『ひたむきダッシュ⑤』

『ひたむきダッシュ⑤』




 斯くしては場内に響いたふえ

 六十分の全試合時間フルタイムで残り半分が始まり、故には『まだまだ』と余力を残す選手たちで準備運動も念入りに欠かすことなければ不備なく動作の体さばき。




「——"!"」




 全体全員と連動してはフジョウのユメコも走る走る。

 棚引かせる桃色を背後に『出し切る』との助言を実践し、どの道に進むとしてあとくさ後悔こうかいのないよう。

 復帰明けの初速にも全力を込める彼女が女神たちと特訓に励んでいたのも『つい先日』のことであったが、『人を助く技術』に溢れる同地で勿論に『休息環境』も整えられていれば疲れ知らずが俊敏の走り。




「——"!!" 十三番じゅうさんばん想定データよりも速い! 新たに『滑走走法プレーニングラン』を習得したか!」




 一昨日おとといには終日しゅうじつをハイパー化した酸素の寝室カプセルで睡眠や読書に費やしては、全快の支える走力。

 其処には復帰明けでも残る一日を合同での練習にしさえすれば大崩れもなくて、踏み込む要所に水を纏う足裏で摩擦を少なくすべるようでも一歩に距離と足が伸びるように意表を突いた瞬間に滑り込みスライディングが相手の保持していたボールを掠め取る。




「——いきなりボールを奪えました! とても"いいはいり"です……!」




 よっても、"教え子の好調"を思わせた動きに喜色を見せる青年の手前で試合に入れ替わる攻守こうしゅ

 再三に述べた通りで此処には『自分に出来る最高を求める人々』の技量を培ってきた達人級たつじんきゅうの所作が一つ一つにあれば『意図せぬ間延び』は少ないのが目に見える状況の流れでも流麗。

 故にも『攻撃の機会を奪われた』とて動揺なく迫り来る素早い守備に応じ、十三番を背負うユメコでも狙われるボールを手ならぬあしはやくとせまる期限を近く感じつつも安全に動かし。

 時に『よこへのパスを奪われては人と人との防御線ラインを容易く突破される』のを警戒して『たての位置関係』を基本に意を同じくする味方と二、三に短いパスを遣り取りした——次の瞬間。





「「——"!"」」





 相手の守備とボールに足の届かぬ距離を維持しつつの安定志向は——されどの次にはユメコでパスを受ける瞬間に前へとボールを直接的ダイレクトはたいて『走り込む味方』と共に迅速な攻撃への転換スイッチを入れようとする。




「上手い! これはとお——」





「「「「「"エアー・ラフレシア"!」」」」」





「——"らないっ"!? なんですか、あの気流きりゅう……!」

「"守備しゅび必殺技ひっさつわざ"だ」




 だが、対戦相手にも一流揃いちりゅうぞろいなら『美少女びしょうじランド』を代表するチームで金色こんじきに身を包む者たちが華のある必殺プレー。

 五人の守備陣ファイブバックの選手で一斉に同じ一つの点に向けた足の振りが羽根車はねぐるまのようにも、"吸い込む気流"を作って物質の誘導を為す様子。

 辺りで足蹴とされた模造の芝も浮遊しつつ一点へ吸われて行けば、その目に優しい色に当たる光の屈折が煌びやかにも競技の場で『みどりはな』の舞うようにも——即ち『羽虫はむしに見立てられた球を大輪たいりんにて誘引ゆういんひらき』があり。




「——くっ"!」




 したがって寄せてきた守備の人員に対し、先んじては『身のひるがえりに振り切ろうとする仲間へ向けたユメコのパス』も吹く風に向かう軌道を変えられてしまう。

 それも剰えは『攻防一体の必殺技』で相手の陣形に於いて中央に位置する『司令塔』の足下へと、謂わば『絶好の反撃の好機カウンターチャンス』として『ボールごとに流れが手繰り寄せられん』とすれば——。





「"もり暴風ぼうふう"」





 危機ピンチなれど——相手で華のある幻惑的に生じかけた危険な逸失ボールロストは、ゴリミでからくも完全に奪われる直前に差し込めたのが補助カバー




「でも、ゴリミさんも守って——何方どちらも凄い力強い! "練り上げられた人体の神秘"を感じます……!」

「あれらの技も全て大神わたしで強化しつつ洗練された再現は容易く可能なのですが?」




 大木たいぼくと見紛う太き脚の振りから一時的にも嵐の如き気流がボールを白線の外に弾き飛ばし、『流れの中に奪われて反撃をされるぐらいなら』とエースの的確な判断が『苦しいプレーの時間れんぞくを切った』のだ。




「——大丈夫ウホか」

「ゴリミ。助かった」

「構わんウホ。守備も出来なくては今の私の目指す『パーフェクトストライカー』ではないからゴリね」

かたじけない」

「また相手チームは攻めに際しても『開く花』のような陣形でボールに対して妨害にならぬ程度で選手個々の身が『死角ブラインド』を作り」

「——ええ」

「その相手に見え難い位置でも素早く転がして突破を狙い……慣れるまでは大変だが隠された視覚情報しかくじょうほうのみに頼り切るべからず」

「では、より鋭敏えいびん五感ごかんを?」

「"見えぬでもボールは一つ"。『足に触れた音』を頼りに所在を探ることはでき、ボールや選手の動きに応じた『皆の目線』でも追従は出来る」

「了解」

「それに何よりユメコで表情を見れば要らぬ心配かもだけど、引き続きに」

「ああ」

ウホ。私でカバーするゴリから」

「ええ。私でも『同様の意』を返します」




 そうして時の切れ目に再び身を寄せ合っても、低い方の身長に合わせて腰を折った巨躯と肩口に密談とする二者。

 同色の青に身を包むユメコとゴリミで旧知の仲は共にひたいにじんだ冷や汗を拭い、時に前者は『パス』や『ドリブル』に『シュート』や『タックル』など各種のプレーで技巧の評価が『平均を六十五ろくじゅうご』だとすれば、片や後者は『九十きゅうじゅうを超える』もの。

 しかして、何方も『下振れに波の少ない安定した質を有する』という点では『共通の特徴』——『よってプレーの展望ビジョンも共有し易いだろう』との意で近いポジション取りに連携を担う組み合わせが『再開スローイン』の合図で距離を空けて再びの戦場フィールドへと位置を戻る。





「「"——"」」





 ・・・





 因りても先んじて試合に参加していたゴリミのアドバイスと連携もあって、聞き入ったユメコで修正された集中に意識が再びの奔走を諦めねば。




「——ッッ"!"」




 相方あいかたの起こす向かい風に相手のパスの前進はにぶく、彼女自身でも即座に滑り込ませた足が二度目の奪取に成功。




「——っ、よこ、っ、せ!」

「ぐ、ッ——っ、っっ"……!!」




 なれど、『攻撃に切り替わる味方の前進あがりまで時間が必要』と見ては守備に来た選手との接触に先んじて背部はいぶの体を当てる姿勢。

 比較的に大柄な選手を背負っても苦しい場面に保持キープ退かず。




「残りおよそ、十分じゅっぷんほど——("頑張れ"……!)」




 近付く刻限に焦る青年で静かな応援の見守る中にも競技場内で俯瞰の光景に、十三番ユメコの気合いのりが周囲へと波及する様が見える。

 今日で皆には負けて敗退となる試合でもなければ、されども『大会を前に控えて少しでも好材料を多く行きたいぜ』の形を成す思いがチーム全体としての引き分けでなく『勝利』を目指して人の群れが前に進むゴーフォワード




「————っ! は、っ……っ"、、く……っ!」




 その前向きな中でも補助の姿勢を欠かさぬユメコとて競り合う保持の限界に倒れ込みながらもボールは味方に渡し、そのまま即座に立ち上がっても自身は忙しなく振り回す首に『反撃を狙う相手の位置確認』さえ抜かりなく。

 油断もなく。

 目まぐるしく変化する状況で『不意の裏抜け』に備えて複数の選手を視界に収めれば、皆の上がりに合わせて自身は守備の意識に走って必然にも他の選手と入れ替わるようにポジションを下がり目へ。




「——こぼれた!」

「っ——"わたしひろう"! "前線はシュートコースを探りつつ残りはパスコースを"!!」




 接触の衝撃で保有者なく転がるポールを目掛けては疾走しつつも味方に指示を飛ばす手振りの『指揮棒しきぼうを振る』ようでも。

 そのユメコという一人の引き出す可能性に『統制者とうせいしゃ』としての側面も本格の度合いは増して——『例え自分が一番になれずとも、皆が一番輝ける瞬間を用意する』。

 拾った球を手短にさばいては受け取った味方を意識し、その次のプレーを補佐する場所へと即座に己の身でも移動。

 また受けても止めて、自身以外に新たな出し手になって欲しい時は味方の足下に、また別に動いて球を運んで欲しい時は味方の少し前へと走る動きも促して——『相手の守備陣形が整うのが早ければワンタッチ、ツータッチで守りが整いきる前に攻めのリズムを作らないと』。




(『力を出し切ろう』との姿勢は出来ている——これなら)




 自身のチームが人数を掛けた追い込みの守備に狭く押し込められがちなら、ユメコ自身で動きながら横に流れつつ球を散らしても印象から息苦しさを緩和できるように。

 中央から端へ、また端から中央へと幅広く駆け回る活発な支援。




もどして——"まえへ!!"」




 そうして果敢な相手が勢いよく踏み込みで取りに来た瞬間にボールだけを脱出に成功すれば、『上手く引きつけて確実に一人は無力化』の意図も仲間たちと実演がされる。




れるか——?」




 それは青年女神の視界にも『人の心が思わず走り込みたくなる』ように。

 "切り込み役"はドリブラータイプの選手の近くで注目マークを引きつけてから解放フリーに送り出して気持ちよく。





「——"シュートで終われ"!」





 助ける選手の周りを細かく足踏みして位置を変える様子が『軽快に踊るような連携』でも、送り出されて切り込んだ選手の深い位置からヒールで戻すボールは『絶対的エースの前方』——待っていたゴリミでひとつ確かなシュートチャンス。





「ぬ"ぅ"ぅ——ウッ"ッホ!!」





 だが、ゴリミを要警戒の分厚いディフェンスには蹴り出されたシュートの射線を常に身で塞ぐ守備陣で阻まれ——跳ね返った物が白線を出ても勝ち越しの得点とはならず。




「あぁ……! しかったです……!」

「流石に達人たちで弾道計算だんどうけいさん力学りきがくに通じても動きに迷いがない。近未来きんみらいに起こる結果も精度の高く予想の出来れば『怪我のない分かりきったこと』に恐れる必要もなく」

「はい。皆さん動きが決断的けつだんてきです」

「何と連続で『人の内に秘める勇敢ゆうかん』なさまおもてに拝見できるのでしょう」




 砲弾の如きシュートで突き飛ばした相手の手を引いて再起を助けるゴリミ。

 その仮に大陸外なら『鉄骨を砕く威力』にも神の庇護下で人々に一切の怪我はないまま——。





「——ユメちゃん! やっぱりゴリゴリシュートだと事前に読まれる時間のあって、寄せもはやくて! 超必殺技ちょうひっさつわざにも繋ぎづらくて上手くいかないよ〜〜!」

「……分かってる。そうして——」

「だから、何とかしても"読みきれない"だったり、"察知さっちが困難"の——『分かっていても反応が追い付かない状況』に決定機けっていきを作らないと……!」

「だったらそうして、皆がゴリミを中心に、"最後まで守りへの意識に優先度を高く残っている私"でも、きっと——」





 ・・・





(——でも、フジョウさんの投入から悪くないプレーが続いて全体としての雰囲気も上向いたのは事実……これなら、本戦のメンバーにも選ばれる可能性は十分にあるはず)





 だが、『負傷者なく』は純粋に勝負事の推移にも気を揉める青年で『好転への期待』に騒めく心境も真剣勝負はじょうに関せずの厳格シビア




「我が友。残る試合時間も一分いっぷんを切りました」

「は、はい(……何より『彼女が続けたい』と、『まだ楽しい』と思えていたなら——)」




 試合の終盤も終盤には『勝ち越し』を目指して前掛かりになっていた手薄へ。

 必然にも金色のチームに良い形でボールを持たれれば『決定機の到来』が間もなく。





「——"!?" しまっ……」





「——あ!」

「"手薄てうすうしろへ相手の攻め"です!」





 青色の一人で『読まれる意思を持たないゴールポスト』を経由してのパスで好機を作るつもりが、コントロールを仕損じて相手の足元にボールが渡る。

 即ち前がかりに危険性リスクを掛けて絶技を狙っても疲労を感じる中に微妙な力加減の不手際が『ユメコたちで前線に残るまま』に『相手へと都合のいい攻守の入れ替わり』を許してしまうのだ。





「"キーパー!"」





 それによっては一瞬にも虚を突かれて止まる足たちの間に小道こみちを通すようなパスの連続が既にゴール前。





「くらえ! 必殺ひっさつ——」





 そのユメコのチームの守る陣内では地面にひじから接地する両腕を支えとしても、揃えた両脚を使ったのが上から下への爆発的なさかり。





「サ・ク・カ——エクスプロージョンッッ"!!」





「技にははながあって予めに練習で仕込んだのだろうたねもあり。『蒴果さくか』なら『ゆびくさ』などから着想を得たのでしょうか」

「ええ、あの『アサガオ』とかの——兎に角いいシュートです! "危ない"!」





 対して『自身が最終防壁』と告げられたキーパーが相手の蹴り出す衝撃の気配に向かって右の弾道予測へと思い切って身を飛ばせば——予測は見事に的中なれど、チームとしての頑張りが不運にも真っ先にディフェンスへと戻ったゴリミに当たって弾道はぎゃく左側ひだりがわへ変化。





わくに向かって、このままでは————"フジョウさん!?"」





 だがしかし、絶体絶命の場面ではゴールラインとボールの間に"滑り込む者"——いや、殆ど白線の直上ちょくじょうで其れは苦しい息遣いにも相方へ追従するのをめず此方も自陣の守りに戻ってきていたユメコ。





「っ——ぐ、っ……"!!"」





 今日に進退を掛ける彼女で側面より割り込んで頭から身を投げ出す必死の飛び込みで『ボールを思い切りに弾かん』と。

 各種の制度に加護として大神の計らいに包まれる人では顔を接触の振動に歪めずともよく、外目で可憐かれんな形のままも『まだ終われぬ』と燃える闘志に食いしばった表情が突き出す頭で窮地の勢いをばす。





「そうしてボールは——"あおのチーム"!」

「"反撃カウンターからの反撃カウンター"です!」





 それも幸いに不運ふうんような後ではこく。

 しくはか、『味方の足元に飛んだボール』から次には『成すべき』を知る青服の者たちで『反撃の始動』が慌ただしい脚の動き。

 この時に六十分制とはいえ皆で始終に全力を出して気の途切れる間際にも、『それでもユメコに負けず劣らず』と"全力の様子"に感化された者たちで少ない余力を振り絞っても再びに走り出す勢いが——前へと。





("て"——!!)





 そのまま狙いの甘くやや安直にも『撃たねば入らぬ』とチームいちのドリブラーが誰より速く到達した敵陣ゴールの斜め前。

 よってもキーパーの手の届く範囲だろうと枠に向かって蹴られたボールが——なれど此方でも決断的な動作で射線に身を乗り出した相手守備。

 その鍛えられた太いももでの障壁に跳ね返され、観戦者に息を呑む時流が緩慢かんまんの場。





「ボールは————"!"」





 女神も含めて皆が追うボールの行方はてんだ。

 同点のままで試合終了間際にも屋内を天高く舞ったのちに弾んだ地面で中央へと向けて転がる球体。

 その意味するのは『次に大きく蹴り出されれば時間的にも試合終了か』とのまさに『一人ひとり選手せんしゅとしての時が終わろうか』という時合じあいで——とどろはしりの足音あしおと





「"彼女に"、ボールが——!!」





 自陣でボールを跳ね返したあとの、すぐ。

 その正しく『泥臭どろくさく』も芝生しばふの上で四つんいであった倒れ姿から、大きく一息ひといきに素早く立ち上がっていた桃色ももいろの少女が——






「————"!!!"」




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