『vs覇王少女⑥』

『vs覇王少女⑥』





「"——"!"——"」

「が、っ、ぐ——ぅ、ッ"(こんなものに——のか……っ?!)」





 やや戻れば、攻め立てられるばかりの青年。

 腹部への重撃ブローからは萎縮に。

 猛攻によって内心で言葉にする間も与えられぬ数々の思いは、それでも『過去に自らを襲い、玉体へ寄っては伝わる熱』に『当時の恐怖』さえ泉の奥で呼び起こされていた。




(が本当に、っ"! ——おとろえて……!?)




 飢饉の時で神獣の背で掴んだ『ねつ』に、魔王を縫い止めていた物を引き抜く時の『聖剣ねつ』に。

 今に思えば疫病の『がに』の『鬼気迫る瞳の色』も、目前の『神の炎』のように赤くえていた。





「"——"」

「が、は……っ——?! くっ"、ぁ"——ッ、ぁ"、、!?」





 なれど、川水では『目前の神の戦い方』は目で見るのが初めて。

 過去の強大に過ぎる『ひかり』と違えば、今現在に捉えられる『火炎かえん』は緩慢に。




「っ、っ! っ"——(単純なおもさではおれの、ほうが——)」




 なれど、なれども。

 赤く燃える美貌で一度に腕を突き出せば、その『一発とは到底に思えぬ爆風の熱刃』が数える手間も惜しいほどに水をってつ、びょうあいだちつける発気はっきなみの数々。





「"——"」

「ぐ、ぁ、、ッ——(自分の方がっ! )ッ!!?」





 あの時は冥界でこれを遥かに超えて、余りの速度に『たて付属品ふぞくひん』に等しき己で『結果』以外を観測すること能わず。

 けれど、今まさに足蹴にされても身へと襲う波濤はとうの感覚は——『躊躇ためらうことのない神の鋭さは当時のもの』と覚え、"みとめる"。





(なのに——が)





 己のっくきあいてに。

 剰え『女神と変わっても目的に全力で向かう相手あいて』に——『其処へ一つの理想を見た』と。





「"——"」





 水の奥底で湧き立つのは『畏敬いけい』や『あこがれ』のたぐいでもあろうか。

 光景に『美しい銀と揺らめく赤の舞う姿』で、心の目を引かれざる得ない青年自身と『女神への変性』で似た境遇に置かれても『迷いのない決断的な行動所作こうどうしょさ』に思わされる色々。




(——ぐだ)




 青年自身では生前に『生命とは何か』と漠然の疑問を抱くことはあっても、今のよう『溶けた自他の境界で常に己のものと感じられる苦痛や犠牲にビクビクと怯えるようなことはなかった』——よっても『かつて』と『今の女神おのれ』は違う。

 錆び付いて重い手足に、回避されても虚しく行き場を探す水の流れで目に見えても『不変性ふへんせいを宿す相手』と比しての己は、"どうしようもなく変容してしまったもの"。

 だから、その『変化』について悩み、未だ『どう在るべきか』は分かっていない青年で、一方の目の前の神には『迷い』も『動揺』のようなものもない。

 どころか『嘆いて足踏みする』ようなことさえから——胸に複雑な感慨かんがいみ入るようでも思う。





「"——"!"——"!"」

「っ! くっ"! は——、ッ、、"——!?」





 例え『見目がどれだけ変わっても揺るがぬ信念』のような『確固たる己』があって——『うらやましい』と思った。

 相手には『変わるもの』・『変わらないもの』があって、何かその『優劣ゆうれつ貴賤きせんを持ち出すのとは違う』と感じられた『しんの如きじく』の。

 辿り着くべき『明確な"目的"』さえあれば『変わるべき』と『変えてはならぬもの』も自ずと進む先に見えて——でも『自分にはそれがなくて、けどアイツにはそれがある』との感じざるを得ない『』の自認。





「"——"」

「っ……! ("弱くなった今も"——"かがやいている")」





 そういった意味では『燃えて輝く熱』と張り合いの中で、してる心構えとしても負けていたのかもしれない。

 勝負に奮い立つべき己で——"勝てない"、"勝つ必要のない"、『負けて道を譲るのもいいのでは』と。




(対しての『自分じぶん』は——"半端はんぱ"で)




 "ただ武を振るっても覇道を突き進む相手の生き様がどのように結実するのか"。

 いや、『形として成るものを欲していない』なら、その『未来へと邁進まいしんするだけの痛快つうかい』を"少し見てみたさすらあるかも"。

 凡ゆるを突き抜ける『超越的な自我』や『自己』とは、果たして『何にも悩まされることはないのではないか』と『誰かが完全な自由にいたれるのなら、それで』とも『苦悩を続ける身』が素朴に興味を抱いて。




(中途半端このままじゃ——"駄目だめ"なのか?)




 また己はなか放心ほうしんで安直に『高く上回らんとする蛇』に成っても、擦れ違いざま——口と鼻の間の、窪みの器官に感じる『ねつ』の距離を近くして分かった。





「"——"」

「——くっ"……"!?"」





 その純粋じゅんすいな、ねつ

 敵の有して己に向けてくるのは『殺意』や『害意』とも

 似て非なるは只『戦いの為にある』、"研ぎ澄まされた戦意"?

 だが『戦士』でもなければ『生来よりの神』でもない青年に——恐らく『川水の女神』でも『理解の及ばぬだろう燃える女神』には『善』や『悪』の区別もないのだろう。

 きっと『立ち塞ぐ相手が何者であるかも問わずに焼く炎』が『浄化じょうか高潔こうけつなもの』にさえ見え、暴力的に殴られる彼にして蹴られる彼女の身でも『いさぎよくすら』感じられる。





「"——"」

「——っ"! ("それ"をっ、確かめるためには——)」

「"——"」

「っ——っ"!"? (現時点いまの考えを"他でもない自分"に、っ……示すためには——)!、!」

「"——"」

「っ、ぁ——("其処そこるものと向き合う"——『奥義おうぎ』が)っ"っ"っ"!?」





 しかし、それでも守勢に押し込まれる己で『負けたくない』という気持ち。

 正直には『私的なねん』や『うらみ』のようなものさえり。




(少なくとも今の自分——じゃ、"一滴いってきじぶん"なんて何処どこに?)




 因りて『戦いの神に何か意を示すため』にも。

 戦いの中でこそ『異議を唱える』ようにも『炎へめに入る』には——『薄弱はくじゃくでも立つ奥義』でないと。





「"——"」

「っ、ぁ、っ"——(でも、"今の状態"じゃ——)ッ!?"」





 火の粉を撃たれる蛇。

 堪らず形を水に溶かして脱ぎ捨てるよう飛び出ても『己の在るべき』など此処にはない。

 "目指すもの"がなければ、"目の前の状況へ何をすればいいのかも"。

 眼前の事実あいても見ずにばかり考えていては『私情に囚われた心を優先さき』とし、対応の動作も錆び付きの果てで鈍り、重く。





「"——"!"」

「が——"」

「"——"!!"」

「——、ぉ"……っ」





 "見通せぬ霧中むちゅう"を表象するようにも周囲を囲んだ薄靄うすもやは胸から起爆の粉塵から爆ぜても吹き飛ばされ。

 追い打ちでは蹴られ、叩き落とされ、側面から火炎流ストリーム決着フィニッシュに持ち込まれる流れ。





「(今の、自分——)————"!"」





 だが、太い熱線を身に受ける——。

 いやが応でもとなった状態では——いや、『生きている』なら結局で『おのれなにおもって』・『ねがって』。




(——すべきこと)




 "何を実現に向けてすべきかを少しずつでも手繰り寄せて行くしかない"。




(したい……『しておかないといやなこと』は——)




 このままではどうあっても『押し流されて勝てぬ』なら。

 ならば、『自分はどうすべきか』を一つずつ水の胸の内に『まるもの』から紐解ひもといて行く他にない。





「っ、っ、ぁぁ——っ"、ぐっ、!」





 そうだ。

 内外へ、『所信表明ポーズ』として自他に示さねば。

『ただ己が欲望や願望の為に他者を使い潰すよう利用』し、剰え『害することが絶対の理想』や『個々の追求の最終到達点であってはならない』との自身の考え。

 明確に己へ襲い来る神が自然災害のような相手だとして『それでも』——『一歩いっぽ退くわけにはかぬ』と暴威を現に受け止めては、意地に。





「ぁ、ぁ"ぁ"ぁ"————ッ"!!"」





 世話になった商店の店主や豚やを殺し、また恩人の少女を苦しめた。

 ひとけものや、やまいもたらす者を苦しい戦いに駆り立てた。

 その他の青年で知らぬ所でも長年に暗躍して多くを死に追いやったのだろう者へは『隠せぬ嫌悪けんお』に、『いつわれぬ憎悪ぞうお』に。





(俺は、自分は——『戦神おまえが美しい』のだとも思う)





 "そんなに戦いたい"なら『今のよう重大な怪我を負う者も死者も出ないような競技』で、『単に技を競うものとしてやれ』と。

 けどやはり、『己が明確な目的の為に多くを殺した戦神あいつ』と『特に目的のないままに捕食など他者の犠牲を大きな支えに生きてきた自分』とでは、それ程に差も感じられなくて——いや、『自分の方があさましいものにさえ思える』のも事実。





(でも——)





 他でも数々。

 熱流を受け止める最中に胸で浮かんでは、この先でも容易に振り切れることはないのだろう『青年という女神』の構成要素。





(——でも……っ!!)





 またそして、やはり『価値がどうの』・『差があるように思えるどうの』でなく『他者を傷付けるやいば』、『毒念どくねんなどは嫌い』だ。

 青年で『おとこ』か『おんな』か、『ひと』か『女神めがみ』であるか以前に『今の彼女は相手の行動を嫌いだ』と思った。

 波へ逆らうさまに、曲がりなりにも『皆が幸せなら』と願う端くれとして『他者をにじってかえりみぬ在り方』を『強く美しい』などと『』と。

 いや、より素直に『正しさどうの』も何か『白か黒かで明瞭に分けられぬ半端な己』でわりが悪ければ『私的してきにムカついてならぬ』と個の感じた想いに示す。





(負けてなるものっ、か——"!! "ただ負けてたまるものかっ"……!!)





 他の誰でもない『己の行動』で、改心など当てにしていなくとも聖剣へ伝える。

 今も大して変わらないなら、『その在り方を決して認めるだけとはできない』。

 広い世界に理解の及ばぬことだらけでも『大いなる流れに個の不満を忘却してなるものか』との我儘わがままが溢れて止まらぬ。

 難しく考えられない状況で簡約的シンプルに言っても——"ただ負けたくない"!

 "こんな奴に負けただけでは腹が立って仕方がない"から。





「っっ! っ、ぁ、ぁあ! ぐ、っ……! (——いやだ)」





 "勝った方"が正しいライト

 "強い"ことが正義ジャスティス

 そんなものだって言われずとも業腹ごうはらだ、しゃくだから。

 が欲しいのとは違い、『只管ひたすらに何度でも自分じぶんがおまえめる』と此処で引き退らずの態度によって訴えねば——よって、つ。

 叶うなら目に見える『勝利』という結果でも相手に強く印象づけてやる。





(嫌だ——"負けたくない")





 その為にはやはり、最大限に意を『女神』であろうと『天災』だろうとの相手へ『不服』を示して勝つ為には——やはり『奥義』、『秘されてもの奥義』が必要。





(お前に、勝って——)





 まったく人間臭にんげんくさい部分。

 思い付く限りでも『よく』や『ねん』に『意地いじ』に『おもい』の、時に『そんなもの』と評されるだろうが——しかし、数多のそれを捨てず。

 いや、『大層な力を持っても心に人がいる』ならば、『人として捨てられぬもの』も、『きっと捨ててはならぬものがある』との『片意地かたいじ』さえ胸に熱く渦を巻いて。





(勝って——"なにかをせてやる")





 未だどうなりたいのか分からずとも、ならば『せめて今の自分の考えを形に』、"理想のある場所を少しでも自認できるよう"。

 "色々いろいろ"・"数多あまた"・"時に気高けだかく"・"まらん"——でもそんなだって心からの衝動が己の身を動かして、『こぶしに力を込める活力かつりょく』だ。

 事実として『個を形作る要素』なら『足を前に運ばせる執念しゅうねん』でもあろう。

 内に抱える苦悩が己にまとわりついてをしばり、離れぬなら『現時点での姿形』や『心構えの在り方』を規定して。

 "ゆえに"の『今の苦しみの中で欲する所』から『行動の指針』や『願い』へと進ませるものが、『なりたい自分』と『今の自分』に『差があるなら』と一つの『道標みちしるべ』にも捉えられるものとする。





(そうして『出来る』ことは——"奥義おうぎ")





 練達練磨れんたつれんまとして力を振るう目前の神と違い、自分では『無念むねん』や『無想むそう』の境地きょうちになど至れない。

 同じことは到底に出来ない、してなるか。

 相手の有する恐らくの『他者を実際に痛く打ち負かす甲斐がい』なんて理解も出来ないだろうし、したくもなければ、"同じ目線を持つことはない"。

 だから『己の為すべき』は例え相手をきらっても、あこがれても、見惚みとれるようでも。

 それら『一切の情動や思うことの沢山』をたんに『ちから』として『己の泉で湧き立たせる』こと——『純粋な水の勢い』へと変えること。





(『残された』のが——"奥義おうぎ")





 変えて、あるがままに世界を捉えろ。

 捉えて、知れば。

 その変わり続ける世界で『生きとし生ける者』や『絶え間なく循環する物質』の『全て宇宙の一部たる自他の一挙手一投足が何を起こすのか』も自ずから見えてくるだろう。





(——"奥義おうぎ"——"奥義おうぎ")





 見えたら後は、『己が理想を探し求めて邁進する』だけ——それが、"流れの中にも自身を見失わぬ奥義"。





(——"奥義おうぎ"——"奥義おうぎ"——"奥義おうぎ"——"奥義おうぎ"——"奥義おうぎ"——"奥義おうぎ"————)





 現に『女神』となっても『人』としての心だって失わず、『半端』すらを有したままの奥義。

 青年には『立派な生き様が何であるか』を知らず、『一つの揺るがぬ信念なども有れば良いのか』なども皆目に。

 しかし、『一つの確固たる自己』になっても『他者を蔑ろにする結果に終始してしまう』なら『そんなものは欲しくはない』、『きっと自分の求めるものは其処ではないから』と——偽りのない消去法でも見え出す『おぼろげな何か』。





(——"奥義おうぎ"……"奥義おうぎ")





 よっては、見せてやる。

 自分らの『共通言語のなみ』によっても伝えてやる。

 燃え盛る炎でも聞こえないなら、水で消しても手前てまえを冷ますようで示してやる。

 自分が『正しい』とは思わず、思い込んでならずも。

 だからといって『共に不完全』なら『手前が絶対に正しい訳でもないのだ』とは曖昧模糊ふわっとしたものでも『思想しそう』だ。





(……"奥義おうぎ")





 "模索しながらでも己の個を見せてやる"——"『此処に命は生きているのだ』と力の限りで叫んでやる"。






(……秘奥義ひおうぎ————)






 聞こえぬ場所で神王が十を数え終える頃には赤き炎の光に呑まれても、追い込まれ。

 諸事に内心を占めさせる余裕を失い、『今はただ奥義を。他は生きて後で探す』の名分めいぶんに従ってはまぶたを下ろして制御を統一したことで恩師に隠れてもの鍛錬たんれんの成果が——"結実けつじつ"。






("————…………")






 玉体の内から外から、湧き上がる泡の如き全てが今の自分を作る力なのだ。

 ならば外界にも世界を構成する物質の、その『水の触れる式』に状態変化の流れを見てもわかる。

 主要には己で『膨張ぼうちょう』と『振動しんどう』を見極め、青くさい感情を『ここぞ』という時にのみ身へ乗せても——己に出せる全てを使った『最速さいそく』・『最善さいぜん』・『最高さいこう』の行動を思考して実行し続ける『有心うしん』の境地きょうちへ。






「"————"!"」






 自然と認識できる『炎の波動攻撃』が成立する式にぎゃくの、謂わば『きの相殺そうさい』を加えても内から熱の湧いて絶えず。

 沸騰する水の——『H水素』の燃えても青の女神で輝き出す。








「"…………"」






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