『渇望⑥』

『渇望⑥』





 前に一輪いちりん乗機バイク

 後ろの二輪にりんは合わさって——計の三輪さんりんが『鉄馬てつうま』の如きに乗って現れる神と神。





「……"何用なによう"か」





 重々しく気配の待ち構えるアデスに問われても、何やら暗黒に見せられた状況には先頭を行く美女で首傾げ。





「……"?"」

「……」





 その直ぐ背後にはもう一つの柱も『華やかな顔』として顕現。

 片やの実際として朧げに輪郭で輝く前者は長い髪の頭頂に『稲妻』の突出はあり、金銀財宝の如く輝ける瞳は秘密の光波サイファー

 見遣る虹彩の異色は暗黒と相対して反射はねかえり識別子コードを探し——『片目隠れ』・『銀の長髪』・『爆ぜるかの如き乳房』・『美女』・『新しき体は処女』・『命の祖とはははでもある』——古今東西に見られる『欲求の王道ごった煮』の化身は左眼を縦に切り裂くよう玉の肌に傷のあって。

 なれど、当該の瑕疵かしさえ『歴戦の証』として深みの魅力とするのが『ぎんぎら』の装身具を数多に纏って失せぬ超然美貌ちょうぜんびぼうの色。




『"あれなる二者"は【大神たいしん】だ。"気紛れに行う女装"のようなものと思え』




 片や後者でも美少女は学者風のゆったりとした長衣ローブ

 守りに深く沈めた豊満の身が『大物との会合』に挑む間際にも自らの片眼鏡モノクルを布で拭って曇りなく調整とし、その頭頂で構造が色を持った濃淡に『三本さんぼん』の阿保気あほげを持つ女神も加わって混沌に深まってゆくのが地表の




『そうして【私の背後から出るな】』


『美の女神ともども【許可のあるまで表立った意を差し挟むなかれ】』




 黄昏時には夕暮れよりも暗く染める身でアデスが身を寄せ合う若い二者を背に。

 湧き立たせる薄靄うすもやを『魔眼の覗かせる隙間レースまく』と仕立てるようにも。




「『何をしに?』——とは」

「……」

「……"大概たいがい"に言われても、聞かれて答えるなさけ」




 光景に映りきらぬ印象を重く纏う少女。

 毅然とした態度に立て直した姿で『急遽に始められた三頭会談さんとうかいだん』の場へと臨む。




「"ボクたち大神らの狙い"とは——『純粋に競技でまくるため』にも『先頭を行く生真面目な神たちから機会を頂戴できれば』と思い、今し方までをそばに」

「……」

「加えては『有する情報のり合わせ』。暗黒の手勢てぜいで何やらも『燕雀えんじゃくの心の如く』に『駆け回るを許すとしている』ようですから」

「……」

「『偽りなく貴方で仕組んだ覚えもない』と仮定すれば……『此方とて徒労の駆け引きも其処其処に』と思いまして」




 その無言の圧に対し、淀みなく話しているのが『神々の王』たる悠然のディオス。

 此処での彼の者が言う『燕雀えんじゃく』とは『何を泣き喚いて許せぬことがあるのか小さき者よ』との『第三者』であり、話し込む二者を除いて『期間中にアデスが最も気に掛けた其れ』とは『青年女神ルティス』であるからしては、今も『他者事で涙に濡れる彼女について』を訝しんで指摘する。




「そうして『何時何時いつなんどきたみのため』には健やかな世界の存続を思う我ら諸王の神としても」

「……」

「この後で『暗黒の貴方に願いたいこと』のあれば、それが『中々なかなかの内容』なのですから……『見返り』として示せる中々なかなかも『中々なかなかにせん』と悩んでいたところ」

「……」

「即ち『平和的に話し合う余地はある』として、過去には激しく見解の相違で衝突し合ったひかりやみの間にも——『"譲歩じょうほ"の意』を示さねば」




 先に『女子校を支援した帰り』には、『放課後で食べ歩く装い』のままにも来訪した王。

 横で『念のため』とは場に相応しい礼服に着替えも済ませてある大神ガイリオスと違い、彼の光の大神は『暗黒の気配を探るのに必死だったために着替えを失念した制服姿』の状態で輝かしき思惑の一端を語るだろう。




「よっても今より示すは『一つの交渉材料』。相手側に利益を送るもはばからず、『歩み寄りの実証』が例え申し出を固辞されても『くれてやるぜ』の"先払さきばらい"」

「……」

「つまり『"取引のようなもの"を受け入れるか』の詳細な話は後でいいのですから。今は急でも『自由じゆう』のボクが身で……『口先の何とも言えましょうゆえに【先ずは行動】から恭順きょうじゅんの用意を示そうかな』、と」

「……」

「何よりは我ら"複雑の多面"でも『義を見てさぜるは何とやら』」

「……」

「"川水の女神で瑞々みずみずしくもかわいている"ように見えましたもので……『その渇きの解消には何かお役に立てるかも』と」

「……」




 展開する領域に明暗の別れる二者で、力ある眼が視線を据える。




「そう。『願い』とは『己で形を自覚することこそが重要』であって、"その自認で以て追求する先にこそ夢にまで見た景色を世に具現として導き出せるやも"」

「……」

「しからば時に聞こえた皆の"綺麗事"を『小生意気に面白くない』と思う自分もいて……しかし間のいいことに今のボクは『慈愛の母』にもあれば、"声の形"として表に出されたものを当然と『其処な少女の慟哭どうこく』も一部を聞き届けていましたよ」

「……」

「それも吾が子らを親身しんみのああまで想ってくれるのは……事実として母の身にも涙の流れる程に嬉しく」

「……」

「本当に、有難う御座います」

「……」

「まだ青くある年にも『民草を守る高潔こうけつ』は勿論、その拡大する守護の対象は以前の『神獣への取り計らい』や『疫病の怪物』にさえ涙を流して頂けて……敵味方一切も情に深く呑み込む様をボクは未来に見ていました」

「……」

「いえ、"過去に見た未来"だから……それでも"過去"? ——兎角、大神からも見上げる程の立派が云々々うんうんぬん




 "他者との時差に順序の入り乱れる光の話法"にはアデスで口を開く『確認』が、"漸くの二言目ふたことめ"として。




「……顔を出したようは『あふれる感謝の念』に、『彼の者へと謝礼の一つもこぼしたくなった』と言うのか……?」

「はい。概ねが、そのように」

「……」

「ですので『移すなら協力しちゃいます!』とも、『単に感銘が居ても立っても居られずのお節介』とも」

「……」

「"何か問題となっている仕様の修正"。『バージョンを引き上げる』ようなのをボクとは吾で主導してやっても宜しければ」

「……」

「此方にす大神ガイリオスでも『同様の意はある』らしく、より具体的な献上策けんじょうさくとしては『テノチアトランの隔離領域かくりりょういきに運ぶ手伝い』をば」




「……」

言分いいぶん相違そういない」




「それも未来に影響を予測しきれぬ子なら『コレクトネスどうの』で慎重にいかねばならぬ所でしょうが——『自由の化身』は己の本意に思ってまれませんので?」

「……」

「しても、『食を必要としない生命デザインは比較的に経験がないなら今日から暫くをやってみたい』と言って……果たして『瞬時に世界で吾が子たちの書き換わる様』など如何な"世の味わい"なのでしょう?」




 仄かに光を帯びる玉体の根幹を成すは中軸。

 下腹部で『制御の紋様』が幾重にも渦を巻く、其れは宛ら銀河的ギャラクティック

 事を企てる王で『何をどう吹き飛ばすか』と素早く指先がなぞりつつ。

 準備を設定しても、その指を次には口へ運ぶと『未だ見ぬ式の味わい』をアデ姿スガタで舐めとって見せよう。




「よってよって今回に貴方たちが抱える案件については成功報酬の信仰も山分やまわ——いえ、ちょっと比率を我らの陣営に傾けて頂ければ勝負の行く末も分からぬで程よく」


「これを機には『"模造肉もぞうにく"的な概念』も、より広くの普及ふきゅう。いつか授けた食文化も大きく根底からを破壊して、新たに起こる創造の不思議な様式へと遷移せんいの様が待ちきれずでも……"自由の探求者"として『そんなことしていいのか』と、禁忌きんきの機運が高まっている方が色々とはかどります」




「……」




「其れは『背徳はいとくの感情』にも似て、"皆の絶対と思っていた常識が音を立てて崩れるよう無意味同然に落とし込む"のは……やはり、"かたまらぬ邪道おうどう"」


保守ほしゅであって、また同時に大胆な改革派かいかくはでもあるが大神——そう。『全ての頂点に立たん』とするならば、"どの様な思想も考慮の内に含まねば無限むげん君主くんしゅでありませぬ"」




「……」

「"暗黒あなたの理想世界"も明言には教えてはくれぬから、前提となる条件が不完全とはいえ『模擬実験シミュレーションで見てみたい』からね」

「……」

たまには、"他なる神の掌に踊る"のも悪くはない。『ボクに対する評価』や『感情の機微きび』を『に出来るかも』の心理戦しんりせんじみた副次的な効果すら起こるかもして」




 つまり、王の口で仄めかすのは——自身の子らに隠されていた無限の特性をけんとし、平たくは『空腹知らず』が『補給を要さぬ命たち』への"変革"?




「……うん。やはり、そうだ。今はくの如きにかたむほうが己の心に興味ある」

「……」

「言い連ねたように『為してしまう』のにも色々と理由のあれば、未だ『只ならぬ緊張』をあいだに持つ我々で、それでも今のように利害は一致してやぶさかではないなら——やってしまいますか?」




 仮に世界の最高意思決定機関である大神に『その拡張工事が実施された』としよう。

 さすれば皆が『祖たる神の原初』に寄っては『自己が存在するのに必ずしも外部の事柄を必要としない究極の個』へと其々それぞれせまった日が——『革命的な出来事が今日になるかもしれない』と果たして何処までを"本気"で言っているのか。





少年少女しょうねんしょうじょうれい一つ、それも吹き飛ばせずして何が『頂点ちょうてんおう』か」





「……」





「例え"由来の怪しき女神一つ"。"思いわずらう者"に救いの手を差し出せずもして、何が『世界を統べる王』なのか」





「……」





「"悩める民の一つ"を早々に見捨てては、我々の誰が『すべてにせま万能ばんのう』などと……"いやしきくちにも便べんれましょう"」





 君臨する三者は『世界の既存文化を大胆に極まる暗黙裏の強引にも"すり替えてしまおう"』と大きく真面目に駆け引きしあう『破滅的なお姉さんたち』で、はらの色は誰にも底が知れない。





「『冷酷なだけ』が世界の王であるものか。冷酷そうであるだけなら徹頭徹尾の始終で不変の本質は冷たくあって……"そんな分かり切ったものが退屈たいくつ"」


超越時空眼タキオンで未来を覗くどうのでなく、それ以前に未来を見ずとも先行きは読めるから——そうだ。"我ら数多の世界を見てきた大神"。『お決まり』や『定番』に『王道』のたぐいだって見るに見飽きて、『ただそれがそうであるだけ』では無限むげんうつわのだ」





「……」





「因りても叶うなら、"王道だったら突き抜けて欲しい"。"王の敷いて王の知らぬ"——"つづみちさきの"、"さきまでも"」





「……」





「『思い描いたことは全て実現可能の奇跡』なら、『りの夢』を見なければ。誰に何と言おうと其処にこそは『理想の実現へ向かう素晴らしき未来図』が生じ始めるのだから……『はなさだ綺麗で素敵な夢物語』もげんに望む延長線上には——『"しょく"や"扶持ぶち"の為に間もなく死する運命にあった者たちを引き連れて皆の満たされる日々』へと」





「「……」」





「"臆面おくめんのなさにも心配"なら、このように"美少女になっての行い"……実際に"何もかもが許される"ような気もしてくるだろう」


「そうそも、古来より続く『女神性めがみせい』を継承するのが現代に於ける『女子高生』の概念。肉体的の全盛が『うら若くの乙女』にして、けれど多く既に『産みの権能』は備わり……『』と『おや』の"さかい"にて"危うしの魅力"が、故にも触れ難く」


「それこそは『俗世に在る』と感じられ、だがして『遠く思わせる"神秘"のおもむきを継いだもの』……即ち今なら『麗しき女神の女子高生』で何をしてもなら——"その印象的に許される範囲"すら『何処までか』と試してみたくはないか?」





 そうしても『制服を着た自由の化身』は『若き老女』で『形式に縛られぬ語り』が『残る変態能力者たち』に『大志を抱くことの趣深おもむきぶかさ』を説く。





「だからには纏めて見目みめ顏桂かおよしだけでなく青年女神の"綺麗な願い"、『苦しみの少ない』という、"ある種の誰もが抱いた願いの先"へと期待しよう」

「……」

「追加に補足する理由としても『現行の世界は決戦の場に相応しくなく、暗黒あなたの抱える少女の意にそぐわぬ』から、仕方ない」

「……」

「精々の数百億年ほどは『吾が思想でも異なる趣に心を寄せる』として……吾は、"お前たちの全力ぜんりょくが見たい"のだ」

「"無限にして強大の神"! 『大神』とは『世界の理不尽』に向き合っても——めず・おくさず・ひるまぬなりて、『』にして『かぎり』を超える"生命せいめい可能性かがやき"が」

「……"其れもまた本心ほんしん"か」

同類たいしんに言うまでもなく」

「……」





 "探られた動機"にも言い切っては、自信に溢れる美笑びしょうの顔。





「こうも機嫌がい今のうちですよ。正には『あらしの如くが大神』で潮目が変わる前に、『悪辣あくらつの側面が強く主張する前にアレコレ趣向を凝らしておくべき』かと」

「……」

「時の偶には大神らで飛び切り綺麗な、『誰の損失もなくして益を享受したい』という理想の願いを聞いて己にみ……多くの虚飾きょしょくを平然とける『与太郎よたろう』で、『獣心じゅうしん』を抱き、『奸悪かんあく』にありさえしても——」

「……」

「——けれど、『純心に皆を思う面もあった筈だ』と模倣から入る行いも過去を多く思い出させてくれましょうから……今日ぐらい、いや暫くの億兆年おくちょうねんぐらいは『"そういうの"もいいかな』と」

「……」

「"着飾きかざり"から見て分かるように"大神われらだって綺麗でいたい"」

「……」

「"話し合う"この場に立つは『王としての己が求めた理想』にだって、"自分の優しい側面に素直に従いたい時も偽りなく胸奥むねにある"のですから——任せて頂けますか?」





 進んで掘り下げられた事の経緯が光ある眼差しに述べられた後には、"差し出す掌"。

 "決定に向かう裁量"が『表情の窺えぬ女神の番』として、聞きに徹していた向かいがわの領域へと委ねられる。




「どうです?」

「……待たれよ。"見解を取りまとめとする差し当たっての猶予"が必要となるゆえ

「……はい。構いませんよ」




 そうしては一通りの交渉に続く窺いを立てられたアデスで、『自陣でも話し合う時を拝借する』として警戒を維持したままが秘密の領域中にも振り返る。




「我が弟子に女神イディア。今、我ら大神では——"このように"、話の流路りゅうろが確認されました」




 力を発揮する魔眼によっては青と黄の眼差しも引かれて暗所にまたたき、その瞬時の遣り取りによって『会談の内容を平易に掻い摘んだ要綱ようこう』が手早く三者の意識に共有される。




「——では、"神出鬼没の女神アデスと話し合いの場を持ちたいが為に"、『大神の二者は何か願いを聞き届けよう』と?」

「はい。ですので今のような状況にも利用を思えば、青年の手に余る諸氏も大神ディオスでは『移送に掛かる諸経費を軽減』し、大神ガイリオスでは『それら皆を預かる場や多機能の設備を無償で提供しても構わぬ』と——我が前に"言質げんち"として述べて見せたに等しく」




(——今の短い間に、そんなことが……)




「即ち『皆の楽しむ祝祭に際しては本当に世界をより良く変えてしまおう』との提案があって、『その終期しゅうきの迫る催しとして最後は明るく晴れやかに』、『好敵手こうてきしゅたる両チーム共に淀みなく爽快な心持ちで最優秀を競う場へと臨まん』——とのこと」




 要約を重ねる暗黒の女神で自らを覆っていた垂れ幕を軽く手で払い、暗がりにも隠さぬ微笑みを未だ涙の頬で乾き切らぬ者へと柔和の眼差しで以ても向けてくれる。




「……うむ。『がいい』のですね」

「で、でも、"そんなに美味しい話にはうら"が……表面上の分かる範囲でも一部は『俺のせいでアデスさんの好機?を使ってしまえば』、貴方には特に、恩恵が……」

「構わない。私も私で自分の利益のために他の大神や——『隠さず』を言ってすら、"そのおびき寄せるために利用をしている"のだから」

「……ですが」

「心配せずとも、密かに上手くやっています。それに何よりは、貴方から『手厳しい評言ひょうげんの一つ』でも頂戴すれば、差し引きで私の感情は『とく』とするのです」

「それ、は……」

「……?」

「……アデスさんが『抜け目ないかた』だと理解はしているつもり、とうに大恩たいおんがある身で承知の上でも、今更……」

「……」

「つまりも、自分でも勝手なことばかり言って困らせてしまっている身で……それ以上の、強くは」

「……はい」




 次に暗黒では『眼前の涙を拭ってやろう』と空間の色を千切って。

 なれど、世話を恥じらう青年で『制止』の手付きにも受け取った黒布が自ら顔を拭き直す仕草を見ても再三の微笑が嬉しみの色を隠さず。




「しかして急変の場を読み解けども、『大神という世界を運営する側が不備を認めて改めよう』という時合じあいに、『丁寧にも一市民の貴方は王たちへと【切実な便たより】をくれた』だけ」

「……?」

「『声を届けてくれた』のです。あくまで貴方の言動を一因いちいんとして、『予てから我らの間にあった疑念を調整してみよう』との"問題に向き合う契機けいき"をくれた」

「……"きっかけ"に?」

「"——"。ですので此処に何を意見したとして青年に大元の責任がある訳でなく。寧ろ王たちで『民の困る事情』を細かに把握したければ、u普段より皆を気に掛ける貴方の視点"は大いに参考と成り得るのですから」

「自分の……?」

「ええ。『既に大助かり』として、余り己の行動を気負わずに」




 事態を説き直して確認を求める今に『大いなる神たちで殆ど一方的にも話を進めた事実』へ承認を得ては、年長者から若者へと『責任を担う補助』も逐一に存在を言い示しておく。




「そうして『他者に牙を突き立ててにくを断ち切る』ようなこと……『恐怖を刻む加害や被害の存在』を『あって当然の正常』にしたままでもなりませぬ」

「……」

「時に『食物連鎖しょくもつれんさ』などという『自己の単体で完結せぬ不完全性の極地』は『いずれに滅び行くもの』と、その時期が早いか遅いかの細かな差に過ぎぬのですから——『今回はじょうじてしまうのも宜しいのでは』と貴方の参謀から"墨付すみつきの助言"とさせて頂きます」

「……アデスさん」

「此度に関しても、『場合によっては私が手を加える』。仮に『事の成り行きが青年の思っていたものと大きく違う』、『望まぬ結果になった』とすれば……『そそのかした我が責任』として不肖の身は調整に尽力し、"如何いか惨状さんじょうも現実への永続えいぞくを許さぬ"」




(…………)




「……女神イディアで申し出ることは御座いますか?」

「……いえ」

「『進めて構わぬ』と?」

「"——"」

「……分かりました」




 問われて多くを語らぬイディアは『別に構わぬ』と。

 大局の変化する潮流を間近に感じ取っても虚心坦懐なら取り立てて動じることも皆無の彼女で『何がどう変化して在ろうと目的は変わって無い』との傍目には鷹揚おうよう

 今には尚として『美しき友愛の形』を追求する身が『激しく揺れる青年の心情を優先せよ』との目配せを交わした暗黙の合意で『友の側近』へと今暫し専念する。





「さすれば青年は、"どうしたい"のだった?」


「今現在にも何時いつにも、貴方の胸に抱いた思いを口にしてくれれば私で実現に向けて心付こころづけは能うやも」





 よっては場の殆どの者で明確に大神組の厚意を断る理由も持ち合わせぬなら、再三の確認が残る涙の青年へ。





「……俺は、ただ」

「……」

「——『何をも犠牲とせずに美味おいしいものをあじわいたい』」





 落下に死しては、心のひびを露わにする時。

 その隙間に染み出す悲痛は目の切れ端にも再びの水を垣間見せる。





「この身になって事象の多くが『初めに必要性ありきではない』と知って……なのに、それなら既に無限は在って大して重要ではないことなのに——『誰かが誰かを喰らう』のさえ、"どうしようもなく不快ふかい"で……っ"」

「……」

「でも、"そんな世界に生まれたのも自分"なら、『正直には楽しかった』、『もっと他者をどうこうするのを楽しみたい』という心は確かにあって——……っ!」

「……」

「『誰も殺さず』、『傷付けず』——『皆が好きなもの好きなだけ』! 『誰も苦しまずに済む世界』……!」





 うるんでも祈る。

 痛切の声でよくり、例え"消沈した筈の気"にも持ち上げる眼差しが『死して・死なせて未だ納得のいかぬ思い』で『不滅ふめつ在り処』を"夢見ひとみ"へ映して訴える。





「っ! 俺は……『誰も割りを食わずに、それでいて美味しくものを食べたりも出来て』、何よりは『自然と喜びから笑顔になれるような世界』が——"しい"……!!」

「……」

「俺だって、また……"無邪気に美味しく味わう肉の味"、"何も深く心配せずにハンバーガーとかへかぶり付きたい"」

「……はい」

「キャラクターの設定が細かいコンテンツで、『好きなもの』のらんに『食物しょくもつ』があるだけで『苦虫を噛むような思い』も……もう……っ"」

「……存じています。貴方は『無より湧き出るような製品』以外には強く抵抗がありますのでしたね」

「嫌だ……っ! 何もかも-——いいや、"自分が面倒で嫌"なんです……ぅ、っ"……ぅ"——」

「後で『本日の大変だったねぎらい』には、私で適当な暗黒物質ものを『くちなぐさめ』に用意しておきましょう」





 そのみっともなく涙する存在。

 未だ世に成立の真偽は兎角に、国家の枠組みに生まれ、今日ではその存続を脅かしかねない『捕食や被食概念への強烈な忌避』などの思想を青年でも持つに至って。

 なれど、"往々にして皆を許容できぬ不完全"から『見切りの排除』や『仕様もなくての暗殺』を狙われるような"異端となった存在"へも——"世界の王"は『容認』の言葉にて囁く。






「ぅ、ぅ"……ぅぅ"……っ……」

「はい。我欲に苦しむ自己嫌悪そのようであっても、『見捨てたくない』のが私」

「ぅ、ぁ"……っ、……ぁぁ"……っ——」

「『"私から貴方を捨て置く"ようなことは』と再三に、何度とあっても約束しますので……"体制に大きく反する行い"も邪神わたしに任せてください」




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