る』ように、魔の王に対しては『増えない』ように"板挟み"でも立ち回りが肝要となるからして当然の計らいである」

「……言外にも重く苦労をお掛けしたようで、わたくしにも暫し眼差しの下がる思いです」





 その深き緑の視線の先では『個体が皆を飼育しようとしては好き嫌いの差し挟まる余地のあり、その差を設けてしまう必要のないもの』。

 猫がエンジンルームのような場所に入り込むこともなければ、駆動する機械のようなと動物も住み分けて。

 各種の生態に合わせて環境を大陸から用意し、けれど個体間での接触は極々僅かと制限させてもらう設定が——『増やす』のでなく『最後まで看取る為の隔離設備』を起動する。





「余でも所詮は模倣もほうの一つとはいえくらき世界に想いを馳せ……やはり、その原型オリジンたるを組み上げた神へは『譲歩』や『協調』の意を」





 ガイリオスで『既に描いていた展開。予測も計算も済ませてある』と、手に持つ三叉を『呼び寄せ』の一筆いっぴつに揺らせば此処にも『一機いっき』が青年の背負う重荷を迎えに同地へと着陸させ——これより見確かめるは既に時を駆けた『迅速インフレーションの成果』。

 実質的には『かすみを食って生きる』と形容して相違のない者たちが変革した世界に数多く待ち受ける。




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