『vs覇王少女②』

『vs覇王少女②』





武闘バトル開始かいしィィィ」





 そうして試合開始の宣言もあり——いざ、進み出た戦いの舞台。




(……参加者の数はひゃくほど。"かりやす神気しんき"を纏うのは幾つかで——)




 広がる空や大地やは殆ど天然自然の光景。

 上では馴染みある澄んだあおと、眼下では何時ものちゃ褐色かっしょく白色鋼石はくしょくこうせきの台が敷き詰められたぐらいで『それもそうか』、『元はと言えば星のそれらも創造せし神で今回も用意デザインがされたのだから』と。

 先ず以て『地理的な条件』を確かめる納得にも、既に勝負の世界に立つ青年で油断なく『戦場せんじょう』を神の知覚で流し見れば——早速に近くで一人目ひとりめ





「手合わせを願いたい」





 それも気配を静かとしつつ声で己の位置を知らせた人。





「……」

「王や神の御前ごぜんで乱れる呼吸の一つもなければ『相当の実力』と見た」

「……」

「よって、勝負を願いたい」





 聞けば『不意打ち』も出来たろうにそれを嫌うのは『武人ぶじん』の気質か。

 女神で観察するに特殊な能力の波長はなしの、しかし相対する黒衣の身動き一つも逃さぬような堅い眼差し。

 手を厚手の手袋グローブで覆った拳闘士けんとうしは王の呼び集めた参加者名簿によるとの『鉄拳《てっけんのナックル』。

 遠方には百を超えるような水袋ひとや、その激しく振動する『半神はんしん』の気配も複数ある乱戦バトルロイヤルで『比較』からは『神の力を鮮明に見せる』意もあって集められた腕自慢たちの一人だろう。





「受けて頂けるだろうか?」

「……いきなりで構わないのですか?」

「この場に立てただけでも高い報酬のあって、何より普段は『火消し』の己で世に聞く『水の化身』を探してのこと」

「……」

「つまり一度は『その技』を近しい業種で素朴にも憧れ、『見てみたい』とのことで……仮にそうあれば遠慮は無用に」

「……分かりました。お受けします」

「感謝する」





 そうして人の曰く『この舞台に立てるだけでも報酬のあって』。

 ならば憂慮も少なく『戦っても平和的な規定があるなら』と愈々の『実戦』に構える青年。




(……大丈夫。"失われるもの"という物もなければ、全力で——)





「——宜しくお願いします」

「同じく」





 周囲の警戒を欠かすことなくも意識を前方に。





「……」

「……——"!"」





 人から——仕掛ける。





「————"!?"」





 しかし。

 過去には『火事場への救出を邪魔する鉄をも砕いた拳』を。

 青黒で掌の退がる動き一つもなく受け止めたかと思えば——"攻防一体の水"が攻め手に張り付いて引き戻させず。




「——っ"!」

「"——"」




 人が『残りの手で打たん』とすれば。

 不純物なき透き通る色に消えた川水。

 足場に展開する流体が舞台に立つ人を滑らせ——そのまま『後頭部の衝突がないように』念入りと柔らかく身を水枕みずまくらで受け止めてから場外へと滑りの順路スライダー





「——……こうも、呆気なく」





 そうして悪気のしない拳闘士とは『敬意』を示し合う辞儀の挨拶などもし、中々の技を見切って倒したのが中性的な青だ。




「もしや……?」




 年齢不詳でもあって、早速の脱落者に向けても申し訳なさそうに苦笑で手を振る爽涼そうりょう

 もしや『今大会に参加すると噂のへびの異名が』とを言われても『ファンサービス』的に手で鎌首かまくびを作り見せる。





(——つぎ!)





 作った『くちばし』の如き手のままでは今度こそ不意を打たんとする『長物を持った女性』も『後ろに目の付いているかの動き』で得物を捉えて迎撃が、此方も鮮やかに巻いて絡み付く手で。

 奪い取った棒を用いて即座に足を掛けてつまずかせ、手より吐き出す水の柔和クッションを同様に下にて滑動スライドさせながら後から棒も流し返す場外へで——早くも計二人けいふたりを撃破。





「ならば『半神と競える好機』と見て俺と勝負だ! 『この国の最強』の座をけ——"うわー"!」





(——次!)





「しからば私と勝負です。『この大陸の最強』の座を懸け——"ふぅわー"!」





(——次!)





「『このほしさいきょ————"ぐわー"!」





(——次だ!)





 続いても『此処に強敵のいる』と知って挑戦者たちへ、迎え撃つ川水は宛ら『特殊車両とくしゅしゃりょう放水ほうすい』のよう。

 火災の『鎮火ちんか』は当然に、現状で活用される場面の少ないが『暴徒ぼうとの鎮圧《ちんあつオッド』も視野に鍛え上げていた『相手を痛めぬ』絶妙の技の数々。

 時に単純に腹への掌で押し流しては、続けて時に別の複数を地上だのに腰元までを迫る流水の圧で拘束しつつ流した先での脱落と同時に解放。




御用ゴヨウ〜! ぁ"——さらば御用ゴヨウ〜!」




 また平時は警察けいさつ的な、曲がるかぎのある短棒持ちの御用騎士ゴヨウ・ナイトを即席にこしらえた『渦巻の盾』で回転気味に受け流しても場外へと難なく誘導。

 そうして柱で不意に身を屈めたと思えば、やや離れた場所からの半神的存在が放った『あやつたま』を頭上に躱し、回避と同時に張り詰める手の握りには盾を流用する『X』状の投擲武器とうてきぶきが水を噴き出して。





(安全のためでは、なるべく——"退いてもらわないと!!")





 其れ、身を柔らかく包む安全な水の手裏剣しゅりけん

 回転しながらも道中で大気の水を回収して巨大化しつつに飛び、当てられた半神の人を輪の中心に捕らえて外へと連行。

 また間髪を容れずの玉体内部から生産する二枚目、三枚目——手の指の間の全てに挟んだ八枚はちまいも腕を交差する構えから一斉に身を開いて投擲し、その一つ一つが『当てる』と見せかけて空中に螺旋を描く流水の巻トルネード





「……我が友の調子は良好なようです」

「しかし、だ」





 そうして広い舞台の凡そ半分を呑み込むかという流れに巻き込まれ、選りすぐりの『人間のバトルマニアたち』が早くも青年女神の手によって三十さんじゅう——いや、総参加者の半数に近い四十よんじゅうは脱落したかという頃。





(そして——)





 大勢も着実に処理し、人口密度も低下して見晴らしの良くなった空間。

 残っていた水気の霧も回転を止めた青年を中心にけてゆく先に——見え始める。





(——……が)





 四角の形を取った武舞台で川水自身との対角線上にも『人の荒々しく吹き飛ぶ様』のあって。

 この場での異彩いさいを放つ『神性の二柱』が間に立つ者を減らしても徐々に互いの距離を近く。





("…………")





 遠目でも気を一層と引き締め直す青年には見えた——"歩きながら自身へ迫る熱気ねっきはしら"。

 光景を歪めて、神の眼の認識なら柱の形は身に纏う熱で『不可視のむち』を振るうようにも、踏み出して止まらぬ一挙手一投足。

 鬱陶しくは耳に垂らす『剣』の形を揺らすだけでも、巻き起こる『突風』が周囲の豪傑や達人や、取るに足らぬ剣聖らを弾き飛ばして『赤く燃える銀の柱』が近付いて来る。





「くっ……! この王国王家おうこくおうけ高嶺たかねはな! デレのないツンで『冷氷姫ブリザード・プリンセス』とも呼ばれたわたくしが——私の豊満ほうまんむねが『出合い』に際してこうもあつく……!?」





「"……"」





「なぜですの? どうしてですの? あぁ——"うるわしのきみ"!」





「"……"」





 燃える緘黙かんもく、青年女神へ直線で向かう途上には。





「例え顔を隠していても"無駄のない気品のたたずまい"で分かります! それならと何処にお住まいなのですか? 文通ぶんつうたしなみますでしょうか? 勝てば麗しの君へ私で結婚を前提としたお付き合いを申し——ん"あ"〜!! 仮面かめんきみ〜!」





「"……"」





 生来に力を持てば高飛車で高慢な面もあり、故からにその『打ち負かされて丸くなる』のを期待されて大会に放り込まれた貴族もいて。

 だが、何か氷の結晶を生成して透明の壁の向こうから『愛を伝えよう』としていた能力者も『一瞥いちべつに溶かす熱波ねっぱ』が寄せ付けぬ。





「——ケ〜ラケラ! フォッハッハ! 『ブリザード・プリンセス』の吾が子も真に『聖剣姫ソード・プリンセス』の前では……"その他大勢"の十把一絡じっぱひとからげが『群衆モブキャラ』よ」





「"……"」





「『あつ聖剣せいけん』に氷結ひょうけつ調しらべは届かない」





 よってからの開幕より程なく。

 数分もない時間経過で既に一般的な『俊才』や『逸材』の人や、『半神』も力の本領を発揮する前に雄大な自然現象を瞬時に引き出せる神秘の速度を持つ『水』が——『火炎旋風』が押し流し、『泡沫候補ほうまつこうほ脇役わきやく』とひゃくを正しくそとへ寄せて。






「"……"」






(……"女神めがみのあれ"が、の——)






 人知の予想を遥かに超えた高速の試合展開に語るべきの見当たらず閉口するしかない主催の人の王や、観衆や。

 客席の神々も『曰く付きの神性ら』へ黙して観察の目を見張る中に。






(『たたかい』の————"かみ")









「「"…………/…………"」」









 今大会の『本命同士ほんめいどうし』が邂逅かいこうする。




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