『vs覇王少女①』

『vs覇王少女①』





 深く呼吸して、両腕を前に伸ばして——準備運動からを覗き込む姿見かがみ





(————…………)





 映る其処には『黒』を基調とした長い髪に同じ暗色の『青』を混ぜ、口元の左横にそんする黒子ほくろも今は『兵器』としての機能を外しての美少女びしょうじょ




(…………)




 平均を取って『ひと女性じょせい』として見れば長身の——しかしの『女神めがみ』としては当然の、同様に整った顔立ちの下で首に着用するのは『きば』にも似た意匠の『ジグザグ』と『波』の紋様が描かれた面頬マスク

 す『万全ばんぜん』の意では上衣ジャケットを来たままの軽装けいそうが、それでも背中で射線交差クロス襷掛たすきがけに腕をまくっても『戦闘せんとう』に向けた戎衣じゅういで露出を控えめに、胸も潰し気味で引き続きに揺れぬ固定。

 全体としての配色は髪と同系統の『青黒あおくろ』に身を包んでも花でショート苞葉形態パンツスタイル

 艶かしい生脚も水着兼みずぎけん伸縮脚衣タイツで覆い、実際としては衆目の認識を誤魔化してくれる『大神の計らい』も彼女を護るだろう。





「……"ける"と思います」





 そうして意気込んでみせるのは女神ルティスの青年。

 側である眼前にはアデスとイディアの二柱に準備を見守られ、簡素にも陽光の差し込む控室ひかえしつの雰囲気。

 "たたかい"の前での空気感が実際としても日に照らされ、乾いて——気休めにも水筒へ注ぐ水を口にする。




「……ならば、いな」

「……」

「此度も『いのちうばい』ではなく、単に『わざきそうもの』と心得よ」

「……はい」




 恩師に念を押されても、左様に。

 先述の装いが目的とする通りで青年が此れより単独で参加するのがに行われる『武闘大会ぶとうたいかい』。

 同地で人に聞いたのが曰く——『折角に願いの叶えられる時で神々かみいくさを見ずに退位たいいはしない』。

 加えて『よって遺産の整理も相続や継承権の決定もせず』、『これまでに滅私奉公めっしほうこうとして国へと尽力で頑張ったのだから最後にそれぐらいの褒美はあってもいいだろう』と。

 また『給金も弾むから、国を挙げても民に雇用を産む公共こうきょうまつりとしても構わぬから多少の我儘ワガママを……でないといやじゃ、いやじゃ!』と——そのよう涙ながらに訴えたのが現地同国の王様おうさま

 それを一時は女神でも『傍迷惑はためいわく』な話と思えども、しかしそれでも聞き込んだ事実として『老いた良王りょうおう』は彼の決定を下した数々の『経世済民けいせいさいみん』の施策しさくによって幅広く民に慕われるらしく。

 因りて『ならば最後ぐらいは』、『尽くしてくれた王からの懇願こんがん無碍むげにも出来まい』と。

 人々の悩む様子を前に、家臣の提案や民草からの願いでも以前から王の好き好む『兵の練度を確認する行事』であって、今に求められた『頂上ちょうじょういくさ』——謂わば『御前試合ごぜんじあい』として開かれる大会へ『通り掛かりの神』で力を貸すことになっていたのだ。




「……」

「……でしたら、我が友。私からは開始の前に『競技規則きょうぎきそく』の確認です」

「……お願いします」




 即ちが『優れた技の冴えを見せて円満に国家の引き継ぎを済ませよう』との今回も重大な人助け。

 既に現在の部屋で日の差し込む隙間から外を見れば地面に敷き詰められた四角く白色の広大のあり。

 その今し方に神の協賛で造られし『ガッチンこう』に仕上げられた物がじきに神も登って実際に戦いを行う、謂わばの『武舞台ぶぶたい』であるのだ。




「原則として『場外じょうがいからだいたら負け』・『相手をあやめてしまっても負け』だとは存じていますね?」

「はい」

「なら、そうした基本的な規定以外では割り方と『自由』に」

「——」

「加えて今回、大神の御配慮ごはいりょで開かれた領域の下ではあとのこる損傷もなければ衝撃のみが発生する仕様ともなっていますから……どうかの御安心を」

「はい」




 また少し前に規則の記された掲示板も女神たちで目を通し、よって説明を省かれた所では『安全の為』で現時点での青年のように『防具ぼうぐ』も幾らかに着込んでのよく。




「……そうですよ、我が弟子」

「……?」

「万一の医療体制も整えてあれば、貴方で物質を自前に生み出す『権能の行使』についても気兼ねなく」

「……それについては、また色々と有難う御座います」

「いえ」

「……『出場する』ことも許して頂けて」




 それらの支援は言葉でも手厚く、応援おうえん





「……構いません」

「……」

「時には『わすがた因縁いんねん』へ『貴方の思うまま』を突き付けてやれ」

「——はい」





 ————————————————





 そこから少し遡っては『ダーク・X・フォース』の三柱が現地に到着したばかりの頃。




「——Hey Yo! 腕自慢うでじまんの女神! まなむすめに老いた神でも『無双むそう』の姿を見せようと?」

「……」

愛嬌あいきょうで悪いことはないが……しかし、『揚々と名乗りを上げては出られずに落ち込む"お茶目ちゃめ"の姿』——その流れはもう吾らがやった」




 立ち寄った国の事情を知って解決してやりたい青年の手前で、アデスが『どれ。大神わたしで軽く一位を取ってきてやろう』と腕を捲った矢先。




「……」

「端的に曰く——『人の要望で肝心の大神は殿堂入でんどういり』、"禁止きんしカードで出場を許されぬ"」




 言葉の横槍が先に着いていた大神ら。

 壁に寄り掛かる『ワールド・オーダー』の構成員は男神の姿をした神王ディオスからの補足説明として立て札を指差して言う。




「……」

「"大いなる力"を恐れて人の悩み抜いた末に明記した出場要項でも曰く——『御大神様方おんたいしんさまがたに於かれましては日頃の恩寵おんちょうを忘るることなきも、皆々様の偉大な力の前にて我ら人の畏敬はうずたかく〜(中略)』」

「……」

「『〜因りてはどうか出場を見合わせてに世界よりの慈悲ある見守りを願いたくそうろう。お控え願いたいそうろうろう。どうか何卒なにとぞどうかどうか』」

「……」

「『大神様方は環境をちょう羽撃はばたく一瞬にて終焉しゅうえんいざなえる力が御座いあります故に、此度はどうかの小憩しょうけいを。どうかなにが何卒で御出場をお控え願えますよう〜』——とのこと」




 そうして光属性を主体とする大神は『万能の神で自重だって出来るのに』と暫くを騒いでいたが、けれどで直ぐに『住処の吹き飛ぶこと恐ろしく、是非もなしか』と思慮深く主知的しゅちてきめんすら見せる。




「ならば今日こんにちは人の吾が子らの厚意に気遣いにも与って、たまの休日を『傑作むすめの活躍を見守る運動会うんどうかい親御おやご』のよう振る舞うとする」




 よって横の大神ガイリオス共々の『参加者』でなくの『観戦者かんせんしゃ』は濃褐色と銀の虹彩異色オッドカラーを飛ばす方向で先客せんきゃくとしていた『知の三柱』に台詞を譲る。




「『かみかみつける機会』。しかも『武闘大会ぶとうたいかい』となれば逃す手立てはなく——おうとも『戦場いくさば』の此処で出なくてどうすると」

「"……"」

「『聖剣せいけんでの神殺かみごろし』を試す重要な試金石しきんせき……だからと言って本当に。今のは比喩ひゆであって『半殺はんごろし』すらも許されてはいないからな?」

「"……"」

「……ややでも不安だ。『戦い』なら手抜きもないだろうし、"言って聞くような柱"でもないのだろう」




 その主導するプロムが『あくまで競技規則に則った戦い』と釘を刺す対象で未だ『ほのお』は表に見えず。





「"……"」





 斯くして暗黒アデスイディアに、知恵プロム知識ワイゼン

 また気楽に揃った大神の神王ディオスとガイリオス。

 それら神々が人に用意された来賓席らいひんせきの最も高い位置にある『神座かみざ』で『観戦かんせん』や『気の乗った時の解説かいせつ』へ専念をすることに。





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 そうして最も安全な最低要件的にも『折れた聖剣』と『川水』の二柱。

 それらな神の参加が取り付けられたことで大会の実施も晴れて決定し、間もなくと迫った開始時間へと身も心も備えるのが今の青年であるのだ。




「さりとて『傷のないように』以外では公平性を重んじて我々の力も直接的には貸してやれず」

「……」

「よって即ちが『己の内にある孤独と向き合う戦い』でもあって……本当に宜しいのですね?」

「……"はい"」




 青の目を見て若者で心理状況を改められ、それでも案じる女神らの前に口とする宣言。





「"脅威きょういおびえるだけでいたくない"」





「「……」」





「だからこれは『己の成長』や『決意』も自他に示して、『防止ぼうし』や『抑止よくし』の備えがあることも実証に自分でなんです」





 同じく居合わせた『例の神も出場するなら』と、『次の命を奪うような機会は与えない』と示すためにも。

 青い年で『つまらない意地』のようながくすぶる胸中を明かし、対して『失うものも大してなければ、青年自身の健やかなる為にそれでもいい』とは無言に頷きを見せた女神たち。





「……ならばやはり、止めはせず。女神イディアでも構いませんね?」

「……はい。此れは、我が友が『自身の在り方を模索するために必要なことなのだろう』とも思いますから……大神の目の届く範囲での行いならば私に止める理由も御座いません」





 頼もしき保護者にしての指導者たちが送り出す意で背を押してくれる。




「……すみません。我儘わがままを言って」

「よい。許す」

「……有難う御座います」

「しかし、例え『現時点での性能』で勝ろうが相手は『遥かに練達れんたつ強兵きょうへい』であることに変わりなく」

「……」

「よって『戦い』として臨めば『青年に勝てる見込みも僅か』であるのが軍師ぐんしとして述べる私の、嘘偽りのない評価となります」

「……それでも、『屈することのない姿勢』を示したいと思います」

「……であればやはり、『勝利』の結果で顕示けんじする為には『敵も知らぬ奥義おうぎ完成かんせい』が此度の戦で『かぎ』となるだろう」




 だが今より『世界有数の強戦士きょうせんし』を相手にして『必然の苦戦』となれば『奥義の習得』以外で未熟の青年に勝ち目は薄く。

 因りては、その『に専心すべし』とも指針は示されて——主催の王の到来が沸き立つ会場の波音で、控え室にも『開始』が知らされる時は来た。





そも、私の介助が少なく『本格的な実用段階へ至れるかどうか』の話でもありますが……けれど、貴方が自ずから『戦うべき』とした場で最早の出し惜しみも必要はありません」

「はい」

「手札が露見したなら『見えている』で未知の神にようはある——私の事情も構うな」

「はい……!」

「貴方は貴方の、自身で臨む先を考えろ」

「"——"」

「場合によっては『相手と比較して流麗でないこと』、『奥義の発現に手間取ること』さえ『完成された存在』へは『不可解』で有利に働くのかもしれませんから……好きにやってみなさい」

「……やってみます」





 しからば『心の用意』も助けてもらっては頷き。

 水筒を美の女神に預かってもらっても、その女神らと共に立てぬ戦場へ。





「出来ぬなら、それで。『温存が出来た』と前向きに捉えても爪研つめとぎを続け……しかし、『危険だ』と判断した場合には直ちにみずします」

「はい。その判断も任せます」





「我が友。お気を付けて」

「"——"」

御武運ごぶうんを」





 震えの残っていた手に指輪の上からかどを減らす黒布を巻いても強く握って見せ、下げていた面頬も歩み始める此処で口に確と装着。

 内部で表面張力を巡らしても密接とし、世に分かりやすく戦場に立つ意識が『理不尽の運命うんめいへとあらがいのきばく』ようにして顕される。






「はい————"行ってきます"……!」






 大きく成る銅鑼どらの音を合図に女神たちと別れて、川水の化身が『自身の抱える一つの苦悩』へと——"向き合う孤独"を携えて臨む。




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