『約束を探して③』
『約束を探して③』
「……他の幾つかの作品も見てみるとアデスさんは割と『
「『有無を言わさず世界に権力を振るう
そうして、足を運んだ美術館の一角に『
中でも三つめに挙げた『漆黒の
というのも館内で案内の掲示に見ると此処では『各種作品を空間に拡大投射して作中の世界観の中に入ったような視点からも鑑賞が出来る』ようであり、故からには実物のアデスで構図を再現しても実際に謎の
「よって当時の世相が『
「? いえ。自分はアデスさんの今の
「……"?"」
「——『
「……」
見上げる高さの化石が豊富だった先までと打って変わって室内、天井から注ぐ
声で有無を言わぬ展示物たちに囲まれる厳粛には他に入場者や管理者のようなものもおらず、大神で愛弟子らが集中できるようには『人払い』もしてくれているのだろう。
それでなくても常日頃より『
「そうしましては、我が友」
「あ、はい」
「『美』についてを考え直すなら、その深く関わる知識や方法やについて、つまり『美の学問的な活動』がどのような変遷を辿ってきたかを簡単にも再確認としていきたいのですが」
「再確認」
「周囲に置かれた『
本題となるのは疲れて思考の散逸する美の女神への協力で『彼女の根幹を成す哲学的な考察』に付き合う時。
「『美しいとはどういうこと』、と?」
「単に『
「それなら、以前に本や辞書で目にしたものを言わせてもらいますと……意味として『
「そうです。概ね
「お願いします」
青年で正に言動や見目が『立派』で『綺麗』と認めるイディアに触発されても、個人的な興味で『美について』調べていた姿勢が物分かりよく談話へと進む。
「では、その素朴な感覚や思いが
「"……"」
「
聞き始めの青年で顕現する神を目の前として『その実在が証明困難』と話すのも奇妙に思える節もあったが、正に恩師のような『未知そのもの』もいれば『光を超える神速』で『人の目に映らぬ者を証明し難いとは異論のない事実』とも白昼夢のような戦の記憶に実感はある。
「そうしてならば『神の不在』を感じる中の、『不安定で無秩序に思える世』で——『放って置かれた個人』はどうすればよいのか?」
「……」
「其処には確たる
「……(……
「よっての故には、留まらぬ不安や危機感に
「"……"」
「即ちの『美しい言葉』や『美しい姿勢』と言ったものの実践。その実態は兎も角に『人をより良くしてくれると信じられるもの』」
「はい」
「そうしてそれら『美しいもの』を神より確かな有意義の実感を与えられずに広がる世界に起こそうと——謂わば『
「……『作り手の思う理想』や『美しい』を"作品として出力する行為"? それによって『曖昧な美の形を捉えようとした』?」
「ええ。広く
噛み合う会話に盛り上がる二者の横では『予習をしてからも議論に臨んだのだろう勉強熱心な教え子の姿』を喜ぶアデス。
静かな微笑みの様は『にかにか』と、学徒たちの交流を求められるまで黙して見守ることとしている。
「……ではつまり『美とは何か』の考えを実行に移さんとしたのが『藝術』で、よっても二つは密に関わる概念であり——『各位の思う美しい』が表現された物が此処にあるような『藝術品』や『美術品』と呼ばれる数々?」
「そうなのかもしれません。より厳密には明確に『美しい』と感じて信じたものだけでなく——『
「……そうして『人を良くしてくれる形』を見出そうとしても、それが『各自の思い思いで異なる』なら——様々な作品が産み出され続ける今でも『美』とは確固たるものではない?」
「"——"。少なくとも『唯一絶対の正解』と認められるものを私は知りません。それもやはり元が『定まって無い状況から作り上げようとしたもの』ですから容易に結論など見えるはずも無く」
「"……"」
「今では『美しいと感じられることは個々の
「はい」
「よっては『話題に上げて共通に認知することすら簡単ではない』と、現代にも論じる者の多くを
何より恩師で存在を忘れ去られ始めた自身。
彼女で手持ち無沙汰となって白髪の結えた髪を弄るとしても、『興味のある物事に熱中できている青年』は繕った表面の内に隠す『絶えなき苦悩』を僅かな間とはいえ"忘れられて楽しむことも出来ている"ように思えるから——だからアデスでも今は放置を許している。
「それは式の証明が多方面から行われて実証に幾らかの共通認識が得られる『
「哲学」
「考えても容易に分からぬものを、けれど『それでも考えることは大切』とする分野。其処では理想について語っても軽々しく正当性を紐付けるのは危険か」
「?」
「『一部の者にのみ都合の良い
「……はい」
「よっても
「……」
「自らへの
「それが、"イディアさんの探究や調査に向けた姿勢"?」
「"——"。私でも、『美しくないとされたものを嬉々として排除するような言説』が『正しい』のだとは大いに疑問を抱いていますから」
「……それは自分も同意見です」
「はい」
けれどで
待機の老婆は『こうした
「そうして注意点から話を戻しても『美』や『美しい』と思えることは正に『当事者の体験にこそ見出されるもの』であるなら、その虚ろな世界に何かを見出す行いは『直感的な心情』とも呼ばれる『
「ならそして
「……なるほど」
「……」
「ですので、『えも言われぬ心の微妙な動き』について軽く思いを馳せるだけでも十分に"探求者"」
「正に先述の『美』や『藝術』や『感性』について哲学的な考察をしさえすれば、それはもう『美学の道へ一歩を踏み出した』と言っても過言ではなく」
(……イディアさんに『
「……はい」
「即ち『体験という
「……では何か断定的な結論は未だ見えずとも、それでも何か"皆の中にある"ような・"同時にない"ようなものを考える『
「然様なのです。"未だ知らぬ
「……(髪にも力強い色が戻って本当に、問題はなさそうだ)」
そうして二者(三者)の進む時には『無感情でも整理した情報を味わうような瞑目』が美の顔の動きに見えて、その落ち着きある様には友を案じていた青年でも着実と積み重なる安堵の心持ち。
「ではそして、"美を感じ取る"とされた抑の『感性』とは何か?」
「そうした疑問に論を交わす、謂わば『感性の学問』も美学と緊密に関わる範囲の一つであり、そこでは『意識して言葉にしづらい
「?」
「よっても、この辺りで『実際に感覚を働かせてみる』方向に姿勢を移してみましょうか」
「実際に?」
「はい。我が友で此処に置かれている美術品や藝術品を眺め、そこで生じた感覚の働きにこそ貴方も『美的な概念』を見出すのだろうかと……つまり私で『鑑賞者を鑑賞させて頂きたい』のです」
他方の復調に
波立つ心のなくとも冷静に状況を分析して、やはり『他者にすべき模範的な振る舞い』から『配慮』も出力できる美の女神の彼女で『聞くばかりでも退屈か』と『意識を活発とさせる実践』へ転換の時間を設けてくれる。
「それも宜しいでしょうか?」
「勿論です」
「正に快く引き受けて頂き有難う御座います」
「いえいえ」
「でしたら『しなやか』や『柔軟』に作品と向き合って『正しい鑑賞』などは特に意識せず
「分かりました。……そう言って実は、さっきから
「でしたら、あの手の『注視しても主題の捉え難い作品』は『
「聞いたことはあります」
「ならば解説も手短に。それは『作者が作品に込めた思想』やの『精神性』や、また『作られた当時の
「……読み解こうとする鑑賞にあたっての『前提となる知識』、『作品の外の情報を必要とする』と?」
「ええ、はい」
「……
「なので少し『感性とは距離を置いた藝術』としても仕上がり、その感性よりも『
「"……"、"……"」
「『美を見ようとするのに感性を一旦は傍に置く』というのも時代が降る中で意識された『鑑賞の新たな形式』としてあり」
「はい」
「ですがこうした作り手や読み手の『背景』や『解釈』をこそ重要視する潮流は『藝術であっても美の表現を第一の目的としない』という、謂わば『藝術と美の切り離し』が起こって行く美学の歴史に於いても重要な
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