『約束を探して⑧』

『約束を探して⑧』





「一つ結論から言えば、美の女神の推察した通り確かに私は——"みな約束やくそくをしようとしている"」





 茶の満たす杯を置いて大神たいしんが語る。




「そうして『私というおうからたみへの約束』に際して『締結ていけつの見返り』のようなものも『各位で他の生命体せいめいたいに対して"明確めいかく加害行為かがいこうい"を働かない』という、謂わばの『不可侵ふかしん』以外ではとくに、なにも」




「……」

「……」




「私という神で皆に多くをいるつもりも極力になく、『他者に無干渉むかんしょう』であれたなら他は何であっても構わない。それ以外の『義務ぎむ』なぞ求めてはいない」




 それは『政権公約せいけんこうやく』のようにも。

 質問で尋ねた二者の前に少女の形をした老婆が『王権おうけんを掌握した前提』で自己の展望を覗かせる。





「だが、究極的には『皆で一つの同じ世界を共有している現状』でからこそ、『魔王まおう』のわたしみなへとみちびくのだ」





 それは『美が【幸福の約束】なのではないか』との問われた一案にさかのぼって『世界に存在する普遍的な約束としての【死】』——その齎す大元であろう『【冥界】を敷設ふせつした経緯けいい』に神で話が及ぶものであった。





「『他者たしゃう』・『他者たしゃわれる』を例として、この世界は『皆が幸福こうふくへといたるため』の、——ゆえにもほろぼす」





 その音調は淡々たんたんと。

 事実として『現世に鎮座する法則性のうら』を述べられては周囲の若者らで息もなく。

 此処に『命には必ずや終わりがあるのだ』とする『決まり』について、他でもない『ほうを齎した当事者』よりの言葉。





「『常に誰かが苦しむ』ことを私は許容きょようしない。そのようなものが永続えいぞくしてはならぬ」


何時何時いつなんどき如何いか場所ばしょであろうと、『誰かがりをう』以上……そんなものは終わらせなければ」





「……」

「……」





「例え苦しみを積み重ねた末に何か『とうと偉大いだい成果せいか』があったのだとして、だからとて『犠牲ぎせいを払う先例せんれい』が『ことに正当性せいとうせいを与える』ようでもならぬ」


「故に現行の『漠然ばくぜんと世代を重ねて貧困ひんこん虐待ぎゃくたい再生産さいせいさん』・『既に【つなぎで苦しむだけの者】が生み落とされてしまった現世げんせ』などはどうあっても『悪辣あくらつ』なのだとして……強く批判的ひはんてきにも一度いちどは終わらせなければならぬ」





 繰り返す『ならぬ』とは強調される『否定ひてい』の意で厳しく。

 普段は『温柔おんじゅうの気遣いすら見せてくれる恩師』で『示される冷酷れいこく』の姿勢に物思うは青年。





「仮に『総人口が百億ひゃくおく一人ひとりの世界』があって、其処で百億が残るいちを『これはしいたげられてしかるべき』とすれば……私は全体に近い多数の総意そういを敵に回しても暗黙理あんもくりに『しずかなたたかい』を起こす」


「他でも無い『私の理想』のために。『この世界は【皆の幸せ】というもっともなうしなった』と判断し——生類しょうるいつ」





("…………")





「現にそういった『不完全の経緯いきさつ』あって神は黙々もくもくと、のちに『冥界めいかい』と呼ばれる『殲滅機構せんめつきこう』を組み上げた」


「『というあらし』を巻き起こした。それが『兵器へいき』と気付けぬようにも『世界の法則』として打ち立てた」





(…………っ)





「よってお前たちでも此処で見聞きしたものを口外こうがいすることは出来ぬ。『露見ろけんあるなら【初めからないもの】として認識や記憶にも調整をさせてもらう』と確認に同意は得ている筈だ」





 眼前には真意を容易く明かさぬだろう神の言葉が湯水の如く。

 口数で対照的には『既に下された重大な決断』の意気に呑まれて『安易に口を差し挟むべきでない』と共通に押し黙る若者ら。

 話の区切りで語り手の回す視線に対しては感情の無い美の女神で『承知』の頷きを返しても、複雑な胸中の青年では碧眼も左右へ揺れるように泳いでしまう。

 何を口に出すことも、思案することすら『浅学せんがく』で適切な言葉が見つからぬ以前に『感情』が渦を巻いて困難なのだ。




『……青年』

『……大丈夫です』

『……』

『気分が悪い訳ではないので……気にせず続けてください』

『……分かりました』




 間近に添うそれは、どれだけ優しくとも真実として『能弁のうべんおう』だ。

 周囲で何を言ったとして『万能なかえし』がある——『でも、それは【完璧】でも【完全】でもなければ【不完全】だろう』と。

 続く論理展開なら『不完全である以上は皆を幸せにするものでなく、僅かとも不幸を認めるもの』——『故に滅ぼす』と確固たる言論を備えた有り様。

 言うなれば、その『揺るぎない王のぞう』は『過去』や『今』や『未来』に、他でも『あらゆる世界』や『作品』や『思想』のようなものにさえ『意を差し挟んで影を覗かせる』だろう『性質キャラクター極点きょくてん』——"それらしきもの"との対峙たいじ

 時に『キャラが立つ』と言えば分かるかもしれない。

 いつの何処でも『その者』は『その者として立つ』——『如何な状況でも【自身】は自ずと立つだけの中軸ちゅうじくを持っている』と。

 例え何をせずとも言わずとも、何であれば『不在の理由』を考えさせて存在感に留まることを知らず。

 豊富な要素や謎を無限に秘めても『あらゆる事象』に『あらゆる概念』や、『あらゆる存在』に関連して通じる『真芯まっしん』のあろう究極——ともすれば『キャラクターのイデア』に極めて肉薄するものが『大神たいしん』という『世界が形を成した者』であった。





「"……"」





 故にも『多くを見てきた者』に何を言えようか?

 当然に『ひと一生いっしょう』とは比べるまでもなく『多種多様の視点』から膨大量の『幸福』に『不幸』を見知って——『善悪の外』にも考え——『深淵に思慮深き判断』として。

 そもそもは『えて態々わざわざくちまわかみ』と『言葉という術式の掛け合いで譲歩を引き出さん』とすること、場合によって『上回る正論で論破しようとする』が『大いなるてのひらうえ』に感じられるほどと底知れぬ。




 ——『反論するなら完全かんぜんを示してくれ』


 ——『全てなら"私の理想も含んだ皆にとっての幸福を"』


 ——『私以上の論理展開、"理想世界の実現"を見せてくれ』




 そのようにも恐らくは『反論も全てに向かう一部』と『神で都合の良い方向に誘導される』のだろうから——だから何か『単純な力でたおしてやぶるだけでは死の法を取り止めさせるにも』と、早くも若き聡明たちへ『太刀打ちできぬ確信』にも似た驚きと畏怖の『崇高すうこう』を抱かせるに十分の運びがあった。





「続けます」





 そうして少女の口に薄紅うすべには再びと動いても、玉声との相乗そうじょうが『理想』をかざる。





「よって『しんらしきもの』が在るとすれば……それは『誰も不幸に苦しまず、皆が幸福に満ちている完全なもの』だけ——それ以外の思想は不完全ならば『誰かの苦しみを容認せざるを得ない未完成みかんせい欠落品けつらくひん』」


「よって其処に『絶対の正しさや義などというものはない』と、『全てから正当性を奪う』からこそ我が身は『魔王』の名にも相応ふさわしいと認めましょう」





「……」

「……」





「時に『差別をしないようにしよう』なんて形式を表面にらすだけでも足りぬのです。我々は『良かれ』と対象に『とうとき』の評価を下す以上、逆説では『尊くはないもの』すら比較に見出して——剰え『しき』と強引に定めてしまうこともあるのですから」


「よって何かを『賛美する』それ自体が『差別と隣り合う表裏一体ひょうりいったい温床おんしょう』とも言えてしまい、そもそもの各位の内心に訴えた所で『ただすもの』などはない。『ただ生まれただけの者たち』に規範など持ち合わせてはいない」


「そうして後天的こうてんてきにも皆が画一的かくいつてき強大きょうだいに、きよく、ただしくあれる訳でもなければ、其々に『自由な思想』や『表現』を『強権きょうけんによって罰する』ようでも『排斥はいせき』の如きほか邪悪じゃあくを許すなら——」





(……?)





——"法則を書き換える"」


「即ち『しないように』の『いのり』ではなく、『皆の全てが二度と差別や迫害の』——『構造こうぞうから変えてやる』ということ」





 それは彼女が『不完全の世界』へ突き付けた『万民ばんみんのための施策しさく』なのだろう。





「即ち『加害かがいの邪悪の生まれる余地を魔王で奪って二度と使わせず』——が『死して誰にもとどかぬくら世界せかいかう』ということなのです」





 言い切っては数秒の

 再び茶の湯を口とした神で和らげる空気に質問を許し、厳粛が尾を引く場は理解を深めるため『議論』の様相を呈する。





「では、『原初の女神が皆にする約束』とは……それこそが『』だと?」

「はい」





 頷くアデス。

 向かいでは魔眼に見つめられる場へ臆せず言葉を選べる虚心きょしんのイディアで『【死】という忌避きひの対象が【王からの約束】とは何事か』と問い直しては。




(……『』が、"約束やくそく")




 人としての理解を超えた話の展開。

 ともすれば『世界の真理』に迫る場面を前にして、青年で必要のないはずの息がやはり緊張で動作の重く感じられる。

 しかし、それでも『未知の可能性』にまみえては『瞳の奥に輝く星』で幾らかの『前向きな好奇心』を取り戻したとも分かろうか。





「聞くに『死』という、謂わば『冥界という別世界べっせかいに引き込む行為?』で皆を安置あんちし……その安らかにも別離べつりさせて『接触せっしょくがないように』と?」

「平易には『意の異なる者たち』で『対立』や『紛争』など『揉め事の起こらぬよう』、よりも言葉を砕いては『傷を負わぬように』」

「……」

「例え『鋭利えいり刃物はものにぎっていた』として、『その危険が誰にも届かぬ以上は問題とも成り得ぬように世界を作り変えたい』のだ」





 イディアと対話するアデスではおもむろに後方へ手を翳して『空間を暗くした』かと思えば、掴む背景で闇を適当な『刀剣とうけん』の形へ。




「例え誰でこころやいばを持っていても『実際に斬り付けることが不可能』であれば——『"血濡ちぬれた凶刃きょうじん"には成り得ぬ』と」




 続き分身したしょうじょの喉元に勢い良く凶器を突き付けるようでも『不可視ふかし障壁しょうへきに刃の進行を遮られて届かぬ様子』が目に見える形での理解を促してくれる。




「『各位で干渉のできる居場所を切り分ける』とも言えようか」

「そうして、"境界を越えられぬように"?」

境界線きょうかいせんを引いてはかべへだて、故からにやいばも届かず。視覚的なものを含む『情報じょうほう往来おうらい』も許さなければ『敵を敵とも認識できず』で『争いごともきもの』と」

「……"発展して火種ひだねと成り得る可能性そのものをうばう"」

「然り。今では『脅威きょうい』が分かりやすく刃物はものとしたが、広くは『善意』や『悪意』の有る無しに関わらず『【接触せっしょく】という行為の全般ぜんぱんが相手に甚大じんだい影響えいきょうを及ぼし得るのだ』との考えにもとづく」




 そうして即席の刀剣に魔は視線を落とし、語りの方向が一旦には青年へと向かう。





「現には此処にいる私も、どんなに相手を『いとおしく思っていた』として——青年せいねん。"貴方あなた傷付きずつけてしまう"」

「……それは」

「『あまねいのち皆殺みなごろしに踏み切ったような怪物かいぶつ』は、どんなに内外を『美少女びしょうじょ』として繕っても『存在自体が不快な邪悪』とも捉えられよう」

「……そう、つよくまでは」

「……しかし、ことはありますでしょう。『理解できぬものは何をしでかすか分からず、"こわい"』と——私をはじめとして『未知みち』の多くに」

「……」

「……それでも、構いません」





 暗黒は用済みとなった危険物を片手で粉砕しても、質問を練っていた美の女神に向き直って続ける。





「それは『生ける物』として自然な働き、『自己を予測困難な危機から遠避ける安心を求めての情動』であって」


「しかして青年のみならず、細かな差異のあれど皆が『自身の理解が及びきらぬ外界がいかい』との関わりへ怯える現状……時には『おなこころのないことに酷く傷つき』、『傷をつけられてしまうもの』」





「では、またも確認となりますが、『冥界の神は死によって以降の苦しみや痛みがないように約束する』……『皆を静かな時空へ隠す』のだと?」

「各地を旅慣れた女神に多く語る必要もないだろうが、実際として世界には『他者を害さんとする可能性』で満ちてもいて、それら危険からは『冥界という安全圏あんぜんけんかくまう』とも言えようか」

「それは……ですが過去には存在しなかったと聞く『幽静ゆうせいの世界』に『死という法則』。それらを態々わざわざと貴方で起こすほどの"理由"——実行に踏み切る『重大じゅうだい経緯いきさつ』があったのですか?」

「"——"」





 頷く、それは『肯定こうてい』。





ってさいたるが今に続く君臨者くんりんしゃ。『暴走ぼうそうする自由じゆうかみ』の支配下では皆が『ひかりの脅威』に晒されることとなる」

ひかり

「平たくは『日焼ひやけ』、『火傷やけど』を呼び起こすのが拡大し続けるふとの……『そば恒常こうじょうかがやき』と思えば分かるか」

「"膨張宇宙ぼうちょううちゅうちから"が、はだを?」

「そうしてかみあいは受けきれぬ、その無限むげん熱情ねつじょうに耐えられぬ」

「……」

「『際限なく膨れ上がる自意識じいしき』が最早他者もはやたしゃかえりみぬ程にねつを持ってしまったら……ただ側にあるだけでも輝きははいの焼けるようなはげしい苦痛くつう





(アデスさんは、『少しの怪我も許したくないのだ』と……?)





 "痛む感情のある青年"へは『過去に大神の為した暴虐ぼうぎゃく』についてを僅かにも音でえた内容。

 その意訳を介した例には『宇宙には皆を傷付ける危険が満ちている』、『星は爆ぜて危ない』、『そうして星を超える光の神は保有の温度おんどが高すぎる』などと刺激の少なく。

 それには実際として『光に手を焼かれるなどしていた青年』にも飲み込みやすい変更であり、されど『大元の意は変えず、だまうそも極力とないように』の配慮が古き神で繋ぐ発話だ。





「故には暗黒あんこくに於いて皆を隔離かくりし、外部からのねつの触れ合えぬ断絶だんぜつの中でこそ『各位かくい各位かくい理想りそう』を見てもらう」


「其処では『王』という『為政者いせいしゃ』でもある私で『健康けんこうにして文化的ぶんかてきともゆる最低限度さいていげんど生活せいかつ』を『ゆとり』あっての前提とし……即ち皆々に『己の理想をこころごとえがける限り無い各種の資源』さえ、"大いなる力での用意"を」





「『支給しきゅう補助ほじょもある』と」

「……? ("冥界にも色々な物がある"……"与えられる"?)」





「よっては『働かざる』が何なのです。『無能の働き』がどの様にして悪しき結果を齎せるのだろうか——隔てられた世界には、"他者に物を言わせる接点せってんがない"」


「そうして仮に『他者との関わり合いに生じる幸福を見たい』としても、第一にはそのよう願う『自己の目的』と向き合ってから」


「他でも一部の『博愛持はくあいもち』や『発明家はつめいか』のような者からは『皆の関わりで作る完全な幸福』について様々な論理ろんりを『研究費に困らぬ我が領域』でも、只管ひたすらと集中できる思案に物を試してみればよい」





(……? 聞き慣れない情報が多くなってきて……混乱してきた)





 話は『死』から、また『その先について』へと移行し、青年にとって殆ど全て『未知の領域』に差し掛かっては奥義のない状態に体内で流れのとどこおる感覚。





「ですが……"?" 当然とよく知らぬのですが女神の口振りから察するに『死』とは……謂わば落命らくめいの瞬間からも辿り着いた異界いかいでは『そのさきのようなものがある』と?」

肯定こうてい。しかし大前提として『罪科ざいかの有無がどうの』とあぶることなければ、氷結ひょうけつ寒冷かんれいいましめたりとの世に恐る恐ると語られし様相ではなく」

「……では?」

「寧ろ各位で『満たされる日々ひび』なのだ。理想が叶えられては『夢見心地ゆめみごこちのよう』とも言えよう」

「『思い描くまま』と先に言っていたような?」

「ええ。望みの例として『戦場に栄誉えいよ戦士せんし』なら『永遠の戦い』や……『好色こうしょく女好おんなずき』なら『好みの美女びじょに囲まれて甲斐甲斐かいがいしく身の回りの世話をされる』こともあるだろう」





 すると魔眼に睨む先では分身のメイドトルーパーズ

 一体は疲れ目のように眉間を歪めた青年へ暖められた触手を『アイマスク』のように差し出し、もう一体は『重い女に疲れたのなら私で肩をお揉みしましょうか?』と目を細めた笑み顔が誘う。




「……いえ、大丈夫です。今は兎に角、『アデスさんの発言』と『イディアさんの出してくれる疑問や纏め』を自分でも記録しておきたいので、お気持ちだけで」




 その『はべらすおんな』の演出は断られても仕方なく。

 肩を撫でようと近寄った『魔性の私』が『気遣いの中で自然に青年へ触れようとする』のを『もどれ、毒婦どくふ』と——『嫉妬も宿す本体』で派遣の分離を闇に呑んで引き戻す。





「……つまり、『死という眠りの中で幸福な夢を見る』と?」

「……」

「『無言』なら、そう言った訳でも……"ない"」





 だがして、その『現実』と『冥界での生活』を切り分けるようなイディアの伺いには首を縦にも横にも振らずの大神。





「では、"冥界にも明確な自己で思案が許される"。そうして述べられたように『接触がないのみ』であるなら……『死』とは単に『神の進める移住計画いじゅうけいかく』のようにも聞こえます」

「……そうとも言えようか」

「であれば、"冥界めいかいへの移住いじゅう"。それは『約束された地』への到達……そのように聞けば多少に私の持つ既知の情報との噛み合いで新しく理解の深まってきた気もあり」

「……」

「そうして『単に冥界の法が先述の行為のみを強く禁止する』のであれば……話は本当に『魔王が統治する国へ皆で移り住むだけ』のようでもあると」

「さりとて、そう穏健おんけんに聞こえのいい事実だけでもなかろう。『たみの全てでは我の主張を理解できぬから有無を言わさず強引に奪って行くのだ』と非難されて然るべき面も多々にあるのだから」





 常に"己すら非難する"のが『暗愚あんぐ』であって『良王りょうおう』の、"複雑な神"の在り方だ。





「そうしても『私という不完全』で、『こと』という"かたちこす呪具どうぐ"を通しても伝わり易きよう再三に言う」


「真実として私は、"皆に出来うる限りの幸福を約束したい"」


「その意の現れとして我が齎す『冥界』という世界法則では『加害かがい』も『被害ひがい』も、『【なんなし】や【善意ぜんい】や【】がかざあく』も……例に『虐待ぎゃくたい』も『やす賃金ちんぎん』も、『のぞまずいられたながきにわたろう』さえなければ——」





「「……」」





「——望まぬものはない。の領域で望むものだけが、其処そこに」


「なぜなら『しん不幸ふこうなき世界せかい』とは——『加害も被害も生じ得ない完璧かんぺき分断ぶんだんの中にこそ見出される』とわたしが信じるから」





(…………)





「故には『階層かいそう』などでも分けてはやらぬ」


「その『えらける』も"関わり合いの一種"であり、『菌類きんるい』も『細菌さいきん』も『古細菌こさいきん』などと呼ばれる微細びさいものたちさえ一つ残らず己の——"各位かくい孤高ここうとなれる世界に充足じゅうそくを得る"」





 掲げる理想に強まる語気で神の宣誓せんせいいろる。






「それこそが『冥界』。私という王権おうけんほうが『によってわるべし』——最早もはやの誰とも関わりを持てぬじた世界へ」


「『他者たしゃとのかかわり』こそが『あくまれる余地よち』なら、れをうばって『あく』もなければ『ぜん』もない——『息苦いきぐるしくあるただしさ』だって誰にもさだめられぬ世界ばしょかうのだ」




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