『ひたむきダッシュ③』

『ひたむきダッシュ③』




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 程なくは引き続き空の青色さえ大神が制御する領域にて。

 何かイルカの形をした水の飛び出す噴水が運動の最中にも清涼感を演出してくれる情景をに、緑の模造芝もぞうしばの上で人が幾つかの配球を受けたり、出したり。




(——流石に専門的せんもんてきかただ。しきりに首を動かしても"認識を欠かさぬ周囲の状況"で恐らく脳内に『俯瞰ふかん配置図はいちず』を再構成さいこうせいしている)




 また資金の尽きぬ潤沢じゅんたくなら思い付きにも建てられた遊び心や謎の物体が此処には多く、上空には棚引たなびいて浮遊する綿布めんぷのようにも『サバイバルゲームの広告宣伝』などが神秘的。

 その不思議は大神領域の監視下に於ける"注意点"としても取り分けと『他者と関わるもの』は入念な事前申請が必要とされており、けれど『余の管理下に他者の権利や自由を著しく侵害や制限しない限りはの大神たいしんうつわが応えよう』とで言い換えても即ち『学問』や『遊興』や、その他にも様々の『挑戦』に『怠惰』の殆ど多くの営みが無限の資本によって神に支えられる場所。

 其処で仮に『研究者が他の研究者と意見を交換したい』との場合にも意を申し出れば大神で茶会ちゃかいのような機会が『場所』は勿論に『日時』や『目的地への利用可能な交通手段』から細かく設定をされる。




(……それでも、これ程までに充実した中にも悩むなら、やっぱり『人を救う』のは決して簡単なことではない)




 そうして『住民の動向管理』は青年女神でもこれまでの同地で『人口密度が極度に低い閑散とした有り様』からも見て分かる通りに抑の"接触機会を最小限"とされる。

 よっては『万能の神の作る理想的な管理社会』に事件という事件も皆無であれば、だがして『交尾』や『繁殖』などの親密の関わりなどは正に『魔眼まがんの重圧』がにらみを効かせる世界に『要警戒の対象』とも設定せざるを得ず——閑話休題かんわきゅうだい




(結局、『何がしたいのか』は外部の言葉を聞きつつも当事者にしか目標を決め難いものだろうし……それ以前にも『自分に必要なもの』は何であって、『そもそもの自分がどういった状況に置かれているのか』もよっぽどの余裕がなければ考えづらいもので——)




 "光と闇による板挟み"は神の政治で成り立つ都市の説明も其処其処に。

 つまりは割り方と『事前の意見や意向の提出さえすれば』海より深い配慮に迅速な返答があって、その対応にも『具体的な案の提示』や『補足』に『修正の手引き』についても大いなる叡智を頼れるのが実態。

 よっても指示に従っての順を踏めば余程のことがない限りに管理者からも認可は降りるものに違いなく、今でその『要請』と『提供可能な支援』の合致マッチングで派遣されてきたのが女神たち。




(——でも、今で勝手に『自分のケース』に当て嵌め過ぎて、一人で落ち込んでいても仕方がない)




「——どうでしたか?」

「——はい。一通りにパスやドリブルにシュート、ボールがない時の動きも拝見させて頂きましたが全然、『直すようなことはない』と思います」

「では、次に何を?」

「基本がしっかりしていて、それなら後は『動き易いような心構え』を話させてもらって『心の調整』を狙ったり、順当には『ちょっと出来ること増やしたり』でもコンディションを上向きに出来るように進めていきたいと思います」

「……分かりました」




(こうして『助力をしている時に得られる安心の実感』からも『今の他者じぶんは悩む自分たしゃの為に何かをしたい』、『助けたい』のだと思うから——先ずは目の前のことに"集中"だ……!)




 人が蹴り出した球の勢いで番号の書かれたまとも綺麗に繰り抜いたグラウンド。

 先までは女神も実動じつどうによって部分的な参加をした練習で青年は恩師のじゅつから程よく圧をかけられ、水の出力も制限された所では『水切みずきり』のように段々と跳ねる技も披露。

 そしては、その青年が放った球は過去に技の習得を見守っていた恩師で『私のものだ』と跳躍から掴んで放さずが、続くシュート練習の手本に対しても負けず嫌いの守護神の技——『暗黒の彼女そのものの位置が見えない不可視』の幻術げんじゅつ




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(——"!" "暗黒守護神キーパーの位置が見えない"!)




『見えなければ、どうしますか?』




(でも、ならみずで形を浮かび上がらせれば——…………)




 立ち姿が何処にいるのか分からぬ神秘に『教え子の発想を試そう』との意図を察した青年で『何か正解を置いているなら水を撒けば形も見える』としつつ——足で蹴り放った水の先で浮かび上がる透明の輪郭は横に長く乗り物の『バス』。




「……いや。時に比喩ひゆで『ゴールにバスをめてふたをする』と言っても『実物じつぶつのバス』はめないでくださいね……?」

「いえいえ。此れは『くつとして履いていた物が脱げてしまっただけ』なのですよ」

「……」

「そうして自陣にいなくとも相手の決定機を防ぐ方法は幾らでもありますから、私という守護神は常に前線で攻撃にも参加できます」

「……普通に"夢のあるプレー"じゃないですか。何か二刀流にとうりゅうみたいでカッコいいです」

「ふふん」




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 また時をバス撤去の過去から今に戻しても——人数が必要なら指定された範囲に命令で柔軟に動く人型の機械ロボットが『チームプレイの練習』も広く場に散らばってサポートしている。




「そうして一つの基本的な動きの例としても『要所要所で及第点のプレーが他の優れた選手にはける』なら、やはり『貴方個人が一対一いちたいいちのデュエルする場面を極力に減らす』のもアリかと」




 講師の一人として励む青年でも薄くひたいに汗を滲ませたフジョウに現地の飲料水を手渡し、要請の連絡を受け取って予習に知り得た競技用語も交えて。




「つまり、あくまで自分では無難ぶなんでありつつも、『ここぞ』という勝負の場面では此方も『この分野や状況では光一ピカイチ』と思える仲間に"託す意識"を強く持って」

「……そうして味方に重要な局面で勝負をしてもらう。理想として私では『く味方が力を発揮し易い場面を作れるように』?」

「はい。概ねは正にそのようで。例には彼処あそこのお姉様のように小柄こがらでも、"それが不利にならぬよう身体的な接触の場面を減らしつつで糸口を"——」




 真面目に助言もしつつ『実際に教えの動作を叩き込む用意がある女神たち』で目に見えての具体例を演じようとしたりも。





「う、うぉ——正に『ボールが吸い着くような脅威の足運び』に『物凄いフィジカル』でも……っ! 『尋常ならざるキープりょく』が……!」

「『攻め』もできて『守り』もあたえば、『監督能力』にもひいでて……"青年の凡ゆる場面を助けられよう理想りそう女神おんな"——その位置は譲れません」

「いや、我が友で『接触されないように球離れを早くする』という話なのに、『個人では誰しも全能ぜんのうではない』との文脈ですのに——原初の女神で『完璧かんぺき』のそれらしい様子ようすを見せてどうするのですか……!」

「『私が完璧完全でない』などとは見れば分かるだろう。"しんに全知も全能なら今日きょうで皆が苦労などしていない"」

「いえ。それも"神秘に覆い隠された歴史"や"哲学的な前提"が示されていないと良く分かりませんから。個人の手前で難解な暗黙は抑えて頂き——」

「いいや。これは『私の青年に不測ふそくの場へ応じた即興そっきょう話術わじゅつも学ばせるため』でもあれば」

「——っ!」

「だからは青年に見目と覚えのよく。運動うんどうさまうつりのえる現在の立ち位置は譲れません」

「なん、です——と……っっ"」

「見なさい。青年の目を引く揺れ物は、このゆわわえた髪の躍動感やくどうかんを」

「——"!" これは、"完全の等時性とうじせい"! まさか、『サイクロイド振り子』の……!」

端正たんせいなものだろう」





「——と、逆に『競り合いが不利に思わせて』の『小柄の方にも意外な粘り』を見せてもらえれば、『相手の注意が其の意外性へと向いた隙を活かす』のも、はい」

「不意をつく」

「それに比較的な小柄でも"相手に当たられて身を揺らされる"のではなく、『先に相手へ体を当てる位置取り』を徹底することで重心のバランスを取る主導権を握れますし、先にれる腕や肩ではボールに近付き難いように自然な防御ブロックも出来ますね」

「流れの中には忘れがちですがやはり、『そうした小技こわざも大事』だと」

「はい。特に今のあれは理想的な動きですので手本としても参考に後で我々でも練習として……"あのダークお姉様はちょっとビューティーお姉様に対して当たりが強い"かもですけど——相手を吹き飛ばしたりはしてないので、"それくらいに程々ほどほど"と覚えて頂ければ」

「はい。後ほど胸をお借りします」

「もちろん、遠慮なく——」




(……? 今、"アデスさんとイディアさんで殆ど密着"を——)




「でしたら、様子を見るに彼方あちらの講師の方も何か運動をやってらっしゃったりするのですか?」

「え——は、はい」

「動作や呼吸に無駄の一つも感じ取れなければ、おもてに見え難い部分で体も鍛えられているようですけど」

「……彼方のお姉様は——」




『"我流がりゅう格闘技かくとうぎたるアンコクラチオン"とでも適当に言いなさい』




「——我流の格闘技として『アンコクラチオン』というのをしていて、はい。大分だいぶかなり仕上がっているみたいです」

「では、付き添いと聞いた貴方も彼女からその学びを?」




 "外界を知る知識人"として興味を向けられて話す青年。

 今し方で『女神と女神で肩を寄せ合う刺激的な光景』に失せかけた意識を人前で辛くも繋ぎ止め、失礼のないように求められた答えを返す。




「いえ。自分は別に格闘家になりたいという訳でもないのですけど……普段はお姉様方の厚意に甘えさせて頂き、色々なことを勉強させて貰いつつ"見聞を広めるたび"を」

「旅」

「そうして何か『自分の興味』を見つけられるように頑張っている途中なのです」

「……成る程」

「ですので、そういった部分では少し『夢を追う貴方』と似たようなものもありまして……よっても置かれた状況の近ければ、異なる者でそっくりそのまま当て嵌まるかは分かりませんけど——『自分は悩みに際してどうしてきたか』の一例で『みずはこ』のような話もお教え出来ればと思ったりもしています」

「それは……?」

「過去には自分で『自分だけにしか出来ないような技術』はありませんでしたけど、それでも『出来ることはある』と只管に走り回っていた経験から、何か悩みなどのある時は兎に角と出来ることの一つでもあれば『そのために走り回ってみるのもいいかもしれない』とというもの」

「"……"」

「そうした『結果はどうあれ力を出し切ろうとする感覚』は、待つだけで気の滅入めいってしまうよりかは『好転に向けて状況の変わるい実感』をくれましたので……月並つきなみには『少しずつでも何かをやってみよう』と」

含蓄がんちくのあるお話です」




 未熟の話を有り難く聞き入ってくれる人には恥ずかしげにも笑みを見せての語り口。




「つまり『汗かき水運び』として言いたかったことは——集団競技にも当て嵌まる言い方としては誰かの息苦しい所へ行って、爽やかにボールやフォローやでチームが動くのに必要な『みずすべり』を供給きょうきゅうして行く」


「そのように兎に角と味方の支援に回る、回り続けて——『自力で勝負』というのが上手くいかなくても、だったら徹底的に"味方を助けて活かす形"」




「"……"」




「それもまた集団競技ならではの『協調』の趣きで素敵だとも思いますし、貴方で一つ一つは無難でも『より正確に』、『より早く』と動作に磨きを掛ければ『流れを作り出す選手』としてもチームに大きく貢献できるかもしれません——と言いつつ、きっと口だけの説明でも分かり辛かったですよね」




 かぶりを振るフジョウへは間もなくに迫る『進退の掛かった試合』を見据え、青年女神の『直向ひたむきなはしり』が教示きょうじされる。




「なので、それもやはり実演で——『こんなこともあろうか』と今日は走り込む気で事前に備えて来ましたから、先ずは私で言ったことをやってみせます」

「お願いします」

「正直に言ってまだあまり論理的ろんりてきに教えるられるかは分からない部分もありますけど……それでも試行回数を多く、『一つ一つ改善に向けた働きができれば上々』とし——そうして何か『続けた先に楽しいこと』、『やっていて良かった』と思えることがあるなら、其処へ辿り着けるように手助けをしたいのです」

「では、そういった意で今回の願いに応じて頂けたのですか?」

「"——"。そうと言うのも仮に『人生が一度しかないもの』だとして『その時にしかない瞬間に後悔を残すのはやっぱり気分がいいものでもないだろう』という……"過去と今の自他に悩む状況を重ねての勝手なお節介"でもあるのですが」

「滅相もなく。願いへ速やかに応じて頂ければ『私にとってもこの上ない喜び』と思えますので」

「……そう言って頂けると私共わたくしどもでも嬉しく思います」





「では引き続き、やり残しなく力を出し切れるように支援や応援をさせてもらっては、専門の方に今更なアドバイスも多いかもしれませんけど——成長の実感も得られ易いように『新しい必殺技』などを加えてみるのも如何でしょう?」



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