『Gale! Blast!!⑥』

『Gale! Blast!!⑥』




 そしてからには降りて進むのが光沢を帯びた鈍色にびいろの階層。




「——『自分で作っておいて暗証番号パスワードを忘れる』などと」

『【字列を書き記したメモ】の方を忘れてしまったから』

「忘れたことには変わりないだろう。それ以前に一時間も経たずの過去を忘れてくれるなよ……"本気でほうけてるのか"?」

面目次第めんぼくしだいもない。だが、その実を言えば【自身の忘却を補う為】にも調査に臨む吾が子たちを【利用したい】のが一つ真意としてあって』




 入場要件たる各種は女神で突破しての施設潜入が意外にも『すんなり』と。

 また通路を進む中途の扉で『自らの設定しただろう暗証番号を忘れた王』もいたが、其処は知識神のワイゼンが『再設定の仕方』を物置ものおきの『説明書き』から見出しての今。




『何より【複雑怪奇な大神心たいしんごころ】。自己矛盾に踏み抜く地雷の連鎖爆発で【常に狂ってしまう】のだから、許して』

「はぁ〜〜……事実として世界の運営が『認知不確これ』では、道理に『魔王』でも対抗馬に『票が流れる』訳だ」

『いや、だとしてアデスにも【認知の彼れ其れ】はあろうから。きっと彼奴あやつも【秒前びょうまえに自身で言ったことを直ぐに忘れたり】もしている』

「へいへい」




 足で無機質な鉄路てつろを行くのは知の三柱と、その今に語る狙いで引き続きと付随に同行が天の声。

 それら高位も高位の揃って妙な一行は『暗黒からの調査依頼を実行せん』とするため、『薄暗い研究施設』へと踏み入り。




『またそういった時の為に二重にじゅう三重さんじゅう五千兆ごせんちょうに【受け皿を用意している】のが抜け目ない大神でもあって……"お前という神"もその一つの、外部からの【批判眼ひひょうがん】の役目も持たせたのだから——』

「それも昔に聞いた」




 しかし、声を交わす遣り取りの最中にも油断なくプロムがワイゼンを王の光波サイファーから守るよう妨害電波を張り巡らせている。





「"……"」





 また先頭で『我関われかんせず』が『一番槍』ならぬ『一番剣いちばんけん』で長い銀髪を揺らす女剣士。

 麗しき彼女で『白にも近い銀』ならば『無言』と相俟っても似姿にすがた

 仮面に秘された女神の無表情で『戦士』として恐ろしく冷ややかにも只管に『戦闘もくてき』を見据えての『気炎』が音なく揺れている。




「……しかし、何だ?」


「どうせ『今は残虐趣味ざんぎゃくしゅみ』のことだから『おどろおどろしくあと』でも残しているかと思ったが……やはり、




 すると、潜り込んで暫く。




「備品にも乱れなく、隅々までが——」

『言われてみれば、何か……使気もする』

使?」




 今日で一番と長い通路の行き着いた先。

 当初の流し見どおりで検める内部にも『生体反応は皆無』の『広大な実験室』で王が記憶を思い出す。




『上品に、一滴も残さず』

使った?」

『確か……"あの辺り"』

「"どの辺り"だ」




 声では分からぬと言えば、後ろから神を追い抜いて走る光の先で『何か』に到達しての『歪み』を示して見せる輝き。




「データとしてもこの室内に立ち入ってから空間質量に『ゆらぎ』が起こっている」

「……俺が行こう」




 即ち『行き詰まった光』によって『物体の存在』を示されても訝しむ神で金色の炎が認識阻害を取り払う奥底からは——"秘されていたとら"。





「——? また、な」

「これは……"光の進んで何処かへと奥行きのある"——『加速器かそくき』か……?」





 偉丈夫たる男神たちでも見上げて巨大に円を描く其れが、知識の神で既知としてあった『粒子加速器りゅうしかそくき』の構造。

 それも、周囲に多数の配線や奥に伸びる筒のあっても中心にある総体として『三重の光輪』が如く。

 何やら内から外へが次第に大きくなる『三つの円』で『煌めく何かが循環』している。




「そうして、真中に開いた『虚空こくう』——いや、『』でなくば『光の見えぬ歪曲わいきょく』は……おい、

「……」





『……だ。吾でも再びに確かめて、鹿に紐付いた【各種のエピソード】もジワリジワリと浮かび上がってきたわ』





 賢くば思い当たるワイゼンと遠方の王を睨むプロムの眼前で、その粒子が絶えず加速して。

 円から飛び出した物(?)が中心へと『色を隠すよう吸い込まれて行く』姿を前には『開発者』よりの言葉。





『そう、吾は【暗黒あんこくについて】色々を考えた』





「……」

「……」

「"……"」





『未知なる奴の存在を知った創世そうせいのあの瞬間から、【ひかり】にとっての【やみ】は【てんてき】たる奴のことを考えぬ日もなかった』





 突然と語り出す王。

 脈絡なく思えるも、この者なりに『設備と関連する思いをつづっている』と知恵ちえ知識ちしきある者たちでも暫しの静観に読む。





『時に【みたむなく】【むくつけき】【滑稽こっけい】にも【アデス、アデス】と内外で叫びながら己ではらみ——形而上けいじじょうからは形而下けいじかへ』


『【理想】から落とし込む【現実】は今も毎分まいふん毎秒まいびょう隙間すきまにも【解釈の形とする産みの苦しみ】を味わっている』





 内容として恐ろしくも『地母の権能』も持つ大神に言われているのは『暗黒に関する考察』や『研究』やのことか。




「……」




 ならばと、頼まれた任務では依頼主へ内容を報告するを得ずに。

 しかし、『大神同士で相手の領域へ踏み込む』ような『難局』を抱えさせられては苦く眼光を備えるプロム。




「『搬入はんにゅうされた者』の数は五千兆を優に超えて……『搬出はんしゅつ』は、"ゼロ"」


「殆どが『微小びしょう』の生物ものたちだ。設備の規模とも一致する」




 一方の聞きながらワイゼンでは当初より『未知の危険に臨む者』として表面上にも腹を括っている様。

 今回の任務報酬として『多少の内覧は許されている』と揺るぎない冷静の指さばき。

 フォトニックの結晶で編まれた手袋を通して命令を走らせる卓上の記録端末からも素早くデータを取得し、また同時には己にも『記録複製の許可』を求めながら『別角度よりの真相』を探し求めて状況と符号する記述を声音の波とした。





『そうして此処では自らの産んだ数多を……【いで】、【いで】、【いで】は——けれど、【限界まで】と巧妙に生かして』


『【光と反する力】。それ即ち単純の発想では【自由】の対極で【不自由】を、冥界いかいへ連れ去られる間際には【生じた思念】を急ぎ加速させた【衝突】で以て【崩壊】に取り出す』


『その実体を持たねども思いの中で存在した式を、謂わば【小宇宙】に【構造式】を描いては【がり】の其処に【沿わせる粒子と膨大な力】を注いで【現実としての形】をも組み上げる』





 続けて『狂った御業みわざ』の『あらまし』が述べられる間にも円の奥に広がる『夜闇やあんの空に飛び込んで消える星々』のような光景。

 その研究主題テーマとして追求した『不浄ふじょう』の力の結集が僅かなりとも発現に近づくよう。

 おぞましくも見目良き燦爛さんらんと、『銀河』めいて中心に勢いよく加速させた粒子を衝突させる機械に。

 渦を巻く其処で光の失せ際の燃えるような一瞬の輝きが観測されたとして——『弾ける音』の一つだってのだ。





「では、『搬入の多く』・『搬出は皆無』なら全てぼっして、塵一つなくもに——『お前が暗黒を再現する実験』に使われたのか?」

『然様だとも。式に於いて【未知数の解】を求めるのは当然であろう』





 暗黒研究の一つの到達点では『最大の好敵手の気質』を部分的にも解した神王が自らに向けられた疑問へ気前よくも応じる。





「だが、『明瞭』を背負う神々の王は元よりとして、大方に内部の予想も付いていただろう『秘密主義の魔』が……を俺たちに?」

『もしや【不利となること】自体がなのやもしれん』

「"敢えて自らの正体に迫るものを晒す"と?」

『ああ。要は【目的】さえ達成されればよい、【納得】さえ出来ればよいのだ』

「……」

『自身の晴れぬ苦悩に対して【これ以上のない程の最適解ベストアンサー】を叩きつけられれば……やはり、其れは其れで【良いもの】だ』





 暗黒のがわとしても『手を焼く大敵』の王は、自らの処女作たる男神に『大神の視点』からの実状を以って話しかける。





『そうだ、吾が子よ。例として吾という大神でも【最高の敗北】を知りたい時は確かにあるのだ』


『実際として、かつては吾でゆるみ切った顔に醜態を晒して全身の粒の隙間という隙間からストリームすることもあったが……しかし、果たして其れも【真に敗北】なのだろうか?』





「……」





『何も"打ち倒されたから"、"負けたから"常に【敗北】ということでもなし』


『要は【勝敗】の結果さえ【式の一部】であって、また特に平易と言っては【負けるのも気持ちがいい】から。【自身に納得の与えられる存在】があれば、それならと足を止めても【休息の時】は得られて構わぬからだ』





 大神たちで『大神殺し』を企てているのだろう"挑戦的な神々"を前に。

 だとしても『王者』は鷹揚おうようと構え、寛大に。




『おうさ。頂点に立って【力】に【無限の材】があるともなれば【突き詰めてしまいたくなる】のが大神のさがであって』

「……『時に自身の敗北さえ目的に至る一部』と、そうして『席を譲れば肩の荷も降りる』と?」

『おうとも。【心の底からの納得】で腑に落ちる為には大神われらで【手を抜くこともない】だろうがな』




 また先述よりの『暗黒大神』の『真の目的』だろうことについても少し。





『因りて此処に話を研究の主題へ上がった暗黒に戻すと——未知の奴でも【自身の正体に迫らせる】よう、様々の計略を巡らす【狙いがある】ということ』


『吾が最大の好敵手は【最上級】にして【未知の神格】を持つ者。多面であれば極神たる自身の力で【転身チェンジ】は出来よう』





「……」

「……」

「"……"」





『そうして最上級なら【ランク降下ダウン】も。遍く生命を呪い、重く沈ませ固着させる力なら正に、正しく』





 神王ディオスという『大いなる術の使い手』から。

 "最高峰に俯瞰の視点"を通しても恐らくの『同族』だろう者を『類似』によって見透かさんとする。





『けれど、【諦念ていねん】や【破滅はめつ】やの化身は……時に


『奴も【今以上に上層の見え難い頂点】に立つからこそ、彼の偉大な王にも【未だあたわぬこと】があって』





「「……」」





『即ち【格が未知数】でもエクシズの女神に【チェンジ】は出来て、格の高ければ【ランクダウン】も出来て、ならば残る——【未だ頂点の王にも不可能の真実】とは』





「"最上さいじょうからの限界"を——"超える未知の力"?」

「……"王者にとってもの未到"は、"更なる格の上昇"を目指す——『』の」





『……恐らくは【限界頂点げんかいちょうてんからの昇格しょうかく】——が、あの【魔術師】・【魔法使い】が【反証】で以て【叶うならば】と真に完成へ導かんとする"魔法マジック"』


『過去の歴史に於いても当事者からの明言はなかった筈だが、少なくとも【近しい視座を持つ者】としての吾はそのように睨んでいる』





 推測される真実は『やみ』の中に。





『吾が目指す【無限インフィニティ】。奴の探す【完全パーフェクト】』


『未だ【対象】や【発動要件】など実態に不明な点も多く早合点は禁物であるのだが……ああ。それでもやはり、頂点の神では考えるものだ』





 けれども『大神』とは謂わば優れた眼力の多種を有しても"世界最高峰の探偵"。

 その"稀有けうにも気まぐれに述べる考察"に与れては、以前から同存在について考えを巡らせていた有識者たちでも思い当たる節のあり。

 少なくとも此処に神王ディオスが明言とした『世に遍く広がる無限の術式』については知の神らで『答え合わせ』が済ませられる。




『そうして、今日の神王でも【研究成果を晒す】ようは【蜥蜴とかげの尻尾切り】にも似るか』


『【どうせ露見する】、いや【露見した】なら【自分は此処までお前に迫っているぞ】と己の"素早き神威"を示す道具として【有意に使い捨てる】意図があるのやもしれんぞ』




 だがしかし、既に張り巡らされた『計画の糸』のようなものが見えた所で『創造主の創る大いなる流れに抗えるか』との問題も大きく健在に。




『また程なくして急造にも出来上がった物が【不自由に嘆く心】……重くも【自由への欲心】をエネルギーに変換して動くマッシィィーン』


『当初は【生物構造に積載を果たさん】と画策したのだが……しかし、世に命は五千兆なぞ優に超えて数多く在るけれど【安定した個】として確立しているのが【暗黒の一柱のみ】と言えば【難易度】の程も窺い知れるだろうか』


『其れ即ち、やはり生半可では資源リソースの足らず。宇宙でドッカンドッカンとやるには派手すぎて目に付き、それこそ吾自身は【注ぐ器】として最適に近くとも闇に呑まれたとして仕方がない』





『だからには——"えいっ"』





 現に読み切れぬ急展開にも加速器の制御盤が誰も触れずして稼働を開始。

 最も近い場所に立っていたのは先導者の女神だが、"常に戦闘へ備えている彼女"も黙って瞑想に耽っていたからには『触れた者』と違う。





「おい、"その口振り"は

『いや? 折角と作ったのだから【一度は動かすべき】と思い』

「『動かすもの』なのか」

『よっての【負の情報に耐え得るミニミニサイズの実験作】はいのちを持たぬ構造に。謂わば【自動機械のロボット】に搭載することとしたが——そう案ずるな』





『先から【表立っての計画実行は目立つ】と言ったよう早速とアデスにバレて迫る魔の手に死没ぼっしゅうとされ、お前たち派遣処理の来るまでも大した作業の時間はなかった』


『よって、秒間に掬った総エネルギー量としては凡そ【銀河三つ】でそう大した物は作れなかったのだから——高位のお前たちでも対処は容易だろう』





「——っ! だとしても、な!!」





 だが、稼働開始から不穏な振動を伴って直ぐ。

 加速器の円を描いた中心の、『渦穴』から。





「『惑星の表面で銀河が弾ける』のは——んだよなぁ!!」





 異空間より進み出てくる物体が『暗色の機械』に対し、"後の展開"を素早く察知したプロム。

 より速い身のこなしを持つ神でワイゼンの前面へと瞬時に移動し、機体上部の口から放たれた光の奔流から身を呈して庇う。

 既に『数多の怨念の描いた式』から引き継いだ『狙うべき標的』を設定されての『生者を恨め』との命令で——機体の『渦巻く眼光』に捉える柱へと『攻撃』は始まっていた。





『さりとて【親の日曜大工に付き合うもの】と思って』

「ッ"——てめェ! "好いてもない奴としたくもないことをする"のは『普通に面倒』の部類だぞ!!」

『それでも【不自由の中で自由を探して】? ——"輝いてくれ"。"吾にまた一つの可能性"を見せてたもれ』



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