『vs覇王少女④』

『vs覇王少女④』




 腹に響いた衝撃。

 叩き込まれた腕の熱は辛くも蒸発する気体の膜に包まれ、流体であることも相まれば然程に『ダメージ』と呼べる損傷はなく。




「——ぐ、っ"……!」

「"——"」




 川水は質量でも勝るから容易に吹き飛ぶこともなかったが、多段の衝撃では幾重にもの防御壁の枚数を超えて伝わる揺さぶり。

 最後の薄皮一枚を隔てて身の浮かされる感覚の残る間にも、容赦なく切り返してくる敵の動きが身を反転させての回転もする踵落かかとおとしで『き付けてくる車輪しゃりん』の如し。




「ぁ、っ——"!"!"」




 対しては咄嗟に交差の腕、前面で防御に回す青年。

 しかし、中途で美脚を落とすのを取り止めキャンセルした女神は続けても『人体には不可能だろう動き』で今度は豊満の身を横に捻り——体重を載せた数百の回し蹴りを青年の空けた脇腹へ。




「"——"」

「ッ——(なら——ッ"ッ"!)




 そうして『後手に回る』自覚は続く攻撃の襲来を脚線美に退かされる水で察知しつつ『衝撃を覚悟』で脚をとろける腕で水に抱え込んで——僅かの一瞬にも拘束した神の熱へ。




「——っ"!?"」

「"————"」




 苦しい反撃で至近距離にも残る腕の確保した射角から『指鉄砲』の水を放ったが、顔を逸らすだけの動きでも威力は躱されて『無いもの』と。

 寧ろ接触の時間に『熱を高めた脚』と『水』とで起こる瞬間的な蒸発による体積の増大が——それが『水蒸気の爆発』となっては掴んで捕らえた筈でも互いに身を離さざるを得ず。




(————"!")





「"——"」





 熱源の離れ行く間際には精々が水の掠めた仮面の位置をずらすのみで、その『王』の字を象った真中の横線の下に垣間見える『暗い赤の眼差し』は『顔立ち』そのものも含めて『暗黒の女神』に良く似ていた。

 其処には実際として『おうかお』があった。

 青年へ視線を向けること叶わずとも『冷厳』で、己の決定に容易く有無を言わせぬ中軸ちゅうじくを自らの深奥しんおうしかえる者——『多くを語らず世界を闇で呑まんとする魔王』に良く似て、けれど『で語るのみ』が非なる『覇王はおう』の神色しんしょく






「「"——/——!"」」






 両者で会場の隅角ぐうかくへと離れ切っては直ぐ様に『打ち立てる己』という柱で場外への勢いにも歯止めを——片や空への爆ぜる蹴りに舞い戻り、片や自身を渦巻に呑ませて水輪みずわの一点に留め置く神。

 それら事実として勢いを殺す必要のある先の爆発は『都市の吹き飛ぶ火力規模』であったが、其処の安全管理は冒頭で述べたよう大神で『周囲』と『舞台上』との『領域を分けている』からも然しての問題とはならず。





「そうさ、何時いつだって超新星スーパーノヴァ! 『たたかい』の有りようかげりは訪れない!」





 戦場に燃える神の製作者であって、また失墜しっついからの再出発に際しての調整も担当した王が突如として興奮気味にうたう。





戦事せんじ以外のある側面では『何をもらず』。けれど大戦の中で最長継戦記録さいちょうけいせんきろくは誰よりもてきの『って』」





 眼下では噴火の如き爆心地。

 舞台のはがねが割れて凹凸おうとつの出来る場に。

 立ち昇る水の白煙はくえんしたでも直ちに『集合』を呼び掛ける粒子の追加で、利用のしやすい『あめ』の形に重くした物を降下させて戻す水神の遠目ぜんぽう





「"…………"」





 舞台上にぬるい雨の降っても一滴いってきとさえれぬ神。

 弾け飛んだ右脚を宛ら集まる蛍火ほたるびで——針先はりさきのように光る粒子が筋繊維きんせんいみ、描いた脚線美きゃくせんびに沿う玉体の形。

 上述の『きらめき』は、ともすれば肉体をやしなって構成する『ははなるちち』の力も使われているのだろうか。





「そうして『む』とは即ち『』でもあっての——"知武知チムチかみ"」





 真相は不明でも、再び台に着く揺るぎない真実が二足の姿。

 またそれでも『戦神に尊き川水への謁見は許されていない』から、対戦相手に向かわぬようの脇見わきみにも仮面を被り直す手の動作があでやかだ。

 女神の『目線を自ずから隠す』ものでは『美女におおやけにし難い秘密を抱える』様が妖艶ようえんですらあり——『危険な邪視』を奥底とした後では再び未熟の青年へ柳腰やなぎごしの変える向きから『執着しゅうちゃく』の意を示さん。





「それこそは吾が傑作けっさく。『聖剣せいけんいち』で——なに? "分かり易くけんがない"?」


「いやいや。『聖剣せいけんそのもの』である奴の一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくが今に剣撃けんげきとなり、『絶えぬ戦意の熱をこぶし』が見据える先にててきつ」





「つまり、『こぶし』が『けん』にして——『じゅう』!」





 その『脚が失われても挫折を知らぬ様』は神々こうごうしくも威圧的。





「それ即ち『乳糖にゅうとうオーバードーズ』の使い手は『聖剣せいけんジェットスカートの美少女爆撃機びしょうじょばくげきき』——それこそはゲラス。ゲェーラス。ゲェ"ィーラァス。ゲイゥ"ゥブラァ"スで——"Gale Blast"」











「『究極聖剣きゅうきょくせいけんゲイル・ブラスト』——"フィシングブレードガンナー!!"」











 相対する敵であっても『輝く不撓不屈ふとうふくつ』の様は心に染み入る見事なもの。





「——は、ぁ…、は、ぁ"……、(——"こんなもの"に、……??)」





 自身に届いた損害を『軽微けいび』として知り、爆発に蒸気の昇るより早く立ち退いた苦悶の眉根は——しかし、未だ水の化身で常時に肌を撫でる熱風に晒されても静振せいしんは『内から湧き出る震え』としてもなく。




(これが、『おとろえたかみ』の姿なのか……?)




 以後は青年で相手を明確に『脅威的きょういてき』と思えば、心に占める『恐怖心』を増しても続く戦況は『劣勢に極まって行く』他にないだろう。





(こんな、単純にもエネルギー量の——)





「"……——"」





(その産み出す速度だっておれが——"うえ"なのに!!)





「"——"」





 現状の究極聖剣では暗黒大神に力を奪われて『片手落ち』、『両手落ち』——いや。

 どころか『四肢をもがれて両眼も潰された』に等しくも、やはりのだ。





「(こんな——)——ぅ"、ッつ"!!」

「"——"」





 神で『本心からの行い』なら、不変ふへん

 何がどうあろうと有り物の力で戦って行く。





「っ、ぁぁ"、ッ"! ———(こんな、が————)!"!"?"」





 真に爆発的な踏み込みで『まごつくてきを堂々と突き崩す正拳せいけん』を打っても。

 大神や場に施された『制限』でも強いられる『峰打ち』か、『さやに入れたまま振るう刃』でも重く、鋭く。






「"————"」






 神の『無限むげん』に『永遠えいえん』を体現する戦いは続き——圧倒あっとうして行く!





「胸の『Iアイ』を見れば分かるだろう。『奴が光の神である』——という事実が」





 活躍に付随する自慢げの語りには『まさか述べられた聖剣の呼称が本名?』とは無言に諸神でも思い。

 しかし、当の王では『はい』とも『いいえ』とも言わずの不敵な笑みが浮かんでいる。




「『多少にかたちが変わった』と思えば、『神王おまえ女神めがみにしていた』のか」

「『またとない失墜しっついからの転機てんきに際して内外でその事実を明らかにせん』と……宛ら『髪を切ってやる』ような、まさにおやの王からは親切心しんせつしんの行動よ」




 プロムの疑問に補足を付け加えてやれば、またも暗黒へあおるような伺いも。




「しかして、『愛娘のような美少女が戦いの中に劣勢』で『アレ・ソレ』の需要じゅようこたえるようでも……いいのか?」

「……」

「大神ならその手の趣味にも造詣ぞうけいは深く……吾の方では構わんが『過保護の面が強く出る神』で看過かんかともいくまい」

「……」




 指摘の通りでは現在進行で『美少女に蹴り飛ばされる美少女』のいて。

 だが『如何な醜態しゅうたいも観衆の認知や記憶から当該の部分を書き換える暗黒』もいて。




「——ん? んん"〜?」

「……」




 しかしそれでも黙るアデスは開始から腕を組んだまま『教え子の敗勢はいせい』を静かに認めている姿勢。

 座席の位置が最上段にある『ワールド・オーダー』に見下みくだされても、その一段下でははしに『美の女神を大神の圧から遮る』よう座っていても無言。




「——それで、『現状のゲラス』の方は調べてどうなのだ?」

「……」

「"くちからの活躍を聞きたい"ぞ」




 また更に下の三段目には『戦闘データ収集』を目的として舞台にゲラスを送り込んだ知性ジーニアスの柱たちの尊顔もあり。




「成果を聞かせてたもれよ」

「……『けんくもる者』がいた。『こぶしやまくだく者』がいた。『眼圧がんあつ超新星ちょうしんせいを生み出す機体もの』があった」




 全盛期と比して『大幅に力を失った戦神ゲラス』の説明を王からの光圧フォトン・プレッシャーも受け、暗黒より許諾も得て『仮の身元の引き受け役』となっている男神プロムから少し。





「それら数多の一流の、二流三流が殆どだったが『ちらほらの本物』との死闘連戦しとうれんせんを経て——弱体化の為に再調整を重ねた『無心むしん』の神髄しんずい再習得さいしゅうとく





 言葉で詳細に開示される『技巧の試験的な運用』でも戦いの化身は敵との出力の差を物ともせず。

 よっても青年で『人の心』が思って尽くす『最善』など、『極まった神の戦を熟知する柱』に通用する筈もなかった。





「然りだとも。と戦うのにこころおもらんのだ。ただ『せまるもの』、『おそるもの』へ『対処をすればよい』と——よって吾の一々に教えずとも戦闘に向けた最適化を繰り返し、創世期そうせいきにも磨き上げられた『奥義おうぎ』がある」

「……事実として『戦闘神格せんとうしんかく』の奴には『世界最大最長の戦闘経験』という恵まれた素養そように、稀有けう材料ざいりょうがあった」

「続けて」

「達人らとの開戦に際してもこうべを垂れるものがいればしゃれとし、名乗る者がいれば喉穴のどあな気炎きえんつらぬいてちりとし——」





「"——"!"——"!"」

「ッ——!? っ"っ"——!"?"?"」





「かつては『無なる世界と単身で互角に撃ち合い』、果てには『本気で大神に喧嘩を売った神』は……『大いなる女神に打ち負かされて力を失った奴』は、それまでの『雑魚ざこ』が今の『難敵なんてき』となって神へのうらつらみのままに襲来する中でも淡々たんたんと『己の弱さ』を知り、黙々もくもくと『ささやかな変化』を遂げた」





 荒々しくも『神に攻め立てられる恐怖』で反撃なんて浮かばなくなれば——『おびえ上がる青年』が益々ますますと苦しくなっていく試合展開バトル





「内心は兎も角、新たな体は学び、剣で自発の動きにも質を研ぎ澄ます」


「以前は強大であるが故にも『敵の心理を乱す口撃こうげき』さえ理知的に行なっていたが……僅かにも余裕がなくなったのだろう今では『眼前にすべきことだけ』に集中」


「この世界で最も戦闘経験豊富な者として分かり切った思考に処理を省略すっとばし、『瞬時に最善さいぜんを照合から導き出して繰り出す』のが王の言ったように——『無心むしん奥義おうぎ』」





 "黒髪くろかみあおを混ぜる水神ルティス"が対峙するのは——"白銀はくぎんの髪に内色で燃えるあかが混ざって対比的の麗容"。

 失われた力を火炎神格で補っての輝く威容。

 下半身の衣服の切れ込みから覗くふとももりきむ度に躍動で全身に循環する発揮の力が赤く燃える神気の線を引いては、血脈を流れる粒子としても『火山にたぎる溶岩流』の如く。





「"——"」

「き——ゃ(っ"! やっぱり、ただ調子が良くても——)!!?"」





 反撃への流動で切羽の詰まる青年で右に、左に。

 次には上から来る神に下へと叩き付けられ、割れる舞台の亀裂に己を染み込ませて作戦を『潜伏』に切り替えようと逃げても駄目なのだ。





「"——"」

「——"!?"」

「"——"!!"」

「ぐ——ぁ、っ"……(『状況ながれを変える』には——)!、!」





 戦神の手足で振り撒く炎熱の中で水は気体となって正に『狼煙のろし』が潜む所在を知らせてしまうから。

 先回りされて休みなく爆炎に吹き飛ばされても波を落ち着けるいとまは奪われ、わざ発動はつどうに『専心せんしんの努力』が必要な『唯一の勝算』さえ遠くなるばかりに思う。





(——『秘奥義ひおうぎ』が……!)





 さすれば、今に紡がれる神話にも語られる老いて益々の古兵ふるつわものへ。

 あおいもあおく『じゅくすべき自己じこ』の最適解も未発見に知らぬ凡その二才にさい——『逆転ぎゃくてん』などという『奇跡きせき』は





「よって仮にも戦事賢者せんじけんじゃの奴が独擅場どくせんじょうの『戦場いくさばきょかれること』のあれば——それは逆説で『神も知らぬ未知の在り処』」





「……」





 知の齎す恩恵ちからを重んじる神で未だ知らぬ暗黒に『秘技ひぎ有無うむ』を問い掛ける。






「果たして、『よわいにして数年すうねんの女神』に——『一騎当世界いっきとうせかい超越ちょうえつする可能性かのうせい』がものだろうか?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る