『Gale! Blast!!①』

『Gale! Blast!!①』




 都市を見下ろす高台、其処は雨降る神殿にて。




「我ら神殿の工事記こうじきにも書かれてある。マチョがみに捧げる歌で——『筋肉きんにくは全てを解決する』、と」




 隣接する建物の謂わば『本殿ほんでん』と『拝殿はいでん』を繋ぐ通路に男の声が木霊こだまする。




「そうして、ならば逆説ぎゃくせつを言って——『筋肉にとぼしきお前たちでは』のだ」




 その高圧的な口調。

 語って見せた男は装いで肩や胸のはだけても纏う布状が『ほうに携わる者のころも』であり、だからには務めとする役職も"それなり"と。




「——っ"! たみに『過酷なビルドアップ』を強いて、一体どれだけの人を疲労骨折ひろうこっせつに追い込むつもりかッ!!」




「……"?"」




 また雨で濡れぬ屋根付きの其処には、それでも先の男を糾弾きゅうだんした人で両足のけんから滴る血液けつえき




「筋肉の得難い多くの『女性』や『子供』や『老人』にさえ! 辛い『ビルドアップの労』を課し、筋肉を求め……剰えで『マッチョな者たち』を余りに『はなはだしく優遇ゆうぐう』しようとしている!」




 その切創せっそう

 赤き色が床に滴り落ちる光景を前に。

 信仰の根強い都市で法に関わる者——『横暴』を叫ばれたのは同地で汚職にまみれた副市長ふくしちょう

 現職の市長を脅迫からの傀儡かいらいとする人で『民衆を救うための教え』をげ、『危険な政策』を推し進めようとする。




「……"優遇"? 私はただ、皆が『すぐれたものとなれるよう』に『トレーニングの奨励しょうれい』をしているだけなのだが……」

「良くも言う! 税制を『一部の人間の恣意しい』に書き換えては実態として『貴重なプロテインも結局はすでに筋肉という資産を持つ者で独占』し、『鍛えられる者』が更に新たな挑戦の出来るばかりで——『鍛えられぬ者』は僅かの成長のいとまもなければ、のが『格差かくさ』! はなはだしく!」

「……"しきのある"と?」

「それこそは『マチョイの法則』でもあろう! 生まれながらに皆で違えば『既に親類家族の設置したジム』があるなどで——結局の所は『マッチョがマッチョを産む』!」

「……お前たちには、そう思えるのか」

最初はなから『そうだ』と言っている——精々が日銭で『今日を生きるためのカロリーを確保するだけの者たち』と『余りに理不尽の差』があるのだと!!」




 そうして、日焼けした筋骨隆々。

 肉体のすじにそって金箔をあしらう副市長で、民衆の不満から起こった『直訴』に対する為政者いせいしゃとしての解答は以下のようなものであった。




「……ならば、その『理不尽な格差』とやらで、我ら筋肉の信徒は少しでも皆を『マッチョに近付けるようにしてやっている』のだから寧ろ——『差の是正ぜせいに努めている』と言えよう」

「っ! ふざけたことを……!」

「……ん〜? 筋肉こそはとうとく、そして尊くない者はみにくく浅ましく。やはり見目悪くは『生きていることさえはじ』なのであって当然に『ただすべき』と——」




 しかして、二人の対立する屋根の下でも外は雨の降って暗く。

 それでも副市長は『己らこそはとうときんにく』とでも言いたいのか、曇る暗中にやかましい程の金色こんじきを張った身。





「よりてからには我らマッチョの、"偉大な筋肉に掛かる資産の税"——真に課税されて払うべきは無筋無能むきんむのうが『ノーマチョ』のお前たち」





 正面フロントに座り込む負傷者へ。

 その傷を負わせた能力で新たに『けん』の形を生成しながら。

 逃げられぬようとした『侵入者』すなわち『敵』へ武器を突き付けても、態とらしく己の優位性を見せつけるように両腕を曲げて高くが上腕二頭筋バイセップスの誇示。




「『働かざる者は食うべからず』。そうして『筋肉なき者に働くなど出来る筈もなし』に……だからにこれは——そう、『助け合い』の精神」


「『相互扶助そうごふじょ』とも言えては『出来た者』に活躍の場を任せ、『不出来ふでき』には僅かながらともその支援を願ってが、"社会に於ける当然の構造"なのだ」




「つまり、分かるか? これが『政治』だ、『正しき税制改革』だ」

「——『己らの筋肉』にばかり主眼を置いた『濫用らんよう』が!!」




「ハッ! これまでを聞いて頭を正常に働かす筋肉もないクソ馬鹿に教えてやれば——即ち『我ら筋肉は重い物が持てる』、『スゴイ』!」


「けれど『貧筋ひんきんのお前たちでは持てず』、その『仕事量を担ってやっている』のだから『多めの税も当然の負担』よォ!」





「そうだッ——然り!」


新設法案第一条しんせつほうあんだいいちじょう——! 『偉大な筋肉こそをいたわるべし』! 『筋肉なき者には社会で負担となっていることへの課税を』!!」





 要約して過激な筋肉的信徒は、その『筋骨の支える優れた運動量』を根拠に『公平性』を掲げて——『筋肉量の乏しい者たちを劣る者』としては『余計』と見做す其処へ『更なる課税をしよう』と?




「よって、今からお前を黙らせることも……そう、『必要な犠牲』なのだ」


「『国家の運営』に於いてはの、贈賄も脅迫も——いやいや各種の『御礼おれい』の全ては国を円滑と治めるための、謂わば筋肉を柔軟とする『タンパク質』」




「く、っ……!」




「実際としてあわくも蛋白たんぱくの、お前のよう周囲を嗅ぎ回る『ねずみ』を始末する行いさえ必要不可欠の……ああ」


「『軟弱なるあし』のひとふたつにじゅう二十にじゅうの犠牲で——『精強なるひと』のせんまんの安寧があがなえるなら実に安きものよ」




 それ、なんと恐ろしいことか。

 信仰の徒で『筋肉の道』の追求は単に自己の研鑽に留めておけばよいものを、剰え『人の貴賎付け』などに利用しおって。

 また筋肉どうのに関わらず『法を運用できる立場』に乱れては『明文に形式の定まった法の下で人と人とは平等である』というのに。

 その大前提を無視して、一部の人間の意に沿わぬ者を『劣っているのだから冷遇してもよい』と宣ってみせるのだから恐ろしい。





「そうして支配の象徴が『けん』——すなわち『けん』は我に有り!」


「我が異能こそは『千年権利サウザンド・ソード』! それこそ神は『真に相応しき統治者』として——『新たな神』としてこの我を選んだのだッ!!」





 因りては邪悪へ心根こころねを落とせし者。

 雄々しい肉身の背後に、より数の多く隙間から鋭利な刃物の進出。

 狙うは請願を届け出た者を『逆賊ぎゃくぞく』と一方的に認定しての黙殺くちふうじ





口煩くちうるさくば——死ねぃッ! ナナフシの如き醜い虫ケラが、我の作る『マッスル王国おうこく』に女々めめしきなぞは不要!」





「——ッ"!!」





「死して我らの筋肉を——そのかてとなる豚肉ポークを育てるえさとなれッッ!!」





 そう、その『授かった能力』との物言いには偽りなく。

 各人の与り知らぬ真実としては実際に『神々の王』より力を授かった者の中でも行いの過激派。

 王の息子たる『ディオスソン』と呼ばれる者の中でも、取り分け人のことわりから逸脱した半神的な暴威が今で——更に『国家』や『政治体制』の『私物化』で、最早『人の法に裁けぬ存在』となったからには『如何に真面目や誠実でも悩むばかりで始末に負えないもの』だから。





「八つ裂きとして、終わりに————"!?" 何奴なにやつッ!!」





 だからには、『刺客しかく』が来る。

 圧政の人で力の漲って最高潮筋肉モストマスキュラーで刃の射出されよう直前に。

 請願の者を弾圧で追い詰めて抹殺しようとする間際に——雨中の外より神殿へが進み入らん。






「"邪智暴虐じゃちぼうぎゃくなる王の息子ディオスソンを発見"。議定書プロトコル『無法地帯の場合』に従い——"冥界かみのくにへと移送する"」





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