『ひたむきダッシュ②』

『ひたむきダッシュ②』




 その周囲に真新しい施設に建造物をはじめとして物質に溢れる此処はテノチアトラン。

 住まう者たちが『ゆとり』ある生活の中で欲するは"自己表現じこひょうげん"——即ち安穏あんのんの領域に置かれた中でも『自身がなにのぞみを抱くのか』。

 その『満たされる瞬間とは』を求め、各種様々の活動に励む実験都市じっけんとしで居住者の多くが『最高さいこうおのれ』を探している。




「はい。改めまして本日は支援を宜しくお願い致します」

「いえ。こちらこそ引き続き宜しくお願い致します」




 時を費やしては『知識』に『技量』などを磨き、『他の誰でもない己の充足』を生涯に掛けた『求道きゅうどうしるべ』として目指せるだけの日々があり。

 しかして『生活資源の豊富な供給』には、"その安全な使用を見定める引き換え"としても支援者しえんしゃから皆々へ動向や成果を詳細に確認する『かみ視線しせん』もあり。

 度々に同地を訪れる青年らでも各種機構で『情報なみの遣り取り』が常として行われているのを見るに『住民の為す基本の生活行動の全ては領域や支配する大神たいしんの認知の下に置かれる』とのこと。




(……頑張ろう)




 端的に言えば、"大神ガイリオスが皆の生活をサポートしている"。

 その超規模の演算能力が支えても『衣食や住居に要望を示す』だけなら書類に記載したりの手間もいらず。

 然したる問題と成り得ぬだろう行動は全て自動的にも必要な処理や辻褄合つじつまあわせが為され、謂わば『みな大神たいしんちからを"身近みぢかもの"として利用りようできる社会しゃかい』。

 より正確に彼の神の自治じちを認められる場所にも"外部がいぶからのあつ重鎮じゅうちん"たる『ひかり』と『やみ』の残る大神双方へのはあって、『その何方どちらにとって都合の良く都市の運営方針をかたむけるか』で『自由』や『制限』の範囲に度合いの変わることもあるのだが——だがして、どうあれ内部なら『ガイリオスで湧き出す無限の資本が自領じりょうたみ援助バックアップする事実』に変わりなく。

 謂わば『無限を用いて各位の発想に何が出来るのかの実験場』が『住み良さを追求する都市』の形としても『神造しんぞう現像機ひかり』に見下ろされ、今に意識して気力を張る青年と女神たちの立つ大地が『標本固定の場プレパラート』の役割にも在るのだ。




(『美しく着飾りたい』との要望や『好奇心を刺激されたい』との願いはイディアさんで主導をしてくれたから……ここからは自分でも、少しは人の役に立てるように)




 ならば、その周囲に様々な形式の『神の手』によって管理がされる中で。

 真新しい『個人専用の運動場』や『水泳施設』や『トレーニングルーム』などの小規模ながらも現地の領域を任される者の一例が青年の前に立つ"運動選手アスリート"の人間。




「……ここまでは相談に応じて『ショッピング』や『ファッション』にお付き合いさせて頂きましたが、実際に『プレーの練習』も見るということで大丈夫でしたでしょうか?」

「はい。外部講師がいぶこうし方々かたがたには続いて私の動きも見てもらい、それについての助言を幾つか頂ければ幸いです」

「……かしこまりました。では、この後の予定にも大きな変更はないということで」




 人の名は『フジョウ・ユメコ』。

 しなやかに伸びる背丈は横に付き添って並ぶ美の化身とも近しく、また引き締まった肉体も鍛えられし人の筋肉が重量を支えて確かな二足の立ち姿。

 なれど、本人の意向で胸や臀部でんぶの膨らみも減らさず、柔らかくも残れば『膨らみが美しい曲線を描くように』——それら己の理想を追求した淡い桃の髪色の二十代の少女と思しき一人が今回の女神たちで助ける相手だ。




「そうして、今後の練習は主にわたし此方こちらのお姉様ねえさまで担当をさせてもらうのですが……フジョウさんは別に何処か体を痛めていたりはしないのですよね?」

「はい。今一いまいちと調子の出ずに休養をもらっている身ではありますが、肉体は万全に整えてあります」

「ではやはり、『装いから気分転換がしたい』と先に仰ってもいて『心の持ちよう』といったものが、少し……『均衡きんこうを欠いている』ような感覚なのでしょうか?」

「——そうなのです」




 頷く人で髪の艶が反射に眩しく。

 実際としても現地の情報網で調べられた所によるとテノチアトランに住まう彼女は『蹴球しゅうきゅうの選手』として中々に名のあるらしく。

 それも謂わば『スター』として輝ける存在らしいのだが、再確認の今や先日に当事者の曰く『自身は昨年の全国大会準優勝チームの選抜候補せんばつこうほであって現時点では何か感覚が続く』とのこと。




「幼少から『興味・関心分野の選択資料』で見たこの競技に憧れ、その鍛え上げられた肉体の躍動する様に『自分でもこのように動けたら気持ちよさそう、楽しそう』と半生はんせいを費やしてきたのですが……」

「……はい」

「何か今は、"気持ちが切れた"。"関心が薄まってしまったような感覚が己にある"のです」

「……集中が持続せず、"気持ちからも身が入り切らない"ような?」

「はい。過去にも『過練習オーバワーク』や『気に入らない負け方』をして落ち込むことはありましたが、ふと突然に気付いた今回のように"長く沈む"のは初めてでありまして」

「"……"」

「その『どうすればいいか』と迷う最中に『気の切り替えで今まで試していなかったことにも挑戦してみよう』と思い、思っては直ぐに『外部交流がいぶこうりゅう』の申請リクエストに提出させて頂いた現状なのです」

「その辺りの経緯いきさつについては此方でも大まかに拝見させて頂きましたが……そうして『進路しんろ相談そうだんもしたい』と」

「"——"。より詳細には、現状の私でも各所のプレー自体は『六十ろくじゅう』から『八十はちじゅう』ほどで安定した評価を指導者から得られてもいて……それでも『満点のひゃく』に迫れるものがなく」

「……」

「そういった意味でも"過去に例のない限界"を感じ取り、休む期間にも『別の誰かの見事な業前わざまえさえ見れれば』と快く思えてしまうほど」

「"……"」

「なので愈々いよいよは『自分がやる必要もない』と、"進路の変更"も視野に——『多方面に博識と聞く講師の方々で先達の知恵をお貸し願えれば』との所存であります」




 衣食など困らぬ都市では命に関わる問題でなくとも、しかし『追い求める憧れ』の先で『大事な進路の話』と聞こえれば青年の真摯な態度も一入ひとしお

 人で調子の上がりきらない期間が長ければ『今に別の道を考えている重要の場面』に差し掛かっても『相手の機敏きびんを漏らさぬよう』と。

 碧眼の視線が常に"波を感知する水"を張って玉体に声を聞き取り、人と目を合わせて話す青年の視界には並ぶイディアで、自身の背後には『恩師で支えてもらえる実感のある』からこそも言葉の応答が明確に。

 即ち『彼女らが接触を許可する』ということは『相手方に大きな脅威や悪意のない』という裏付けでもあれば、『保証の安心』が口の運びを易くしてくれる。

 加えて万一にも『青年で何かを仕損じた』として二神にしんの補助さえ当然に備えられれば、何より『全てを終わらせん』とする神で『苦痛の永続という最悪の結果』だけは彼女でも避けようとしてくれるなら、今はその『最低限に置かれた保証の事実』も拠り所に女神たちの存在を頼りつつにも平静を持って対面に努める。




(……先に見た映像でも『フジョウさんは凄い動きだった』と思うけど……でも、こんなに鍛えて物に困らない人でもやっぱり、"悩みはある"のか)




 目を動かさずとも心臓の鼓動が伝える波の揺れ。

 神の認識内に見直す人の状態には『競技に適した肉体を作る選手でありつつ柔和の身でもファッションを楽しみたい』との意向が均整の取れた体型のまま、輪郭には威圧感の現れ難い体幹たいかんしんの部分を重点的に練り上げられている。

 食事や機材も最高品質の物が無料むりょうで利用可能な同地にあっては肉体の改造にも抜かりはないのだろう。




「時期としても『代表選出の最終参考』を近くしながら、今回の不調スランプで個人的な休暇を命じられた頃でしたし……その行き詰まりを感じて次の選考で落ちたのなら『いい節目ふしめ』とも『ぎわ』とも捉え、私で『次なる興味を求めて別の道を模索しよう』と考えています」

「……はい」

「これまでの暫くはピッチでのプレーやポジションで目まぐるしく変わる状況に様々な要素を求められる競技に『りがうのだ』とこんを詰めていましたけど……それで分かったようにも私は『色々なことを"そつなくこなせる能力"に特色がある』とも思えましたから」

「"……"」

「よっても、どうか。"進退しんたいを掛けた一戦"に向けて調整にも付き合って頂ければ幸いです」




 されど、誰しも完全には至っていなければ満たされぬ思いだって絶えず。

 ならばの『気分転換になれば』と助く姿勢は、それこそ『外部の文化的にも風土の違ったり異なる考えに刺激を貰えないか』の発案で『外部講師の要請』を出した人に対して各種の運動も高度に成し得れば、近隣に滞在していた女神たちにこそ対応に当たる者の『白羽しらは』が立てられたのだ。




「……その『進路を掛けた大事な一戦に向けて』、ですね。分かりました」

「御足労に、お心遣いにも感謝を」

「いえ。それに、今までの自分が試してみようと思っていなかったことでもやってみたら案外と面白い部分があったりするのも事実ですから……そうした意味でも『貴方のように様々な可能性を視野に入れておくのは最もなこと』だと思います」

「では、講師の方でも、時にそういった経験が?」

「一応は、はい。自分だと、その……普段はあまり着ることのなかった服を流れで着ていたら、『それの更にえる着方きかたがあるのではないか』と着こなす中に思ったりをしまして——そこからフ、『ファッションにも気を使ってみよう』と新たな興味を持つに至れたり……?」




「……」

「……」




「(それが『女装じょそう』とは言いづらいけど)——と、兎に角! なので新しく興味の向かう先が見つかれば全然、はい。貴方の要請に応じた我々でも『本当の夢や目標へ向かえるように手助けが出来れば』と思います」




 そうして大神同士で創世からのふるなかなら『万民ばんみんいたわ魔王おうで信用も置ける』と、トリケランダーの外で機体の磨きをしていたアデスの所にガイリオスから投げ撃たれた白羽付しらはつきのが『願いの文書』を結ばれて来たのだから。

 現在には祝祭の終了まで残る一ヶ月を切っていて、それでも大神の力は星全体へ及んで今尚も空腹感の解消に安堵する命は多ければ、故にも『時間の浪費を気にせずとも長めに滞在しても構わぬ』でアデス。

 次には『祭りの終わりまでいても構わんのだよ』のアデス——よっては厚意に与る青年で『また旅立てるように一、二週間を目安に手伝います』と。

 チームの代表者でもある恩師に『目前の悩める人へと専心する意』を伝えても世渡りに慣れたイディアが主な交渉窓口を担い、その参謀役の指示に従って青年が実務を行えば、頼もしい大神は『総責任者』として後ろに控える万能利用。

 それら女神たちの三柱で管理者ガイリオスより『委任いにんの権限』を貰っていることも首に証明書を下げて明示しつつ、『人の望んだ美少女ファッション』や『疑問に寄り添う学問』や、『実際のプレーを見て判断に力を貸すこともせん』とすれば『僅かでも不調から抜け出せるように』。

 時に『チームスポーツ』とは『他者との関わりに意義を求める』一案としてあるけれど、『断絶』を標榜する魔王でも殊更に『関係ことの価値の否定』を画策する訳でもなければ——"ひとの彼女は未だに生者せいじゃで此処はほかの大神の所領しょりょうであるからして、うるさくも致しません"。




「ですからそうして、『重要な場面であれば尚のこと最終的な進む先を決めるのは当事者であるべき』と」

「はい」

「今に『悔いなく全力を出し切れるように』、再度の協力を我々でも約束し——」




 暗黒に美でも『今は他者の幸福を祈る青年の協力者なのだ』とは微笑ましく見守る中で意欲が努めの先にも声となる。




「——先ず以ては『本当に貴方の競技への興味や関心が全て失せてしまったのか』を確かめに行きましょう」

「はい」

「仮に『まだ楽しくやりたいと思えることがあったのに』と遅れて後悔しても何処か心の収まりが悪いですから」

「分かりました」

「それこそ『引退した選手が少ししてから復帰への願いを抱いても空白ブランクの日々に苦しむ例』が過去にはあったりもしたようですので……そうした後からも大変にならぬよう、今で出来ることを念入りに」

「"——"」

「暫くは、その『やりたいこと探し』を動因モチベーションにしつつ、『"気の向く所在"が見えて来た時にこそ判断をくだすもの』として調整をやっていきましょう」

「はい……!」




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