『約束を探して①』

『約束を探して①』





『——間もなく祝祭しゅくさいも、きっとおそらくクライマックス!』





 中継に映る艶やかな銀色の女神ソルディナが祭事期間中の『特別応援アナウンサー』としても声高にたまの声を鳴らす。




各神秘かくしんぴチームの活躍で、果たして人気すなわち信仰勢力図しんこうせいりょくず覇権はけんを握るのは"何処どこぞのみ"か!』




 その天空や水面に光の投射される映像で画面の横や下の部分には『【ネオ・ニュー・三柱みはしら】は欠員けついんが出て失格しっかくか』・『登録時のメンバー全員でそろわなければ優勝は認められない』との説明。




『そうして残るチームで要注目は先日に恐れの多くも"戦禍せんかの化身"を退け、また"古き女神ら"との対決を、それら共に【大物おおものらう】ようにも——若手わかてが大半で成し遂げた未知みちの率いる【ダーク・X・フォース】と』




「……」




『インフラ刷新さっしん犯罪撲滅はんざいぼくめつ!』


『【交通安全】に【火の用心】を歌いながらも、二輪にりんで各地をけるバウンティ・ハンターは大神×かけるの【ワールド・オーダー】とで——【明確に有力候補を上回る活躍を見せた三女神さんめがみ】と【地道にも勤しむ明君めいくんら】によって最優秀が競われるものと思われます!」




 続いて学徒たちが足を止めても地下の暗所に流し出される過去の記録映像では、背景に海中の映る研究施設で白衣の所員らに囲まれながらも、その人の輪の中心で『テープカット』の式典を先日に執り行った王たちの姿。




『さすれば最後に賭けへと興じるのも今のうち! ベットの判断材料としては今日も今日とて各チームの活躍を一例に御紹介をば』




「……」




『筆頭の最高権威者によっては、中心大陸テノチアトランにあった海洋研究所かいようけんきゅうじょが老朽化に伴う改修に付随しても【スーパー☆海洋研究所】に新しく生まれ変わります』


『大きく投資を受けても一新の此処では【水辺の環境や生物に関する調査や研究】、また【生物保護や治療など海原諸事全般うなばらしょじぜんぱんの活動】を従来より幅広く行うことが可能となり……中でも既存きそんの海流の集結地点たる同地では【生命せいめいの起源を知る神】の協力も得て【生物せいぶつ】と【非生物ひせいぶつ】を分別しての【纏わりつくゴミ】など【危険物の除去】も自動じどうに出来るようと【開設祝いの贈答品】で仕組みをたまわされ——』




 そうした『人間社会へ真っ当の振る舞いも出来る大神の光景』へは、光る菌糸きんしの天井を仰ぐ地下でも余人よじんに見せぬ表情で放映を眺める暗色の少女がいた。




「……」




 それは世界の秩序にくみせずと、残る大神のアデス。

 紅の魔眼を持つ彼女で告知された内容に虚偽がないことを自身の俯瞰する裏付けでも認めれば『敵情視察』も、そこそこに。

 そらやみを編んだ頭巾に髪や目の鮮やかを隠していた者がガラス張りの窓際から踵を返して内に向かっても、己の同組に抱える若者たちの前では白き素顔を晒してみせる。




「(……よし)——四方しほうの固定も終わりましたので、後は軽く実際に重さを載せて様子を見てみます」

「……了解です。下には私と女神アデスも控えていますので、万一の時にも安心を」

「はい」




 そうして赤目が見守る先には作業中で声を掛け合う者たち。

 大神が物見ものみをしていた頃でも後ろに残っていた二者は、『青年女神のルティス』が室内天井の表面に張力ちょうりょくで足を着き、逆様さかさまの格好でも四方にあみを伸ばす留め具を壁にと突き刺しての設置。

 またその友の『忍者』めいての友を眺める女神が『美のイディア』という作業の監督役で——彼女たちの現在は学術都市フォルマテリアの手伝いで地方に発掘された『化石かせき』を、移動に際して揺れの一つなく女神らで『博物館』に収容して展示も手伝う運びとなっていた。




「それでは……少し失礼して、ネットに身を預けさせてもらいます」




「……」

「……」




 揃う三者は揃いの黒きジャケットを着ても後頭部より流れ出る髪ではしろくろと、溢れる色彩の瑞々しく。

 形でも麗容れいようの背丈では小柄の少女を『守るべき要人ようじん』のようにも付き添う長身の二つが『黒く物々しい護衛ごえい』の如く。

 されど、その実で『最も小さく古い老婆』に率いられる女神たちで『化石を運ぶ』経緯は『人の集住からの出土品しゅつどひん』であり、それもやはり、"個人では扱い難いもの"。

 現地に曰く『竜神りゅうじんが残したのろいの遺物いぶつ』として、"死して尚に大口おおぐちを開ける"様が触れるのも恐ろしくあったもの。

 その全てを掘り出しては飲食物を配布しながらも無料で引き取り、それも『折角に全体が揃っているなら』と『化石の研究に他の人間が使いたがっていた学術都市の場所が安置に適当』との移送に収容を済ませる所であるのだ。




「……それにしても、何とかメインの展示室に収まる大きさで……過去には本当に、"このような生き物が地上を"?」

「……そうですよ」




 さすれば、当博物館で一番の広さを誇る展示室。

 作業の仕上げにも仰ぎ見る高所には『翼ある大蛇だいじゃ』の吊り下げられた頭部や翼の骨が落下しても観衆に一大事であるからして——よってもの備えが大神の生やす触手で蜘蛛足くもあしのようにも手編てあみしてくれたネット

 その編んだ目が薄く鑑賞を妨げずとも細かく頑丈でもある『セーフティーネット』を『対重量の試験』として水の青年の玉体で寝転がり、見上げる恐竜の『視界を占める頭骨』に周囲で他に人の姿もなければ忌憚きたんなく驚きや疑問の声を素直に発してもよいのだろう。




「かつての地上を闊歩かっぽし、加えて空をも行き交っていました」

「あ……では、翼みたいなのはかざりではないんですね」

「ええ。今に翼で広がるまくのなければ小さく纏まった印象を受けても、実際の羽撃はばたきは起こす風に『あらしおどる』ようでありました」

「……"アデスさんは実際に見たことがある"と?」

「はい。"この恐竜の時代にも私という女神は星を歩いていましたから"」

「……やっぱり、アデスさんも凄いですね」

「謂わば私とて『きた化石かせき』なのです」




 そうして目の前のくすんだ白骨が『本物の古代竜の化石』なら『証言の御墨付きを与えられる生き字引じびきのアデス』が『実物を目撃していた』と興味深い話もされて。




("…………")




 されど、素直に『長命者ちょうめいしゃ』へ感心の若者は『一方ばかりにかまけてもどうか』と。




「……そうしたら、アデスさんのくれたあみも大丈夫そうですので——」




 青年で一服に過ぎ去りし時を思う鑑賞を楽しんだ後に"残る長命の女神"へも掛ける気を思い出さんとする。




「——これが終わった足でも宜しければ、さっき博物館の横に見えた『美術館びじゅつかん』にも寄ってみませんか?」

「……"美術びじゅつ"の」

「それこそイディアさんがまだ見ていないものなどあれば良いのですが……自分も少し『情熱の注ぎ込まれた結晶』のような物には興味がありますので」

「……『博物館と美術館を併設する』とは一つ、"興味深い試み"です?」

「"?" は、はい」




 すると、声を掛けて提案を持ち出した青年。

 単に『美神へ良かれ』と言い出した後で『何かデートの誘いみたいだ』と気恥ずかしく思っていれば——『私は?』と無言に迫る恩師の圧には『もちろん一緒に』と目配せしつつ。

 天井から床へと降りた先で再びイディアに顔を向き直れば、其処には時偶に美の彼女が見せる『無表情むひょうじょう』が『色の読み取れぬ真顔まがお』としても人心の視界に映る。




「恐らく『両者に展示される物の比較』からもものさまについて考えさせる意図があるのだと思われますが……はて?」




 そうして『友に視線を注がれている』と気付いた後では往々にして『模範的な明朗の笑顔を作って見せてくれる』のが美の女神の普段からする所作であるのだが——やはり、今日という日には表情の変化が見て取れるものではない。




「……いえ。なんでしょう? 『だからなんなのだ』と」

「……?」

「『考古的こうこてき』』や『美術《びじゅつ』と『藝術げいじゅつ』の"差異さい"とは、まさに『美の在り処』を探っての線引きなのでしょうが……よく、"分からない"のです」

「……大丈夫、ですか?」




 前髪からの異彩も明度を落としての『色の無い灰色はいいろ』のようでは活気にも乏しくなる印象。

 加えては物言いも、何処か不明瞭に。

 平時の彼女なら未だ内に秘めるのだろう洗練されていない『考察中のような言葉』がそのままと外へ。




「……?」

「……思えば、ここ数日はイディアさんで『ぼーっ』としている時間が多かったようにも見えましたけど」

「……そのようでしたか」




 要領を得ない意思疎通も表に出されれば、毎日のように顔を見合わせている仲の青年でも『心配』が率直な疑問として口に出さざるを得ず。




『——アデスさん』

『単に"つかれ"が出たようなものです。指摘の通り数日の彼女は【特訓とっくん】に励んでいましたから』

『それは……"大丈夫なもの"なんですか?』

『はい。私もそば検査けんさを欠かしてはいませんので、"少なくとも重大な病気ではない"と一つの保証を』

『……』

『よってからには我々で、【尚一層の思慮に富んだ協力を彼女へ】と』

『……分かりました』





「……でしたら私で僅かとも不調ふちょうの——謂わば『スランプにおちいっている』のかもしれません」





 斯くしても青年自身よりも遥かに『神の状態』へ通じるだろう大神に確認が得られたそばに、実際としての美神が己の現状を語る。




「しかして、それ自体は多く皆にも珍しいことでなければ、私の過去にも何度となく前例があったことなので深く心配も要りません」




「「……」」




殊更ことさらに気分が悪いわけでもなく……寧ろ『探求』の原点回帰的げんてんかいきてきに『なにを見てもなん感慨かんがいきづらい初心しょしん』の日が再来しただけの事実」




 あくまでもめた表情で、無機的むきてきに。




「ならそして故には『再び探求の道へ戻るため』に視点を変えて他のことを試してみるような……それこそ『不調なら理解のある仲間のかれ彼女かのじょに支えてもらう』のも"効果は覿面てきめん"と聞きましたから」




 気を切り替える実験が『青年の視点を借りた語り合い』へとの表情でも興味を示さん。





「つまり『私の求道に少なからず理解を示してくれる貴方』と、偽りない興味を言って『彼にして彼女の視点』からも『』などについて『意見や刺激を貰えぬか』とも思い……お願いしても宜しいでしょうか?」

「それは——勿論です」

「既にお時間を頂いてますが、これからまた少し色々な話に……付き合ってもらっても?」

「……構いません。自分のような浅学せんがくでも宜しければ、イディアさんが気の済むまで——いつまでもお付き合いします」

「……有難う御座います」

「……」

「……では、私から実を言って——真実を言って『女神めがみわたし』は……」





 そうして気軽にも真剣と頷いてみせた青年に対し、『ならば先ずは』とイディアでも最低限の頷きを『謝意』と表せて。

 次の『美の化身の大胆だいたん告白こくはく』から『探究心に再び火を付けよう』との話が展開されてゆく。






——『世界の何かを【うつくしい】と思ったことは』のです」




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