『もの言わぬ迷い子⑦』
『もの言わぬ迷い子⑦』
強張る水。
女神たちに守られる範囲でも『無事に自分は卵を安置できたのだ』と達成感に胸の
『"————"』
されどの、"試験終了間際に解答の訂正を思い付いた筆跡"の乱れるが如く。
『——大丈夫です。内側から自発的に割れただけですので』
——そうだ。
浅学とて卵の
『で、では、今の音は、つまり——』
『つまりの本当に、【
『"!"』
故にも『音の響いた帰結』とは魔眼で観察する神の言い示した通りに。
しからば場合に応じ、急ぎ水に変わって地面に浸透する
(————)
その実で『再会』とは言っても"初対面"。
卵の殻を破って初めて外気に身を晒す赤子に対し、『馴染みある温度の再来』から呼吸の気配を察知しても起き抜けに目を見開いて振り返るのが親の心というものか。
(——どうだ——)
既に完成された鋼鉄の巨躯と、未だ全長で親の頭部にさえ至らぬ
成体と幼体で基本的な形は似ていても甲殻や鱗の質感や全体の
片や長年に角質の積み重なって硬化したものと、もう片や形が作られたばかりの一枚に薄く柔い印象の対照的な
(まだ引き合わせるのには早かった? いや、遅すぎたということも——)
そうして瞳の上にも薄い
"ない者"として地に伏して隠れる青年は心に思った疑問を念話に出せぬほど過剰な隠密の気で黙想に徹す。
(どうする? やはり
例え騒めきの止まぬ胸中に——『一度は親元から離れてしまった卵だから【自らの産んだ子】だと認識されるのか』、『問題なく保育はされるだろうか』、『兎角、出産後の複雑な親心の時期で虐められたりはしないか、剰え危険因子として殺されたりも——』——などと酷く心配にあっても密かに見守っての待機時間。
(……もう、少し……だけ————)
十にも満たない秒数は、龍たちの鼓動を側にしても其の振動が不滅の永遠に感じられる時。
『————"!!"』
『親子は互いに"認証の段階を済ませている"ようだ』
するとの親は依然として無口なれど己の体で先に尻尾を振らせて、その『ガラガラ』に共鳴しては同じ動作で以て追従する子でも『親子の確かな繋がり』は未だ確かに健在と見えれば『余所者の青年』の口を挟む必要もないのだろう。
『即ちが
斯くして遂には子を覆い隠して守るように伸びる翼で両者は身を寄せ合っても無事。
続け様には親が我が子の被る卵の殻や用済みの残留物を舌で舐めとっても翼の形を開くよう整えてやり、その邪魔なく伸ばせる準備を終えられた部位は既に青年の眼前で『見事な出来映え』として——未熟の子を案じていた者の心に"忘れ難き光景"としても記憶される。
(——————)
言葉を失う者の前で伸びる逆三角形の背伸びは洞窟の入口より届く細やかな日の入射に照らされ、何か親の毛繕いで秩序然とした方向に生え揃う羽根が
真新しい鋼の威容が一対の翼。
光を反射しても『これから未来に羽ばたいていくのだろう可能性』が目に見えて
輝く鉱石の中にあって何にも劣らぬ壮麗なら、『逞しく備えのあって無事に飛び立てそうで本当に良かった』と胸に熱く込み上げる者の心配も他所に早くも活発に動き始めるのが新生児の若々しい小柄。
『見るに翼の特殊な造りからして謂わば【生きる
それも早速に保護者の手前で『飛行訓練』を始めるのか。
親が喉に蓄えていた水を口移しに貰っても通る産声は『キーキー』と鳴きながらも未だ身の動きでぎこちなく、広げたばかりの翼を振ってみせる子の前には未熟を見兼ねた親。
後者で自身の二対で大気を掬い上げるような動作が流線を描く羽根の一つ一つに物質の循環を加速させて作る大気の円環に『ボウっ』と勢いよく
そうして直ぐに丸めたものから伸ばし直した翼の親が気流の操作を取り止めて着陸で戻ると——『なんと物分かりの良く賢い子』でも小規模ながら跳ねるようにも何度か『
『……、……、、"』
次にはそのまま刺々しさ一切のない波長を纏って仲良さげに立ち去る姿。
這う親の先導にも行き先を守られ、見晴らしのいい洞窟の外へと訓練に向かう親子の様子を見ても後方で風に吹かれる傍観者に己の心情を適切に表せる言葉など今は後回しで思い付かず。
「、、——!、!"」
ただただ感情が揺れ動く。
乱されても不快でない波を心中に。
それでも『目立つ介入をせず』と決めてが閉口に徹するのであれば、今にさえ尾の先に残っていた最後の殻を振り落とそうとして一時的に振り返る赤子に——"君に認識されない"でも構わぬのだ。
(——、…、、——"!")
音なく涙を流しては無言が引き止める事なく『見送り』の意。
柔らかい網の張られた上でも宇宙を背景に浮島の空を親子の龍が飛び回る幻想的な姿——その"夢にまで見た光景"を現実として確かめられても円満なら言うべきなど少ない。
ただ恩師の引き戻す力と親友の女神に腕から水身を引き揚げられて『作戦成功』の"
(誰にも
(たとえ終わる時があっても地に落ちて砕ける痛みなどなく、
そうして返還を終え、孵化を見届けても同じ『迷い子』の境遇を経た者たちは互いを見知らぬまま。
残された片方の未だ迷いの最中にある者のみが『さよなら』として、遠景となってゆく他者の健やかな姿に覚束ぬでも手を振って別れとしよう。
『では、今暫く見守りながら我々でも
そのまま視線を名も知らぬ、顔を合わせたこともない命へ向けながら。
涙する青年で両脇を女神たちに抱えられて歩く浮島の端から命綱なしの飛び込み——先んじて邪魔のないように島の下部にて待機中であった
『——良かったっ、本当に良かった……! 親子が再会できて、また仲良く? ……いや、新しくも仲良く出来そうで』
身に寄り添う力で『在野の大気になぞ青年らの情報を与えるか』としては白に黒に黄の髪が空気抵抗に振り乱れることはなくとも、背から落下の青年は涙を恩師の手拭いに回収されながら左右の笑顔たちへ誠心誠意の感謝を伝えん。
『……っ! そうしてまた、本当に有難うございました。今回も自分の我儘に、アデスさんにイディアさんで……付き合って頂けて』
『いえいえ』
『"——"』
『加えて毎度の如く【自身だけではどうにも難しかっただろう】と思う状況で、それこそ今回なら"素人の単独では新種の生態や生息地の手掛かりを調べるのも何ヶ月や何年も費やしかねなかった所"を助けて頂き……神秘の力でも親子に傷がないまま穏便に事を運べて大変に有難く、感謝の念でも思いは絶えません』
その未だ切ない胸に抱くは『自分も
此処に『
『しかして【
『……いえ。自分としても劇的よりかは
『……ええ。それでも一向に構わぬのでしょう』
『……はい。自分も……心からそう思います』
此度の『迷い子』という"自身に抱えるものと似た他者の苦境"を助けられた一件は、彼にして彼女の『学びの道を行ってみたい』とする今後の方針に僅かなりとも"進む方向性"を——迷いの中にも『前に進む可能性』を与えてくれるのだ。
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