『vs覇王少女⑪』

『vs覇王少女⑪』





 最後の瞬間は神の戦としてあまりに呆気ない。

 観戦席のアデスやイディアでは『良き良き』・『我が友』・『愛♡弟子』・『呼吸が上手』などとの特製うちわを振るのも触手が忘れて。

 他の誰も舞台上に残る最後の二者に決着で、人なら固唾かたずいきを呑んでいた無音に——泥まみれの銀髪やぬるい羽衣にも『場外じょうがいつち付着ふちゃくするおと』が聞こえた。





(…………や、っ——た……?)





 よって最後に舞台へ残る者——『女神ルティス』の勝利、優勝!

 何か満足した人間たち、本当に初めて目にする領域レベルの戦いに歓声を上げる人々でも王国の楽団などが楽器を吹いたり、叩いたり。

 我儘わがままを言っていた国王も念願の叶って感涙かんるい、ご満悦まんえつ

 何せ『爆発』に『アクション』の詰まった珠玉王道しゅぎょくおうどう鮮烈せんれつな光景を目に出来ても一旦に『予測し難い結果への緊張』で静寂を経てからの興奮が際立って声高こわだかだろう。




(…………?)




 しかしては『優勝者への賞金』や『賞品』としても金塊に数多の宝飾などが積み上げられて行くのも端に見えるが、青年で『とみ』も『名声めいせい』も『ちから』も『自身が求めたものとは何か違う』と感じて素直に其処は喜べず。




(…………ぁ——)




 因りての最後は夢中に頑張って『自身が勝利した実感』も未だ夢心地ゆめごこちの途上。

 "不安なら"と。

 いつもの如く頼りの女神たちへ視線を向ければ——席には『上々じょうじょう』の意の『XXのふだ』を見せつつ頷く暗黒に、笑顔で拍手をしてくれる美の女神のいて。





(…………じゃあ、本当ほんとう……に————)





 達成の安堵から『今日ぐらいは眠れそう』と倒れかければ、身を支える暗い触手。




「我が弟子」

「……アデスさん」

「見事でした」




 即座に恩師の急行。

 ここまで奥義を極めたのは初で疲労困憊ひろうこんぱいにも尽きる青年は、後から追い付く美も含めて女神たちで介抱をしてくれる。




「『戦い』というものは得てして相手を必要とするもの。そうして『己の願いや幸福の為には他者がどうなろうと』の神へ貴方で容易には退かぬ姿勢が実に堂々とした『守護者しゅごしゃ』の姿であった」




 暗黒が煙を焚いても隠し、駆け付けた女神の小柄が優しくも掛けてくれる玉声で疲れ果ての心身を解きほぐさん。




「『触れれば身を焼くほのおそのもの』との関係で『延焼えんしょうを防ぎ続ける』とは中々に悪くない提示でした」

「……意識して、そうとまでは」

「世界の在り方について考慮を重ねる大神でも『貴方の示す実例』で幾つもの実りはありましたよ」

「……呪術ほめすぎです」

「その実で大会主催の良王りょうおうでは『退位後の引き継ぎ処理について』も予め書状に纏めてあり、間もなくに民へ明かす算段もあって『安心』とのこと」




 若者が憂慮することへも先んじての言及では一層とかもし出す安穏あんのんに。




「よっても後は我々に任せてください。優勝式典のるいも適当に済ませておきます」

「……お願いします」

「受け取る報酬も再分配さいぶんぱいの流れに載せておく」

「……アデスさんの、つめたいにおいです」

「……"存分ぞんぶんひたれ"」

「"——"」




 大神が数多の足で蜘蛛糸くもいとの如く編む回復網かいふくもうの中へ『いやされや』と、暗色に突っ伏す身を抱え込んでは離さない。





「……」





 そうして暗黒の意識を向ける場外には、決着した流れでも『足で立ち直らん』とする土音つちおと

 放熱の勢いを逃がされた神は既に『次なる攻性の炎』を拳に握っていて——されど、『魔王の眼下』にて圧力の阻害に撃って出ること能わず。

 当然だ、『場外乱闘』など許される訳がない。

 投げられた先で身を低くの姿勢にも『片手と両足の三点が確たる立ち姿の支柱』は、例え『戦いの神で未だ意気軒昂いきけんこう』であって、『戦が長引けば最強の兵に勝利を譲る理由もなかった』としても——体勢を立て直した先が『場外』なら此処に勝負は着いているのだ。





「……何故なぜだ。『一通過点いちつうかてんに過ぎぬ弱卒じゃくそつ』が何故なぜ、こうも——」




 

 青年が寝入った後では眼力を鋭く送る魔王で背後からは『女神の音』が並べ立てられる。





「——ならば、『足手纏あしでまとい』でしかなかった筈の貴様きさま……"そのちから源泉げんせん"をあらためねば」





 陳述の内容は万が一にも青年へ聞こえさせない。

 既に『実戦での奥義体得おうぎたいとく』の用は済んだからに、大神の力が言動の見えぬようにも隔てている。





「『戦事闘争せんじとうそう究極きゅうきょく』と成すために、らねば」





 アデスで『狂った戦士の声』が触れられぬようにも深紅しんくまなこが背後を見ている。

 何時にも『圧縮あっしゅく』へ移行のできる態勢が『行動の結果』を選ばせてくる。





「……」






「『新たなる最強の神』と相成るために、オレは——"貴様を"」






 よっては、『奪うことの神格に奪いきれぬ何か』を求めて。

 何か暗黒にも隔たれている先へ。

 時に『未知みちなるかい』とでも形容できよう真実を求めては『青年女神へ近付かん』と?

 伸ばす手に『己が数度に敗北を喫した理由の不明』を探し求めるようでは、思い通りにならねばの『不自由ふじゆう』を感じても——『相手あいてりたい』とでも神は言うのか。






貴様きさまって、『くしてこそのたたかい』のさきに————」






 だが、当然と伸ばす手に『相手を焼く神秘の炎』がほとばしっても"青年はこれ以上を望んでいない"。

 ゲラスで何を求めようが、相手では『身を守る競技規則を越えての傷付け合う戦い』など欲してはない。

 よって切っ先の鋭ければ『収奪しゅうだつ』や『無慈悲凄惨むじひせいさんあらそい』の化身たる『けん』に——ただ一触いっょくすらも許されることはなく。






其処そこまでだ」

「——ッ"!!?」






 "いましめ"たるかみひかり手荒てあらにも腹部を貫いてめる。





「『暗黒あんこく御令嬢ごれいじょう』を火傷やけどさせる気か? そんなことが許される筈もないだろう」

「ッ"……邪魔"をっ"——するなァ"ッ"!!」





 魔の王より『にらみのあつ』を『聖剣の監督者』たる自身にも知覚するプロムが手刀の指先から伸ばした黄金の輝きでも制止。

 敗北した戦の神が許される範囲を超えて炎を纏い、剰え『暴れようとの兆候を見せた』がゆえの処置だ。





「見えぬだろうから『温情おんじょう』で教えてやる」

「っ"、ッ"……!」





 女神を貫いたままの光線に熱を増加させても知恵の神は淡々と語る。





「今にお前も、その管理責任を負う俺すらも周囲に置かれた『不可視ふかし無敵むてき』や『のろ数多あまた』で『無限むげんき』にしょされる所だった」

「ッ"……やつと……"たたかわせろ"」

「故にも

「"だまれ"」

「『表面上だけでも神妙にくさりへ着く』のが『政略的せいりゃくてきにも正解せいかい』なのだと、いわんや『政争せいそう』にも通じたお前ほどの神で何をそうまでかたくなになる必要が——」






「"だまれ"!!」






 だが、ゲラスで抵抗の意は失せない。

 女神の玉体で再び赤く燃えても力強く握る光剣こうけん刺突傷しとつきずから抜け目なく熱をくらって『己のもの』と成長する素振りすら今に見せて——『危険もはなはだしい』との判断が下される。






神風情かみふぜいが——"オレの道を阻むなッ"!!」

「……言って聞くような神でもないか。戦争が一言二言で止まるなら誰の苦労もなく」






 余りにも煩ければ一女神いちめがみの声なぞ聞こえぬ遥か遠くへの、"容易に青年女神へと触れられぬ僻地へきち"への『流刑るけい』としよう。






「ならば——その意気やよし! 宇宙うちゅうつめたくば、"お前をますのにもってい"だろう!」






 従わぬ者へは『耐久試験たいきゅうしけん』も兼ね、権能に制限を追加しても遥か無限の宇宙の彼方かなたへと放り出そう。






「お前の各種宇宙空間かくしゅスペースワールドでの『航行こうこうデータ』も欲しかった所だ……しばらく、ほしうみを——」

「っ"——"!?"」







ただよって————"い"!!」







 斯くしてが女神を突き通したままの光でフルスイング——バイ。

 大気圏や電磁防壁を突き破っても『燃える女が遥か彼方へのあか流星りゅうせい』となり、残る青年女神らは此度も人の、それも『一つの国の未来』に関わる大事だいじを助けた。





「……よし。これで当面の間は静かなものだろう」





「此度はデータにないデータの数々をデータとして確認することのデーキ……出来ました」

左様さようか」

「延いては己で触発しょくはつに学習への意欲も湧き立ち……好転こうてんへの機会をたまわし頂けた『未知の女神』へは至誠しせいでの御礼おんれいを申し上げます」

自愛じあいせよ」

「……御意ぎょいに。感謝を」





「……だから何なのだ。"知識おまえ未知みちに対する姿勢しせい"は」

「『知りたい』だけだが」

「それが『どうなのだ』と言っている」

「『未知の根源でもある大神』より見れば我ら『年端としはかぬ少年しょうねん』の如きなのだろうが、今で眼中に置かれずとも『強大を超えねばならぬ』のが我ら高位こういの『避けられぬさだめ』でも——」





 取り分け『優勝者』となった青年個神には『健闘を讃える』意でも『国の難事を解決した立役者たてやくしゃ』の意でも多くの信仰が捧げられ、此処に『神と神が激しく思想を打つけ合った武闘大会』は無事終了と相成り——。

 また『自己じこように悩む青年』でも、『変性へんせい不変ふへんかみ』と対峙して得た『"変わり行く自身"を再認識する奥義使用の転機』に——『神の去りし後の余韻よいん』が『夢を探しての自己定義』に再考さいこうときもたらさん。



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