『渇望①』

『渇望①』




 そうして、迷い子の龍を無事に親元へと送り届けてから以後の十日とおかあまり。

 神々で各地を転々とし、"力の足しにはなる信仰"を集めた祝祭も定められた時期の終盤に差し掛かっては——『昼』から『夜』へ、また『夜』から『昼』へと。

 天に満ちる明暗を基調とした色の移り変わりは疾走する機体の背で眺めに見ても分かるように目まぐるしく。

 玉体に寝入る必要も"其処其処そこそこ"なら、回転する星の各地を足早くの周遊で暗黒大神を筆頭に『未知ダークフォース』を宿した三女神——『アデス』に『イディア』に青年女神の『ルティス』を含む三柱の活躍も愈々いよいよが"追い込み"の期間と相成った。




「…………」




 その間にも"成るいのないように"は多くを綿密めんみつに助けて回る基本方針に従い、ある場所で時には『義手や義足の開発』が現地の文明レベルを鑑みて木工もっこう

 道具の造形にも詳しい美神の指示の下で削り出す『ミノ』を持った青年が加工を担い、その作業中にも心で実を思えば『切り倒されていても【木という植物の脈動】と触れ合うのは怖かった』が——だがの一時には固めた覚悟で既に木材となったものを流麗な手付きは整形し、設計の図や工程を記した文書としても後に人々で再現可能な技術を残したのが援助の一例。




「…………我が友」




 他にも足を止めたのは、また"ある時"・"ある場所"が沢山。

 その一つ、『炭鉱の都市』では——汚れと共に疲れをより一層と落としやすいよう流体に詳しい青年で湯水の湧くみちを整備し、広く人に親しまれるようにも各所へ行き渡らせた天然の温泉が『露天風呂』の複数となって脱衣所も細かく仕切りの完備。

 また別の一つが『流し素麺そうめん』——竹林に囲まれた集住の地ではめんを主食とする者たちへ、食べ飽きた食傷のマンネリズムへとたけくきより吸い上げられてみきに溜まった『竹水ちくすいの発酵』を謂わば『調味の酒』としても『甘さ絶妙なじるの新規開発』とし、以前から存在した『酒利用の拡大』を助けつつも新たな楽しみの導入を円滑として民に笑顔が増えた。




(————)




 他にも水上すいじょうにて『良い風が吹かぬ』で海の真中に立ち往生を強いられていた海洋民族を飼い慣らす波で船ごと目的の陸地に送り届けたり。

 歴史ある土地柄で『お堅い家』に生まれたのにも関わらず生来から色事いろごとに強烈な執着を抱くのは『淫魔サキュバス的な性質を授かった少女』に——その抑え難く衝動で悶々もんもんと四六時中を性的に見てしまう他者との距離感に悩む人へは。

 "目移りに厳しい恩師"の下で既に奥義の暴走も警戒して欲求の制御コントロールとは誘惑の多い『対淫魔訓練たいいんまくんれん』すら修了の身に加えて場合によっては無限の生気すら供給できる青い年と、『こころよい』から転じて『性の象徴』とも祀られる知識豊富の先達賢者イディアで困った時に話をしてやれる『秘密の間柄』にもなれば——自他で認識に作用する『魅了の魔眼殺し』も"洒落た眼鏡"に仕上げて調達をした。




「どうか——"無理"をなさらず」




 他にも、他にも——演奏会を控えた楽団で同じ釜の『食あたり』から複数人の急な病欠にも分身で対処は可能とし、万能選手の美神に対抗心を見せるアデスだって完成された少女の形は己の数を増やしつつ髪の毛や触手で楽器を叩いたりに奏でる和音の協奏。

 また同時その同地では不調からの快気だって十分な水の補給で助ければ、『口直し』にトリケラトラックより調理して振る舞った青年の新作オリジナルメニューの『ソーダクリームパン』が弾ける甘味の爽やかさに"辛気臭さを吹き飛ばす大好評だったり"と——個人の活動もこれまでに立ち寄った各地で量産品でも味わってくれた人々の間に"笑顔の輪"は広がる順調。

 そしても足取りの軽く直近の前日には『何かに追い立てられるよう』に惑う気から湾へと迷って進入したイルカやクジラなど海に棲まう生物の座礁も超音波の誘導によって回避し、元の広い海域まで共に泳ぐ先導も添えつつ安全な帰路を見守ってやれば——今に列挙した各種支援の幾つかは『人と関わりの深い場面』を主としても限定的な活動の一部である。




「貴方のそばには美神わたしも、女神アデスもいて——例え『彼女が言葉をくれず』とて、"我々が貴方の抱える不安の側にも控えている事実''は変わらず」




 その他の『細事さいじ』や『小さな発見』には幾度も似たような出来事のあって、個別に一つずつ語るのも類似の文言で埋め尽くされるなら簡略に述べるのみとし——またある雨天の日時には、足下で『水滴に打たれても健気に働く小さな命たち』とは巣の周辺で忙しなくの『アリの安否』すら気掛かりとなった青年。

 よってからには既に寒さ知らずの女神の身で己をかさの如くもていすることによって『降雨から蟻という他者の多くを守ろう』とした最中、だがそれも何と顔という認識から近付けて状況をよく見れば蟻たちの自前に土で形成する『雨除けのふた』を眼下に認めて見開いた青い目。

 加えて其処で更には『万一もしもの場合』に備えて自分たちの生活空間は横穴よこあなとしても、"深く掘られた縦穴たてあなにのみ水が優先的に流れ落ちて素早く地面に透過して行くよう"『計画的な浸水対策も成された構造』を前にして声に感嘆を、表情には驚きを浮かべたものだが——それでも見て取れた少しの雨漏りには水神だって権能が余分を引き取って、細やかながら巣内の迅速な乾燥を助けたりもすれば。




「よっても、ご安心を」




 ——兎角、兎角。

 細かく全てを話すと人では認知の困難であった領域に『かぼそくも菌が活発にうごめいてどうの』や、『各種のプランクトンだって流れへの順応は素晴らしく努めてあるのだ』と。

 他にも数々の人目には意識されづらい者たちにさえ気に掛け、微々たるでも寄り添う助力で相手を身近に知る機会を重ねた先には——彼女の純粋に示せた『好奇心の発露』に、『逞しくある他者への憧れや感心』に、『羨望』などの『色々も胸中に有ったのだ』と。




「大丈夫です——落ち着いて」




 つまりは、何であれ誤魔化しなく。

 "内に湧き立つ他者への思い"で行動を積み重ねてきたのが青年。

 可能なら"相手の幸福に至る筋道"を考えて。

 密かに水は透明の手を差し出しても、外目から女神を評することが出来るなら間違いなく『殊勝に努めてきた』のだろう彼の者は。




「先より無言を貫く女神にしても恐らく、"貴方に強く否定の意"を明確に示した訳でもないのですから」




 競技の集計期間が終わるまで残り一日もないという最終日の、今に——。





「——っ、……"、、……!""」





 ——いていた。





「仮にそうでなくても『ともの在り方』が支えています」

「っ"——! 、……、」





 それも弱々しく背の震えが友神の手によってさすられる様。




「っ、! ——」

「ですので今は必ずしも呼吸にらず——少しずつ水を循環へと戻して」

「——っ"、く——、っ」




 痙攣けいれんのような『えずき』に麗容の顔貌から浮かぶ焦燥の色が控えめにも口の端より水を漏出し、それも今し方まで心に抱いていた『調子の良ければ現在地の近くで行われる有名な美食コンテストに自作を出品してみようか』との淡い願いすら今に打ち砕かれた苦しげの少女姿。

 であれば、"不快感"から乱れる不規則に外へと戻してしまう流れ。

 それでも消化吸収の不完全な物や胃液なども有する必要はない内部構造より、透き通る逆流は『外部への流出が機密保持の観点から許されない』とあっては恩師の用意してくれる暗黒の受け皿にかがむ姿勢で向かう他もなく。




(どう、すれば、どうすれば……皆の命を——"より良き明日あす"に!)




 その恩師の無言で湛える魔眼に見下される今にも膝を追って心は煩悶はんもんと。

 だがして止められぬ足掻きは周囲を囲む各種の動植物たち——各種のいぬねこに『トシアライグマ』、海藻かいそうに囲まれた『ダークバス』らの魚類ぎょるいや、ぶたうしうまなどの一般的な家畜も含んで——それら『身を預けられる場所が未定の者ら』に向かう。




「女神アデスでも思う所はあろうとえさの基本的な用意はしてくれていますし……私の方でも配合や配給については過不足なく担っておけますから」

「っ——イディア、さん」

「その間にも我が友は、"より重要"と思われる『傷病者への対応』に専念を」

「……すいません」




 では、その"救済意識"からは『未だ飛べぬ鳥にもくちばしに餌を含ませてやろう』と腕を運ぶ者とは。





(とにかく、繋ぐ——今は、"この命"を)





 自己の震えを奥義で強制的に抑え付け、儚い一意専心に保たせる青年で先刻に大型の鳥に襲われて翼に傷を負った小鳥の身にも優しく。

 その止まり木の枝より"失墜しかけた者"を神懸かみがかった認知の中で目にするや否や——神速の水が滑り込みに受け止めた流れで綺麗に止血しても流体の導く再生組織とは。

 天然の絆創膏を膜状にも備え、"傷を塞ぐ慈愛"の顔が——



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