『約束を探して⑤』

『約束を探して⑤』





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 ——時は目覚めて、早朝に行う段階。

 模造もぞう青空あおぞらと日光の映る画面てんまどに照らされ、水が詰まった布団の上に敷かれた白布シーツ




(————)




 だけれども、その寝台ベッドの上には女神の明確な形はなく。

 剰え『事件現場の検証』のように『人大ひとだいの輪郭』を残すのみが布に出来た水の染みで——それこそが『布団に溶けて染み込んでいる青年女神』の状態であるのだ。




「——失礼しつれいします」




 さすれば、休眠中。

 寝室の扉を『三度と叩く確認の音』に返す声も喉もなければ、未だ意識の覚醒もなく。

 過去の得てしての寝付き難い時には『料理』や『模型』を組んだりと集中して抱える不安を忘れるよう、また恩師の製作してくれた『各種ゲーム』やの量が膨大な娯楽物でも気を紛らすように——昨日さくじつは我を忘れたままの『寝落ち』へ。




あるじ




 定められた手順通りに入室が見目麗しい女性の形をした側控そばひかえ。

 滞在を知らせる声と共には、呼び掛けた先の布団に添えた手が温かく。

 緩やかに気を吐き出させる霧散の様で適度に水分も取り除かれて玉体機能に朝を告げられれば——。




「おはよ御座ございます」

「——"、"…………""」




 漸くと、部屋の主が形を整えられて目覚める。




「——…………」

「現在時刻は『午前五時ごぜんごじ』。惑星地表の位置としては南西の大陸で自動支援を済ませたのち、次なるを求めて『海洋かいよう航行中こうこうちゅう』であります」




 こうして身近で私生活の多くを助けてくれるのが、今は髪と目で薄いむらさきの色をして露出の少ないロングスカートのメイド——即ちが"長身巨乳美女のお手伝いさん"、

 これは、神のたまわした道具どうぐだ。

 それも過去には、受け取った当初の『恩師そのままの姿』でも落ち着かなかったので初めて容姿に変更を加えた時は『初期設定の似姿トゥト』から体格だけを調整。

 しかしそれでも『白髪赤目の長身巨乳美女』を目の当たりにして思ったより『周囲の女神たちの要素そのままで面影が濃い』と——気恥ずかしさ健在にあれば、よってからに『色もずらしてみると』で似た印象も大分に薄れた現状の有り様として落ち着いた物であった。




「…………」

「そうして主が『開放的かいほうてき御姿おすがた』のまま風呂に寝ていらしたようですので、乱れた物も着替えさせた後に御運おはこびを」

「……」

「また使用された道具類も清掃せいそう整頓せいとんは済み、今日も今日とて各種備品の補充・確認もぬかりなく」

「……」

「お使いになられた物の種類や進行状況も鑑みては、此方で新しく主のまだ手に取られていない中から『マイルド』で『甘々あまあま』が中心の物を厳選げんせんしておきましたので……どうぞ、気の向かれました時にでも」




 故からに声の質さえアデスともイディアとも異なる玉声が柔和な音調で寝起きの意識へ語り掛ける。




「……そのほかで、お伺いしたいことは御座いますか?」

「……ね、た」

「はい」

「寝た、時間……どれくらい」

「今回では凡その一時間いちじかん。週には三時間さんじかんほどでもあれば、それでも加護を受けて基本的な機能に問題はなく」

「……」

「しかしてこころとして『日毎ひごとの凡そ八時間はちじかんを寝たければ外部機器の利用が不可欠』ですので、その際にもお声掛けを」

「……」




 青年では未だ瞼の重く、じ切って。

 辛うじての発声もかすかなら、しかしそれでも高機能の助けが意を汲んでくれる。




「続いてはどうされますか? 予定の時間までは十分な猶予も御座いますが」

「……き、る」

「かしこまりました」




 気遣ってくれる言動の波長もに心地よく、青年で自室に在るこの体感は『数少ない安らぎ』の時間でもあった。




「では、はい——あるじ御手おて拝借はいしゃく

「……ん」

「よく出来ました」




 そうしても続く朝の手順は殆どお手伝いさんの主導が『大浴場だいよくじょう浴槽よくそう』までを運んでもらったり。




ひたしますよ〜」




 寝巻きのまま優しく微温湯ぬるまゆに浸されていれば、洗車機せんしゃきを優しくしたような自動の作る水流。

 その女神を囲む流れで『丈夫な体』というよりも『草臥くたびれた心』を洗ってもらったりもすれば——心機一転しんきいってん




「本日の御予定は『友神ともがみより遊泳ゆうえいに誘われた』のでしたね」




 人肌の温度を持つ腕に水から引き揚げられれば、『表面の濡れを奪う魔法』にて瞬間にも玉体は乾いて。

 今日の『友と内々に気安く親しむ予定』に合わせては水神に最適化されている『簡素なシャツにパンツの装い』も一度は浴槽の水に溶けてから『肌面積を減らすパーカー』も上に備えて外向きの形式ばらぬへ再構成。




「……」

「それについても時に『ゆとり』はありますから準備についても御緩ごゆるりと、お任せを」




 そうして広い個人用の更衣室。

 背もたれ付きの椅子へ再度の抱える運搬から座らせてもらえば『簡易に口内から改める健康診断』や、長い髪をくしいてもらいながら。

 絶えず耳元に優しく届けられる声でも『メールなどの連絡事項の有無』と今日の予定を再度詳細に確認してもらったりで——『なり』に於いては外出用の備えが完成とする。




「そうして『遊泳場ゆうえいじょう』が『プール』なら……きっと、『水着みずぎで待つだろうおんな』」

「……"」

「色々と大きく、"水の沿う形は豊かな傾斜けいしゃ"に……そうではない?」




 ならば外が済んで、残るは『内面ないめん』の要素。

 青年で『一度は枯れた傷心しょうしん』に『情熱じょうねつ』を注いで、『感性の冷え切っても止まらぬ思考』を『うず』の如きへ力強く呼び戻さねば。




「主は、?」




 故からに『あくまでもの手伝い』で初期設定から『好み』としてそのままにしておいた『魔性ましょう』のめん

 目を細めて意を引き出す挑発的ちょうはつてきに『再起さいき呪文じゅもん』をとなえる。




「……っ」

「そうして、『貴方あなたねがい』は? 『綺麗事きれいごと』でも言ってやりましょう? 誰に揶揄やゆされてもかなえてしまえば……"それは現実げんじつのものとなる"」

「……、」

「聞かせてください。さすれば私も私生活の面で正にの当たらぬかげながら、『誰に知られることもない貴方』の御手伝いをさせて頂きますので」

「……"相手あいてに、しあわせになってほしい"」

「その調子です」




 そうして『同席を求められれば自分にも出来ることは残されて在る筈だ』——と。





「まだ、"自分"にも何か……『出来ること』が」

「はい。理由も再確認出来た所で今日も既にくできました」

「なにか……できる——」

「『補助ほじょ』はあさの『御薬おくすり』です」

「ん——、っ、、——」





 緩慢にも自ずから立ち上がるは『けるしかばね』。

 手伝いにも『気付けの薬』を含む流体で口に近付けられた容器を徐々に傾けてもらっても飲むとし、『アデシウム』を水源の中心へ落とされる度に『重さ』が補強してくれる全身への流れが『制御下に明確なもの』と感じられる。




「はい。むのも上手じょうず




 より確固たる姿勢が水面で関節かんせつを張る様子にも現れる。

 "確たる夢を意識せぬままたおれた心"に『今更と立ち上がる理由』などは本来なら失われた筈であっても——





「——……行ってきます」

「お気を付けて。行ってらっしゃいませ」

「"——"」





 水雪駄みずせったを履いて、今は『友の待つ場』に向けて玉体に携える"意欲いよく"。

 お辞儀と、控えめの手の振りを持った笑顔に今日も見送られ——。





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「あ! おはようございます、我が友! そうして日を改めて頂き準備も、お待たせを——」

なんだ、"その格好かっこう"は」






 ——進み出した青年が二度に扉を開けて移ったプールサイド。

 備え付けは扉の開閉かいへいした音で『友の入室』を知って対面に臨もうとする美の女神を『領域の監視者』たる暗黒でめに入る。




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