『約束を探して⑥』
『約束を探して⑥』
「女神。これは……『
「『
「いいえ。
「だとしても
そうして『美の探求』に触れる際で青年が指定されたのは、平時で『
常に真新しい其処で今回は『休息』も兼ねているので軽く仕様を変更され、『泳ぎの速度を競える縦長の水槽』を傍に、中心を『円状に流れる水路』と、その周辺で『高所に
「……? あ——おはようございます。アデスさん」
「はい。おはよう。
だが、対角に見えた友の髪の黄褐色へ歩み寄ろうとすれば、進路に割り込んできたのは『恩師からの制止』であった。
「? また、どうしてですか?」
「……
「(……やっぱり、『水着』なのか)」
「はい。お手数をおかけ致します」
「……分かりました。お待ちしています」
それも、止められた周囲に感覚を澄ませてみれば『物陰』や『更衣室』などを中心に『百体の
高い座席に座って『暗い目を領域に這わせる』のいれば、スライダーの入り口と出口で『安全管理をする者』も念入りに。
他で『
「"
「『
そうして監視の敷かれた中心には『
胴を包む生地で基調は『黒』の、
首には先述の笛に加えて『
「そうして『理想的のイデア』とは
「……」
「『
「……そうして『理想的』に肉薄すれば青年をどうするつもりと?」
「よっては『美に関わる
「……」
「謂わば『
そのイディアは『競泳水着』という正に軽やかな装いのまま魔王に対して『己の状態』を爽やかに語って見せている。
「加えて自身の求道ついでには『協力してくれる我が友の需要を満たしてあげましょう』とも思いまして」
「そうした意図があるではないか」
「ですが事実として『我が友が好き好む
「……
「ならばやはり、どうか。私と貴方でそういった共通の利点を踏まえても
するとそうして、事細かに理由を説かれても。
「だが、今も私は貴方を少なからず『
一斉に"
数にして
全身を覆う漆黒の装甲は『拘束具』としても——肌身を晒す魅力を封じられた『
他方の横並びに姿勢も等しく武装で『
続いても横で事あるごとに『青年を
「こ、これは……まさか『美の女神の競泳水着』には着ただけで銃口を向けられるほどの魅力が……?」
「あくまでも『
「
それら『青年に過度な
自分自身の大神アデスで『反省の任を表立った行動として終えるまでは青年との顔合わせを禁じられた
規律の取れた動きが『接触禁止の呪い』を弾丸として込める武器を両手に大元からの『発砲許可』を待つ。
「それでなくても"
「……」
「"沈黙で事の有無を明確にしない"点でも
「……いえ。『
「何と言われようとも私の意は不変だ。明確な合意を除き『
「それは……私でも女神の仰る"
とはいえ一度は
「ならば今一度で確と耳を傾けよ。私とて『理由を尋ねた』のであって『装いを楽しむ』や『遊ぶ』程度を『
「……では、今の語り口は『
「然り。既に貴方が『説明の責任』を果たしても、残る『許し』は私が話す言葉の後だ」
「はっ」
「いいですか。"魔を統べる王にだって恐れるものはある"のです。例えば『
「其れは恐るべき『相性』、『組み合わせ』。もし仮に『変化や計測の負担を軽く
「……」
「また更に近しく先の展開に視えるものとして、取り急ぎは『美の女神を題材とした
「……」
「"深刻に発展してゆく可能性"が有り有りと……(中略)——多識の視点を持つ貴方で『
「……ですがそれでも『生物学的の性的な魅力』に見出されるものも『肉体を介して精神の動きも出力されるなら二者は不可分』と、遡っては『美を知覚する機能や情動の根源』を探るのに、やはり語りで避けても通れませんから」
「……ならば『必要の意が固くある』ことは理解し、『目的へ向かう
「では、『お許し』を?」
「……私の
「女神の
そうして片やの反対側でも『待て』と遮られた若者で『
「そうして、この私は『医療に通じた私』でもありますから。女神イディアとの話が終わるまでに『青年の
「あ、お願いします」
「はい。では、座席に着いて下さい。
『——はい』
素早く漆黒の
それも青年は『恩師に口内を
「——歯の方は
『……』
「では、
『はい』
「離して」
『はい』
「……噛む力の
検診中は『周囲に様子が漏れぬ
だが、時にそれでも『甘えの気恥ずかしさ』に泳いだ視線は逃げ場なく。
されど、仰向けに寝そべって一巡の後にも見合わせる恩師の顔に微笑まれ、その『気にかけてくれる幸せ』を胸奥に心地よく享受する。
「そうして他の部分でも最近の様子に変わりはありませんか?」
「最近は何とか、お陰様で……『自分の身を
「……いい傾向です」
一方の
何故なら、甘えを許された状況で『苦しみを隠さぬ青年の笑顔』が眼下に良く見えるのだから。
「それもやはりアデスさんが二十四時間体制で話し相手になってくれていますし……それでも不安が収まらない時に『
「……構いません。我々でも合意の上なのですから」
よっても青年の
それは『これまでにも
時には今のよう不可視で『包んだり』もすれば、
「青年で『自身の価値を低く見積もる傾向』があり、よってからに『"他者"という外部からの評価にこそ意義を見出している』と私は知っています」
「……はい」
「謂わば『自身を評価する軸が
「……」
「引き続き私と一緒に、長い目で見ながら
「……はい」
「
「"……"」
「では、今日も
「はい……!」
「美の女神が少し大胆な格好をしていますから……其の
・・・
「——そうして先日は『よく分からないが不快でないもの』、『知りたい』をはじめとして『意欲を沸き立たせる何か』を一つ『美なのでは』と言って」
理由を述べて許可を得たイディアも合流し、本題に向かう話が『愛』や『恋』との関連の深くある『美』の領域。
「そうして同時に『
「『よく知らないが魅力的』、ではもし『その対象についてを知れたなら』とも先に思いの膨らむ『未来への期待』や『幸福の到来する予感』のようなものでも」
「即ち『この先にはきっと楽しいことが待つのだろう』との——『
勿論に周辺で各種のアデスが見張る中にも競泳水着の女神が向かい合った軽装の友へと『同地へ呼び寄せた理由』を述べる。
「それは正に『体験』を通して感じ、『意識的にも考えてもらおう』と思いまして、今回は『友の慣れ親しむ水辺』の此処に来てもらいました」
「水辺の?」
「はい。話を聞いて想像力を働かせるにあたっては『貴方の良く知る背景や設定の流用』で負担も軽くなり、『浮いた手間でより鮮明に追加の情報を捉えられるのではないか』と」
「成る程?」
「だから、"
「……分かりました」
次には思索を進める指示で女神たちの持つ高度な演算能力に『空想の世界』が広がり出す。
「では、何から考えればよいのでしょうか?」
「でしたら早速、兎にも角にも唐突でありますが我が友には私も良く知らぬ『
「こ……『恋』の?」
「経験がなくても想像して下さい。もし仮に『
「イディアさんが……"講師"?」
「水泳の記録更新を狙う我が友——いえ。『
「惚れ込む」
「"この格好"を見れば分かるように私でも
「貸し切りの、市民プール……では、『アデスさんの支払い』で自分は泳ぎを習いに?」
「そうです。そうして『初めてのことに不安な面持ちで場に躍り出た貴方』と『講師である私』の——"出会い"」
「"幼い頃の自分"の、"不安な"……——」
————————————————
『——貴方が……
『お
『そうして私は貴方の指導を担当させて頂くイディア。今日から一緒に頑張りましょう……!』
————————————————
「——そうして『声を掛けてくれたイディアさんの優しい案内で不安を減らせた自分』がいて……何だか、そんな気がしてきました……!」
再三に言われては『浮力のある板を抱えてキョロキョロする幼女ルティス』と『年上の水泳指導女神』とで出会いの光景が、まざまざと。
思い描くそこで『幼少の神の生態』という実際として『幼くあっても小さくはない生物』の『存在しない筈の時期の記憶』すら——『人として生きた確かな記録がない青年』には『真実』と『虚構』も境界が溶けて混ざって『現実味のある甘酸っぱさ』を伴うものと意識の中に形を成す。
「『この優しそうな方となら頑張れる』と……イディアさんに見守られながら成長して、何か『褒められるのが嬉しい』まま遂には『
「……ふふっ。では『どうして可愛い生徒さんは大変な打ち込みの様子でも、そうまでの
その間も二者の側で聞く話から共通の情景を見ていたアデスでは『存在しない初恋の記憶を植え付けるな』、『境界を溶けて失った青年の記憶の脆弱性を突くな』と厳しく言いたかったのだろうが
それでも『青年の幼少期を思わせるとは悪くない術式』と周囲に百の大神で先行して夢の続きを味わっていれば——あろうことか『教室から卒業する時の切なさ』を思って無意識に涙を垂らし始めた青年へ駆け付ける救護要員たち。
複数のアデスで早急に濡れ顔を拭いても『共感性も著しく高まれば予期していた事態』と、まだ術式に『過度な思い込み』で取り込まれている者を現実に引き戻す
・・・
「……情緒が不安定な部分で、ご迷惑を」
「いえ。想定以上に我が友が術中に嵌まってしまったとはいえ責任は間違いなく『始めた私』にあるのですから……兎角、了承の上なら互いに『過ぎた事も無し』と」
「……はい」
「本題には『一目惚れのような思い』は感じられましたか?」
「それも、はい。本当にもう……ああいったイディアさんにも魅力的な言動で『出会いが喜びに思える』ような」
「では、『まだまだ私を知りたい』と。記憶では『先生の貴方はどのような方?』と出会いに際して『未知への関心』が思えたように……そうさせるだけの『豊富な魅力』が、それこそ『限り無くあるのだ』と感じられたなら幸いです」
「確かに『相手を知りたい』と、魅力のあるものに出会った時には自分でそう感じるのだと再認識できたと思います」
「でしたら、『その快い感じ』さえ知れたなら『良き』として、我々の『美』を思う話も次へ」
中途では水の表面で取り乱す場面もあったが互いに苦笑で『大丈夫』と確認。
「今に見えたよう『美の感覚で生きることを意欲的にさせる効果』としては何か『記録更新に向けて奮起する』など様々に」
「宛ら『相手に認められたい』・『相手を知りたい』など各種動機に
見守る暗黒でも『続く良好の仲』に頷いては、許し——いや、『私の青年から初恋を上書きして奪うなんて』などのきっと色々な感情、様々な感情。
複雑な思いのあって、それでも世界の変じた神格は口を結んでも『青年の喜ぶ』手前で大人しく黙っている。
「そうして『美を考える結論』の一つとして纏めに誰かは言いました——『
「幸福を、"約束"……?」
「それは感じ取った者が『生きることの充実を身に覚える』ような、『美しいもの』に触発されての『恋』や『愛』と呼ばれるものが『
「神の保証もなければ絶対的な価値や意味の見えぬ世の中で、ともすれば『全てが
("生きたいと思わせる"、そもそもの『生きる理由』のようなものが『
「曰くそれは『
「出会いが
論じられているのは『美とは何か?』の問い掛けから始まって、今で『皆が美と思うのはこういったものなのではないか?』との『
「では、『知りたいと思えた魅力的なもの』……それこそが各位にとっての『美しい』に近いと?」
「そうとも言えましょう。時にかつて知り合った者も『貴方にとっての世で最も美しいのは、他でもない貴方が愛するものだ』と歌っていたように」
「……」
「そうしては片や当初に『美しくない』と感じられていたものさえ関わる
「時に『瞬間に直撃する』ようであって、また時に『直感だけに
「えぇ。全くもって
「……"
「はい。平易には『何かいいな』と思った興味関心の事実を糸口に世の見え方も少しずつ変わりを見せ、次第に観察する各位で『美』についての考えも時を流れて深まってゆく」
「……」
「それもまた『
頷く女神に無感情でも瞑目が味わいのある顔を作り、『白』に混じる『赤』が髪では合わさって『
「そうして『知りたいと思えたものと存分に向き合って解明に熱中できることも幸福』なら、言い換えても『未だ知らぬについて考察できる今こそが一つの美』なのかもしれません」
「"ただ
「"——"。ともすれば、それは……『分からずとも未知について思いを馳せる』ということでもあり、またその『未だ知らぬ』や、それこそ『未知の化身についても考察する』のが一つの美の宿る瞬間だとして——」
すると、白桃を浮かべるイディアで側を通りがかった巡回の
「仮にそうだとすると——"
「……?」
「"
「ひ"————」
「『未知への期待も美』ならば、『
「
「……『咲かせましょう』『私と貴方で』『
「……
「それは残念です? 大神の作る
「だからとて急も過ぎよう。我々のような『
「それは……浅はかでありました」
「見よ。
「申し訳ありません。そうして『魅力を秘める
「我が友へも、申し訳ありませんでした」
言われたようには衝撃で溶けて『
「それ、我が弟子。女神イディアも謝っている。今のは彼女で『思い付きの疑問』を口としたに過ぎぬ」
『そ、それは、はい。悪気はなかったのでしょうし、全然——でも、まさかやはり、"アデスさんとイディアさん"は、そ、そそ、そういった仲でも……?』
「……『やはり』とは
『だ、だって! 口振りは【以前からの古い知り合い】みたいですし、それも何だか【良さげの空気感】、【意見を示し合えて信頼の於ける深い仲】の感じがあったので……もしかしたらと——』
・・・
「——また兎角『虚無より見出さんとしたよく分からないもの』とは『虚無の中にあって虚無とは
「それこそが『美』なのではないかと?」
「"——"」
今し方には『
「『虚無という未明の中にあって突如として現れた謎のもの』——そうして、その『美』こそが見通せぬ世の中で多く我らの『生きる理由そのものになっているのだ』と、そのようにさえ一説には語られます」
「"美が生きる理由に"」
「神の不在で何が分からずとも『快い』と感じられるものを必要として、求めて……
「……」
「哲学的には『世界が存在する』と言う『根源的な不思議』が意識に
「……"不安の中に求められた理想の形"。そうして、『明らかな答え』がなければ
「"——"。そういった認識でも間違いはないのでしょう」
「そうして一旦に話の
「それは『知れたなら』と、『より良い展開を予感させるもの』——謂わば『未来に約束された幸福』のようにもあって」
「はい」
「そうその『
向き合う二者で水槽の中へ足先から身を落として行けば『折角なら』と『我が友が私から教わることもないだろうが水泳インストラクターの体験もしたい』とイディアの願いを反映。
願われた水神の青年では今更でも『再び教えられる側に回ることで、もし自分が教導を担う時の知見が得られるかも』と快く引き受けて水に浸かる双方で声の起こす波動が一層に近く。
「……"
手を引いたりの『肌と肌』で触れる場合は色々と心配事も多く。
だからには、手と手で浮力のある板を互いの間に挟んでも『集中の奥義』を使い続ける青年が首を傾げて問い直す。
「今までの話が『現在までの学者に見られる見解』の、"その一つを掻い摘んで紹介した
「……では、これまで『前提となる知識』を並べた上で『その先に向かう』のが今回の『本題』なのですか?」
「はい。これまでは『神の不在に見出す美』の話をしていて、しかし我々の前には『実在の
「……『神が実在』していれば、其処には『神の創造した世界の形』——ある程度にも『理想のようなものが定まってあるかもしれない』?」
「"——"。『幸福』というキーワードとも関連して、『美』のそうした何か『確信のようなもの』に……『美の体現へ
「……"最も美に近付いた"……」
しかして『究極の存在』を匂わせられれば必然に興味を惹かれるフレーズで、漕ぐ足も忘れた青年が胸元に迫る水の中でも立ち止まる。
「それは……一体?」
「……その存在とは他でもない"我らにとって身近"の『
事実として『周囲に沢山いる神』のどれに焦点を当てていいか分からず。
それでも見回した後にイディアへ向き直って発言の意図を改める。
「……"アデスさん"?」
「"——"」
呟けば、一斉に
「ともすれば『世界で最も美しい者である可能性』を彼の女神は秘めている」
「アデスさんも『
「ええ。彼女の、神が為す『
「『
視線の向くまま、
「——なんですか、我が弟子。よもや『
「……」
「ならば、そう安く
「……アデスさん」
「……なんでしょう? 急に『欲しい物』でも見つかりましたか? 『要望』のあって『必要とする理由の説明』を頂ければ極力にも前向きに神で『
そうして『青年を強く好む』との意では共通の
「
「……
「再び
「……」
青年との会話に横入る美の女神から『王としての神との対談』を求められるや、否や——複数にいた筈の
「その謂わば『
一瞬の
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