『約束を探して⑦』

『約束を探して⑦』




 斯くして『美の探求』は『魔王まおう』に迫る時。

 されど、口火を切ったイディアでアデスに『一旦に話す内容を精選せいせんするため』と言われては日を改めての翌日。




「——わたしの『つの一欠片ひとかけら』でも削り出せたなら、『装備品そうびひんの一つくらいは仕立ててやろう』と思いましたが……」

「くっ"、ぅ、、ぁ——"!"」

「これでは——"りませぬ"」




 冥界師弟で『角勝負つのしょうぶ』。

 弟子では左右よりの二本にほん、師では左右と真中の三本さんぼん

 互いに『有角ゆうかく龍神信仰りゅうじんしんこう』を鹿しかの如くもつけい。

 訓練用の開けた場所で『遊び心』を兼ねての模擬戦もぎせんが衝突ににぶい音を繰り返して暫く——いや、今まさに組み合いから円線どひょうの外に放り投げられた青年で『負け』となる。




「よっても私に身を包まれたければ……引き続きに精進なさい。我が弟子」

「っ……は、はい」




 殺風景でも壁床の柔らかい素材の部屋で敗者に歩み寄るは『熟達じゅくたつ三本角トリケラ』。

 その弟子で尻餅しりもちをついた身を引いて起こしてやりながら軽くの気遣いに見せる余裕が『有角種ゆうかくしゅとしても年季ねんきちがう』との誇示こじ

 無言にも謂わば『削らんとする先に内なるつの年輪ねんりんを見よ。其処には宇宙うちゅう歴史れきしがある』と言いたいものか。




「……それでも、強すぎますよ」

「手加減はしています」

「でも、その……おもくて」

「……」

「少しその自分には重い印象が感じられて……だから、『新たに装備もの』を頂けても扱えるかどうか」

「その時と私で大部分だいぶぶんを担うのですから大それた心配も要らず……一先ずの今は青年で『質量制御しつりょうせいぎょの感覚』を流れに掴んで下さい」

「……はい」

「分かり易く私と貴方で『つの』を介しても『重量じゅうりょうを持ち上げる感覚』」




 そう、『角竜かくりゅう』や『つのある甲虫こうちゅう』でもあったのは大神たいしん

 即ち恐らく『女神アデスもかつてはトリケラトプスだった』から、神格としての彼女が『図画』や『実際に目撃した他者こたい』は元より『かつての己自身おのれじしん記憶きおく』も参考に掘り起こして形とした乗機トリケランダーを——『きょ、恐竜です! 恐竜じゃないですか! え、このに乗るんですか?』とお披露目の際に青年で評されて少し微笑んでいたのも内緒のことだ。




「そうしての予定時間。今日の身を動かす修練しゅうれんは此処まで」

「では、次は……イディアさんとの?」

「左様。俗に『頭を動かす』との精神的な働きへ、身を休めつつ臨もう」




 すると、今日の訓練が終わったのを見計らってアデスが翻した身に呼応して色を変える室内。

 女神でつのも消して、かべも消して。

 空間の壁際で鉛色なまりいろ平面無地へいめんむじが取り払われた奥では、先んじてうつわを並べながら『茶の準備』を進めていた残る女神イディアの姿が覗く。




「御苦労です。美の女神」

「いえ。畏れ多くも私より願い出て、この上ない幸運にも貴方で応じてくださったのですから……どうか遠慮なく」

「我が方でもかたじけない」

「いえ……そうして我が友も御着席ごちゃくせきを。貴方の用意してくれた菓子に合わせて直ぐにお茶もお出しできますので」




「……有難うございます」




 次なる場の備えではアデスでも一言に感謝をし、同席する青年の気遣いで甘味の幾つかも添えては息の詰まらぬよう『茶会ちゃかい』の形式にて先ずは師弟から腰を席に下ろす。




「『あたたかいもの』と『つめたいもの』で御用意できますが……御二方おふたか何方どちらになさいますか?」




「……」

「……でしたら自分は『冷たい』方で」




「かしこまりました」




 問われても先の順番を恩師より譲られた青年では『冷たい温度』を選択し、『真剣な話』に向けても『訓練の後での火照りを収めたい』と器に二、三のこおりを入れてもらう。




「私では『あたためられたもの』を」

「はい。ただいま」




 そうしてアデスでは『弟子の作成した氷』も欲しかったのだろうが『茶の水分にも青年の情報は含まれる』と今は意を呑み、折角に両方を用意してくれた『イディアの顔も立てる』様子。




「どうぞ」

「"……"」




 給仕されても示す謝意に軽く会釈をしあって、此れよりの話もあくまで『意見を述べるのみ』として重くならないように『暗い少女』から笑みを浮かべてくれる。




「……そうして、"質問者しつもんしゃの貴方"も席に」

「……お気遣いにも感謝を」




 それでも、両者ともに席へ着いて目線の高さを合わせた『暗黒アデス』と『イディア』が向かい合う場面。




(…………)




 両者を左右に置く位置で視界に収める青年は、今朝けさより心配であった『神と神の会談』が直前に迫る気配で喉に生成した水を『自流じりゅうの調整』として玉体に不要な息ごと飲み込む。





「それで、なにを聞きたいのだったか」





 すると程なくは間を置かず。

 茶会に『前日の遣り取りを再開せん』との御言葉みことばが『現世に君臨する王』より。





「……僭越ながら再度に申し上げますと——『我が探求と関連して最年長の知者ちしゃに以前から問いたいことがあった』のです」

「……問いの内容については『以前からの口振り』で私にも察しが付いています」

「ならばそうして、失礼の極まりなくも……それは『私が貴方へお近付きにならんとした最たる理由』でもあるのです」

「構いません。それについても同様に既知きちとする私の御前ごぜんで確認として述べてみよ」





 赤き魔眼の向かいに質問者のイディアからは言動に敬っても、大胆に。

 即ち『隠し立ての通用しないだろう相手』へは、前もって『積年せきねん腹積はらづもり』を明かしつつ率直な意見を王の前へと並べ立てる。





「ならば、其れ。ともすれば『化身けしん先達せんたつ』でもあろう"貴方"という……『多面ためん神格しんかく』へ」

「……」

「そのさんとしている御業みわざとは、もしや『幸福こうふく約束やくそく』なのではと」

「……続けなさい」

「……より単刀直入には『魔王まおう』の貴方が『おうなかおう』とも呼ばれる所以ゆえんにも絡み——更に言うなれば貴方が進めていると思しき『冥界めいかい』や、『』や」

「……」





(…………)





「それら『あくまでも手段しゅだん』を用いた『万民ばんみんに対する約束やくそく施策しさく』についてをお聞きしたいのです」





 同時には『こえ』が聞こえても——『茶の湯で一切と波立たぬあやしげな幽寂ゆうじゃく』が却って『緊張きんちょう』に思える青年。

 普段の恩師が『秘密とする領域』へ話が踏み込んでは一層と気の引き締まる思いに、彼女自身でも以前から内心で『気になっていたこと』——『【アデスとの共存きょうぞん】を望んでも【悪魔あくま所業しょぎょう】を詳細に知らねば判断が出来ない』。

 全てとは言わずとも『真実しんじつせまる情報を知らねばなんとも評価ひょうかがしづらい』、『自己でも物事に対する意見いけんひょうがたく』——『その妥協だきょうできる道筋や行いに対する【取り返し】の付け方も見つからない』とでも、あわく。

 即ち『【邪悪じゃあくかみとでも世界で円満えんまんに向けた可能性】が垣間見える』——『かすかな希望きぼう』を求め、『期待きたい』してのあわく。





「……」

「お聞かせ……願えますでしょうか?」





 恩師を囲う前に友と同意しての『聞き込み』に、あおい彼女も彼女で『おのれ目論もくろみ』を持参しての暫しが静観せいかん





「……」

「……いいでしょう」

「……では」

「はい。私よりのはなしとして『貴方方あなたがたからの理解』が得られるのに越したこともありませんので」

「深く、感謝いたします」

「しからば質問からこたえる話の起こりは、"理想を求める"なら『思考実験しこうじっけん』のようにも語りとしましょう」





 イディアに続いては協力者の青年でも会釈。





「現状の殊更に世で『おくり』や『わたり』と溢れるよう『異界いかい』の存在を隠し立てすることもなく」


「時に知れて『よわみ』と思われても構わぬ算段ものですから、若者たちからの『はなはだしい誤解ごかい』が生じて私から『だます』ようになっても心苦しく」





「……」

「……」





「よっても、『いずれわたしによってせるいのち』は大神たいしんとの対話を望む今に明かしておく」


「『有無を言わさず現世の繋がりを断つ神の私』は『邪悪じゃあく』ですが……それとして『死』という『概念自体も悪であるかどうか』と貴方たちにも『考慮こうりょ』を願いたいのです」





「……勿論のことです」

「"……"」





「ならばなにを信じ、また疑うことすら二者に委ねられ——そうして『より良く生きる』とは何事なにごとか」


「『私の掲げる理想』へ二者を含む『全てのたみいざなう言葉』を是非に、"今後の判断材料"としてほしい」





 未だ応じる神では穏やかに。

 声の圧もなければ、表情に"いつくしむような笑み"すら伴って『くちふくちゃ』の意が『あくまでも友好ゆうこう』のあかし




「だが、私にも『語りたくないこと』の多々あり。よって質問に対しては時に『黙秘もくひ』も行使して『曖昧あいまいほのめかす』ようにも……『語りたいようにしか語らず』で構いませんか?」

「はい」

「では、そのように」




 それは緊張の中にも『対話』の構え。

 茶から杯を通して青年の手に伝わる"温度"にも密やかなささやきが『穏便に話をするだけです』——と。





「……そうして私という神の、『魔性ましょうであってもおう』の『為すべきとした施策しさく』についてでしたか」

「はい」

「では、真実としていまずでも『我が身がしん唯一ゆいいつおうとして立ったなら』の、謂わば『仮定かてい』も交えて——」





 今もそばに『恩師の情』を感じ取る青年からも、同様に目配せが『穏便』をねがかえして。

 状況が『あらわ候補者こうほしゃ』へと『王の語り口』に付随する威徳いとくの中にも主体を移す。






「『未来みらいに向けた展望てんぼう』を含んでも——私という王が見る『るべき世界せかい』の話をしましょう」




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