『もの言わぬ迷い子②』

『もの言わぬ迷い子②』




「じ、『自分の子を連れ戻しに来た』と……!?」

「緊張の色からしてそのようですが……まったく、我が弟子も不憫ふびんなもの。『湧き立つ善意ぜんいで助けてやった』のに有ろう事か『加害かがいの線を疑われる』とは」

「え、ええ、っ、どどど、どう、すれば——っ"!?」




 因りても大神の言及に相違なく。

 "咄嗟に行った救助"の流れで『鈍色の卵』を手にした青年女神の元へと向かって——回転する空気を球状に左右で抱きしはの光を身で覆い隠すようにも『大翼たいよくの黒い蛇龍じゃりゅう』が飛来する。




「おおぉ!! れなるは我らが信じた『龍神りゅうじんさま』! 悠久の刻を経て再び我ら"かぜたみ"の前に御姿おすがたを!」

村人むらびとかた!? いえ、どう見ても今はそんな、"歓迎かんげいを受ける"感じでは——!」

「古き伝承のしんも確かめられては一世一代にまたとない僥倖ぎょうこう! こうしてはいられない! 記念にの一つも残さねでは!」

「いや、"あぶない"のです! ことここに珍しいものを喜んでいる場合でもなくて——ほらもう口の中にも"何かエネルギー"! "あついの"が溜まって飛びながら、今にも眼下に見据える此方こちらを——」




 その宛ら鋼鉄こうてつで鱗を編んだ蛇の如き。

 上で大きく下の小さきを補助的にも間に円を描く二対四枚についよんまいの翼に特殊な羽根の作りが空間を掻き混ぜるようにも今尚に続き押し出される排気はいきの音を伴って。

 まだ見上げる遥か頭上に強烈な日射と吹き荒ぶ風の中。

 朧げな龍の形しか見えていない人の興奮を背負いつつも状況を分析する青年めがみの視界にが揺れて放つ『危険な威嚇いかく』の兆しもあれば。




("狙いを付ける視線"の方向は、こっち——"卵を抱えられた様子"を見ているのか?)




 長く伸びる尻尾の先に硬化した体表面のふしこすり合わせて『ガララララ』と機構で激しく。




(それなら『子を案じての威嚇に敵意』と分かっても——"不味まずい")




 揺れのけたたましくは川波かわなみに届いても興奮こうふん熱気ボルテージと分かる。




(『前には威圧的な龍』と『背後には多くのたみ』で——"まだ自分だけ隠れる訳にもいかない"!)




 正に鶴嘴つるはしの如きは鋭利なくちばしの付いて開く大口からも『硝煙しょうえん』のような白色。

 熱気としても物々しい気配は漏れ出て、その怒る刺々しい波長を前にも青年で『善意に動く身』が然しての間もなく『対処の判断』を迫られる。




(少し離れてこの揺れの感覚だと接近する羽搏はばたきだけでも周囲に大きな影響が、これ以上は——"!")




 よっても身を乗り出す青年の決断。

 いくばくもなく村に到達しきる龍の熱線へ向けては水の厚みを面展開めんてんかいで背後の動植物たちと仕切る。





(——"危険"だ——っっ"!!)





 即ち人里に収まる卵を見て『子を奪われた』と認識する親龍おやりゅうで怒り、狂うのを一先ずは瞳に煌めく泡の奥義発動が青年自身を『不死ふしかべ』として扱う神性しんせい懸濁液スライムとしての防衛。

 時に『相手の興奮しきる今に卵を割らず返してやるのも困難が極まる』と見ては、その一つを諦める選択にも"現状に理想とする目的"へと切り替えて『【互いに無傷むきずの被害なし】こそを目指すべき』とする現実的な判断が速やかにも行動と相成らん。




『そうだ。『誰にも脅威が届き得ぬ』のなら、"其れは善良な一般市民でいられる"。即ちと見ても……我が弟子は流石です』

『ア——デス、ッ……さん……!』

『貴方は物分かりに実践も早い自慢の教え子であって、見事だ。今日も今日とて行いに見惚みほなおすものがありましょう』

『今日、とてっ"、そうまでを考えられた訳じゃないですけどっ! でもっ、アデスさんの【誰も傷付かぬ理想】を少しでも理解したい! "迫る努力"はしたくて——だからとにかく! 今は援護えんごを頼みます!』




 そのまま溶かした片腕を広げて『かさ』の如くでも連続に放たれる熱線より背負う皆と後ろ手の卵を護りつつは青年。

 苦しくも掛け声は三角乗機トリケランダーの荷台に載せる椅子と円卓で『弟子謹製のクリーミーメロンパン』に『水出し紅茶』を瞑目に味わっている恩師の女神へと頼み事。




『……"援護"?』

追々おいおいっ、なんでもしますから!』

『"自身を安売りするな"——それも、眼前の一個体程度いちこたいていどは貴方単独でどうとでもなるでしょう』

『でも、やはりっ、"万一まんいち"に備えて!』

『……』

『割と相手の力が強くて穏便な撃退に手間取りそうですしっ、それならアデスさんの力をお借りして【速やかにも無傷に追い返す】のを、何とか……っ!』




 それも"たの理由ワケ"とは『時期早くに命が死する分には都合の良い魔王』へ。

 その"善にあるだけでない存在"に対して『利害の一致』を果たせねば過去には『傷病の治療』に見られたように『今を生きる命の扱い』には協力を取り付けられぬから。

 つまり青年から『命の悪意なしに終われるのも一つの理想的な形』と冷たく胸奥に抱くのだろう悪魔へと『ある種のえき』を提示することで親しきにも"意見に沿う利"を説かねばならぬのだ。




『……知っての通り私は【しょくを楽しんでいる最中さいちゅう】なのですが。それも【暫し貴方の情報わざまえを楽しむ至福の時】に【他事たじを手伝え】と』

『"今が休憩中でお食事を楽しんでいる"のも分かった上で、それでもお願いします!』

『……』

『完璧な遂行のために目線めせんだけでも——"貴方あなた綺麗きれいひとみが見たい"のです』

『……仕方のない』




 それでも二者の間に秒さえ過ぎぬ交信ののち、素直には取り込み中で重い腰も素早く『教え子のため』と動いてくれる。





『"——"』





 それも片目を動かすまたたきの程度なら益として受領したのが『青年からの賞詞しょうし』で十二分じゅうにぶんとして。

 黒衣に包まれる少女の形で甲羅メロンのパン脳髄クリームを噛み砕き、淹れたてで鮮やかなちゃくれないも『すする』のか如き夜闇やあんの王。

 その片目に宿す『暗炎あんえん一瞥いちべつ』が『想像だにし難い熱量に上回られたのだ』と宇宙的規模の真実を肌身の"根源的な震え"として知らされる龍に『慎むべき状況も今』と教えて——安穏に閉じさせた口の向きをきびすならぬ翼ごとにも空で返させる。





「……また、有難うございます」

「……?」

「……"例え口振りは素っ気なくとも応じてくれる眼差し"に『茶目っ気』だったり『優しさ』の垣間見えて——"今日も素敵なアデスさん"でした」

「"——"」





 その後で空飛ぶ巨体の遠去かる今にも礼と添える賛辞の言葉も忘れず。

 "好き者の青年"ぐらいしか意を取れぬよう『満更でもない』と言いたげな口角が微小に上がる様を見せた後に『くるしゅうない』と揺らす白髪テールで食の味わいに戻る恩師のそば




(……流れで追い返しちゃったけど、悪いことをしたかな)




 一難を終えて、続く一難の去って。

 張り詰めた集中の失せる奥義もそこそこに『今度こそ暫くは状況整理の時間を得られるものか』と暫定的な安堵に思えば——けれど、などは今更に何か常套句じょうとうくを言うまでもないのだろう。




(でもそしたら、次に考えるべきは卵の……その『親子の処遇』をイディアさんの戻ってきた時にでも一緒に考えてもらえるよう頼んで——?)





(——え"? なんか、"この卵を揺さぶるような感覚"は、"中からからたたくような音"もすれば……っ!? も、もしかして——)





 "三度目の有事"にたまごす。

 青年のしか貴重きちょうを抱え直した腕の中にも騒々しく『鉄殻てつかくの上昇する温度』が伝えられる。





(————""————!"?"?")




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