『渇望⑤』
『渇望⑤』
夕暮れの広くある丘には衝動的に集めてしまった命たち、その最適な処遇に意見を求めて深く下げる頭。
「……お願いします」
「……」
先には己の浅慮を認めても請い願う、恥を忍んでの口振り。
それもやはりは『もう誰の悲劇も見たくはない』・『己であんな喪失を想起されたくはない』との心苦しい青年。
己の内に有する『
即ちその"合わせ技"とは『自身が何処にいるのか』・『周囲には何があるのかを微細に感じ取る能力』とも形容のできれば、更に別口と言い換えても
("…………")
今し方に手当をした小鳥が手ずからの給餌に空腹を満たされても安堵に眠る波を察して心地よく、詫びと請願に引き締めた瞑目でも心での喜びは新たに水の
退屈な
それらの応じる姿勢も『ただ無意味の無限に広がる世界』にて『
『……女神。"これ以上の沈黙"は——』
『分かっている』
しかして素性に不審な点の多く、半神の確証すらなくは『謎多き身の青年女神』でも。
指示伝達に使われる電気信号の委細までは読めずとも。
獲得した空間把握の力で水の震えからは反響定位などを通して生物の大まかな情動が過去の
それでも、得てして『悪意』や『殺意』などと呼ばれて心に不気味と巣食うのは『
『青年のためでは
『……』
『【本当に心から望むことを為すには何に主眼を置けばよいのか】と、【そのために必要な要素に条件とは】を知るにも"学びの
だからこそ平時はアデスでも『世に溢れる災いから青年を守る』意図のあって外出に様々な規定を設けているのだが——"それでも外界に『己のすべきと思うこと』を果たしたい"。
その"総当たり"に"消去法"やで同時に『真なる夢を導き出さん』と。
女神の庇護下で強迫的にも足掻こうとしている今に、世を満たして溢れる不平不満や苦悶の流入に『"悪気なしの殺生"の繰り広げられる事実』が——気持ち悪くなってしまった。
『
その胸に抱える重いは『必要悪への嫌悪』や『行き場のない憎しみ』とも言えよう。
だが、しかして『だとしても世界を変えるほどには力のない非力な己』で『何をすれば良いのか』も見当は付かぬ混迷。
進むべき流域の分からず。
迷いに
『それも一つとして、【私が側にいて余裕の残されてある時に
内なる叫びが身を引き裂く——『また自分のように苦しいまま、悲嘆に沈むしかない者を見たくはない』と。
張り裂けるようにも
"救い"を求めて彷徨う——『アデスさん。"幸福の約束"を』、『イディアさん。その"美しいだろうもの"を俺だって見たいよ』。
『"大規模な集住というだけでは救えぬもの"。【
『……』
『そうであるからして、やはり、"青年を救う"には【完全なもの】でないと足りませぬ』
『……』
『その次善に立つ策としても最もな概念に肉薄せんとする我々で【理不尽に抗う当面の向き合い方】を"腑に落ちる実現の可能性"で示してやらねばなりません』
その叫びを重ねて抑えきれぬ衝動こそは『【
"その他の大勢を共に感じる者"が己で『
だから、『"己へ差し迫る問題"の解決のため』には必死で身を粉に働いたとして"何もおかしいことはない"のだ、きっと。
「"……"」
「——"!" (アデスさんの溜め息——)」
「
「——は、はいっ」
「
「——それは」
するとそうして青年の胸中を読まずとも魔の眼力に洞察するであろうアデスが語り出す。
その抑揚の少ない音の重ねは『例え未熟でも青年が反省点を自覚してなお考えを進めようとしていること』は高評価とした丁寧な言葉遣いで場の雰囲気を和らげつつ、それでも求められた指摘を次からの淡々には優しさと厳しさの同居するのが恩師よりの助け舟。
「しかし、余らせていた貯金の殆どを費やせども、『
「…………はい」
「その件については私で黙する間にも暗に補填を済ませ、『"自腹を切った貴方"に深く反省の色も窺えるからして大きな問題はないもの』としますが」
「……すみません」
「今に
「……はい」
「随分と
「…………はい」
言葉の投げ掛けは『迷い子を引き連れた迷い子』へ。
その"導き手も不在"なら仕様もない動向へは、アデスで態とらしく見せてくれるのが顔色の上半分で暗い女神の微笑。
それも『無言の圧よりは幾ばくか感情の程度は窺えて気楽だろう』と挑発的にも笑みを浮かべて
「それも『どうすべきか』と。私へ尋ねる前にも貴方で事の次第を口にしていたではありませんか」
「……」
「『動物園がどう』の、『新設の予定がある』などと——
「……言いました」
「まさか本当に"動物を集めた
「……、……」
一方の問われた青年では、"内に秘めた思惑の真偽"を求められても迷いから言い切れはせず。
それでも『目の泳いだ
「ですので先には『貴方のお考えになっていること』から詳しく……お聞かせも願いたいのですが……?」
「……その……」
「確と弁明をお聞きします」
「……幸いにも、"後ろの
「はい」
「ですが、"
「?」
「誰も
「……つまりは?」
「あまり生存に整えられた環境がなくて体調の、これまでの
「……」
「だから、つまり『皆が健やかでいられる』なら……自分は、それで」
「……」
「例え"この身がどの様に詫びて
それも手当たり次第の模索。
半ば鋭く言われた勢い任せに自棄の狂乱としても——『それでも自分なりの大真面目に当該の施設を作ろう』とも?
「何か、そうした『動物園』や『水族館』のようにも——」
「……我が友」
「——出来ることは、なにか……?」
だからには、希望を求めた素早い首の振りが横へと。
今は『取り付く島の少ない』と見たアデスに変わって、"常に無感情なら否定の色も少ない美の女神の博識を頼ろう"と。
移した視線の先で『無感情』とは『容赦無くのシビア』に、"見通しを偽る動機も然しては無いだろう素直な演算装置"のイディアへと『青年の望むとしたい生命の保全』とは即ち『種の保存可能性について』を"手短に問いたい焦り"が行いとしても現れる。
「……しかし、『動物園』だけでなく『水族館』でもあって、樹木との並存を目指した『植物園』のような設備を仮定したとしても……必要となる温度や水質の管理に、今も貴方で腐心されたように各種の状態に合わせた給餌に環境整備などが大変な労を要します」
しかして、微かにも友へと
「それも即ち人界において『多くの人手に深い造詣あっての
「……っ」
「仮に好意的な人手を借りたとしても公共に深く関わる
「……」
「勿論、私が側で良く見知った『我が友の個人』には直向きに重ねた努力の実績もあって、それと同じ勤勉な振る舞いを更なる勉学や実体験に数十年と費やせば、恐らく複数の分野で『専門家』と言って差し支えない実力にも至れるのでしょうが——それら各種を現状の『水』へ通じた理解と同程度に引き上げるためには『一朝一夕では不可能に近い』と言わざるを得ません」
「……はい」
「ですので今は、『少なくとも大いに混乱する最中で決断を急ぐべきではない』と……偽りなく私から友への『
美の女神に
さりとて、その『嘘で誤魔化しはしない真心の姿勢』を青年で密かに
(……なにも、
一時は『衝突のあった
皆の少なからずが平然とやってのける『他の命と関わる』という行為すら、思い悩む青年には『絶対の正答もなくして
自問として内に響くのは『個としての
「……」
「……事実として
「……」
「だが、"人の目に映らぬ静かな暗殺者"たるは各種の
「……」
「細かくある
「……」
「広く世界には『どうあっても利害の調節が効かぬ者たち』も数多く……『
(……でも、まだ……"自分の部屋を切り分けて使う"分には……アデスさんも、少しは——)
対しての魔を統べる王。
視界に収める青年で『新しく用意するのが手間なら』と『自分の部屋を取り潰しても構わぬ』とすら次第に『過度な自己犠牲の兆し』が、鬼気の迫り始める様子としても水の震える波長から予測に能う眼力で『狂気混じりの意気を引き続き
「『世界で理不尽に
「……」
「即ち『救済の道筋』を"僅かなりとも現実の可能性として示してやらねばならぬ"のに——『
「……」
「『己の心に正直でありたい』のと『他者に誠実である』とでは大きく話も異なる。『救い難いものを救う』と張り切るのでは"相手に対して過度な期待を煽るのみ"が『不誠実"な態度』なのではありませんか」
「……それは……分かっているつもりです」
「……」
「『美味しい食で有名な場所』だと、『そこで自分も思う
「……」
「……同時には『面倒な自分の我儘で身勝手な振る舞いをしてしまっているだけ』の、『何もかもは自分の問題なのだ』と——」
「……」
そうして無軌道な思い付きで場を掻き乱した詫びを言えども、女神たちには今更で青年が何を言おうと見捨てることはない。
「だから——面倒なことを言って、ごめんなさい」
「……構いません。私は最期まで貴方の行く道を見守ると決めている」
「っ……!」
「何より私こそが世界最大級に面倒な女。美の女神イディア共々で過去より続く今には我々も現状の世界には満たされぬものを抱えて悩み……ただ今回は『青年にとっての願いの在り処を見定める機会であっただけ』のこと」
正面には夕焼けに染まらぬ白髪の小柄が青年と同じく膝を折って目線を合わせる最中にも、一方の横より明るげな琥珀色のイディアは優しく肩へと手の温もりを置いてくれる。
「それでも、どうしても
「……青年」
「そんなものは早く問題として意識に映らぬ解決に導いてしまいたくて、でも、"アデスさんの用意してくれる
「……」
「健やかに、末長く……でも結局、"貴方に頼る以外の方法が思いつかない"」
だが、考え疲れる頃合いに
今し方には『動植物たちにとっての園』を作ろうとしながらも、其れも例えは一時凌ぎにしかならぬ事を考えなしの己に理解して『永遠の安寧など誰にも与えてやれぬ悲しみ』で青い少女の姿は涙する。
「先ほど言ったことだって……本当は『誰にも見せぬ動物園』、客もあまり入れたくはない。誰も皆に視線を向けることも出来なくて、『ただ自分が皆を守りたいだけ』の……でも、そんな、"自分が作るそんなものは
「……誰しも皆の思い詰めて行き着く先が『大神』という『始点』にして『終点』の祖なら、『極まる場所』とは行き詰まりに至るその心遣いも決して貴方が恥じるべきことなどではなく」
「っ、……」
「ただこれも当初より続く不完全な世界の構造がどうしようもなく皆を不十分な思いに
「……っ、」
「其処で生き方の指針や説明なくも皆を理不尽に満ち溢れた場へと送り出した世界にこそ
「っ、しかし……」
「寧ろ『他者を助けたい』と言って現に努めてきたのだから
「でも、自分には……そのアデスさんが努める
「……」
「ただ苦し紛れに、『無力な自分を慰めるため』で何かしているように見せているだけの、『自分を騙す』ことしか……!」
「……」
「だから、"こんな思い悩んでばかりの自分"なんて、もういっそ——『消え去ってしまった方が
その悲痛な告解。
やはりは既に世界より零れ落ちて異端の視座を持つに至らざるを得なかった青年で、彼にしての彼女はどうあっても社会との——"世界との折り合いが付けられぬ"のか?
胸に抱く真実として『皆が傷付いてばかりの醜悪な世界なんてどうしようもなく気に入らない』なら、かといって『自分だけ表に出ないよう引き籠っても皆の苦境にある現状は変わらず——己が苦しい』。
「っ……、"……ぅ、……"…、……っ"——"!」
即ち『進むも満たされぬ』・『退いても誰にも届かぬ声が聞こえるようで居ても立っても居られない』との切迫した実状。
だとして『立ち止まれば少しでも、何処かの誰かの状況をより良く変える手助けすら出来なくなってしまうから』と——『【進路】も【退路】も己の欲するものとは何か違う
「ぅ、っ…、"く——」
「……」
「——っ、ぁ"、、…は、っ……、」
「……」
神秘の力を得ても万事が解決の『ウルトラC』は見つからない。
謂わば『捕食』に『被食』にと、現世にて『皆が傷付け合わざるを得ない現状』への『"対処"について話を進めたい』としても未熟な考えは堂々を巡り。
されど、今も身近で思いを聞く神たちで『青年を助ける意』も確かに存在すると見えれば、その懇願が実を結ぶ筋道を立てるためには『願いを口にして』と、後方の大神たちにも『少女の本音』を聞かして示さん。
「……"そうも貴方が苦しむなら"」
「、っ……は、っ"……?"」
「
「——っ!?"?"」
「『
「——、……っ! 、っ……?"」
「即ち美の女神が訓告したように決断は後日としても『現行の秩序を破壊する』、平たくは『滅ぼしてしまう選択肢』も私で考慮には在るのです」
「——っ…、、アデ、ス、さん……?」
「大いなる我が身でも思うに……"
「っ——"なにを"……??」
「それも結局は『其処に苦しむ誰かの存在する』以上、"今まさに私の
「……っ——でも、っ!」
「"皆を満たす完全にも程遠ければ将来に永続してはならぬもの"など『誰かは望まずして不幸に身を置くことが当然』と予測に
「でもっ、"この世界"で——『幸せを感じている誰かがいる』のも"事実"なら……っ!」
「……」
「
噛む口の端より血の如く滲む『透明な水』に『流す涙』は、青年の下に展開された『暗黒の受け皿』が光に映る色を吸収して先刻から一滴たりとも逃さない。
夜闇を操る王で『見せる
「『決めるべきか』と悩むのは私です。
「——
「でしたら、"
「……っ」
そしては強引な口振りにも『既に身を堕とした神』で迷える子に『選択肢』とは"気持ちの行き場"を設け、"不安な感情へ落ち着きを与える意"があるのか?
真意は分からない。
怪物じみた神"で心の模様は闇に明らかとされずなら、"現に世界を侵食する法の使い手のみ"が青い眼差しへの"複雑な情"を知る。
「そも、"青年が何を欲したところで殆ど皆の生殺与奪の権は既に私のもの"。
「一例には『
「……それも、そうせざるを得なかった、"どうにもできなかった事情"が」
「ええ。私でも良く良く理解して穏便に取り計ら気はあり……しかして取り上げる時には生涯賃金でも
「……」
「正しさどうのでなく『唯一の王にとっては目障り』ですの。私以外の悪に永く、のさばり
(……そんなこと、言われたって)
「寄りても今更には義を掲げるのでなく——
「……」
「……」
「
「どのみち『経済』や『金銭的やの即物的な利益で回す世』が
そうして暫し語られる肌身に、甘く優しい女の声。
どう構えても聞こえの良い玉声の届けられる場では、『常に麗しき少女の形を晒す女神』で教え子への"危険な教導"。
「故には、"
「利益や価値の有る無しに関わらず『皆を幸福に導く助けとなる
それも『冗談の無しに言っているのか』との疑いは、"刺激的な論説"を繰り出す女神の横でイディアの髪は判断に迷って色の目まぐるしく。
だとして無機質に冷静さも失ってはいない彼女では、驚きに言葉も出ないような表情を浮かべたままにも『恩師の隠さぬ狂気に当てられて
「しからば世の改善を願う青年には斯くのよう世界の転覆を狙う
「……」
「選択肢の一つとして
「(…………アデスさん)」
「だがしかしても『世界の命運』など誰にも背負えるものでなく、許容の量に底の知れた個人などに任せるのは
「だからには青年も『能動的に起こす世界の滅亡』や『革命』のような『変化の潮目』に参加を思い願う場合には……先ず以てただ『行く末がどうあるべきか』を考え、それを真っ先に私へと話してくれれば良いのです」
「……」
「……」
「それぐらいでも構わない。後は私が参考として大事にする。例え『頼ってばかり』に思えども——"皆が死して口なしなら、咎められる者もいなくなる"」
次には微笑みと首傾げ。
善悪双方を孕んでも、"相手の意を窺う仕草"が『理解の及ばぬ他者』へと『心を寄せる譲歩』とする。
「よっても『世界を創る神を言い聞かせる大役』は私に任せ、"貴方は貴方の理想を限られた時間の中でも探し続けてよい"のです」
「……」
「
「今に関しても貴方の案じてやる皆で『食事を守るべき文化』と言うのなら、その『形式的な模倣を真実』と思わせて『引き続きの希望者のみで変わらぬ日常を送らせて
「……アデス、さん」
「それぐらいの、その程度なら……直ぐにも私で出来ますけど——やってしまっても構いませんか?」
「(……っ)」
「私の愛しい青年」
するとの『少なからず、極めて強大の力へ頼りたくなる本心』は、繰り広げられた『悪魔の危険な囁き』に対して——『明確な否定の意』を即座には持ち出せぬ場へ。
「"貴方を想っての私の言動"は、他でもない其の眼差しに、どう映るものと——」
「"
「——…………」
未だ頬に涙の伝い、戸惑いの最中にもある少女の前へ。
"後方より話を聞いていた
「そうしてボクたち
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